53 / 66
婚約者(仮)がヤンデレすぎて怖い
エイデンの正体
「諸君、ここにいるジゼル・カーネリアこそ、応急手当て魔法を体系化した張本人、ナオ・アイゼン博士だ」
カイラスの発言に、三人はまったく違う反応を示した。筋肉男は大口を開けて固まり、眼鏡男は大きく目を見開き、赤毛の女性は「あらまぁ」と上品に口に手をあてた。
一番最初に動いたのは筋肉男だった。
「あ、ああああ、アイゼン博士!!! いや、ジゼル様!! この度は先ほどの非礼、大変失礼した!!! 我らの救いの天使、応急手当て魔法の開発者が、このようなお若い方とは思いもよらず……!!!」
「い、いや、俺は、別に……」
筋肉男は軍人式の直角のお辞儀から勢いよく顔を上げると、なんの配慮なのか腕に触れるか触れないかの距離をキープして手を動かしてくる。近くで見るとますます迫力満点な筋肉男に詰め寄られ、俺は思わず一歩引いてしまう。
すると、眼鏡男が静かに席を立ち、筋肉男の肩を掴んで引き離した。
「……ジゼル様、申し訳ございません。こちらの人間の言葉を話す熊はクラウス・バッケンディウム。驚くべきことにこの国の騎士団長です」
なんと、騎士団長。どうりで強そうなはずだ。服の上からでもわかるほど発達した大腿四頭筋は俺の腰よりも太い。眼鏡男は胸に手をあてて小さく頭を下げた。
「私はコーネリウス・ドナイツ。ルシアン様の第一補佐官です」
「よろしく、ドナイツ卿……」
「コーネリウスとお呼びください、ジゼル様」
「コーネリウス様……」
差し出された手をためらいがちに握り返すと、クラウス騎士団長が横から身を乗り出して言った。
「ジゼル様! 俺のことも!クラウスとお呼びください!」
「え、えぇ……」
そんなこと言われても、騎士団長は前世の俺より年上に見える。いかにも歴戦の戦士といった感じの迫力満点な大男を下の名前で呼ぶのも、なんとなく気が引けた。困り顔で言葉を濁す俺に、赤毛の女性が柔らかく微笑んだ。
「財務副管理官のエリザベス・リヒターです」
おっと、こちらは財務担当の官僚だったのか。副管理官って、かなり偉い人じゃないか? エイデンとそう歳は変わらなそうなのに、随分と落ち着いている。
三人の紹介が終わると、お兄様が静かに口を開いた。
「三人とも、よく聞いてくれ。ジゼルの研究はこの国を変えるものだ。いや、もうすでに変わり始めている。治癒魔法を独占したい教会は、ジゼルの研究をよく思わないだろう。それ故に『アイゼン博士』の正体を外部に漏らすことは断じて許されない。お前達には秘密を遵守する誓いをたててもらう」
「もちろんですわ、ルシアン様」
エリザベスが優雅に一礼すると、クラウスとコーネリウスも同時に頭を下げた。
「我々はカイラス様に忠誠を誓っております。喜んで誓約の魔法を立てましょう」
「クラウス・バッケンディウムも同意します! ジゼル様の御身を守るため、命を捧げましょう!」
「そうしてもらうつもりだ。後ほど、誓約書を用意する」
誓約の魔法……? なにやら物騒な響きだが、秘密保持契約的なものか? 俺が戸惑っていると、エイデンがこっそりと耳打ちしてくれた。
「誓約の魔法は決して反故にできない。破ったら身の内から魔力が暴走して肉体が弾け飛ぶんだ」
「い゛っ!?」
秘密をばらしたら体内から爆散するってことか……!? なんだそれグロすぎる!! 平気で提案するお兄様もアレだが、承諾する連中も気がしれない。そもそも、俺の正体って、そんなに重要な話なのか!?
動揺する俺の心中を見抜いたのか、カイラスが安心させるように言った。
「ジゼル、怖がらなくていい。俺達が結婚すれば、この者達はジゼルの臣下にもなる。未来の主君を守るため、命を捧げるのは当然だろう」
「その通りです、ジゼル様! 我が部下達が今も生きているのはジゼル様のおかげ! ジゼル様に命じられれば、俺は燃え盛る炎の中でも飛び込んで見せますぞ!」
そ、そういう問題か? なんかさらっとすごいこと言ってるし……。
とにかく、俺が“アイゼン博士”であることは機密情報で、ここにいる全員は俺の身元を守ってくれるつもりらしい。城に着いてから今まで人に会わなかったのも、きっとそのためだ。
さて、想定より和やかな空気だし、そろそろ本題の黄痩原虫についての説明を始めよう。いそいそと馬車の中で書き上げた資料を取り出すと、横にいたコーネリウスが口元にほのかな笑みを浮かべながら首をかしげた。
「……しかしながら、ジゼル様の正体が機密であるならば、リサーチ家の人間がここにいるのはまずいのでは?」
なんのことだ? リサーチ家の人間ってエイデンのことだよな?
コーネリウスの視線の先には、やはりエイデンがいる。クラウス騎士団長も、同意するようにうなずいた。
「そうだな、まずは口封じからか? 学問を司るリサーチ家でも、教会の関係者であることは変わりない」
ん? どういうことだ?
話が見えない。
風向きが変わった気配にオロオロと周囲を見回していると、カチリと音がした。振り向くと、クラウス騎士団長が腰に差した大剣を鞘から半ば抜きかけているところだった。空気が一瞬で張り詰める。
「……っ!!? な、なななにを、!?」
「わぁ、物騒だなぁ」
ぎらりと光る刃を前に、思わず身がすくむが、切先がエイデンに向かうのを見て俺はとっさに彼を背中に庇った。
「ジゼル!! 何をやっている! こっちに来なさい!」
「ジゼル様! 危険です! 離れてください!」
ルシアンお兄様とコーネリウスが同時に叫ぶが、俺も負けじと言い返した。
「エイデンは俺の友人だ! 確かに頭のネジが三つほど外れてはいるが、秘密は守れる! だから殺さないでくれ!」
「ジゼル様、離れて下さい。大丈夫です。苦しませません。一発で仕留めますから」
「ぜ、全然大丈夫じゃないっ!!!」
ど、どうしよう。逃げたほうがいいのか? 思わずエイデンの顔を見上げると、エイデンは肩をすくめて答えた。
「あぁ、言ってなかったね。僕のご先祖は聖マルティナ教の創始者のひとりなんだ。彼らが警戒するのも、当然のことさ」
「…………え?」
……沈黙。まるで「今日は晴れだね」とでも言うような調子で衝撃の事実を告げられ、頭の中が一時停止する。首元に刃を突き付けられたまま、にこやかに笑うエイデンと、しばし見つめあってしまう。きっと俺の背景は宇宙になって、俺の顔は例の猫と同じ顔をしているだろう。
エイデンの先祖が、聖マルティナ教の……創始者?
カイラスの発言に、三人はまったく違う反応を示した。筋肉男は大口を開けて固まり、眼鏡男は大きく目を見開き、赤毛の女性は「あらまぁ」と上品に口に手をあてた。
一番最初に動いたのは筋肉男だった。
「あ、ああああ、アイゼン博士!!! いや、ジゼル様!! この度は先ほどの非礼、大変失礼した!!! 我らの救いの天使、応急手当て魔法の開発者が、このようなお若い方とは思いもよらず……!!!」
「い、いや、俺は、別に……」
筋肉男は軍人式の直角のお辞儀から勢いよく顔を上げると、なんの配慮なのか腕に触れるか触れないかの距離をキープして手を動かしてくる。近くで見るとますます迫力満点な筋肉男に詰め寄られ、俺は思わず一歩引いてしまう。
すると、眼鏡男が静かに席を立ち、筋肉男の肩を掴んで引き離した。
「……ジゼル様、申し訳ございません。こちらの人間の言葉を話す熊はクラウス・バッケンディウム。驚くべきことにこの国の騎士団長です」
なんと、騎士団長。どうりで強そうなはずだ。服の上からでもわかるほど発達した大腿四頭筋は俺の腰よりも太い。眼鏡男は胸に手をあてて小さく頭を下げた。
「私はコーネリウス・ドナイツ。ルシアン様の第一補佐官です」
「よろしく、ドナイツ卿……」
「コーネリウスとお呼びください、ジゼル様」
「コーネリウス様……」
差し出された手をためらいがちに握り返すと、クラウス騎士団長が横から身を乗り出して言った。
「ジゼル様! 俺のことも!クラウスとお呼びください!」
「え、えぇ……」
そんなこと言われても、騎士団長は前世の俺より年上に見える。いかにも歴戦の戦士といった感じの迫力満点な大男を下の名前で呼ぶのも、なんとなく気が引けた。困り顔で言葉を濁す俺に、赤毛の女性が柔らかく微笑んだ。
「財務副管理官のエリザベス・リヒターです」
おっと、こちらは財務担当の官僚だったのか。副管理官って、かなり偉い人じゃないか? エイデンとそう歳は変わらなそうなのに、随分と落ち着いている。
三人の紹介が終わると、お兄様が静かに口を開いた。
「三人とも、よく聞いてくれ。ジゼルの研究はこの国を変えるものだ。いや、もうすでに変わり始めている。治癒魔法を独占したい教会は、ジゼルの研究をよく思わないだろう。それ故に『アイゼン博士』の正体を外部に漏らすことは断じて許されない。お前達には秘密を遵守する誓いをたててもらう」
「もちろんですわ、ルシアン様」
エリザベスが優雅に一礼すると、クラウスとコーネリウスも同時に頭を下げた。
「我々はカイラス様に忠誠を誓っております。喜んで誓約の魔法を立てましょう」
「クラウス・バッケンディウムも同意します! ジゼル様の御身を守るため、命を捧げましょう!」
「そうしてもらうつもりだ。後ほど、誓約書を用意する」
誓約の魔法……? なにやら物騒な響きだが、秘密保持契約的なものか? 俺が戸惑っていると、エイデンがこっそりと耳打ちしてくれた。
「誓約の魔法は決して反故にできない。破ったら身の内から魔力が暴走して肉体が弾け飛ぶんだ」
「い゛っ!?」
秘密をばらしたら体内から爆散するってことか……!? なんだそれグロすぎる!! 平気で提案するお兄様もアレだが、承諾する連中も気がしれない。そもそも、俺の正体って、そんなに重要な話なのか!?
動揺する俺の心中を見抜いたのか、カイラスが安心させるように言った。
「ジゼル、怖がらなくていい。俺達が結婚すれば、この者達はジゼルの臣下にもなる。未来の主君を守るため、命を捧げるのは当然だろう」
「その通りです、ジゼル様! 我が部下達が今も生きているのはジゼル様のおかげ! ジゼル様に命じられれば、俺は燃え盛る炎の中でも飛び込んで見せますぞ!」
そ、そういう問題か? なんかさらっとすごいこと言ってるし……。
とにかく、俺が“アイゼン博士”であることは機密情報で、ここにいる全員は俺の身元を守ってくれるつもりらしい。城に着いてから今まで人に会わなかったのも、きっとそのためだ。
さて、想定より和やかな空気だし、そろそろ本題の黄痩原虫についての説明を始めよう。いそいそと馬車の中で書き上げた資料を取り出すと、横にいたコーネリウスが口元にほのかな笑みを浮かべながら首をかしげた。
「……しかしながら、ジゼル様の正体が機密であるならば、リサーチ家の人間がここにいるのはまずいのでは?」
なんのことだ? リサーチ家の人間ってエイデンのことだよな?
コーネリウスの視線の先には、やはりエイデンがいる。クラウス騎士団長も、同意するようにうなずいた。
「そうだな、まずは口封じからか? 学問を司るリサーチ家でも、教会の関係者であることは変わりない」
ん? どういうことだ?
話が見えない。
風向きが変わった気配にオロオロと周囲を見回していると、カチリと音がした。振り向くと、クラウス騎士団長が腰に差した大剣を鞘から半ば抜きかけているところだった。空気が一瞬で張り詰める。
「……っ!!? な、なななにを、!?」
「わぁ、物騒だなぁ」
ぎらりと光る刃を前に、思わず身がすくむが、切先がエイデンに向かうのを見て俺はとっさに彼を背中に庇った。
「ジゼル!! 何をやっている! こっちに来なさい!」
「ジゼル様! 危険です! 離れてください!」
ルシアンお兄様とコーネリウスが同時に叫ぶが、俺も負けじと言い返した。
「エイデンは俺の友人だ! 確かに頭のネジが三つほど外れてはいるが、秘密は守れる! だから殺さないでくれ!」
「ジゼル様、離れて下さい。大丈夫です。苦しませません。一発で仕留めますから」
「ぜ、全然大丈夫じゃないっ!!!」
ど、どうしよう。逃げたほうがいいのか? 思わずエイデンの顔を見上げると、エイデンは肩をすくめて答えた。
「あぁ、言ってなかったね。僕のご先祖は聖マルティナ教の創始者のひとりなんだ。彼らが警戒するのも、当然のことさ」
「…………え?」
……沈黙。まるで「今日は晴れだね」とでも言うような調子で衝撃の事実を告げられ、頭の中が一時停止する。首元に刃を突き付けられたまま、にこやかに笑うエイデンと、しばし見つめあってしまう。きっと俺の背景は宇宙になって、俺の顔は例の猫と同じ顔をしているだろう。
エイデンの先祖が、聖マルティナ教の……創始者?
あなたにおすすめの小説
転生天使は平穏に眠りたい〜社畜を辞めたら美形王子の腕の中でとろとろに甘やかされる日々が始まりました〜
メープル
BL
毎日深夜まで残業、食事はコンビニの冷たいパン。そんな社畜としての人生を使い果たし、過労死した俺が転生したのは――なんと、四枚の美しい羽を持つ本物の天使だった。
「今世こそは、働かずに一生寝て過ごしたい!」
平穏な隠居生活を夢見るシオンは、正体を隠して王国の第一王子・アリスターの元に居候することに。ところが、この王子、爽やかな笑顔の裏で俺への重すぎる執着を隠し持っていた!?
BLノベルの捨て駒になったからには
カギカッコ「」
BL
転生先は前世で妹から読まされたBLノベルの捨て駒だった。仕える主人命令である相手に毒を盛ったはいいものの、それがバレて全ての罪を被らされ獄中死するキャラ、それが僕シャーリーだ。ノベル通りに死にたくない僕はその元凶たる相手の坊ちゃまを避けようとしたんだけど、無理だった。だから仕方なく解毒知識を磨いて毒の盛られた皿を僕が食べてデッドエンドを回避しようとしたわけだけど、倒れた。しかしながら、その後から坊ちゃまの態度がおかしい。更には僕によって救われた相手も僕に会いにきて坊ちゃまと険悪そうで……。ノベル本来の受け担当キャラも登場し、周囲は賑やかに。はぁ、捨て駒だった僕は一体どこに向かうのか……。
これはこの先恋に発展するかもしれない青年たちのプロローグ。
死ぬだけの悪役令息に転生したら、待っていたのは攻略対象達からの溺愛でした。
きうい
BL
病でで死んでしまった優は、気が付いたら読んでいた小説の悪役令息として転生していた。
それもどのルートでも十五歳という歳になると、死ぬ運命にある悪役———フィオレン・オーレリウス。
前世で家族に恵まれず、家族愛とは程遠い世界で生きてきた優は、愛されたいという願望を捨て、ひとりで生きることを決意する。
しかし、家族に対して表情と感情を隠し、言葉も発さず、一人で生きて行く術を身につけようと家族から距離をとるフィオレンとは裏腹に、家族や攻略対象達は異常なほどの愛を注ぐ。
フィオレンの知らない所で、小説のシナリオとは正反対の道を辿ることになるも、愛に無頓着で無自覚なフィオレンは溺愛されていき………?
たぬきになれる人間の受けくんの話
田舎
BL
『たぬきになれる人間(受け)の話』
タイトル通りです。
X(Twitter)で書いているシリーズのまとめになります。
主な舞台は高校2年の終わりですが、急に同棲編もはじまります。
たぬきになれる人間の受け:
飼育員と周りに呼ばれている攻め:
先祖返りで「たぬき」になれる受けくんと思ってください。
※中の人はたぬきについての知識はゼロです。広い心でみてください。
※現在ふたりの名前を募集中です。名付け親になってください。
平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます
クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。
『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。
何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。
BLでヤンデレものです。
第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします!
週一 更新予定
ときどきプラスで更新します!
儚げ侯爵令息の怠惰な檻 ~前世が社畜だったので、公爵様の重すぎる溺愛が極上の福利厚生に見える~
千葉琴音
BL
前世で過労死した社畜男子が転生したのは、触れたら折れそうな超・美少年。 目指せ、究極の光合成ライフ! でも、隣にいるハイスペック公爵様の愛が、ちょっと(かなり)重すぎて……!?
兄の代わりに嫁いだら、結婚相手ではなく兄の婚約者だった公爵閣下に執着されました
なつめ
BL
名門伯爵家の次男である青年は、家の都合で本来嫁ぐはずだった兄の代わりに、遠方の名家へ“花婿”として送り込まれる。
屈辱的な身代わり婚のはずだった。冷遇され、義務だけ果たして静かに消える未来を覚悟していた。
けれど、彼を待っていたのは結婚相手その人ではなかった。
その男の隣には、かつて兄の婚約者だったという、美しく冷酷な公爵がいた。
弟をひと目見た瞬間、その公爵は気づいてしまう。
これは本来欲しかった相手ではない。なのに、目が離せない。
兄の代わりとして連れてこられたはずの弟へ、じわじわと執着を深めていく。
これは、祝福されるはずのない婚姻から始まる、
ねじれた執着と独占欲のBL。