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<表紙絵追加>■RINK_010_異なる世界■

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◆2017/7/22 AM:12:49◆


真っ青な空・・・
僕は巨大な窓ガラス越しに空を見上げていた。

そして真っ青な空を白い物体が飛んでいる。
右から左、左から右と飛び交い・・・何個も・・・何個も。

その光景を見飽きた僕は見上げる視点を下降する。
そこにはアスファルトで出来た壮大な地面が広がる・・・
直射日光に熱(ねっ)しられた地面の向こう側には・・・
蜃気楼(しんきろう)。

そして、僕の真正面には堂々と君臨する・・・
離陸前のジャンボ機!

こちらを見下しているかのようにジャンボ機が
堂々と僕と向かい合っている。

ビジネスマンでない限り、
本来なら飛行機を見た人間は、ある程度気持ちが高ぶるものだ。
だが・・・今の僕にとって
真正面で向き合うジャンボ機の顔は・・・

「私はお前の命を預かっている」
「生かすも殺すも私次第」
「私に従え」
と・・・

——上から目線で見つめられている気分だ——
「・・・・・・」

「ママ!飛行機だー!」

僕は巨大な窓ガラスにへばりつく8歳程度の子供を見つめた。
「・・・」
その子供の瞳は、
日光と青空が反射しキラキラと輝いている。

「すごいわね~タッくんこれがヒコウキよ」

「ヒコウキ!わぁ~おっきいね!」
純粋な黒目の瞳が母親を見上げる。
僕はその瞳をチラッと見て、後方に視点を移す。

——ガラガラガラ・・・——

そこにはスーツケースを引いて右往左往する人達でごった返している。

「え~っとPの搭乗口だって」
「早くこっちに来なさい」
「ねぇねぇ!ニューヨークって言ったらやっぱり自由の女神かな?」
「ハワイってほぼ日本語通じるんだって」
「えっマジ?超~楽じゃん!」

——「日本語が通じるなら 海外とは呼ばない」——
ふとそんな事を僕は考えた・・・

「タッくんそろそろ飛行機に乗る時間よ」
「やったー!」
「ママ!パパは “おーすとらりあ”にいるんだよね!?」
「そうよ お仕事で先に行ってるから ママ達も急がなきゃね!」
「・・・おーすとらりあに着いたら僕 パパといっぱい遊ぶんだ!」
「そうね!でも遊んでばかりじゃダメよ」

「夏休みの宿題もちゃんとしないと!」

——「・・・夏休み」——

そう今日から世間は夏休みだ・・・!

毎年僕の夏休みのルーティンは。
2日間、48時間以内に夏休みの宿題をコンプリートして、
RFのプレイ時間にあてる。

リアルフィールド、夏の最大イベント——

——「24時間戦争」——

このイベントに備える為に物資や装備品の強化。
クルーのスキル能力のレベルアップ。
パーソナルレベル、個人レベルも上げる必要もある。
その為には地道な周回プレイが必須。
その為に僕はさっさと宿題をコンプリートしておく。

だが、それではただのオタクだ。
・・・オタクでは逆に目立ってしまう。
その為に僕は、
友達という同世代の人間とゲーセンやカラオケ、野外フェスなど
リア充的に遊ぶようにも心がけている。

この時に「まだ宿題全然やってないよ~」というのが全員の口癖だが、
「僕も全然やってないよ~」と同じタイプの人間を演じている。

そして毎年僕は友達という人間達とキャンプに行く。
中学2年生から毎年1週間・・・
高校が別々になった友達のふりをしている人間達も誘いキャンプに行く。
この行事を毎年行っている。

だが、今年は行かない。

行かないが、両親には・・・
「今年は22日からキャンプに行くから」
今日からキャンプに行くと嘘をついた。

母親は「え?いつも8月に入ってるでしょ?」
と不思議そうだったが、
「今年はみんな8月から塾の夏期講習があるから」
と答え母親を納得させた。
父親は新聞を読んでこの話題には興味がなさそうだった。

思春期で多感なこの時期は本来両親には嘘ばかりつくのが普遍(ふへん)的だ・・・。
だが、僕は両親にほとんど嘘をついた事はない。
しかし、今回初めて大きな嘘をついた。

なぜなら———


「ジンギ君」

「!!」

賑(にぎ)あう成田空港第二ターミナルロビー・・・。
本来、聞こえるはずもない、
僕だけに聞こえているんじゃないかと思うほどの小さな声が
僕の耳、鼓膜にその声の振動がつき刺さった。

僕はゆっくりと右、88度に視線を移した・・・。

5cmの控えめなヒールの靴。
膝上3cmの白のワンピース。
両腕の裾とスカートにはフリル、白のレース的な素材が装飾されている。
そして手には
麦わら帽子素材のカバンを肩にかけている・・・。


「アオイさん」

僕はアオイさんの表情をうかがうように
視線を向けた・・・

アオイさんは僕に視線を合わす事なく、
真正面に君臨するジャンボ機を見つめている。

斜め45度、
僕が7年間ただずっと見つめてきた・・・
何万回見つめても飽きない表情で・・・
じっとジャンボ機を見つめている。

僕はすぐにアオイさんが右手に持つチケットを見つめた。
そして僕はアオイさんが持つチケットと同じチケットを握りしめる左手。
・・・自分のチケットを見つめた。

——245便 13:44 成田発——

僕は視線をアオイさんに戻した。
「!?」

アオイさんが僕の目の前にいた。

冷めた視線で僕を見つめている・・・
だけど昨日屋上で浴びせられた軽蔑(けいべつ)の目じゃない。
そしてポツリとワードを呟いた・・・。

「あんたが・・・ほんとにウィンク・・・?」
と言い残し、回答を待つ間もなくアオイさんは
僕を素通りしゆっくりと歩き出した。

僕は急いで振り向き、アオイさんの後を追う。

ロビーを右往左往(うおうさおう)する観光客達を
躊躇(ちゅうちょ)なく僕達は一定の距離感を保ち歩く・・・
そして見えてきた・・・

—— F ——

とデザインされているプレート。
ファーストクラスのチェックインカウンター。

ピエールはファーストクラスのチケットを
僕達・・・高校生に送りつけてきた。
「・・・」

エコノミークラスやビジネスクラスと比べると、
確実にワンランクもツーランクも上。
美しい大人の女性が
ニコッとチェックインカウンターで微笑む姿が見えてきた。

アオイさんは表情一つ変える事なく僕の真横を歩いている。
いや・・・僕がアオイさんについて行っている。

知り合いでも他人でもない絶妙な距離感・・・
1.2メートルの空間・・・

その時、アオイさんの歩みがピタッと停止する。
「・・・?」

僕は停止したアオイさんの足元を見つめ、顔に視線を移した。
アオイさんは僕の目をじっと見つめる・・・。
視線を外したくなるほど、
じっと・・・じっと・・・じっと・・・見つめる。
そしてアオイさんの柔らかくもハリがある唇が動く。

「ジンギ君・・・私の邪魔をしたら殺すから」
 
魅力的な唇とは異世界なワードが僕に飛んできた。
その殺気に満ちた表情に僕は素直に

「はい・・・」
と答える事しかできなかった。

そして
この会話と対比するように・・・
ニコニコと微笑む美しい女性・・・

その女性が待つチェックインカウンターへと
僕達は歩みを進めた・・・。


—— Now Lording ——

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