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くそくらえ
しおりを挟むある日
何年も前の面影を持った男が訪れた。
男が通り過ぎるたびに、他の遊女たちは自分を相手にしてはくれないものかと、熱い視線をおくり手を差しだし気をひこうとするほど顔立ちは整い見知った面影すらもよく目を凝らさないと気付かない程成長を遂げていた。
最近は、長年足を運んで下さる旦那様方のおかげもあるが、めっぽう客引きにせいは出さず眺めていることが多い。
男は仲間内で来ていたようで、なにか話していたと思えば仲間内の男はささくさと最近見習いを卒業した若い遊女と消えていった。
過去の男との思い出
自分がここに入ってくる前の思い出
つい最近まで、思い出しもしなかったのに男のかすかな面影に少しずつ蘇る。
だが、場所と状況の悪さに気が重くなり今日は何かしら理由をつけて引っ込んでいようと壁にもたれていた背を離しこの場所から離れようと一瞬顔を下に向けた。
「…菊、蝦夷菊、御使命だよ。」
その声に顔を上げれば
当主が貼り付け笑みで近寄ってきた。
「今回の客は、なにぶん上客だ。間違えても失礼の無いようにな。」
小声で、耳打ちし、その上客と言われた男へと視線を移せばここを離れたかった原因である男の使命だった。
他の遊女たちの視線をひきながら、男を与えられた部屋まで案内する。
男が自分を覚えているのかわからず、どうでるか考えた結果初見の振る舞いをすることに決めた
所詮、男というものはこういうものなのかと数年も忘れていた胸あたりのチクリとした痛みを感じながら床の用意がされた部屋で挨拶をする。
「ようこそ、今日はあっちを選んでくれて嬉しゅうありんす。」
「…菊。え、蝦夷菊と申すのだな。」
時間が決まっていて遊女の中でも花魁候補に挙がってきている身の上、値が張るのだから会話など後回しにする男が多い中、正座をしこぶしを膝の上で作り目線すら自分にチラチラ見せるだけで数秒とも見ない男の緊張でかすかに震えた声をだしつつも質問攻めに、不信感を抱きつつ答えて行く。
この日以来、何度もわっちとのもとに通うようになった。
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