古典的条件付けの楽園

鏡上 怜

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5・楽園の宴

白き楽園

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「そこに、俺も連れていけ」
 朋之ともゆきの声には、憎悪の色が強い。何故ならば、その相手である白い男――ヴァイスアプフェルは彼にとって、大切な親友で幼馴染でもある神尾かみお 浩希ひろきの絶望に付け込んで【楽園】と呼ぶ場所へ連れ去った張本人なのだから。

 そんな朋之に、ヴァイスアプフェルはやはりにこやかに微笑む。
 数年間探し求めた姿。

 浩希がいなくなった後、彼の言葉通り学年に何人かいたオカルトマニア数人と交友関係を築き――といっても友人関係としては少しばかり破綻してしまっていて今ではほとんど縁もなくなっているが――、【楽園】の噂話について調べて回った。
 各所で見られた噂話には一貫性がほとんどなく、そもそもが別に刑事事件などで説明されるものだった。
 だが、諦めずに探し続け。
 そしてようやく目の前に。

「今の貴方になら資格があるようです。さぁ、こちらに……」
 差し伸べられたその手を、握りつぶさんばかりの力で掴み返す。

 一瞬だけ、周りが強く光ったような気がした。

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「ここ、は……?」
 気が付くとそこは、全てが白い庭園のような場所だった。
 白薔薇が咲き乱れるそこでは、白い鳩がまるで来客を出迎えるように空を飛び交い、清潔感のある白基調のテーブルには、白いティーカップが置かれている。
 庭園で戯れる数人の少年たち。
 少女のような顔を綻ばせながら、その1人がヴァイスアプフェルに駆け寄る。
「お帰りなさい、叔父さん!」
「ただいま、とおる。元気にしていたかな?」
「うん!」
 透と呼ばれた少年は、ヴァイスアプフェルに頭を撫でられて嬉しそうに目を細める。白い男はその姿を愛おしげに見つめて、別の少年たちへと向かって行く。
 順番に声をかけられる少年たちの中に、いた。
 幸せそうに笑っている姿を、見紛うはずもない。

「浩希……?」

 思わず呼びかける朋之。その声に気付いたのか、浩希もこちらを振り返る。そして、数年ぶりの再会――更にお互いに醜い本音をぶつけ合った後だったとは思えないほどあっさりと「あ、朋之! こっち来たんだ!」とうれしそうな顔を見せる。
「うわぁ、久しぶりだね! よかったよ会えて。ここで一緒に幸せになろう?」
 飛びつかんばかりに近付いてくる浩希に戸惑いながら、「お、おぉ」と答えて、その相変わらず華奢な肩に手を置こうとしたその時だった。

 突如鳴り響く鐘の音。

 そして、辺りに異様な空気が漂い始めた。
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