天才異能使いの穢れた侍は妖魔を断ち暗躍す

炭酸おん

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穢れた侍

煙ヶ羅

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 先に動いたのは虎和だった。



「生憎、競い事をしているんでな。さっさと祓わせてもらおう」



 瞬時に煙ヶ羅に接近し、その流れのままに刀を振るう。

 煙ヶ羅は煙の妖魔である。その刀は煙である煙ヶ羅の体を斬る事はできず、素通りする……はずだった。

 虎和が駆け抜けるとほぼ同時、煙ヶ羅の体から血しぶきが舞った。



「……まぁ、使ってくるわよね、魂力こんりょく。それにしたって、並の侍の魂力じゃないでしょ……!」



 魂力。人間の魂に宿る、妖魔の持つ『妖力』と対になる力である。妖魔に対して特攻性があるため、魂力を込めた攻撃は煙ヶ羅のような実体の無い妖魔にも通用する。この『魂力』こそが、人間が妖魔と渡り合う上での武器の一つだ。



 そしてもう一つの武器、それが『漢字』の異能。



「今が夜で良かったよ。お陰で人目を気にせず異能を使える」



 虎和が呟くと同時、彼は刀で自分の指先を切った。

 傷口から血が噴出し、それが集まって固まり、血の矢となった。



紅血破魔矢こうけつはまや



 虎和に刻まれた漢字は『血』だ。これにより虎和は、自身の血を自由に操る事ができる異能を持つ。

 だがこの時代、血は不浄な物とされていた。それ故に虎和は『穢れた侍』と呼ばれ、人前で異能を使う事を避けたがっているのだ。



 ―――しかし、今は夜。人はいない。惜しみなく力を使う事ができる。



 虎和が煙ヶ羅に腕を向けると、血の矢はその方向に飛んでいった。

 煙ヶ羅は体を煙にして避けようとするが、当然矢にも魂力が込められている。回避を許さず、体に深々と突き刺さる。



「ぐっ」



「流石に矢の一発じゃ死なないか。なら」



 虎和は体内を流れる血を操作して血液循環を速める事で、身体能力を強化する。強化された肉体で刀を構え、再び煙ヶ羅に迫る。



「そんな小細工したって無駄よ! 延々毒!」



 煙ヶ羅は体を毒の煙に変化させる。この煙で、今まで人間を葬って来たのだ。

 虎和は身体強化を施した。近接戦を仕掛けようとしているのは明らかだ。ならば、近づいた所で毒を吸わせて殺せば良い。この罠で、虎和は殺せる。



「そんな丸見えの罠にかかるかよ」



「……え?」



 気付いた時には虎和は煙ヶ羅の背後に立っていた。そして煙ヶ羅の胴体は斬られていた。



「抜刀術。俺の特技だ。身体強化をすれば、俺が近接戦をしようとしていると誤解させられると思ってな。お前は見事にその罠にかかったって訳だ」



 罠にかけられていたのは煙ヶ羅の方だった。

 煙ヶ羅は体を煙にし、再生させたが、かなり力を使ってしまった。毒の煙を発生させられるだけの妖力が、もう残っていない。



「嘘……? たかが侍一人にこんなに力を使ったの?」



 刀で斬られたのが二回、そして血の矢に貫かれたのが一回だ。

 たったそれだけしか攻撃を受けていないが、一撃一撃に相当な量の魂力が込められていた。故に煙ヶ羅の体を深く抉り、大きな傷を与えていたのだ。



「いつ護千代の奴が気付いて乱入してくるか分からないからな。次で終わらせる」



 虎和は刀に血を纏わせ、通常の二倍近い長さの刀に変化させた。

 それを持ちながら軽々と煙ヶ羅に迫り、一閃する。



「―――紅血一閃」



 大刀によって切断された煙ヶ羅の体は、今度こそ完全に真っ二つになった。煙ヶ羅は再生する力さえも消え失せたようで、力なくその場に倒れ伏した。



「……よっし! これで俺の勝ち!」



 煙ヶ羅を倒した途端、戦闘中の姿が別人に見える程に虎和の態度は一変した。妖魔と対峙した時は冷酷になるが、普段の彼はこんな物である。



「よし、急いで桜様に報告を……」



「……ぬかったわね。まさかあいつ以外にも私を嗅ぎまわってた奴……しかも滅茶苦茶強い奴がいたなんて。あの久我家の坊より、こっちをで叩くべきだったわ……」



 まだ辛うじて息が合った煙ヶ羅が呟く。それと同時に、煙ヶ羅の体は煙となってどこかへ飛んで行ってしまった。



「しまった! あいつ、分身だったか! ……成程、どうりで弱かった訳だ」



 虎和は戦闘中、ある違和感を覚えていた。煙ヶ羅が弱すぎる事だ。

 妖魔は人を殺せば殺す程強くなる。人間が死の間際に感じる負の感情が、妖魔にとって最大の栄養になるのだ。



 だが今の煙ヶ羅は、二十人以上も人を殺したとは思えない強さだった。もし今戦った煙ヶ羅が、本体から煙を切り離して作った分身だったら……納得はできる。



「というかあいつ、久我家の坊って言ってたよな……! まずい、このままじゃ先を越される!」



 恐らく既に、護千代と本体は戦闘を始めている。護千代の強さがどれ程なのか虎和は知らないが、先を越される危険性は十分にあった。

 今倒した煙ヶ羅が煙になって向かっている先は、間違いなく本体のいる場所だ。虎和は大慌てで煙の行く先を追った。

 
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