オシャレのススメ!

Kano

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本編

第6話 関西娘と生徒会長、ショッピングをする

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※←このマークの付いたファッション用語は、
後書きに解説がありますので、
わからない時は参考にしてください!
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「あかん、全然やる気でーへんわ」
そう言って机に突っ伏すミナミ。
「しっかりしてミナミ、活動報告の書類の締め切り、明日までなのよ」

今2人でセコセコと書いているのが、毎月日本ファッション協会に提出している、ファッション広布活動の報告書。

「なんで一生徒会の役員がこんな仰々しいもん書かなあかんねや~」
ブーブー言いながらミナミは作業を再開する。

「今月はオシャレ関連の相談多かったから、書類もたくさんあるわね」
「こんな時に限って、あの2人はおらんし」

そう、今日はモードさんとオサムくんが留守。
生徒会の運営方針について、ファッション協会と会議だそう。

「なーなーススメ?」
「なに?」
「これ終わったらさ、久しぶりに2人でショッピングしにいこーや!」

ミナミと2人で遊ぶのは、確かに久しぶりだ。

「いいわ、是非行きましょう」
「よしきた! そうと決まったらこんな書類すぐ終わらせなあかんな!」
フフッと笑ってしまった。
「お調子ものね」
なんて言いながら、私もちゃっかり、書類を書くペースを上げていたのだった。

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「んーやっと終わった」
ミナミが小さい体でうーんと背伸びをした。
「お疲れ様、それじゃ帰りましょっか」
「えっ」
切なそうな顔をするミナミ。
「嘘よ、嘘」
「意地悪やなぁ!」
私の背中を、ポカポカ叩いて怒っている。
ミナミは感情が豊かで面白い。

「どこに行く?」
「ウチはどこでもええけどなぁ」
「じゃあ、神祭橋しんさいばしの方に行きましょうよ」
「ええな、そうしよう!」



神祭橋とは、多くのアパレルショップの集まる、オシャレ好きにとっての聖地。
アニメオタクの数が急増した今も、根強い人気を誇っている。

2人は学校から電車を何回か乗り継いで、神祭橋にやってきた。

「ミナミ、どっか見たい店ある?」
「靴、見に行っていい?」
「いいわよ、行きましょう」

近くのABCマートに入店。
ミナミはお目当ての商品があるみたいで、足早に店内を歩いていく。

「あった、これやこれや」
「ダッドシューズ※?」
「そうそう、プーマのサンダースペクトラ※。」
「厳つめな見た目ね」
「このごついフォルムがたまらんなぁ」
ミナミは試着もせず、靴をレジに持っていこうとする。
「試着しないの?」
「何回か試着したことあるねん、ずっと欲しかったから!」
「なるほどね」

レジに行って、精算。
「よっしゃ、お待たせ」
「次はどこに行く?」
「ウチは買いたいもん買えたし、どこでもええで」
「適当にぶらつきましょうか」
「せやな」




神祭橋は一本道の商店街になっており、
まっすぐ歩いているだけで、様々なショップを見て回ることができる。

私たちは、特に買うものも決めてないので、店先の展示品だけ眺めては、次の店へと目移りしていく。

RalphLauren※やTOMMY HILFIGER※、ラコステ※など、ハイブランドが点在していているのも、神祭橋の特徴だ。

「やっぱハイブラ※は憧れやなぁ」
「モードさんのお下がりもらったら?」
「アホか、あの人のお下がりをウチが着たら、ウルトラビックサイズになるわ」
「それ想像したら、フフッ、傑作ね!」

クスクスと笑う私を見て、ミナミはほっぺをプクーと膨らませ、拗ねている。

「そんなに怒らないでよ、パンケーキ奢るから機嫌なおして」
「よっしゃ、ゆったで?」
たちまち上機嫌になったミナミ。
「切り替えが早いわね……」

近くに適当なパンケーキ屋さんを見つけたので、そこで食べる事にした。
少し並んでいるみたいなので、私たちも列に入って待つ事にした。

ミナミの頭は、丁度アゴ置きに最適なので、ちょくちょく置いていたら、
「あんたほんましばくで!」
とお怒りの言葉を頂いた。
そんなに怒らなくてもいいのに。


10分くらい待ったところで、ようやく店内に入ることができた。


「ふー、お腹空きすぎてたまらんわ。あ、店員さん、パンケーキ2つ!」
余程パンケーキが楽しみなのか、座るやいなや近くの店員に注文するなんて、
せっかちだなぁ。
「他に頼まなくてよかったの?」
「そんなんパンケーキ食った後に考えるんや。ウチの体は今、パンケーキを求めてんねん!」
「ふふふっ」

お望みのパンケーキが、私たちのテーブルに並ぶ。
「いただきまーす」
やっぱりこういうところのパンケーキって、フワフワね。
程よい甘さで、何枚でも食べれそう。
「ススメってさ~」
「ん?」
「ウチと2人の時だけ、砕けてるよなぁ」
「うん。生徒会活動中のススメって、そもそもあんま喋らんやん」
「聞き手に回ることが多いからかしら」
ミナミは、ふーん、とだけ口にして、パンケーキを再び食べ始める。

たしかに、ミナミの言うとおり。
あんまり喋ってない気はするなぁ。
でも役員のみんなが優秀っていうこともあるのよね。

「ウチ、ススメは生徒会長っていう立場を、気負い過ぎやと思うねん」
予想外の発言に、私はびっくりしてしばらく黙ってしまった。


「どういうことよ」
色々考えた結果、このフレーズしか言えなかった自分の語彙力が情けない。

「そもそも生徒会長になった理由も、
たまたま御紗嶺高校創立の年に、
ススメがファッションコンテスト優勝したから、なんやろ?」
「そうだけど……」

「いつもススメの活動報告書書見たら、日本の未来やら、ファッションの未来やら、立派なこと書いてるけどさ」
「そんな大層な事考えんと、普通にみんなにオシャレっていう楽しい趣味を薦めたい、って考えててもええんちゃう?」
「うん……」

適当に返事したけど、どうなのかな。
私は、オシャレを守りたいし、
オシャレが無くなっていくのが悲しい。
現にこの神祭橋だって段々と規模が縮小していってるもの。

でもミナミの言うことも取り入れなきゃ。
ファッションの未来を変えたいっていう思いを、オタクたちに押しつけても、
反発されるだけだしね。

「ちょっとトイレ行ってくる」
「はいよー」

私が立ち上がった瞬間、ミナミはスマホを取り出し、触り始めた。

それを見計らって、伝票をこっそり持ち出し、そのままレジに進む。
この空気じゃ、ミナミに奢られそうだもの。
うわぁ、パンケーキ2枚で、結構するわね。



「おまたせ」
「おっ、結構早かったな。ほなボチボチ行こか」
「そうね」
「伝票どこなんかな?」
「もう会計済ませたわよ」
「マジで!? カッコいいことしてくれるやん、惚れてまうわ♡」
「はいはい」

いつの間にか、外は暗くなっていた。
「冬はほんまに日の入りが早いなぁ」
「そろそろ遅いし、帰ろっか」
「せやな」
バイバイ、と手を振って駅の方へ歩き出すミナミ。

「ミナミ」
「どうしたん?」
キョトンとした顔で私を見る。

「またショッピング行こうね」
ミナミは屈託のない笑顔でこう言った。
「もちろん!」

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~用語解説~

ダッドシューズ……
ダッド=Dad、つまりお父さんの履いてそうな靴のこと。
ダッドシューズなんて言いながら中高生に大人気。
底が厚く、全体的にゴツい。
全般的に人を選ぶフォルムではある。
初めて見ると、なんやこの靴だっさ!と思うこと間違いなしだが、何回か見ていると、カッコいい……ってなる。


サンダースペクトラ……
プーマのダッドシューズ。
とってもゴツい。
稲妻が走っているかのようなデザインがカッコいい。
リリース当初は即完売したほどの人気だった。
もしかしたらABCマートに売ってなかったかもしれないが、この小説の舞台のABCマートでは売っているのだ。


TOMMY HILFIGER……
ニューヨーク生まれのデザイナーである、トミー・ヒルフィガーさんが作ったブランド。
中高生に人気。
人気すぎてめちゃくちゃ被る。
トリコロール柄のロゴとカラーがとってもオシャレ。


Ralph Lauren……
これまたニューヨーク生まれのデザイナーである、ラルフ・ローレンさんが作ったブランド。
アイテムの種類は、ポロシャツからスーツまで幅広いラインナップ。
高い。


ラコステ……
ワニのロゴマークのポロシャツで有名なブランド。
元はテニスウェア。
ラコステというブランド名は、実在のテニス選手に由来している。


ハイブラ……
ハイブランドの略。
それだけ。
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