鏡の世界に囚われて

鏡上 怜

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4th.硝子の世界

夢見るあなたを鳥籠に、或いは偽りのない歪な声

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 あなたと出会ったのは、たぶん偶然だった。ううん、絶対偶然。あなたにとって私はどこにでもいるただの退屈しのぎなのだろうし、私にとってもあなたはどこにでもいるただ袖触れ合っただけの相手……だったのだと思う。

 わたしはたぶん、傷を負わないように避け続ける人生を送ってきていた。

 だから、傷だらけな姿を見せているあなたに興味を持ったのだと思う。

 いつしか好意に似た形をとっていたその興味は、今でもずっと私の中で渦を巻いていて。あなたから聞く話は、私にとっては未知の世界に似ていて。その中には耳を塞ぎたくなって、胸を掻き毟りたくなるような内容のものもあったけれど、きっとその痛みすらも私にとってはかけがえのない宝物で。

 でも、わからないの。

 そういう風に感じられたのは、あなたの話だから?
 私には、人の不幸に嘆きながらも喜びを覚えてしまうようなところがあったというの?

 それすらもわからないけれど、少し見えたような気がした。
 あなたはね、自分で言うほど壊れてなんかいないの。ただ、見ている夢の甘さがあなたの身の丈を超えてしまっているだけ。
 私がとっくに捨て去ってしまったような夢を、まだ捨てきれていない、ある意味で純粋な子。
 その在り方はますます私を惹きつけてしまった。きっと、望まれてはいないのだろうけれど。

 色々な仮面を探して、その時々に応じて相応しいものを被って、それであなたの前に現れる。
 それで、あなたの前でそれらしいセリフを吐く。
 誰かに興味を持つなんて久しぶりだったから、距離の詰め方なんてわからなかったけれど、あなたのことを見ていたいと思った。
 ねぇ、少しだけでいいから、ね?
 時にあなたの度が過ぎた夢を諌めて、時にあなたの甘すぎる夢を肯定する。
 それはきっと、夢を見ているときのあなたが好きだから。
 
 だって、どんなに冷めて擦れた物言いをしていたって、夢を見ているその姿は輝いて見えるでしょう?
 だって、いつかその夢が幻想に過ぎないって受け入れるときが来て、そのときの顔が見たいでしょう?

 だから、私はその夢を壊さないように守る鳥籠になろうと思う。夢を壊さないように。
 だから、いつか来る終わりに向けて甘い毒を注いでしまいたい。夢をより甘く見せて。

 そして、今。
 傷口を広げながらも壊れたふりをして夢を見続けているあなたは、やっぱりとても綺麗なんだよ?
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