天才異能使いの穢れた侍は妖魔を断ち暗躍す

炭酸おん

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盗人の目

謁見

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「成程成程、つまりその百目鬼って妖魔が、うちや他の店に目玉を忍ばせて、金を盗んでたって事だったんですね!」

 翌日の昼、虎和は豆腐屋風斗に訪れていた。事件の顛末を豆太夫に話すためだ。

「そうですね。それで盗まれたお金なんですけど、百目鬼の奴、賭場で相当儲けてたらしくて。盗まれた額の十倍近い額が百目鬼の家から見つかったんですよね。なので、被害にあった店には支援金という事で、被害額より少し多い額を返却する、というのがお奉行の決定らしいですよ」

「本当ですか⁉ いやぁ助かりますよ。最近は怪死事件だの盗難だので客足が減ってたので……。でも怪異も解決して、お金も増えたんだ。これから頑張っていきますよ!」

「この店ならきっと、遠くない内にお客さんも増えますよ。頑張ってくださいね」

 豆腐をつまみながら、虎和が言う。この美味しさなら、潰れる方が難しいくらいだろう。

「そういえば、百目鬼は何でそんなにお金を盗みまくってたんですか?」

「賭博のためっていうのもあるでしょうけど、言ってしまえば『性質』ですね。百目鬼は、お金に恵まれなかった人達の怨念の鳴れの果て。だからお金に対する執着が凄いんです。人の怨念から生まれる妖魔って意外と多いんです。そして大概そいつらは人間を恨んでる。豆太夫さんも気を付けてくださいね」

「そ、それは恐ろしいっすな……。でもまぁ、それなら俺が妖魔になる事は無さそうですね! 何故なら俺は豆腐をこよなく愛しているから! この愛がある限り、俺は不滅ですよ!」

「おぉ……こりゃすごい」

 豆太夫の豆腐愛の強さに若干引いた虎和だった。でもまぁ、ここの豆腐は美味しいのでこれからも来るだろう。

 ~~~

 城に戻った虎和は、緊張した顔つきで服装を整えた。
 桜の父親にして保馬藩主である藍染あいぞめ剛山ごうざんに謁見するのだ。

「虎和さん、そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。父上は見た目は少し怖いけど、良い人なので」

「まぁそれは分かってますけど……、剛山様に意見するんですよ? そりゃあ緊張するでしょ……」

 虎和は今回の謁見で、昼間も桜の外出が制限されている事に抗議するつもりだった。いくら桜が妖魔に力を与えてしまう特異体質とはいえ、妖魔の出現が少ない昼間の行動も制限するのはどうなのだろうか。

「二人とも、入ってくれ」

 声に従い、二人は剛山の部屋に入る。
 部屋に鎮座していたのは、五十歳ほどの男。「轟」の異能を持ち、かつて妖魔をなぎ倒していただけの事はあり、未だに屈強な肉体を維持している。その威圧感たるや、虎和さえ怖気づくほどだった。

「お主が紅床虎和か。……ふむ、穢れた侍と呼ばれていると聞いたからどんなみすぼらしい姿をしているのかと思ったが、案外そうでもないのだな」

「私が『穢れた侍』と呼ばれているのは、私の『血』の異能故でございます。精神まで穢れていたとしたら、私は桜様の家臣にはなっておりません」

「そうか。確かに血を不浄な物と言う者は少なくないが、かつて数多の妖魔と戦って来た私からすれば、血などいつもすぐそこにいた物だからな。少なくとも私は、お主が『穢れた侍』と呼ばれているからという理由で、お主を桜の家臣から外したりはしない。先の怪死事件や盗難の怪異を解決してみせる程の手腕もあるようだしな。これからも引き続き、桜を頼むよ」

 剛山はこの僅かな間で虎和の人となりを見抜いたようだ。そして君になら任せられると言わんばかりの笑顔を浮かべている。

「……ところで剛山様、無礼は承知で一つ、言いたい事があるのですが」

「ほう……何だ。言ってみたまえ」

 虎和は桜のために確固たる覚悟をもって口を開く。

「桜様の昼間の外出を、許してはいただけないでしょうか⁉ 桜様は町人たちの文化にとても興味を持っておられる様子でした。なので私も桜様の家臣として、桜様には存分に楽しんでほしい! 桜様を外に出す事に危険が伴うのは分かっています。ですが、その危険に対処するための私ではないでしょうか⁉ 私が必ず桜様をお守りします。なのでどうか、桜様に自由をあげてやってください!」

「虎和さん……」

 堂々と言い切った上で、虎和は剛山に頭を下げた。
 
 桜は虎和の思いに胸を打たれていた。出会って間もない虎和が、こんなにも自分の事を思ってくれている。城にいる者達は皆、お藤を除いて桜を腫れ物のように扱っていた。だが虎和は違う。ちゃんと桜自身を見てくれている。

「…………ふむ、そうか」

 虎和の決死の説得を聞き、剛山は黙り込む。目を閉じて思考しているようだが、その姿の気迫は何とも恐ろしい物だった。
 しばらくの沈黙の後、剛山は口を開いた。

「お主の考えはよく分かった。……確かに、お主の言う通りだ。私は桜の身を案じる余り、桜を縛りすぎてしまっていたのかもしれない。だが、桜ももう十八だ。縛りすぎるのも良くないという物だろう。それに、お主やお藤がいれば、大抵の妖魔は何とかなるだろうからな。……よし、お主の言う通りにしよう。桜、これからは昼間に町に出ても良いぞ! ただし、必ず虎和かお藤を傍に付けるのだ。そして夜は危ないから町に出るんじゃないぞ。良いな?」

「父上……! ありがとうございます!」

 意外にも、剛山は快諾した。かつては妖魔との戦いで血気盛んだったこの男も、娘には甘かったりするのかもしれない。

「虎和よ、少し良いか」

 去り際、剛山は虎和を引き留めた。そして彼に一言残す。

「桜を頼んだぞ」

 それだけ言い残して、剛山は自分の部屋へと戻っていった。

「……勿論です、剛山様。桜様はこの命に代えてでも、絶対に守ってみせます」

 虎和もそう言い残し、新たな決意と共にその場を後にした。
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