天才異能使いの穢れた侍は妖魔を断ち暗躍す

炭酸おん

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穢れた侍

頼み事

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 ここは保馬藩。都である江戸から少し離れた場所に位置する、海に面した穏やかな藩である。



 変わり者の侍・紅床くれとこ虎和とらかずはそんな藩の中心部から少し離れた山の中に住んでいた。



 日が昇り始めた早朝、虎和は山奥にある自らの家を目指して山を登っていた。昨晩は町民から依頼された妖魔退治をしに町へ下りていたのだ。



「ふぅ~、今回の妖魔はそれなりに強かった。それにしても、最近は妖魔が多いな。その分俺にも仕事が回ってくるって物だけども」



 虎和は君主を持たぬ侍だった。彼は町民などから妖魔退治の依頼を請け負い、日銭を稼いで暮らしている。



 ここ最近、保馬藩では妖魔による被害が多くなっていた。妖魔は種類によって差はあれど、大抵は人を襲うし危険である。その為人々は、己に刻まれた「異能」を駆使して妖魔と戦うのである。



 いつも通り山道を歩く虎和だったが、周囲に奇妙な気配を感じていた。



「この気配……誰かいる? それとも妖魔か?」



 身を伏せ、周囲を見渡す。すると少し離れた所に、山道を歩く少女の姿があった。



「こんな朝早くにこんな場所に……一体何の用だ?」



 気になった虎和は少女に近づいてみる。だが、少女の姿がはっきりと見えるようになった所で、彼の足は止まった。



 端的に表すならば、絶世の美女だった。歳は十八歳くらいに見える。桃色の動きやすそうな着物を着ていたが、その材質は一目見ただけでも分かるほど上質な物だった。どこかの名家の娘だろうか。



 虎和はしばらくの間、その少女の美貌に魅せられてしまった。何故名家の娘がこんな早朝の山奥にいるのか、そんな疑問さえも忘れてしまう程に見惚れていた。



「……はっ! さっきの人は⁉」



 ふと、我に返る。気付けば少女はどこかに消えてしまっていた。



「そうだ、この山は危険なんだった! 早く追いかけないと!」



 虎和の住むこの山は、獣も出るし妖魔も出る。運良くそれらに遭遇しなかったとしても、山の中で迷って息絶えるのが定めだ。この山の中を自由に動けるのなど、虎和以外にはいないだろう。

 あんな美しい少女を死なせる訳にはいかない。その一心で、虎和は動き出した。



 どうやらかなり長い間、少女の美貌にやられて我を忘れていたようだ。距離が空いてしまったのか、中々少女を見つけられない。

 虎和の中に、少しずつ不安が芽生え始める。今の状況が、かつて母を亡くした時の状況と重なる。記憶が蘇る。



「……もう、同じ思いは御免だ」



 片や肉親、片や一目見ただけの少女である。だが虎和は妖魔退治をしていく中で、この藩の人々を大切に思うようになっていた。自分のせいで人が死ぬなんて事は、もう御免だった。



 虎和が足を速めたその時だった。

 山の上の方から、一斉に鳥達が飛び立っていく。直後、少女の叫び声が響いた。



「今の……! 獣か妖魔が出たか! 頼む、間に合ってくれ……!」



 虎和は叫び声が聞こえた方向に一目散に駆け出す。間に合う。助けられる。そう自分に言い聞かせて、不安を払拭する。



 少女の姿が見えた。彼女の前には、彼女の背丈の二倍はある巨大な妖魔が立ちふさがっていた。

 牛鬼。蜘蛛のような体に巨大な牛の頭部を持つ妖魔である。非常に獰猛で、人を好き好んで食べる危険な妖魔だ。



「見つけた!」



 虎和は叫ぶ。少女と牛鬼の注目がこちらに向いたのを確認し、一気に動き出す。



 瞬き一つする間の間に、紅い矢が一本作られていた。虎和が腕を牛鬼の方に向けると、紅の矢もその方向に飛んでいった。

 虎和が叫んでから矢が牛鬼の眉間に突き刺さるまで、ほんの一瞬だった。



「グオォ!?」



 牛鬼が混乱した声を上げると同時に、突き刺さった紅い矢が弾けた。弾けた矢は紅い液体となり、牛鬼の目を潰した。

 それを確認するや否や、虎和は刀を抜いた。目が見えぬ牛鬼に近づき、その首を一刀両断する。



 侍らしい、美しい太刀筋だった。その一撃で牛鬼の首は綺麗に切り落とされ、一瞬の内に絶命した。



「大丈夫でしたか⁉」



「はい、何とか……。ありがとうございます」



 少女は無事だった。まだ恐怖を忘れられないようで、少し強張った笑顔を浮かべている。そんな表情でも可愛らしいと思えてしまうあたり、本当にこの少女には絶世の美女という言葉が似合う。



 牛鬼を倒し、少女も助けられて一安心……と思った、その時だった。



「……へ?」



 気付けば虎和は、刀を抜いた侍三人に囲まれていた。今にも虎和を殺そうという気迫が溢れ出ている。



「お前か? 桜様を襲ったのは」



「いやいやいや、違う違う違う違う」



「嘘を吐くな! 先程確かに桜様の悲鳴が聞こえたぞ。貴様が襲ったからではないのか⁉」



「違う! だから違いますって!」



 全く話が通じない。流石に刀を持った侍三人には虎和も勝てそうにない。否定する事しかできなかった。



「皆さん落ち着いてください! この方は妖魔に襲われていた所を助けてくれた方です!」



 少女が声を上げた。それを聞いた侍三人は、急に眼の色を変えて虎和に頭を下げた。



「これは失礼しました! 桜様を助けていただきありがとうございます!」



「え~……何なんだこの人達」



 困惑する虎和に、少女が話しかける。



「すいません虎和さん、助けていただいたのに混乱させてしまって……」



「いえいえ大丈夫ですよ。……というか、何で俺の名前を?」



「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね。私は藍染あいぞめ桜、保馬藩主の藍染剛山ごうざんの娘です。そこの三人は父上の家臣です。山を登っている最中にはぐれてしまって……。とにかく私達は、



「成程成程……って、藩主の娘!?」



 位の高い家の娘だとは思っていたが、まさか藩主の娘だったとは。これは助けていなかったらえらい事になってしまっていたかもしれない。



「……というか、なんで藩主の娘様が直々に俺なんかに? 俺に頼みたい事っていうのは……?」



「単刀直入に申し上げます。私を守ってくれませんか⁉」
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