異形の郷に降る雨は

志ノ原新

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三.教えてケローッ!

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「八重樫ーっ、まな実のぉー、教えてケローッ」
 天を衝くほどに高らかな声だった。
 本人による本物のフレーズは朗らかでありながら、空気を震わせるほどのパワーがある。
 はじける八重樫アナ。満面の笑み。まるでお遊戯の時間にはしゃぐ子どものよう。弾むが如くジャンプ。謎のカエル人形が高く突きあげられる。心寂しい無人駅のまえ、他になんの音もしない――あ、トンビが鳴いた。
 異国で雨乞いの儀式に出くわした気にもなる。すでに雨は降っているけれど。だって多雨野だし。
 傘をさしていても八重樫アナのジャンプはキレキレだ。全身全霊をもってレポートする彼女のキャピキャピした姿はみる者すべてにほんわかとした気持ちと脱力感をもたらす。スタッフや関係者の顔には一様に温い笑みが浮かんでいる。世界のどこかで紛争が起こったなら八重樫アナを連れていけば沈静化するのではなかろうか。
「はい、今日はぁ、こちらの町にお邪魔してまーすっ」
 このコーナーで我が町がとりあげられるのは二年ぶり二度目だそうだ。ローカル放送といえど人気コーナーだから宣伝効果が高く、地域アピールの有効なツールと認識されている。取材依頼はホームページで受け付けているが、県内の市町村やさまざまな団体から申し込みが殺到している。本来であれば次に多雨野が取りあげられるのは最低でも一年以上先のはずだった。
 そこで私は単身テレビ局を訪れ、社長への面会を申し込んだのだ。もちろんあか推としての正式な仕事だ。そしてもちろん断られた。アポをとっていないからだ。いや、そもそもなんの伝手もなく社長とのアポがとれるわけもないが。
 だがそんなことで挫ける私ではない。毅然とした態度をみせる受付嬢に、「実は私、こういう者です」と名刺を差しだした。
 少し話は逸れるが、名刺というものは悪くない。自分の名と肩書きが記された小さな紙片を目にするたび、己が組織を担う戦士であると強く実感できるからだ。ちなみに肩書きは『地域発展企画ワーキング委員会会長』である。町長を説得してあか推活動と連動する委員会を作り、町役場の組織表に書き込んでもらった。この委員会に所属しているのは私ひとりだ。なに故に所属メンバーひとりの委員会を設けるのか――そんなのはかんたんなことだ。
 ひとりしかいない委員会なら、自動的に会長になれるじゃない!
 名刺の肩書きに堂々と『会長』と書けるじゃない!
 そして『会長』と書いてある名刺はカッコいいじゃない!
 ともあれテレビ局を訪ねた目的は、社長とはいかなくても、なんとか上層部と面会し、すぐに取材にきてほしいと切実に訴えることだった。手をこまねいているぐらいなら、まず体当たりするのが信条だ。ネットで世界中がつながっているいま、距離は言い訳にならず、時間の価値は跳ねあがった。動くのが遅れた者に残される果実など欠片もない。
「絶対『教えてケローッ』に取材にきてほしいんですよ。どなたか偉い人に会わせてください。お願いします」
 そのためなら駄々でもなんでもこねまくる覚悟があった。
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