鏡の世界に囚われて

鏡上 怜

文字の大きさ
上 下
22 / 29
4th.硝子の世界

罰と罪と、そして。

しおりを挟む
 私には、たぶんとっくにわかっていたんだと思う。
 あなたには絶対に手が届かない。

 だからさっさと諦めて、さっさとある程度落ち着けて、ある程度近くて、ある程度あなたを知っていられる場所に立ったのだと思う。その思い切りの速さのおかげで、きっと私は“他の人たちよりはあなたを知っている”人でいられた。
 別に、それでよかったのに。
 いつからだろう。
 ある程度なんかじゃなくて、もっと。
 もっと傍に、もっと深く、もっと近くに、もっと強く。
 誰よりも近くに、誰よりも、誰よりも。

 私の知らないあなたなんていないというくらいになりたいと、願ってしまった。

 他の人が知っていて私が知らないあなたなんて、ほしくない。
 きっとそれは、幼稚な独占欲だったなんてことももちろんわかってる。きっと自分で蓋をしたつもりになっていた感情もメッキでしかなくて、ただの執着と独占欲と自己満足。
 その罰は、あまりに幸福で、絶望的。
 あなたの幸福を、心の底からは喜んであげられないことが、苦しくて仕方がない。

 それで?

 わかったらどうするつもり?

 恥じ入って消えるのが筋なんじゃないの?

 自分すら偽れる狡い嘘つきには幸せなんて勿体ないでしょ?

 どこかからそんな声が聞こえる。私を笑うように、ずっと、絶え間なく。だから、私はその声を嗤い返す。ばか、誰がそんなことをすると思うの? “私”なら私のことをよくわかっているでしょう?

 私は、どこまでも狡いのだから。
 だから、この日々は守らなきゃ。
 その為にこのヒビは直さないと。

 また、誰かが泣いている。
 どうやら誰かがいなくなってしまったらしい。
 残念だけど、私にはあまり関係がない。それよりも、あなたがそこで幸せそうにしているのを眺めているこの尊い日常を守る方が、私には重大事なのだから。

 微笑みの仮面は誰かの嘆きを糧に、今日も……。
しおりを挟む

処理中です...