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13番目の皇子
3人の冒険【第一部完結】
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一方その頃、森の小道にやってきたエルデガルダとアルテミスは、ウィリアムに見守られながら地面を探し回り、木漏れ日に光るツチの実を拾い集めていた。
「見て!これは帽子みたいなのがついてるわ!」
「エルお姉さま、ぼくも見つけた!さっきのより大きいよ!」
「エル?そこでなにしてるんだ?」
不意な声がして二人が顔を上げると、ドロテアの三番目の息子、ユリウスがいた。彼の背後では気まずそうな顔をした侍女が控えめに立っている。アルテミスはユリウスの顔を見て身構えたが、エルデガルダは明るい笑顔でこたえた。
「ユリウスお兄さま!ひさしぶりね。いまアルテミスと首飾りを作るためにツチの実を集めてるの!」
「ふーん。それなら、あっちにいっぱい落ちてたぞ」
ユリウスが指差す方向には、どっしりと枝を広げる古樫の木の下に、苔に埋もれるようにツチの実が見えた。エルデガルダは目を輝かせたが、アルテミスの曇った顔を見て首をかしげた。
「アルテミス?どうしたの」
「ううん、なんでもない……」
最後に会ったとき、ユリウスとはあまりいい別れ方をしなかった。気後れした様子のアルテミスを見て、エルデガルダはすぐに察しがついたようだ。
「わかったわ!ユリウスお兄さまに意地悪されたんでしょ?私も髪の毛がくるくるでみっともないってからかわれたことあるわ。でも、やさしいところもあるのよ。私が庭でお気に入りの腕飾りをなくして泣いてたら、一緒に茂みの中を探してくれたの。お母さまもね、意地悪されても、すてきなところを探して許してあげなさいって言ってたわ」
「な……っ、余計なこと言うなよ、エル!」
ユリウスは顔を赤くしたが、アルテミスはその様子に小さく笑みを浮かべた。ユリウスは立ち去るかと思ったが、やることもなく退屈だったのかしゃがみ込んでエルデガルダたちと共にツチの実を拾い始めた。
やがて、二人より背の高いユリウスが少し離れた場所を探してはアルテミスたちに教え、いつの間にか三人は力を合わせてせっせとツチの実を拾い集めていた。しばらくして、手のひらいっぱいになったツチの実を大きさの順に並べながら、エルデガルダが思い出したように言った。
「ねぇ、アルテミスはもう魔法が使えるってほんと?」
「う、うん」
隣にいるユリウスが気まずげな顔をするのを見て、アルテミスはためらったが、それでも小さくうなずいた。するとエルデガルダはぱっと目を輝かせた。
「すごいじゃない!うちはお母さまもシャーペイも、ほとんど魔法が使えないの。私もきっとそうよ。でもそんなことどうでもいいわ。お母さまは世界中のいろんなことを本を読んで知っているし、シャーペイは絵を描いたり刺繍をするのがすごく上手なの」
「でも、魔法が使えないんじゃ、皇族として問題だろう」
言いにくそうに口にするユリウスに、エルデガルダは気にすることなく胸を張った。
「私の弓矢の腕を知ってもそれが言えるかしら?すごく遠くの木札にだって、一発で当てられるんだから!」
「弓を射る皇女なんて聞いたことがないぞ」
「ユリウスお兄さまったら、先代皇帝エルデガルダ様は弓の名手だったのよ」
確かにエルデガルダは魔法は不得手であったが、バルト運河の対岸で飛び跳ねる羽魚でさえ射抜けるほどの腕前であった。二の句が継げなくなったユリウスは、甘いと思って口にしたものが想定外の味がしたような、どこか戸惑った顔で黙り込んだ。
「でも、アルテミスはきっとすごい魔法士になるわ!だって、アナスタシアさまも、じゃなくて……えっと……ごめんなさい、私」
うっかり亡くなったアルテミスの母の名前を口にしてしまい、エルデガルダの言葉が尻すぼみに消える。「ごめんなさい……」と小さな声で謝罪され、当のアルテミスはきょとんとしていた。彼にとって、母親は物心つく前のおぼろげな記憶の奥にある存在であり、優しいアリスの声や、こちらを見つめるユミルの眼差しがアルテミスの記憶を代わりに埋めていた。
「ごめんなさい、私、思ったことをなんでも話しちゃダメってシャーペイに言われてるんだけど……」
「気にしないで、だいじょうぶだよ、エルお姉さま」
「うん……」
しゅんとするエルデガルダに、ユリウスが気まずさを紛らわすように新たな話題を切り出した。
「なぁ、そういえば去年に来たときに、森の奥にある山熊の古巣で手のひらくらいの大きさのツチの実を見たぞ」
「えっ、ほんとうに?」
アルテミスは驚きに目を丸くした。ユリウスが「本当だぞ!こんなに大きかった!」と力を込めて言い、両手で大きさを示すと、アルテミスはますます感心した。
「まだあるかもしれない、見に行ってみよう」
「でも……ユミルが森の奥まで行っちゃだめって言ってた」
「そうよ、山熊がでたらどうするの」
「大丈夫、デュート兄様が山熊は捨てた巣には戻らないって言ってた。近くに古い巨木があって、リスの親子が住んでたんだ」
「リス!ぼく、リスに会ってみたい!」
「私も見てみたいわ!」
「決まりだな、こっそり抜け出して見に行こう。ここからすぐ近くだから」
素晴らしい冒険の予感に胸を弾ませた子供たちは、ひそひそと小声で悪巧みの相談をした。つまらなそうに遠くの雲などを見ているユリウスの侍女はどうということはないが、問題はこちらを隙なく見守るウィリアムであった。しかしエルデガルダが「私にまかせて」と自信満々に片目をつむって見せた。
「ねぇ騎士さん、私なんだかすごく喉がかわいたの!冷えたお水をいっぱい持ってきてくれない?」
「えっ、水ですか?少々お待ちください。いま人を呼びますので」
「お願いはやく!今すぐに飲みたいの!」
つらそうに喉をさする仕草に、心優しいウィリアムは戸惑い、すぐに戻りますと念を押して早足でその場を離れていった。
「行こう!」
ユリウスに手を引かれ、アルテミスとエルデガルダは走り出した。
#
子供たちが息を切らしてたどり着いた先は、木漏れ日が落ちる洞窟の入り口であった。木の枝から苔むした地面の上を走る小さなリスを見て、アルテミスは目を輝かせた。
「こっちだ」
入口に垂れ下がる蔦を払いながら、ユリウスに先導され、エルデガルダとアルテミスが洞窟をのぞき込むと、ゴツゴツした岩肌と土壁が奥まで続き、キィキィと細く高い鳴き声をあげる灰色蝙蝠が眠っていた。
「見て!あそこ!」
エルデガルダが興奮を押し殺して指さす先には、大きなツチの実の殻が転がっていた。ユリウスが「ほらな!」と得意げに笑った。
するとそのとき、洞窟の奥から地面を揺らすような唸り声が聞こえてきた。はっとして三人が振り向くと、そこには大人の背丈ほどもある山熊が身を起こしていて、三人は同時に大きな悲鳴をあげた。
「く、熊だわ!どうしよう!お母さま!たすけて!」
「エル!アルテミス!こっちに!」
「ユリウスお兄さま……!」
ユリウスが短剣を構えたが、その足は震えていた。後ずさるしかない三人の前で、山熊が低く唸りながら一歩、また一歩と迫ってくる。エルデガルダは恐怖に震えてユリウスにしがみつき、ユリウスは震える両手で妹弟たちを背中に庇った。絶体絶命、逃げ場のない状況の中で、アルテミスは彼女のポケットの中につやつやと輝くツチの実を見つけ、とっさにそれを手に取った。
「……そうだ!《ネルヴィア》!!!」
アルテミスの魔法を受けたツチの実が地面に落ちた途端、硬い実がはじけ、しっかりと根を張った幹から天に向かって一気に太い枝が伸びた。小さな獲物に襲い掛かろうと身をかがめていた山熊の腹に、硬く尖った先端がずぶりと突き刺さる。山熊は咆哮し、引き抜こうともがいたが、やがて力尽き、動かなくなった。
「助かった……!」
「信じられない、私たち、生きてる……!」
「はぁっ……はぁっ……」
肩で息をするアルテミスの後ろで、ユリウスとエルデガルダはその場に座り込むようにへたり込んだ。茂みの向こう側からウィリアムの呼ぶ声が聞こえてきて、アルテミスはほっと息をついた。
探されていた三人の子供たちは手厚く保護され、天幕であたたかな飲み物を振る舞われながら、興奮やまれず互いの勇姿を語り合った。
「ユリウスお兄さま、すごく勇敢だった!短剣を構える姿、本物の騎士様みたいだったわ!」
「僕なんか……助かったのはアルテミスのおかげだ」
「ぼく、あたまが真っ白になって……でも、エルお姉さまが集めたツチの実があったから……」
健闘を讃えあう三人だったが、迎えにきた大人たちの厳しい表情を見て、さっと静まり返った。
「……ユリウス・アストラニア、行くわよ」
「はい……お母様」
ドロテアが冷えた声でユリウスの名を呼ぶと、うなだれたユリウスは彼女の後を追っていった。アルテミスたちが心配そうにその背中を見守るが、ユリウスは振り返らなかった。
カミラとシャーペイはエルデガルダを強く抱きしめ、無事でよかったと繰り返したが、喜びも束の間、エルデガルダはその場で三か月の外出禁止を言い渡され、がっくりと肩を落としていた。
そして最後、顔をくしゃくしゃにして泣いているアリスと表情を消したユミルが来ると、アルテミスは思わず身をすくめた。ユミルは深く息を吸って吐くと、なるべく冷静な声で言った。
「今度、山熊の巣穴に入るときは、僕たちがアルテミス様を失ったら、どんな気持ちになるのか想像してからにしてください」
「本当に……っ!本当に心配したんですからねっ!!」
「ごめんなさい、ユミル、アリス……!」
ぼろぼろと大粒の涙を流すアリスに抱きしめられ、アルテミスはこらえていた涙が一気にあふれ、しがみつくように泣きじゃくり、何度もあやまった。
「うぃ、うぃりあむも、ごめんなさい……っ!」
「心配いたしましたよ、アルテミス様。ですが、今回のことは俺の不徳の致すところです……」
「ううん、私が嘘をついたのがいけないのよ。だましてごめんなさい」
エルデガルダが頭を下げると、ウィリアムは首をふって穏やかに微笑んだ。
こうしてユリウス、エルデガルダ、アルテミスの小さな冒険は幕を閉じた。半分とはいえ同じ血が流れる子らは、生まれてこの方交わることなく別々の人生を歩んできたが、思い返すと今日この日から、三人は友達となったのだった。
そしてのちに、彼らのうちひとりが、真のニコラスの魂の継承者であることがわかるのだ。
「見て!これは帽子みたいなのがついてるわ!」
「エルお姉さま、ぼくも見つけた!さっきのより大きいよ!」
「エル?そこでなにしてるんだ?」
不意な声がして二人が顔を上げると、ドロテアの三番目の息子、ユリウスがいた。彼の背後では気まずそうな顔をした侍女が控えめに立っている。アルテミスはユリウスの顔を見て身構えたが、エルデガルダは明るい笑顔でこたえた。
「ユリウスお兄さま!ひさしぶりね。いまアルテミスと首飾りを作るためにツチの実を集めてるの!」
「ふーん。それなら、あっちにいっぱい落ちてたぞ」
ユリウスが指差す方向には、どっしりと枝を広げる古樫の木の下に、苔に埋もれるようにツチの実が見えた。エルデガルダは目を輝かせたが、アルテミスの曇った顔を見て首をかしげた。
「アルテミス?どうしたの」
「ううん、なんでもない……」
最後に会ったとき、ユリウスとはあまりいい別れ方をしなかった。気後れした様子のアルテミスを見て、エルデガルダはすぐに察しがついたようだ。
「わかったわ!ユリウスお兄さまに意地悪されたんでしょ?私も髪の毛がくるくるでみっともないってからかわれたことあるわ。でも、やさしいところもあるのよ。私が庭でお気に入りの腕飾りをなくして泣いてたら、一緒に茂みの中を探してくれたの。お母さまもね、意地悪されても、すてきなところを探して許してあげなさいって言ってたわ」
「な……っ、余計なこと言うなよ、エル!」
ユリウスは顔を赤くしたが、アルテミスはその様子に小さく笑みを浮かべた。ユリウスは立ち去るかと思ったが、やることもなく退屈だったのかしゃがみ込んでエルデガルダたちと共にツチの実を拾い始めた。
やがて、二人より背の高いユリウスが少し離れた場所を探してはアルテミスたちに教え、いつの間にか三人は力を合わせてせっせとツチの実を拾い集めていた。しばらくして、手のひらいっぱいになったツチの実を大きさの順に並べながら、エルデガルダが思い出したように言った。
「ねぇ、アルテミスはもう魔法が使えるってほんと?」
「う、うん」
隣にいるユリウスが気まずげな顔をするのを見て、アルテミスはためらったが、それでも小さくうなずいた。するとエルデガルダはぱっと目を輝かせた。
「すごいじゃない!うちはお母さまもシャーペイも、ほとんど魔法が使えないの。私もきっとそうよ。でもそんなことどうでもいいわ。お母さまは世界中のいろんなことを本を読んで知っているし、シャーペイは絵を描いたり刺繍をするのがすごく上手なの」
「でも、魔法が使えないんじゃ、皇族として問題だろう」
言いにくそうに口にするユリウスに、エルデガルダは気にすることなく胸を張った。
「私の弓矢の腕を知ってもそれが言えるかしら?すごく遠くの木札にだって、一発で当てられるんだから!」
「弓を射る皇女なんて聞いたことがないぞ」
「ユリウスお兄さまったら、先代皇帝エルデガルダ様は弓の名手だったのよ」
確かにエルデガルダは魔法は不得手であったが、バルト運河の対岸で飛び跳ねる羽魚でさえ射抜けるほどの腕前であった。二の句が継げなくなったユリウスは、甘いと思って口にしたものが想定外の味がしたような、どこか戸惑った顔で黙り込んだ。
「でも、アルテミスはきっとすごい魔法士になるわ!だって、アナスタシアさまも、じゃなくて……えっと……ごめんなさい、私」
うっかり亡くなったアルテミスの母の名前を口にしてしまい、エルデガルダの言葉が尻すぼみに消える。「ごめんなさい……」と小さな声で謝罪され、当のアルテミスはきょとんとしていた。彼にとって、母親は物心つく前のおぼろげな記憶の奥にある存在であり、優しいアリスの声や、こちらを見つめるユミルの眼差しがアルテミスの記憶を代わりに埋めていた。
「ごめんなさい、私、思ったことをなんでも話しちゃダメってシャーペイに言われてるんだけど……」
「気にしないで、だいじょうぶだよ、エルお姉さま」
「うん……」
しゅんとするエルデガルダに、ユリウスが気まずさを紛らわすように新たな話題を切り出した。
「なぁ、そういえば去年に来たときに、森の奥にある山熊の古巣で手のひらくらいの大きさのツチの実を見たぞ」
「えっ、ほんとうに?」
アルテミスは驚きに目を丸くした。ユリウスが「本当だぞ!こんなに大きかった!」と力を込めて言い、両手で大きさを示すと、アルテミスはますます感心した。
「まだあるかもしれない、見に行ってみよう」
「でも……ユミルが森の奥まで行っちゃだめって言ってた」
「そうよ、山熊がでたらどうするの」
「大丈夫、デュート兄様が山熊は捨てた巣には戻らないって言ってた。近くに古い巨木があって、リスの親子が住んでたんだ」
「リス!ぼく、リスに会ってみたい!」
「私も見てみたいわ!」
「決まりだな、こっそり抜け出して見に行こう。ここからすぐ近くだから」
素晴らしい冒険の予感に胸を弾ませた子供たちは、ひそひそと小声で悪巧みの相談をした。つまらなそうに遠くの雲などを見ているユリウスの侍女はどうということはないが、問題はこちらを隙なく見守るウィリアムであった。しかしエルデガルダが「私にまかせて」と自信満々に片目をつむって見せた。
「ねぇ騎士さん、私なんだかすごく喉がかわいたの!冷えたお水をいっぱい持ってきてくれない?」
「えっ、水ですか?少々お待ちください。いま人を呼びますので」
「お願いはやく!今すぐに飲みたいの!」
つらそうに喉をさする仕草に、心優しいウィリアムは戸惑い、すぐに戻りますと念を押して早足でその場を離れていった。
「行こう!」
ユリウスに手を引かれ、アルテミスとエルデガルダは走り出した。
#
子供たちが息を切らしてたどり着いた先は、木漏れ日が落ちる洞窟の入り口であった。木の枝から苔むした地面の上を走る小さなリスを見て、アルテミスは目を輝かせた。
「こっちだ」
入口に垂れ下がる蔦を払いながら、ユリウスに先導され、エルデガルダとアルテミスが洞窟をのぞき込むと、ゴツゴツした岩肌と土壁が奥まで続き、キィキィと細く高い鳴き声をあげる灰色蝙蝠が眠っていた。
「見て!あそこ!」
エルデガルダが興奮を押し殺して指さす先には、大きなツチの実の殻が転がっていた。ユリウスが「ほらな!」と得意げに笑った。
するとそのとき、洞窟の奥から地面を揺らすような唸り声が聞こえてきた。はっとして三人が振り向くと、そこには大人の背丈ほどもある山熊が身を起こしていて、三人は同時に大きな悲鳴をあげた。
「く、熊だわ!どうしよう!お母さま!たすけて!」
「エル!アルテミス!こっちに!」
「ユリウスお兄さま……!」
ユリウスが短剣を構えたが、その足は震えていた。後ずさるしかない三人の前で、山熊が低く唸りながら一歩、また一歩と迫ってくる。エルデガルダは恐怖に震えてユリウスにしがみつき、ユリウスは震える両手で妹弟たちを背中に庇った。絶体絶命、逃げ場のない状況の中で、アルテミスは彼女のポケットの中につやつやと輝くツチの実を見つけ、とっさにそれを手に取った。
「……そうだ!《ネルヴィア》!!!」
アルテミスの魔法を受けたツチの実が地面に落ちた途端、硬い実がはじけ、しっかりと根を張った幹から天に向かって一気に太い枝が伸びた。小さな獲物に襲い掛かろうと身をかがめていた山熊の腹に、硬く尖った先端がずぶりと突き刺さる。山熊は咆哮し、引き抜こうともがいたが、やがて力尽き、動かなくなった。
「助かった……!」
「信じられない、私たち、生きてる……!」
「はぁっ……はぁっ……」
肩で息をするアルテミスの後ろで、ユリウスとエルデガルダはその場に座り込むようにへたり込んだ。茂みの向こう側からウィリアムの呼ぶ声が聞こえてきて、アルテミスはほっと息をついた。
探されていた三人の子供たちは手厚く保護され、天幕であたたかな飲み物を振る舞われながら、興奮やまれず互いの勇姿を語り合った。
「ユリウスお兄さま、すごく勇敢だった!短剣を構える姿、本物の騎士様みたいだったわ!」
「僕なんか……助かったのはアルテミスのおかげだ」
「ぼく、あたまが真っ白になって……でも、エルお姉さまが集めたツチの実があったから……」
健闘を讃えあう三人だったが、迎えにきた大人たちの厳しい表情を見て、さっと静まり返った。
「……ユリウス・アストラニア、行くわよ」
「はい……お母様」
ドロテアが冷えた声でユリウスの名を呼ぶと、うなだれたユリウスは彼女の後を追っていった。アルテミスたちが心配そうにその背中を見守るが、ユリウスは振り返らなかった。
カミラとシャーペイはエルデガルダを強く抱きしめ、無事でよかったと繰り返したが、喜びも束の間、エルデガルダはその場で三か月の外出禁止を言い渡され、がっくりと肩を落としていた。
そして最後、顔をくしゃくしゃにして泣いているアリスと表情を消したユミルが来ると、アルテミスは思わず身をすくめた。ユミルは深く息を吸って吐くと、なるべく冷静な声で言った。
「今度、山熊の巣穴に入るときは、僕たちがアルテミス様を失ったら、どんな気持ちになるのか想像してからにしてください」
「本当に……っ!本当に心配したんですからねっ!!」
「ごめんなさい、ユミル、アリス……!」
ぼろぼろと大粒の涙を流すアリスに抱きしめられ、アルテミスはこらえていた涙が一気にあふれ、しがみつくように泣きじゃくり、何度もあやまった。
「うぃ、うぃりあむも、ごめんなさい……っ!」
「心配いたしましたよ、アルテミス様。ですが、今回のことは俺の不徳の致すところです……」
「ううん、私が嘘をついたのがいけないのよ。だましてごめんなさい」
エルデガルダが頭を下げると、ウィリアムは首をふって穏やかに微笑んだ。
こうしてユリウス、エルデガルダ、アルテミスの小さな冒険は幕を閉じた。半分とはいえ同じ血が流れる子らは、生まれてこの方交わることなく別々の人生を歩んできたが、思い返すと今日この日から、三人は友達となったのだった。
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