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穢れた侍
煙が晴れる
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煙ヶ羅の分身は、「二十人以上殺した」割には弱かったというだけだ。並の妖魔程度の力はあった。
言い換えれば、分身でさえそれ程の力を有していたのだ。その本体がどれ程強いのか、虎和は測りかねていた。少なくとも護千代がやられている事から、かなりの強さを持っているのだろう。
「本気で行かないとまずそうだな」
虎和は早速、血液操作による身体強化を発動する。血の矢を飛ばして牽制しながら、煙ヶ羅に接近する。
「あなたと戦った分身の記憶は読んだわ。さっきの侍とは比べ物にならない位強いみたいじゃない。こっちも変に遊んでる場合じゃなさそうね」
煙ヶ羅は血の矢の一撃を腕で受け止める。そしてそのまま、全身を煙に変化させようとする。
(接近戦を仕掛けた所を毒殺するつもりか。だが、その手はもう分身との戦いで見切った!)
虎和は得意の抜刀術で、一瞬にして煙ヶ羅を斬りつけて、そのまま離れた。
……が、虎和の背中から血が勢いよく吹き出した。
「斬られた……!?」
「手の内が分かってるのはお互い様。抜刀術をしてくるって分かったから、回避を捨てて追撃に全神経を注いだのよ。一手読み違えたわね」
煙ヶ羅は煙で刀を作り出していた。毒の煙になると見せかけて、抜刀術を喰らった瞬間に虎和の背中を斬りつけたのだ。
「……お前、勘違いしてないか? 読み違えてるのはお前の方だ。しかも『二手』な」
だが、虎和は、それすらも想定済みだった。
煙ヶ羅が見たのは、自らの目の前に浮いている紅い球。次の瞬間、それは弾けて煙ヶ羅の目を潰した。
「血の置き土産……! この侍、反撃を受けた時の反撃まで想定していたのか!」
「それだけじゃない。お前、俺の背中を『斬った』よな? 俺の異能は『血を操る』力だぞ?」
煙ヶ羅に斬られ、虎和の背中から舞った血が、一瞬にして無数の小刀に姿を変える。血の小刀は目を潰された煙ヶ羅の体を容赦なく貫いた。
虎和は既に、背中の止血を済ませている。血を操作してすぐに止血もできるので、彼を出血させるという事は、彼に反撃の機会を与えるだけなのだ。相当な一撃でなければ、被害を被るのは相手だけだ。
「この侍……、攻守共に隙が無い! 何人か妖魔狩りが私を倒しに来たこともあったけど、それと比べても間違いなくこいつの方が強い!」
煙ヶ羅は虎和の高い実力に恐れをなした。だが同時に、彼の大体の戦い方も理解していた。
抜刀術による一撃離脱の攻撃を主軸とし、血を操る異能を中距離戦や回復、反撃に利用する。血の攻撃を遠くから飛ばしてくると思ったら、いきなり魂力が乗りまくった強烈な抜刀が飛んでくる。中々に理不尽な構図だ。
「でも、大体同じ事は私もできるのよね」
だが、煙ヶ羅の煙は変幻自在である。虎和がそうするように、煙で飛び道具を作る事も容易い。
(抜刀は速すぎる。なら、抜刀させないようにしてやれば良い!)
煙ヶ羅が口から大量の煙を吐く。それらは矢や手裏剣、撒菱に変化して、次々と虎和へと飛んでいった。
「さぁ、この飛び道具の嵐を搔い潜って抜刀できるかしら!?」
「この量、厄介だ……! 紅血弾!」
迫りくる飛び道具に対し、虎和は小さな血の弾丸を放ってそれらを的確に破壊していった。
だが六つ目の飛び道具を破壊した所で、虎和は違和感に気付く。
「この臭い……まさか!?」
咄嗟に虎和は口と鼻を押さえて、煙ヶ羅から距離を取る。
「やっと気づいたみたいね。その飛び道具たちには微量の毒を含ませてるの。あなたがそれを破壊すれば、毒の煙が広がるようになってるのよ!」
毒に気付いた虎和だったが、わずかに遅かった。少し毒煙を吸い込んでしまったのか、体が少しずつ痺れ始める。
大量の飛び道具に毒を仕込む形になっているので、殺人に使われた物よりも毒の濃度は低い。だがそれでも、虎和の身体機能を低下させるには十分だった。
「……これはまずいな」
毒を避ける為に、煙ヶ羅からかなり離れてしまった。この場所からでは、血の攻撃も届かないだろう。かといって接近すれば、毒の餌食になる事は目に見えている。
虎和は正に、窮地に追い込まれている。
「打つ手が無くなったみたいね。これで『詰み』よ、侍! 私の至高の時間の邪魔をした事、後悔しなさい!」
煙ヶ羅は体から濃い緑色の煙を発し、それを三つの矢の形にした。通常の十倍ほど毒の濃度を濃くした煙だ。
「さぁ死になさい!」
煙ヶ羅が虎和目掛けて、猛毒の矢を放つ。
―――だがその瞬間、奇妙な事が起きた。三本の矢は煙ヶ羅の前で見えない壁に衝突し、緑の煙に戻ってしまったのだ。
「……は? 一体何が―――」
混乱する煙ヶ羅だったが、すぐにこの異常事態の原因を察する。
屋根の上に避難させられていた護千代が、煙ヶ羅の方に向けて腕を伸ばしていたのだ。
「虎和……俺は『穢れた侍』と呼ばれるお前を汚い奴だと思ってた。でもそれは違う。お前は守る価値がある! お前は桜様を守るに相応しい男だ!」
「この死にぞこないが!」
怒った煙ヶ羅は、護千代に止めを刺さんと動き出した。
だが戦場において、戦う相手から一瞬でも目を背けるのは自殺行為である。
煙ヶ羅は怒りで視野が狭まっていたのと、自身の猛毒の煙で視界が遮られていたのとで、虎和の動きに気付けなかった。
「護千代……感謝する! お前の方こそ、人を守れる器だ!」
虎和は身体強化を全開にして、護千代の元まで一気に駆け抜ける。そして護千代を殺そうとした煙ヶ羅の前に立ちふさがった。
「随分と厄介な妖魔だった。だが、これで終わりだ」
血を刀に纏わせ、刀身を巨大化させる。巨大化した刀で、何度も何度も煙ヶ羅を切り刻んだ。
「この私が、負けるなんて…………!」
煙ヶ羅は醜い叫び声を上げながら、切り刻まれ続けてやがて消滅した。
謎の怪死事件は、虎和と護千代の手で解決された。
言い換えれば、分身でさえそれ程の力を有していたのだ。その本体がどれ程強いのか、虎和は測りかねていた。少なくとも護千代がやられている事から、かなりの強さを持っているのだろう。
「本気で行かないとまずそうだな」
虎和は早速、血液操作による身体強化を発動する。血の矢を飛ばして牽制しながら、煙ヶ羅に接近する。
「あなたと戦った分身の記憶は読んだわ。さっきの侍とは比べ物にならない位強いみたいじゃない。こっちも変に遊んでる場合じゃなさそうね」
煙ヶ羅は血の矢の一撃を腕で受け止める。そしてそのまま、全身を煙に変化させようとする。
(接近戦を仕掛けた所を毒殺するつもりか。だが、その手はもう分身との戦いで見切った!)
虎和は得意の抜刀術で、一瞬にして煙ヶ羅を斬りつけて、そのまま離れた。
……が、虎和の背中から血が勢いよく吹き出した。
「斬られた……!?」
「手の内が分かってるのはお互い様。抜刀術をしてくるって分かったから、回避を捨てて追撃に全神経を注いだのよ。一手読み違えたわね」
煙ヶ羅は煙で刀を作り出していた。毒の煙になると見せかけて、抜刀術を喰らった瞬間に虎和の背中を斬りつけたのだ。
「……お前、勘違いしてないか? 読み違えてるのはお前の方だ。しかも『二手』な」
だが、虎和は、それすらも想定済みだった。
煙ヶ羅が見たのは、自らの目の前に浮いている紅い球。次の瞬間、それは弾けて煙ヶ羅の目を潰した。
「血の置き土産……! この侍、反撃を受けた時の反撃まで想定していたのか!」
「それだけじゃない。お前、俺の背中を『斬った』よな? 俺の異能は『血を操る』力だぞ?」
煙ヶ羅に斬られ、虎和の背中から舞った血が、一瞬にして無数の小刀に姿を変える。血の小刀は目を潰された煙ヶ羅の体を容赦なく貫いた。
虎和は既に、背中の止血を済ませている。血を操作してすぐに止血もできるので、彼を出血させるという事は、彼に反撃の機会を与えるだけなのだ。相当な一撃でなければ、被害を被るのは相手だけだ。
「この侍……、攻守共に隙が無い! 何人か妖魔狩りが私を倒しに来たこともあったけど、それと比べても間違いなくこいつの方が強い!」
煙ヶ羅は虎和の高い実力に恐れをなした。だが同時に、彼の大体の戦い方も理解していた。
抜刀術による一撃離脱の攻撃を主軸とし、血を操る異能を中距離戦や回復、反撃に利用する。血の攻撃を遠くから飛ばしてくると思ったら、いきなり魂力が乗りまくった強烈な抜刀が飛んでくる。中々に理不尽な構図だ。
「でも、大体同じ事は私もできるのよね」
だが、煙ヶ羅の煙は変幻自在である。虎和がそうするように、煙で飛び道具を作る事も容易い。
(抜刀は速すぎる。なら、抜刀させないようにしてやれば良い!)
煙ヶ羅が口から大量の煙を吐く。それらは矢や手裏剣、撒菱に変化して、次々と虎和へと飛んでいった。
「さぁ、この飛び道具の嵐を搔い潜って抜刀できるかしら!?」
「この量、厄介だ……! 紅血弾!」
迫りくる飛び道具に対し、虎和は小さな血の弾丸を放ってそれらを的確に破壊していった。
だが六つ目の飛び道具を破壊した所で、虎和は違和感に気付く。
「この臭い……まさか!?」
咄嗟に虎和は口と鼻を押さえて、煙ヶ羅から距離を取る。
「やっと気づいたみたいね。その飛び道具たちには微量の毒を含ませてるの。あなたがそれを破壊すれば、毒の煙が広がるようになってるのよ!」
毒に気付いた虎和だったが、わずかに遅かった。少し毒煙を吸い込んでしまったのか、体が少しずつ痺れ始める。
大量の飛び道具に毒を仕込む形になっているので、殺人に使われた物よりも毒の濃度は低い。だがそれでも、虎和の身体機能を低下させるには十分だった。
「……これはまずいな」
毒を避ける為に、煙ヶ羅からかなり離れてしまった。この場所からでは、血の攻撃も届かないだろう。かといって接近すれば、毒の餌食になる事は目に見えている。
虎和は正に、窮地に追い込まれている。
「打つ手が無くなったみたいね。これで『詰み』よ、侍! 私の至高の時間の邪魔をした事、後悔しなさい!」
煙ヶ羅は体から濃い緑色の煙を発し、それを三つの矢の形にした。通常の十倍ほど毒の濃度を濃くした煙だ。
「さぁ死になさい!」
煙ヶ羅が虎和目掛けて、猛毒の矢を放つ。
―――だがその瞬間、奇妙な事が起きた。三本の矢は煙ヶ羅の前で見えない壁に衝突し、緑の煙に戻ってしまったのだ。
「……は? 一体何が―――」
混乱する煙ヶ羅だったが、すぐにこの異常事態の原因を察する。
屋根の上に避難させられていた護千代が、煙ヶ羅の方に向けて腕を伸ばしていたのだ。
「虎和……俺は『穢れた侍』と呼ばれるお前を汚い奴だと思ってた。でもそれは違う。お前は守る価値がある! お前は桜様を守るに相応しい男だ!」
「この死にぞこないが!」
怒った煙ヶ羅は、護千代に止めを刺さんと動き出した。
だが戦場において、戦う相手から一瞬でも目を背けるのは自殺行為である。
煙ヶ羅は怒りで視野が狭まっていたのと、自身の猛毒の煙で視界が遮られていたのとで、虎和の動きに気付けなかった。
「護千代……感謝する! お前の方こそ、人を守れる器だ!」
虎和は身体強化を全開にして、護千代の元まで一気に駆け抜ける。そして護千代を殺そうとした煙ヶ羅の前に立ちふさがった。
「随分と厄介な妖魔だった。だが、これで終わりだ」
血を刀に纏わせ、刀身を巨大化させる。巨大化した刀で、何度も何度も煙ヶ羅を切り刻んだ。
「この私が、負けるなんて…………!」
煙ヶ羅は醜い叫び声を上げながら、切り刻まれ続けてやがて消滅した。
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