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その4

学校買います!

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 「ねっ? このシステムならゴミを集める人とか、トラックの運転手とか『世の中に絶対必要だけど、必要だからこそ大金を稼げない仕事』をしている人たちに報いることができるでしょう? お給料としてお金だけじゃなくて貢献ポイントも支払えばいい。そうすれば、その人たちに報いたいと思う人が贈ってあげられる。
 それに、逆のパターンもあるしね。ひとり暮らしのお年寄りが家の掃除をしたいけど体が動かないからできない。そんなときにONMOを通じて掃除してくれる人を探すの。引き受ける人がいたら、その人に貢献ポイントが付くわけ。そして、その人は、その貢献ポイントを使って他の誰かからお返しをしてもらう。助け合いの輪が広がるんだもの。素敵なことじゃない。ねっ、そうでしょ?」
 「う、うん、言われてみればそうかもなあ」
 「でしょ? だからさ。まずはパパがやってみてよ。パパがはじめていい結果が出れば、他の人も参加するようになる。そうなれば世の中に助け合いの輪が、ううん、恩の網が広がってみんなが助かる。ねっ、素敵でしょ?」
 「う、うん、そうだな。よし。物は試しだ。やってみるか」
 「やったあっ! そうこなくっちゃ。パパ、大好き!」
 そう叫んでパパに抱きつくゆうむであった……と、うまく行ったところで問題。おかしいと思わない? ONMOというシステムの考え方はいいとして、そんなシステム、誰が作るの? そんなシステムを作ろうと思ったら、多くの人が参加できる場をネット上に作らなくちゃいけないし、正確に貢献ポイントを評価できる仕組みだって作らなくちゃいけない。そんなアプリ作ろうと思ったら専門家だって何年もかかるよね? まして、勉強嫌いの小学生であるゆうむにそんなアプリ、作れるわけがない。じゃあ、誰が作るの?
 だいじょうぶ!
 と、叫ぶのがAZーあんのゆうがお。
 AZーあんとひとつになった人間は、機械の世界に飛び込んで、あらゆる機械を自在に扱えるようになる。どんな高度なアプリだって作文を書くみたいにスラスラ作れちゃう。これぞ、四次元ポケットがあってもできないAZーあんの力!
 と、あくまで『四次元ポケット』にこだわるゆうがおだった。つくづくうかつなことは言っちゃいけない。相手によっては一生、根にもたれてネチネチ言われる。
 かくして、ゆうがおの力を借りてゆうむはたった一日でプログラムを書き上げ、ONMOアプリを開発した。
 さっそくパパに使ってもらった。読書会の告知をすると一〇〇人ばかりが集まった。
 「たったこれだけ?」
 ゆうむはそう言って驚いたけど、パパが言うには一〇〇人も集まってくれたのは奇跡的なことだとか。
 「パパの書く本ってそこまで人気なかったのね」
 そう言って、ゆうむはため息。
 「ママが輪釜商会に務めてくれていてよかった」
 自分のやりたいことに打ち込んでいるパパは好きだけど、やっぱり貧乏はやだもんね。と、そう思うゆうむでありました。
 読書会はなかなかの盛況で、ゆうむパパも『自分の本を自分で直接、解説するというのはなかなか新鮮な感覚だな。おかげで、より深く理解してもらえたと思う。それに、参加者の質問に答えるのは自分の勉強にもなった。読む人が僕の本のどこに興味をもち、どんなところに退屈するかがよくわかった。他の人がどんな見方をし、どんな感想をもつかが分かったのもいい経験だった。これからもつづけたい」
 と、ホクホク顔。
 一〇〇ポイントばかりたまった貢献ポイントもさっそく使用。手始めとばかりにママの希望に添っておコメ一〇キロを所望した。するとたちまち参加者や規格外のコメをもてあましている農家の人、売れ残りでもよければと遠慮深そうに言ってくるスーパーの店長など、何人かから申し入れがあった。どれを選んでもいいのだけど、そこは遠慮深いゆうむパパ。『規格外だからスーパーには売れないし、手元に置いておいても無駄になるだけなので引き取ってもえらると嬉しい』という農家の人からもらうことにした。
 ほどなくして届いたコメは大きさにバラつきがあって――えっ? 『おコメの大きさなんてみんな、おんなじじゃん』だって? ちがうよ。君の食べているおコメの粒がみんな同じ大きさなのは、同じ大きさの米粒だけを選んで売っているから。実際には、もっと大きい粒やこまかい粒だってあるんだよ――おかげで焚いたときに少しばかりムラがあったけど――つまり、大きい粒は固くって、小さい粒は柔らかくなりすぎたってこと。そういうことにならないように、売っているおコメ全部、同じ大きさの粒をそろえているわけ――それでも充分おいしく食べられた。
 『タダでおコメがもえらるなんて』と、ママは大喜び。だけど、ゆうむとしては聞き捨てならない。
 「タダじゃないよ! もらったんでもない。このおコメはパパが社会貢献して、その代償として手に入れたものだもの。れっきとしたパパの稼ぎだよ」
 ゆうむの剣幕にママは目を白黒。そのやりとりを陰でこっそり聞いていたパパは、後で苦笑しながらゆうむの欲しがっていた服をプレゼントしてくれた。
 そのパパも『研究をつづけてきた甲斐があった』とホクホク顔。評判が評判を呼んで参加者はどんどん増えた。誰もが自分の提供できるものを提供し、あるいは社会貢献し、あるいは社会貢献した人に報いることで、みんな幸せいっぱい。ONMOはたちまち世界中に広まって何億人もの人が参加する巨大マーケットになった。おかげで運営者であるゆうむのもとには黙っていてもガッポガッポとお金が舞い込む。あっという間に億万長者。ママに対して『ねえ、ねえ、おこづかい上げて』なんてしがみついておねだりしたのも昔の話。いまでは親よりずっと金持ち。何でも買える。何でもできる。おかげでゆうむの生活はすっかり変わった。宿題なんかしなくても、遅刻するまで朝寝坊していても、もう何にも文句は言われない。
 でも、問題がまだひとつ。子供は学校に行かなきゃいけない。学校に行けば先生の言うことを聞かなきゃならないし、勉強だってさせられる。それじゃ『やりたいことだけやって暮らしていく』ことにはならない。
 「いっそ、学校やめちゃおうか」
 そうとも思った。こんなにガッポガッポと稼いでいるんだから、学校なんか行かなくたって誰にも文句は言われない。
 「でも、あたしって勉強はきらいだけど、学校そのものはきらいじゃないのよね。友だちと遊ぶのは楽しいし」
 学校に通いながらやりたいことだけやって暮らすには、どうしたらいいんだろう?
 ゆうむは頭をひねって考えた。君も考えてみて。どうすればそんなことができるのか。
 えっ? 何にも思いつかない?
 ゆうむもそう。そんないい考えは浮かんでこない。でも、だいじょうぶ。そんなときのためのAZーあんの力。自分に分からないことは世界中の人に聞けば言い!
 グローバル・アクセス!
 答えをちょうだい!
 ゆうむのその叫びにたちまち世界中から答えが届く。さあ、そのなかからゆうむの選んだ答えは?
 『学校、買っちゃえば? 学校を丸ごと買って、自分が校長になっちゃえば、何だって好きなようにできるでしょ?』
 その答えにゆうむは大喜び。さっそく、札束抱えて校長室に乗り込み、こう言ったもんだ。
 「この学校、あたしが買います!」
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