動物と神様のフシギな掌編集

立菓

文字の大きさ
7 / 9
夢の中みたいな冬の夜に

夢の中みたいな冬の夜に

しおりを挟む
 オレは、正月しょうがつの三が日が好きじゃない。

 それは、自分の実家が神社だから。
 家業かぎょうの手伝いやらで、毎年、初詣はつもうで人混ひとごみに放り出されるのは、ちょっと抵抗ていこうがある。……さわがしいとこは、正直得意しょうじき とくいじゃないしね。


 実家はと言うと、『清能せいのう稲荷いなり神社』っていう、古くからある由緒ゆいしょ正しき神社。
 オレらの家族は、岐阜県ぎふけんの西側にある清能町せいのうちょうに住んでいる。


 オレの父親は神社の神主かんぬし。そんで、大学生の兄貴あきにが神社をぐ予定。

 オレの名前は清王俊せいおう しゅんで、今年で小五。
 兄貴あにきの進路が決まっているので、どうやらオレは、家業かぎょうぐプレッシャーが全く無いらしい。


 ああ、高二の姉貴あねき将来しょうらいパティシエをなるために、専門学校せんもんがっこうを目指している、と言ってたかな……?
 とはいえ、巫女みこ格好かっこうは気に入っているようで、オレとはちがい、家業かぎょうの手伝いは楽しそうにやっているみたい。


 話はもどるけど、別に『清能せいのう稲荷いなり神社』自体はきらいじゃないんだ。緑が多くて、広々とした場所って、気分がいいしね。

 人混ひとごみ……とゆーか、多くの人としゃべんないといけない状況じょうきょうが、オレはすんげー苦手で。
 オトンやオカンみたいに、多くの氏子うじこさんたちに挨拶あいさつとか雑談ざつだんとかするのってムズいし、気乗きのりしないんだ。


 まっ、そんな感じで今年の大晦日おおみそかも、お守りやら絵馬やら破魔矢はまややらを運んだり、カウンターに並べるために種別しゅべつしたりして、オレなりに頑張がんばって手伝ったんだ。



 そして夜になって、神社の敷地内しきちないで、おき上げの準備じゅんびが終わった後――
 一匹の白い動物が、遠くからオレをじっと見つめているのに気が付いた。

 その後、その動物は神社の小道、山につながる遊歩道に入っていった。


 オレは気になって、その動物のあとを自然と追いかけていった。
 大きな白い野犬か? それとも別の動物かなぁ?? そんなことを考えながら、オレは白い動物についていった。

 遊歩道を抜けると、歩きにくい細い獣道けものみちに入っていく。その獣道けものみちは、山の遊歩道よりはずっと長いようだ。



 ……と、白い動物は、山の中ではあるけど、広く開けた場所に向かった。
 少しだけつかれていたけど、オレも一踏ひとふん張りして、白い動物を再びさがした。

 その広く開けた場所に着くと、すぐに白い動物は見つかった。その動物は、高いとこにある木造もくぞう建物たてものの手前、めっちゃ長い階段かいだんの下にるようだ。
 てっ、……んっ?? この建物たてもの、どこかで見たことあるような?


 それから、建物たてものの周りの様子も不思議ふしぎだった。昨日は全国的に大雪だったのに、ココは全く雪が積もっていない。

 あと、篝火かがりび建物たてものそば、土の上に数カ所しか置かれていないのに、あまり暗くないみたいだ。星もたくさん見えて、満月も出ているからか、空からの明かりが強いように感じたし……。

 それに、ダウンコートも着なくていいくらい、秋の昼間のように心地よくすずしかった。


 ふとふたた建物たてものを見てみると、白い動物が階段かいだんを上っているのに、オレは気が付いた。
 オレは建物のそばに行き、階段に近づいていた。階段かいだんの真ん前で足を止めると、高いところにある建物たてものの方に目をやった。


 白い動物が建物たてものに入ると、すぐにその動物と一緒いっしょに、一人の女の人が外に出てきた。ゆっくり、ゆっくりと階段かいだんからりてくるようだ。

 その女の人は小柄こがらで、変わった格好かっこうはしていた。それと、頭の上の方に一つかみをまとめて、一部のかみらしていて、白いワンピースのような服を来ていた。
 女の人の年齢ねんれいは、二十代……なかばかな?

其方そなたが『清能せいのう稲荷いなり神社』の神主かんぬし息子むすこ、次男の……しゅんか?」

 その女の人は階段かいだんの下までりてくると、オレの顔をやさしく見つめた。

「あっ、はい。そうです……??」

われはウカノミタマじゃ。……ああ、此処ここは京都にある伏見稲荷大社ふしみいなりたいしゃの近く、神々が異界いかいじゃよ。
 其方そなたと会って、少し話してみたいと思うてな。それで、其処そこにおる白狐しろぎつね若葉わかばに、そなたを此処ここまで案内あんないさせたのじゃ。若葉わかばは、其方そなたたちの神社を担当たんとうしておる」

「では、ご子息しそく様。どうぞ中へお入りください」

 ええぇぇぇ!? うちの神社におまつりされている、超々有名ちょうちょう ゆうめい五穀豊穣ごこくほうじょうと金運・商売繁盛しょうばいはんじょうの『神様』と、オレ話してたっ??

 それに今になって、はじめて白い動物がきつねで、しかも神様の『位の高~いお使い』だって気付いたしっ!!
 あと、そこの木造もくぞう建物たてものも、歴史の教科書にってたこともね!


 何かの魔法まほう一瞬いっしゅん、オレの眼鏡めがねがVRゴーグルになったかと、勘違かんちがいしたよっ!!

 てかっ、どう考えても、自分がとしか思えない……。



 オレは建物たてものの中に入ると、ウカノミタマ様から温かい緑茶をご馳走ちそうになった。

 白狐しろぎつね若葉わかばちゃんは背筋せすじばして、ウカノミタマ様の真横に座っていた。
 若葉わかばちゃんもウカノミタマ様と同じように、上品さがあるようだ。

しゅんは、たしか……キカイと言ったか。高等こうとうなソウチ……に関するしょくに、興味きょうみがあったかえ?」

「あ、はい。……プログラマーやらシステムエンジニアやら、ですね」

「そうか……。そういう一人で黙々もくもくとこなせるようなしょくを目指しているとはいえ、社会に出てから、同じ目標もくひょうを持つ仲間とうまくやってくには、意思疎通いしそつうおこたってはいかんぞ、しゅんや。
 ……とは言っても、その幼き年で、ほとんど愚痴ぐちも言わず、家業かぎょうの手伝いを毎度している姿には、実は感心しておる。大人になってはたらはじめたら、いずれは役に立つゆえ、今後も家業かぎょうの手伝いをつづけると良いぞ」


 俺が家に帰る時、ウカノミタマ様と若葉わかばちゃんが山道まで送ってくれた。

此処ここは、人間界とは時間の流れがちがゆえ、神社に戻った時は、数分しか時間がっていないだろう。大切な息子の帰りがおそいと、其方そなたの家族も決して心配することは無いから、安心すれば良い」

 そして、「目の前の光の中に入れば、すぐに神社にもどれるぞ」と、ウカノミタマ様はオレに言った。

 山道の入口に見えたうすい黄色の光の中に入ると、ウカノミタマ様が言っていた通り、あっという間に『清能せいのう稲荷いなり神社』の御本殿ごほんでんの前に着いたんだ。



 オレは家にもどると、急いで夕飯ゆうはん風呂ふろませ、明日からの家業かぎょうの手伝いのために、早めにることにした。
 そうして布団ふとんの中に入ると、オレはウカノミタマ様からのアドバイスをふっと思い出した。

意思疎通いしそつうを言い換えたら……、そっか!! 氏子うじこさんたちとのコミュニケーションが、かも、か……)

 オレはまだまだガキだからか、ピンと来てはいないとこもあるのかな?
 だけどっ、少しでも苦手なことを克服こくふくしようとするのはイイコトだと思うから、コミュニケーションの練習れんしゅうができる家業かぎょうの手伝いは、できるかぎつづけていこうと思う。

 オレらがまもっている神社に、これからもたくさんの参拝者さんぱいしゃが来てしいしね!


〈『夢の中みたいな冬の夜に』おしまい〉
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ゆかいなコンビニ『アニマルマート』(作品250602)

菊池昭仁
児童書・童話
隣の動物園の動物たちが 深夜バイトをするコンビニのファンタジック・ギャグコメディ 大人の童話です

エリちゃんの翼

恋下うらら
児童書・童話
高校生女子、杉田エリ。周りの女子はたくさん背中に翼がはえた人がいるのに!! なぜ?私だけ翼がない❢ どうして…❢

ラーメンライス

こぐまじゅんこ
児童書・童話
寒い日は あつあつラーメン たべたくなるね はるくんが描いた絵をみて考えました。

カリンカの子メルヴェ

田原更
児童書・童話
地下に掘り進めた穴の中で、黒い油という可燃性の液体を採掘して生きる、カリンカという民がいた。 かつて迫害により追われたカリンカたちは、地下都市「ユヴァーシ」を作り上げ、豊かに暮らしていた。 彼らは合言葉を用いていた。それは……「ともに生き、ともに生かす」 十三歳の少女メルヴェは、不在の父や病弱な母に代わって、一家の父親役を務めていた。仕事に従事し、弟妹のまとめ役となり、時には厳しく叱ることもあった。そのせいで妹たちとの間に亀裂が走ったことに、メルヴェは気づいていなかった。 幼なじみのタリクはメルヴェを気遣い、きらきら輝く白い石をメルヴェに贈った。メルヴェは幼い頃のように喜んだ。タリクは次はもっと大きな石を掘り当てると約束した。 年に一度の祭にあわせ、父が帰郷した。祭当日、男だけが踊る舞台に妹の一人が上がった。メルヴェは妹を叱った。しかし、メルヴェも、最近みせた傲慢な態度を父から叱られてしまう。 そんな折に地下都市ユヴァーシで起きた事件により、メルヴェは生まれてはじめて外の世界に飛び出していく……。 ※本作はトルコのカッパドキアにある地下都市から着想を得ました。

未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」 平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。 恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題── 彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。 未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。 誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。 夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。 この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。 感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。 読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

夏空、到来

楠木夢路
児童書・童話
大人も読める童話です。 なっちゃんは公園からの帰り道で、小さなビンを拾います。白い液体の入った小ビン。落とし主は何と雷様だったのです。

真未ちゃんは宝もの、ミーちゃんは天使

はまだかよこ
児童書・童話
ずっと一緒に暮らした三毛猫のミー。大切な孫の真未にアレルギーが出てしまいました。 そんなおばあさんのお話し聞いてくださいね。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

処理中です...