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八.メノドク GOGO!
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ついにメノドクマラソン前日になった。町民が総出でイベントの準備を進めている。
何軒かの家が三和土や庭先を開放してくれ、そこでザッシーキレシピによるメニューのいくつかと源三郎の酒を提供してもらう。私は宮内さんと手分けしてそれらをチェックして回った。なぜ宮内さんかというと、私の料理の味を知り尽くしているからだ。
彼女の味覚は確かなので、「山本さんちのチーズレンコンやけど、カレーはちゃんと効いてるんやけど、なんか一味足たらへんねん」などと電話をしてもらう。おかげで「胡椒をひとふり足してみてください」などと適切な指示ができるのだ。他のあか推メンバーも町中を走り回っている。
「瑞海くん」
見回りも一息つき、役場のまえにたっているところで声をかけられた。視線をやれば英太がいた。そのうしろには権現さんが影のように従っており、ひょこりと頭をさげた。
「よくきてくれた」
「これが瑞海くんのやりたかったことなの」
「ああ。お前もみたろう。町が活気づいているのを」
「そうだね」
私の横にくると、英太はパンツが汚れるのも気にせず道のうえに腰をおろした。私もそれに倣いしゃがみこむ。
「このあいだはごめん」
「なんだっけ?」
「いろいろうまくいかなくて、悩んでるところだったから、瑞海くんの言うことがきつかったんだ。俺、華さんには自分の為以上に、俺のためにお金使わせちゃって、でもホストやっていくには売り上げが必要で、どうしようもなくなってたんだ」
「そうか」
「でも、瑞海くんに言われてようやく目が覚めた。華さんを苦しめてまでしがみつきたい仕事じゃないって。だから辞めたんだ」
「これからどうする」
「どうしようか? 華さんと相談してるけど、まだわからない」と英太は苦笑し肩をすくめた。むかしから困ったときはこんな顔をしていたっけ。
「帰ってこいよ。いっしょに多雨野を盛りあげていこう。むかし言ってたように」
「瑞海くんはここに戻ってくるつもりで外に出たんだよね。でも、俺は帰ってくることを考えず外に出たんだ。多雨野を見捨てた。高校になる頃には、この過疎の町をなんとかできるなんて夢物語だと思うようになってたんだ」
外套の灯りに権現さんの顔が浮かぶ。項垂れる英太に向けるその眼差しは慈愛に満ちている。
「帰れば母さんは俺を責めないだろうね。でも、いつまでも甘えるわけにはいかな――うおう」
英太が倒れ、地面に手をついた。いつの間にか背後に忍び寄っていたザッシーキの膝蹴りがさく裂したのだ。
「なにこれ。なんでゆるキャラが一市民に膝蹴りかますの」
「まあまあ、これはお前が悪い」
南部ザッシーキは身振り手振りで怒り心頭であることを示し、見回りのために去っていった。
「えー、なに、あれ」
「なあ、英太。今夜の宿は旧校舎か」
「そうだけど」
「今日は実家に泊まれ。そうしたらザッシーキが怒った理由がわかる。つらく苦しいときは甘えればいいんだ。苦しんでいる家族が頼ってくれないなんて、そちらの方がよほどつらいぞ。鬼子母神でも怒ってばかりじゃないさ、たぶん」
「でた、リアル鬼子母神」
英太が声をたてて笑った。そうだ、むかしのお前はそうやって笑っていた。微笑む権現さんの目が糸のように細くなった。
私はたちあがり、尻をパンパンと叩いた。
「大事な用事があるのでこれで行く。きてくれてうれしかった。明日は晴れ渡った空の下でイベントを大いに楽しんでくれ」
「でも天気予報じゃ雨だって……」
「だから行くんだ」
ナタ・デ・ココ九号を駆って夜の多雨野を走る。
何軒かの家が三和土や庭先を開放してくれ、そこでザッシーキレシピによるメニューのいくつかと源三郎の酒を提供してもらう。私は宮内さんと手分けしてそれらをチェックして回った。なぜ宮内さんかというと、私の料理の味を知り尽くしているからだ。
彼女の味覚は確かなので、「山本さんちのチーズレンコンやけど、カレーはちゃんと効いてるんやけど、なんか一味足たらへんねん」などと電話をしてもらう。おかげで「胡椒をひとふり足してみてください」などと適切な指示ができるのだ。他のあか推メンバーも町中を走り回っている。
「瑞海くん」
見回りも一息つき、役場のまえにたっているところで声をかけられた。視線をやれば英太がいた。そのうしろには権現さんが影のように従っており、ひょこりと頭をさげた。
「よくきてくれた」
「これが瑞海くんのやりたかったことなの」
「ああ。お前もみたろう。町が活気づいているのを」
「そうだね」
私の横にくると、英太はパンツが汚れるのも気にせず道のうえに腰をおろした。私もそれに倣いしゃがみこむ。
「このあいだはごめん」
「なんだっけ?」
「いろいろうまくいかなくて、悩んでるところだったから、瑞海くんの言うことがきつかったんだ。俺、華さんには自分の為以上に、俺のためにお金使わせちゃって、でもホストやっていくには売り上げが必要で、どうしようもなくなってたんだ」
「そうか」
「でも、瑞海くんに言われてようやく目が覚めた。華さんを苦しめてまでしがみつきたい仕事じゃないって。だから辞めたんだ」
「これからどうする」
「どうしようか? 華さんと相談してるけど、まだわからない」と英太は苦笑し肩をすくめた。むかしから困ったときはこんな顔をしていたっけ。
「帰ってこいよ。いっしょに多雨野を盛りあげていこう。むかし言ってたように」
「瑞海くんはここに戻ってくるつもりで外に出たんだよね。でも、俺は帰ってくることを考えず外に出たんだ。多雨野を見捨てた。高校になる頃には、この過疎の町をなんとかできるなんて夢物語だと思うようになってたんだ」
外套の灯りに権現さんの顔が浮かぶ。項垂れる英太に向けるその眼差しは慈愛に満ちている。
「帰れば母さんは俺を責めないだろうね。でも、いつまでも甘えるわけにはいかな――うおう」
英太が倒れ、地面に手をついた。いつの間にか背後に忍び寄っていたザッシーキの膝蹴りがさく裂したのだ。
「なにこれ。なんでゆるキャラが一市民に膝蹴りかますの」
「まあまあ、これはお前が悪い」
南部ザッシーキは身振り手振りで怒り心頭であることを示し、見回りのために去っていった。
「えー、なに、あれ」
「なあ、英太。今夜の宿は旧校舎か」
「そうだけど」
「今日は実家に泊まれ。そうしたらザッシーキが怒った理由がわかる。つらく苦しいときは甘えればいいんだ。苦しんでいる家族が頼ってくれないなんて、そちらの方がよほどつらいぞ。鬼子母神でも怒ってばかりじゃないさ、たぶん」
「でた、リアル鬼子母神」
英太が声をたてて笑った。そうだ、むかしのお前はそうやって笑っていた。微笑む権現さんの目が糸のように細くなった。
私はたちあがり、尻をパンパンと叩いた。
「大事な用事があるのでこれで行く。きてくれてうれしかった。明日は晴れ渡った空の下でイベントを大いに楽しんでくれ」
「でも天気予報じゃ雨だって……」
「だから行くんだ」
ナタ・デ・ココ九号を駆って夜の多雨野を走る。
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