黄昏に舞う戦乙女

Terran

文字の大きさ
3 / 51
【天を見上げる戦乙女】

第003話

しおりを挟む



 セレンは敏感に戦域を測りながら、敵軍との接触を最小限に留めて敵陣の中心があると思われる北の針葉樹林地帯を目指して行軍していた。

 青年中隊長率いる部隊の人数は150名。
 敵本陣へ正面から攻められるほど人数も多くは無いし、気付かれずに進めるほど少なくもない。何をするにも半端な人数である。
 青年中隊長もその事は理解しているらしく、戦場ではぐれた分隊や傭兵を見つけては取り込み、時に隊長を失って半壊した小隊の生き残りと合流しながら人数を増やしていった。

「流石は中隊長殿、見事な采配ですな!」
「副隊長、増やした兵達の再編成を頼む」

 お任せを、と副隊長はニヤリと笑ってその場を離れ、威張り散らしながら指示を出し始める。
 他の隊より遅れて戦地の只中へやってきたのは、最初からこれが狙いだったのだろう。
 本陣の敵将を確実に叩きたいなら最低でも大隊規模は欲しいところだ。

「セレン、お前は傭兵達を集めて指揮を執れ」
「何で?」

 話を振られるや否や、むすっとした声色で返事をする。
 反応が早かったのは、こうなる事を半ば予想していたからである。

「フッ、報酬は上乗せする」
「じゃあ聖金貨プラス10ね」

 青年中隊長は形の良い眉を曲げて少し悩み、一度セレンの目を観て少し間をおいてから切り出した。

「そうだな。傭兵を100人集めたら聖金貨10で手を打とう」
「しょ・う・が・な・い・なあ~! なら50人で5、100人で10って感じで。集めた時点で払ってよね?」

 いい笑顔でそう答える。
 セレンは初め不機嫌そうな態度をしていたが断るつもりは無かった。
 青年中隊長も彼女の表情からそれを読み取って妥当な落とし所へと大人しく誘導されることにしたのだろう。

「いいだろう。期待に応えてみせろ」
「はいはい。隊員を少し借りるわ。あと聖金貨、ちゃんと用意しといて」

 そう言うや否や、セレンは隊から騎士を四人ほど見繕って戦場を駆けて行った。



◇◆◇



 戦争といっても今回のこれは王国軍からの援軍は出ていないらしく、この地の領軍を筆頭に近隣領からの助勢で編成されている。
 それに領軍の中でも正規の騎士の数はさほど多くはない。
 大部分が一般兵で、残りを傭兵で水増しした練度の低い軍隊である。
 傭兵業をそれなりに長く続けているセレンには、それなりに腕があって適当に稼いでいる流れの傭兵が居そうな場所の検討は付いていた。


「あー、アンタまだ傭兵団やってたのかよ。足洗うんじゃなかったの? へ~、家族がねぇ…。そりゃ大変だわ。そんな話聞かされたんじゃ仕方ないな。今回は貴族サマと契約してるアタシんとこ手伝わせてやるよ」

「アンタ達さ、そこの頭から矢を生やしてる騎士に雇われてたんでしょ? こっち手伝ってくれんなら新しい雇い主紹介してあげてもいいんだけど」

「は~い、稼げてる~? あっそう。それは余計なお世話。まあいいや、これから正規軍と敵本陣突っ込んで荒稼ぎするんだけど、興味ある?」

「ねえキミ達~。印が付いた死体から勝手に剥くのは違法だって知ってるよね~? こっちの騎士サマもばっちり見ちゃったんだけど。…え、奴隷落ちは嫌。そっかそっか、それじゃ黙っててあげる代わりに…」

「おいおい、こないだはよくも裏切ってくれたな! あァ? 今は味方、へえ? それなら当然、アタシ達と一緒に戦ってくれるんだろ。何せ今は味方なんだもんなァ?」

 宥(なだ)め、賺(すか)し、誑(たぶらか)し、脅(おど)し、糾(ただ)し。
 セレンは戦士達を苛烈なる戦場へと送り込もうと、傭兵としてのあらゆる交渉術を駆使した。
 見目麗しき女性が扇動し、戦士をヴァルハラへと送るが如き行為は、まさしく“地上の戦乙女”の二つ名に偽り無しと言えよう。



◇◆◇



「はい100人突破。ボロいわ~」
「たった二日で本当に集めてしまうとは。しかし、子供まで戦わせるのは流石に…」

 連れてきた騎士は困惑しながらも、思っていた胸の内を告げる。
 死体漁りの痩せた浮浪児達の事だろう。

「はぁ? 誘おうと誘わなかろうと、あの子達はこの戦場から居なくならないわよ。それに戦わせる訳じゃないし」
「ですが、戦わせないのでは100人として認めるわけには…!」

 これが騎士と傭兵の違い。
 普段は気にも留めていないのに、いざ目の当たりにすると同情し、されど人としては認めていない。

 傭兵はその点シンプルで公平だ。
 戦場に出た以上は大人も子供も無い。運か能力のある者が稼ぐ。

「アタシは戦える傭兵とは一言も言ってないし、武器とかを荷運びする役だって必要じゃない? 戦える騎士と傭兵に重たい荷物運ばせて疲れさせるなんて、間抜けのすることでしょ」
「それは、確かに…」

 こうして納得出来そうな答えを与えられれば、覚悟の無い考えの甘い者は引っ込んでしまう。

「安心して、あの子達にはアタシが交渉して賃金を払わせる。無理ならアタシが立て替えるし。言っておくけど、アンタ達の飲む酒代よりずっと安いんだからね」
「………」

 納得しきっていない顔だったが、彼等もそれ以上は何も言わなかった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...