黄昏に舞う戦乙女

Terran

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【天を見上げる戦乙女】

第018話

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 戦地に居る全員が伝令が来るよりも早く、戦いが始まったのだと理解した。
 南東の谷と森林のずっと先、法士達の放った炎と爆発が吹き上がり轟音を響かせる。

「ふーん、あれが領軍の法士なら中々のものね。ねえベテルギウス。でも開幕式の花火にしては無骨で華やかさが足りないわよね~」

 あれだけ派手なパフォーマンスを見せられたのだ。
 各地の敵味方共に攻撃を始めただろう。

「だからこそ、今がチャンスってね…!」

 戦馬を走らせて斜面を駆け下り、予定していたルートを確保する為に次々と樹林へ火矢を射掛ける。
 予め風向きと乾燥していた木々の確認はしていたので、予想通りに火の手はぐんぐん伸びていった。
 乗ってきた戦馬は後方の火の手が回らない場所に置いていく。

「さーて、狩りの時間ね…」

 本来なら土地に甚大な被害を齎す火計は領主が嫌がるので許可を取らなければならないのだが、戦場になってしまえば敵味方のどちらが仕掛けたかなんて分かりっこない。

「罠だらけの森なんて一度焼いてしまえばいいのよ。それにこの風向きなら燃えるのはここら一帯と敵本陣の周囲半分だけね」

 今はヴィンスの敵将討伐の助けになるように動かなければならないのだ。難しい注文を受けているので細かい事は気にしていられない。

「こっちにも法士隊が来ていると勘違いして慌てる間抜けはいないかな~?」

 戦場において法士の存在は脅威である。見付けたら優先して排除したがるだろう。
 実際はセレンが声を掛けて寄せ集めた分隊の傭兵には法士なんて一人も居ないのだが、そんな真実を敵は知り得ない。

 セレンの作戦が上手くいったのか、一刻ほどすると50名からなる小隊が燃える樹林へ向けて進軍しているのが確認できた。
 思わず口元に笑みが溢れる。

「投槍が3本に、矢の残りは…24本か。ひとまず小隊くらいならどうにかなるかな」

 自分の槍と腰から下げている渡された予備の剣の他にはそれだけの武器を用意してきていた。
 セレンは燃える樹林の間隙に潜伏しながら敵小隊の様子を観察して仕掛けるタイミングを図る。

 何やら鎧兜を身に纏った大柄な男が部下達に指示を飛ばしているようだ。
 やれ「これは敵の陽動」だの、「森の罠を嫌がってる」とか、「別の方角からの奇襲に気を付けろ」やら、「法士が居るかも知れないから大人数で固まるな」といった内容が聴こえてくる。

「(あらあら、勢いよく燃えてる罠だらけの樹林には誰も居ないと思い込んじゃってまあ…)」

 激しく燃え盛る樹林とは距離を取り、てんで的外れな方角へ注意を向ける小隊の背後へ向けて、パチパチと木々の燃える音に紛れて弓を引く。

「(集中…。なるべく速く、正確に、順番を考えて、呼吸を乱さない…)」

 集中したセレンの頭の中からは、金の事も、命の事も、戦争の事も、無くなった…。
 まずは法力を抑えて静かに。

「…1……2……3……4…」

 散開した敵が狙撃手に気付くのが遅れるように順番通りに射抜いていく。

「…5……6……7……8.9…」

 息を細く浅く吐きながら、素早く敵兵の頭だけを狙って狙撃する。

「…10……11……12.13……14…」

 纏った法力は弓と持ち手を包んで固定するのに使い、作業のように、機械のように正確に射抜いていく。

「…15……16.17……18……19…」

 流石に敵に位置がバレてしまうが、慌てず仕留められる者から撃っていく。

「…20……21……22……23…」

 敵が燃える樹林まで迫ってくるが集中状態を維持して矢の続く限り撃ち込んだ。

「…24……25……26……27…ッ!」

 最後の一矢は敵の弓兵と同時だった。
 敵の矢はセレンの顔を掠めて、セレンの放った矢は弓兵の眼窩を貫く。
 的中を確認しきる前に身を翻して燃える樹林へと走った。

 「居たぞ!」「こっちだ!」「よくも!」「あっちへ逃げたぞ!」「被害の状況は?!」「囲めッ!」

 叫びながら追い縋ろうと迫る敵を尻目に、セレンは予め決めていたルートをスムーズに進み。

「(森でアタシを捕まえられるわけが…)」

 独断専行をしていた敵兵の前に突如として現れ。

「(ねえだろ!)」

 投槍を敵兵の首に突き立てて貫通させる。
 始末した敵兵の死体が燃えないように近くの苔むした岩に横たえた。

「(あと22…)」

 そして引き抜いた投槍を右手に、敵兵の持っていた量産品の剣を左手に携え、再び炎に彩られた樹林の中へと姿を消す。



◇◆◇



「があぁぁッ!」
「うるさい」

 罠のある位置に誘導した敵兵を、罠に掛かると同時に踏み込み槍で首を突き刺して仕留める。

「おのれ卑怯者めがッ!」

 ご丁寧に攻撃前に叫んだ敵からの殺気を察知。

「『風招戟』」

 死体に刺さった槍から手を離し、ゴウッと風の唸り声を上げて投擲された戟を青く煌めく左手の剣で斬り払った。

「なっ、莫迦な…!!」

 驚きに目を見開く、おそらく隊長格と思われる鎧兜の身長2メートル超えの大男へと、法力を込めた投槍に身体の回転で遠心力を上乗せさせて投擲する。

「いきなり投げつけて来てんじゃねえよ、危ねえだろ!」

 理不尽な罵倒と共にセレンの投げた槍は青い燐光を放って大柄な敵隊長の胸を貫通した。

「ガハッ! この、力…。キサマ…名前付《ネームド》か…!」
「狙撃で半分殺された時点で気付けよ、無能が」

 ドッと崩れ落ちる姿を余所に、セレンは両断された戟を見ていた。
 緋錬鋼製と思われる赤い刃の業物だったのだ。

「う~わ勿体ない。アンタがいきなり投げてくるから!」

 物言わぬ死体に文句を言ってから、腰に下げていた印章を取り出して法力を通し、額に押し付ける。

「あーこれ後49回やんなきゃなんないのね…」

 背後を振り返り、焼ける樹林とその周辺に散らばる敵兵の死体を見やる。
 それでも成果報酬の為には必要な作業だ。

「死体拾いの子、一人くらい連れて来れば良かったかな~」

 他の隊には、戦力にはならないのだが物資の運搬と印を残す作業を請け負う傭兵とは名ばかりの死体拾い達を同伴させているので、この作業を代わりにやらせている。

「愚痴ってても仕方ないか…。たぶんコイツが小隊長で他は兵士かな」

 小隊長首1に兵士49で、締めて金貨24枚に大銀貨7枚。
 荒稼ぎしたつもりだったが、目標にはまだ遠い。

 セレンは印を付けながらまだ使えそうな武器や道具類を漁っていった。
 持って来ていた投槍の内二本は刃が欠けて使えそうに無い。
 敵の矢が回収できたので弓はそのまま携帯。投擲にも使えそうな短槍を代わりに二本拾い、水筒の水は法力で浄水してから飲む。
 さっき拾った剣は傷も無くまだ使えるが、より良い剣があったので取り替えておく。予備の剣はまだ使わない。
 あまり嵩張る物は手荷物に加えられないが一応回収と確認だけして、小隊長の持ち物の入った荷物袋と地図や手鏡は手荷物に加えておく。

「まだ始まって二刻半くらいかな」

 置いてきた戦馬の下へと戻り、セレンが帰ってきたのを見ると嬉しそうに喉を鳴らすのを撫でながら暫く癒やしの時間を堪能していた。

「次はどうしよっか。北か、東か、時間を空けるか」

 始まったばかりでまだ敵の戦力は引きずり出せていない。
 もう暫くは稼ぎに集中しても良いだろう。そう考えたセレンは次の獲物を求めて索敵を始めた。



◇◆◇





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