原田くんの赤信号

華子

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原田くんは、諦めない人だ

原田くんとわたし1

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「瑠夏!瑠夏っ!」

 間近で聞こえた声に、強く閉じたまぶたを薄ら開ける。視界には、心配そうな原田くんの顔が目一杯に広がった。

「は、原田くん……?」

 少しの間、わたしは気を失っていたようだ。気が付けば、見知らぬ車の中にいた。後部座席に座っているわたしに、寄り添ってくれている原田くん。運転席には、三十代くらいの男性の姿。こちらを向き、柔らかな笑みをこぼす彼。

「お、よかった。気がついたようだね」
「あ、あのっ。わたしどうして……」
「君の隣にいるその彼がね、道ばたで突然、僕の車を停めてきたんだよ。親指を立てたポーズに最初はヒッチハイクかと思ったけれど、どこか慌てた様子でさ。これから雷に打たれてしまうかもしれない女性のことを、助けたいって言ってた」

 その言葉で、わたしは原田くんを見た。ほっとしたような、泣きそうな、そんな彼と目が合った。車は落雷に遭遇しても、車内にいる人間に被害は及ばない。わたしを最後の最後まで諦めないでいてくれた原田くんは、最後の最後まで、明るい未来に向かって走ってくれたのだ。

「瑠夏、よかった……」
「原田くんっ」
「助かって、本当によかった……」

 助かった。それももちろん、嬉しいけれど。

「わ!瑠夏!?」

 わたしが原田くんを抱きしめたのは、優しい彼のことを、心の底から愛しいと思ったから。わたしは原田くんのことが好き、大好きって、それを痛感した。
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