天才異能使いの穢れた侍は妖魔を断ち暗躍す

炭酸おん

文字の大きさ
16 / 25
狐は舞う

師弟

しおりを挟む
 ひとまず虎和と桜は、仙明を保馬城へと招いた。虎和の師匠であるというのも本当のようだし、危険は無いと見て間違いないだろう。
 部屋に入り、虎和がお茶を淹れる。その間、桜は仙明を興味深そうに見つめていた。

「ん、どうしたのじゃ小娘よ。儂がそんなに気になるかの?」

「あーいや、その毛、すっごく気持ちよさそうだなーって。……触らせてもらって良いですか?」

「勿論勿論。好きに触ってもらってかまわんぞ」

「それじゃ、失礼します~」

 桜が仙明の尻尾に触れた途端、その表情は完全にとろけた。毛から伝わる丁度良い温かさ、フサフサモフモフとした感触、最高にたまらない。下手すれば桜の「和」の異能よりも癒し効果があるかもしれない。

「相変わらず気持ちよさそうな尻尾してますね、仙明さん」

「あぁ。儂も歳を取ったが、まだまだこの毛の感触はそこらの若狐には負けんよ!」

 虎和から出された茶を受け取り、仙明は一口飲んだ。そして「相変わらずの美味さじゃな!」と笑ってみせた。

「ところで、師弟といっても、どうして二人はそういう関係になったんですか?」

 尻尾に顔を擦りつけながら桜が問う。

「そうじゃな。まずはそれを話さんといかんか。あれは確か二十年前じゃったかのぅ」

「いやいや、俺がまだ五つの時だから十八年前ですよ。その間にボケちゃったんですか?」

「御年147歳、まだまだ現役じゃ! ……まぁそうじゃな、十八年前に儂は虎和と彼の母親と出会ったんじゃ」

 虎和と仙明は、過去を懐かしむように語り始めた。

「そうそう。父上が早くに死んじまって、俺の『血』の異能が発覚したせいで『穢れた侍』と呼ばれるようになって、町には俺と母上の居場所は無くなってしまった。それでこの前まで俺が住んでた家のある山奥に越して、その時に出会ったのが仙明さんだったんだ」

 家臣になってから虎和は城で寝泊まりするようになっていた。あの山奥の家には今は誰も住んでいない。

「あの時の虎和は可愛かったの。いつも母親の側にくっついて離れなかった。まぁそれほど、あの人は良い人だったんじゃよ。名を梅と言ったんじゃが、こんな見た目の儂にも優しくしてくれて。町を追い出されて路頭に迷っていた所を助けてくれたんじゃ。それから儂と虎和、梅さんの三人で暮らしとったんじゃな」

 楽しそうに過去を語る仙明だったが、突然声の調子が落ちた。

「……じゃが、突然現れた妖魔に梅さんは殺されてしまった。儂は丁度その時、魚を獲りに行っていていなかった。急いで駆けつけたんじゃが、遅かった。助けられたのは虎和だけじゃった。虎和が変わったのはその時からじゃな。儂に戦い方を教えるように迫って来て、毎日毎日修行を重ねるようになったんじゃ。虎和が十三になるまで修行を続けて、その後儂は日本一周の旅に出た。そして今しがた、この保馬藩に帰って来たという事じゃな」

「虎和さんにそんな過去があったんですね……。お二人の関係はよく分かりました。お二人とも親子みたいな付き合いって事ですね!」

「まぁあながち間違ってはいないですかね。……というか桜様、いつまでそのままでおらっしゃるのですか?」

 桜は未だに、仙明の尻尾にくるまっていた。

「良いのじゃ良いのじゃ。これ位よくある事じゃからの」

「いやそうじゃなくて、そこまで気持ちよさそうにされると俺もやりたくなるというか……」

「なぁに虎和、そういう事なら遠慮する事は無いぞ。昔みたいにすると良い。さぁほら!」

 遠慮がちな虎和を、仙明は強引に引き寄せた。そして自らの尻尾に放り込む。
 瞬間、虎和の顔を受け止めたのは、ほのかな温かさを孕む尻尾だった。鼻に流れ込む太陽の匂いに、虎和の理性は崩壊した。

「気持ちいぃ~」

「ハッハッハ、この感じ懐かしいのぅ! 戻って来て良かったわい!」

 理性を無くした二人を尻尾に置きながら、仙明は豪快に笑い声を上げた。この空間は間違いないく、今保馬藩の中で最も平和な場所だろう。

 ~~~

 城下町。
 物陰に男が一人、座り込んでいた。その手には竹筒を持っている。

綱兵こうへい。次の食事はまだなのか? 我は散々お前に富をもたらしてやったというのに、お前は我にろくな食事を与えん。もう普通の人間は喰い飽きたぞ。良質な肉……女子供だ。さっさと用意しろ。できないならお前の娘を喰ってやる』

 その声は、竹筒の中から聞こえてきた。筒の中に潜む鋭い目が、男を睨みつけた。

「待ってくれ、待ってくれ! 娘よりももっと良い人間がいる! だから娘だけは喰わないでくれ!」

『ほう……? それは誰だ。言ってみろ』

「桜だ。藩主の娘、藍染桜。城に仕える侍が文句を言ってるのを聞いた。『どうして番所に行っちまうかな。もっと自分が特異体質で危険だって事を分かってくれよ……』ってな! 桜はきっと、妖魔を強くする血の持ち主なんだ。千人、いや一万人に一人の人間だ! 俺の娘よりもそっちのが良いに決まってるだろ!?」

 焦る男の言葉を聞いて、竹筒の中の存在は嬉しそうな声で返答した。

『ふーん……良いじゃねぇか。そんな稀な人間を喰えたなら、一年はタダで働いてやって良い。だからさっさと喰わせるんだな』

「あぁ勿論。今すぐにでも桜を———」

「おいお前、そこで何してる? しかも今、桜様の名を呼んだな? 怪しい奴め、役所まで来てもらおうか」

 そこまで話した所で、男は侍に見つかった。侍は刀に手を掛け、臨戦態勢に入っている。

「……聞かれちまったら仕方ねぇ。普通の人間だが食事だ、喰ってよいぞ」

 男がそれだけ言うと、竹筒の中から何かが勢いよく飛び出した。それは目にもとまらぬ速度で侍の喉仏を食いちぎった。

「なっ……!?」

「チッ、やはり普通の人間の味はこの程度か。不味くは無いが飽きた物だな」

 即死した侍の死体を食い漁りながら、それは呟いた。

「……待て、人の気配を感じる。やっぱり白昼堂々殺ったのは間違いだったか……! 退くぞ! 死体は置いてけ!」

「我の食事を邪魔しおって……。その桜とやらが喰えなかったら、お前の一族全員我の食事だからな!」

 その存在は再び竹筒の中に戻った。男はすぐさま立ち去り、そこには死体だけが残った。

「藍染桜……悪いが、お前には食事になってもらう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

処理中です...