動物と神様のフシギな掌編集

小さな白狐の冒険

【後編】地上へGo♪

　木助きすけはユラちゃんとはぐれたまま、一匹だけで地上に降おり立ちました。
　何とかうまく着地ちゃくちできましたが、木助きすけが飛とばされたのは、人間が住む住宅街の近くでした。

（……もうそろそろ正午しょうごくらいかな？　うう～、おなかが空いちゃった）

　ふと木助きすけが横を見ると、工場らしき場所の空き倉庫そうこの前に、お皿に入った茶色っぽい食べ物が置いてあります。
　空腹に耐たえられなくなった木助きすけは、無意識むいしきにそのお皿の傍そばに行き、もりもりと茶色っぽい食べ物を食べてしまいました。


　と、その時――

「んっ！？　怪あやしい奴やつが居いるっ！」

　工場の空き倉庫そうこに居いた貫禄かんろくのある白黒のオス猫ねこが、木助きすけが食事をしているのを見つけました。
　それで、そのオス猫ねこは空き倉庫そうこの奥に入っていくと、空き倉庫そうこは騒さわがしくなりました。

「ああーっ！！　これじゃあ、落ち着いて昼寝ひるねも、子守りもできないじゃないかっ！　あんたたちっ、アイツを追っ払ぱらってきておくれっ！！」

「「「リョーカイッ！」」」

　空き倉庫そうこの中では、なんと地域猫ちいきねこの一家がまったりと寛くつろいでいたのです！　地域猫ちいきねこの一家は、ダンボール箱の中で昼寝ひるねをしていたのでした。

　子猫こねこたちの面倒めんどうを見ていたお母さん猫ねこは、父親と上の息子むすこ二匹に木助きすけを追い出すように、お願ねがいをしました。

「「「コラッ、出ていけーっ！！」」」

　外に出た白黒お父さんと息子むすこたちは、毛を逆立てながら恐おそろしい顔になって、「シャーッ！！」と木助きすけに警告けいこくしました。

「ひゃーっ！！　ゴメンナサイ、ゴメンナサーイッ！！」

　悪気わるぎは無くとも、地域猫ちいきねこ一家の縄張なわばりに入ってしまった上に、ドライのキャットフードまで盗ぬすみ食いしてしまった木助きすけは、全速力で逃にげました。

「反省はんせいしてますっ！　どうか許ゆるしてくださーいっ！！」

　体力のある息子むすこの猫ねこたちは、木助きすけのあとを追いかけてきます。


　必死で逃にげていた木助きすけでしたが、住宅街を通り抜ぬけて、街路樹がいろじゅの並木道に入ると、追いかけてきた猫ねこたちが居いなくなったことに気付きました。

（ふう……。よ、良かった……）

　自由の身に戻もどった木助きすけは、街路樹がいろじゅの並木道をトボトボと歩き始はじめました。

　すると、街路樹がいろじゅの並木道を歩いている途中とちゅう、木助きすけは人間の声が聞こえてくる場所を見つけました。
　満開の桜の木々があちらこちらにあり、玉砂利たまじゃりが敷しかれている神聖な空間……。

「お姉ちゃんが担当たんとうする神社は、清能せいのう……稲荷いなり神社だったけ？？　……てっ、あれっ？　もしかしてっ！？」

　真っ赤な鳥居とりいの前、石の杭くいのようなものには『清能せいのう稲荷いなり神社』と彫ほられていました。
　やっと木助きすけは、大好きなお姉ちゃんが働いている神社に到着とうちゃくしたのです。


　木助きすけは心を踊おどらせながら、神社の境内けいだいに入っていきました。

　御本殿ごほんでんの前の開けたところでは、多くの人間が集あつまっていました。
　数台の軕やまが並び、子ども歌舞伎かぶきが上演じょうえんされていたからです。

（おっ、スッゴイなぁ～。
　……あ、んっ？　ふああぁ～、なんだか眠ねむくなってきちゃった）

　なかなか『清能せいのう稲荷いなり神社』に辿たどり着けず、ハプニングが続いたせいか、木助きすけはかなり疲つかれたのでしょう。
　御本殿こほんでんの裏うらに回ると、木助きすけは再び丸くなって、すやすやと眠ねむり始めたのでした。



　どのくらい時間が経たったのでしょうか。
　御本殿ごほんでんの正面辺りから、トントン、バタバタ……と音が聞こえてきたので、木助きすけは目が覚めたようです。

　何かの音が気になって、木助きすけはゆっくりと御本殿ごほんでんの正面に向かいました。
　御本殿ごほんでんの前では、大きな白狐しろぎつねたちがせっせと供物くもつを荷車にぐるまに積つんでいるようです。

「あっ！！　若葉おねーちゃん、いた～！」

「……え？　木助きすけ、どうして此処ここに居いるの？？」

　木助きすけが目を凝こらすと、すぐにお姉ちゃん狐ぎつねを見つけました。
　堪たまらず木助きすけは若葉に駆かけ寄ると、ペターと自分の体を若葉にくっつけました。

「おねーちゃんに会いにきたんだっ♪　しばらく会えなくて、すっごく寂さびしかったから～……」

「嬉うれしいけど……ごめんね、木助きすけ。すぐに供物くもつをウカノミタマ様のお屋敷やしきに運ばないといけなくて。
　それから、お外が暗くなる前には、お母さんのところに戻もどらないと駄目だめよ？」

「はぁ～い、分かったっ！　お仕事がんばってね。バイバ～イ、おねーちゃん」



　木助きすけが『清能せいのう稲荷いなり神社』から出ると、お日様は西に移動いどうしていて、すっかり夕方になっていました。
　外は、ところどころダイダイ色の光に包つつまれています。

「お～い、木助きすけっ。朝は変な時に、タイミング悪わるく風かぜを吹ふかしちまって、ホントすまんかった！！」

「木助きすけくん、若葉さんが担当たんとうする神社に行けたんだね！　ホント良かった～」

　神社の出入り口には、風神様とユラちゃんが木助きすけを待まっていました。
　木助きすけのことを今朝けさから気にかけていた風神様は、言葉を続つづけます。

「おまーさんの母上も、帰りが遅おそいと随分ずいぶん心配しておったぞ！
　……でっ、これから〈高天原たかまがはら〉まで一気に飛とばすけど、木助きすけもユラも準備じゅんびいーか？？」

「「はーいっ！」」


　風神様はブワワァーッとものすご～い上昇気流じょうしょうきりゅうを吹ふかせると、木助きすけたちはあっという間に〈高天原たかまがはら〉に着きました。

「坊ぼうや～、坊ぼうやぁ～！！」

　すでに木助きすけの母親は〈高天原たかまがはら〉の端はしに居いて、木助きすけの帰りを心待ちにしていました。
　母親の姿すがたを見つけた木助きすけは、駆かけ足で母親の傍そばに行きます。

「ただいま、おかーさんっ！　でね。元気そうだったよ～、おねーちゃん」

「そうかい、なら良かった！　……さてさ～て、帰ろうかね」

　そして、風神様とユラちゃんは、山に向かっていく木助きすけたち親子を見送ると、それぞれの家に帰っていったのでした。


〈『小さな白狐の冒険』おしまい〉