口づけは1度だけ…

鏡上 怜

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至る終局の暗闇は

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「…………っ!?」

 森へ飛び出した瞬間、ティルは驚きのあまり息を呑んだ。
 恐らく魔女アメリアを屠るために派兵されたのだろう者たちの破壊の痕は、彼の予想を遥かに超えていた。
 あちこちから火の手が上がっている。
 しかしそれ自体ならまだ経験のあるものだった。が、問題はその火が火としてつけられたものではなく、別の圧倒的な破壊を伴って発生したらしいものであること。

 およそティルの知る外の世界――――王統貴族の権勢が強く、その庇護を受けられる一握りの豪商たちが都市の暗部で幅を利かせるような世界――――では、お目にかかれないものだった。たちの中には軍の要人たちがかなりいたが、そこからも聞いていない。
 十数年の間に、兵器がここまでの進歩を見せた……?
 それも、宗教の名を借りた覇権争いで疲弊しきった外の世界を思うと考えにくかった。

 そうなると、もしかしたら自分の予想するより遥かに早いペースで敵はアメリアに迫っているのかもしれない。
 そうして引き返した先で。

「おっ? 魔女……ではなさそうだが……。おいヨハン、どうするよ、こいつ?」
「ふむ、俺もよくわからんが、この辺りって“魔女の森”とか言われてんだろ? じゃあ撃っちまえば?」
「つったってよぉ~、あんなの昔話だぜ? そんなのいないんじゃね、このご時世にさ?」

 そう笑う男たちの声に、妙な違和感を覚えた。

「だってよぉ、古きものの森、だっけか? んなこと言ってたの、俺んちじゃあ爺ちゃんが最後だぜ? んで、爺ちゃんもそのまた爺様から聞いたってだけで、別に信じちゃいなかったらしいしな」
「魔女があれこれしてたのって、精々何百年も前の話だろ? さすがにいないんじゃないかね?」

 信じていない?
 何百年も前?

 一体、この男たちは何を言っているんだ?

 不意に襲いかかる奇妙な不安は、ティルの胸を掻き毟り始めていた。
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