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5.幸せな終わり
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「シアン」
どれくらいの時間が経ったのか。シアンは側に体温を感じた。
「ミー、ナ……か」
男の声はしない。では、勝ったのはミーナなのか。
抱き起こされるとすぐ、呑み込んでいた血が逆流して喉からあふれた。
ゲホゲホとはき出す。
「おれは、まだ……生きてた、んだな」
「それ以上、喋らないで」
「でも、わかる。おれはもうすぐ……」
土に還る。それは死期を迎えた人間だけが知る、疑いない直感だった。
「ごめんなさい、わたし、ウソをついた」
それは、化け物だと言われたのを否定し続けたことか。
もう、それは問い詰めることではなかった。
ミーナは、もっともっと重い枷を背負って必死に生きてきたのだから。
「きみのウソつきが下手なのは……もうわかってる」
シアンは笑って見せた。
「ミーナ。おれの頼みを……聞いてくれるか?」
「何?」
ミーナは目の周りの血を、拭ってやる。
「……見えた。きみは笑顔が似合う。どうか笑ってくれ」
ミーナは泣きながら、言われた通りに微笑んだ。
「そうだ。それでいい。おれを看取ってくれるなら、その後は……」
処刑人の男は、頭と胴体、足の部分がちぎれ転がっていた。ジェイと同じ死に方だった。
「その後は?……何?」
「ここから出て、どこかちがう場所へ……行って。そこで」
カッと目を見開いて、でも……それきり動かなくなった。
「そこで?何をして欲しいの?」
強く揺さぶるが、もうシアンは答えなかった。
「ごめんね。あなたの望み、わたしにはもう叶えてあげられない」
シアンを抱いた、ひざから下がすでに欠けていた。
ミーナの種族は、果てると砂になる。
「わたしも、今日までしか生きられないようにしていたの。だから、あいつを少しだけ食べた。でもちょうどこれでおしまい。あなたと同じ」
シアンの顔に頬ずりをした。とても満足そうに。
「ありがとう。今までわたしはずっと処刑用の化け物だった。誰とも約束したり、幸せな気持ちになるなんてことはなかった。あなたが、最初で最後だった」
涙がまた頬を伝う。
ミーナは最後の力を使って、シアンの身体に寄り添う。そしてまた笑顔。
「あなたが笑ってくれ、と言ったから。だから、わたしのことも看取ってね」
まぶたを閉じた刹那。
ミーナの体は砂へと崩れ、愛しい男の骸に降り注いだ。
(「最後の願い」・終わり)
どれくらいの時間が経ったのか。シアンは側に体温を感じた。
「ミー、ナ……か」
男の声はしない。では、勝ったのはミーナなのか。
抱き起こされるとすぐ、呑み込んでいた血が逆流して喉からあふれた。
ゲホゲホとはき出す。
「おれは、まだ……生きてた、んだな」
「それ以上、喋らないで」
「でも、わかる。おれはもうすぐ……」
土に還る。それは死期を迎えた人間だけが知る、疑いない直感だった。
「ごめんなさい、わたし、ウソをついた」
それは、化け物だと言われたのを否定し続けたことか。
もう、それは問い詰めることではなかった。
ミーナは、もっともっと重い枷を背負って必死に生きてきたのだから。
「きみのウソつきが下手なのは……もうわかってる」
シアンは笑って見せた。
「ミーナ。おれの頼みを……聞いてくれるか?」
「何?」
ミーナは目の周りの血を、拭ってやる。
「……見えた。きみは笑顔が似合う。どうか笑ってくれ」
ミーナは泣きながら、言われた通りに微笑んだ。
「そうだ。それでいい。おれを看取ってくれるなら、その後は……」
処刑人の男は、頭と胴体、足の部分がちぎれ転がっていた。ジェイと同じ死に方だった。
「その後は?……何?」
「ここから出て、どこかちがう場所へ……行って。そこで」
カッと目を見開いて、でも……それきり動かなくなった。
「そこで?何をして欲しいの?」
強く揺さぶるが、もうシアンは答えなかった。
「ごめんね。あなたの望み、わたしにはもう叶えてあげられない」
シアンを抱いた、ひざから下がすでに欠けていた。
ミーナの種族は、果てると砂になる。
「わたしも、今日までしか生きられないようにしていたの。だから、あいつを少しだけ食べた。でもちょうどこれでおしまい。あなたと同じ」
シアンの顔に頬ずりをした。とても満足そうに。
「ありがとう。今までわたしはずっと処刑用の化け物だった。誰とも約束したり、幸せな気持ちになるなんてことはなかった。あなたが、最初で最後だった」
涙がまた頬を伝う。
ミーナは最後の力を使って、シアンの身体に寄り添う。そしてまた笑顔。
「あなたが笑ってくれ、と言ったから。だから、わたしのことも看取ってね」
まぶたを閉じた刹那。
ミーナの体は砂へと崩れ、愛しい男の骸に降り注いだ。
(「最後の願い」・終わり)
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