鏡の世界に囚われて

鏡上 怜

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2nd.三面鏡

1・1つ目の鏡

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『だいすき、だいすきだから……』
 幼い頃からずっと聴き慣れている、泣きそうな声。まるで呪いのように繰り返される、か細くて儚げな声。
 ママ、痛い。痛いよ。
 ずっと、繰り返されている。

 でも、痛くても、つらくても、泣いてしまったらママがもっと悲しむおこる

『ママの方がもっと辛いのに、どうしてあなたが泣くの!!??』

 そう言って、またママの「愛」が始まる。
 もっと強く、もっとしつこく、もっと激しく。
 わたしが黙っていると、とても満足そうで、安心したような声で、また言う。

『ママはね、しろのことが、本当に、心の底から大好きなんだからね?』

 だから、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと。

 ママのそばにいてね……。



「――――――っ!!!!!」
 目を開けたら、見えたのは月明かりだけが入る狭い部屋の天井。
 そして、隣には。

「しろ、だいじょうぶ?」
 かけがえのない、わたしの天使。
「…………っ!」
 心配そうにわたしの顔を覗き込んでくれるその声が愛おしくて、優しく髪を撫でてくれる小さくて拙い手が何よりも尊くて、穢れのない目でわたしを見つめる顔が、泣きそうなくらいに嬉しくて。

「ありがとう、ゆきちゃん。もう、大丈夫だから……っ。本当に、ありがとう……」

 そう、わたしはもう、大丈夫。
 わたしには、かけがえのない天使がいてくれるんだから。
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