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第一話 まずはフェンリル!
よくある話のはじまり
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「アルテイシア・フォン・リリエンタール! 本日ただいまをもって、きさまとの婚約を破棄する!」
第二王子アマルの声が朗々と響き渡る。
その日、王家に次ぐ国内第二の格式を誇る大貴族、リリエンタール家の令嬢アルテイシアは、婚約者であった第二王子から婚約破棄を突きつけられた。
王子の隣でかの人にしなだれかかり、勝者の笑みを浮かべてアルテイシアを見下しているのはイメルダ・フォン・リリエンタール。
陰謀家の義妹。
アルテイシアはこの陰謀家の義妹によって婚約者を寝取られ、家を乗っ取られ、そして、王都を追放された。
よくある話のはじまり。しかし――。
この物語の先にざまぁはない。
成りあがりもない。
なぜなら、アルテイシアにはそんなことはどうでもいいと思えるほどに巨大な野望があったから。その野望とは――。
「この世界の神獣たちのおっぱいを使って、チーズを作る!」
アルテイシアは現代日本からの転生者。
「おっぱいは体内の血液から作られる! つまり、母は自分の命を分け与えて子供を育てる。そのおっぱいを使って作られるチーズはまさに! 母の愛そのもの!」
そのことを知って、感動して以来、チーズ一筋の人生。
「あたしはチーズで世界を幸せにする!」
そう誓い、チーズ職人となった。ところが――。
不慮の事故に遭い、若くして死んでしまった。
しかし、チーズへの限りない愛が奇跡を起こしたのか、かの人の魂は異世界の貴族の娘として転生した。そのことに気がついたとき、かの人が思ったことはひとつ。
「この世界ならいままでに見たことも、聞いたこともないチーズが作れる!」
そう。
この世界には、かつての世界では伝説のなかにしかいなかった神獣たちが実在している。
ペガサス。
ユニコーン。
グリフォン。
「魔獣と呼び、神獣と呼ぶ。獣と言うからには哺乳類。哺乳類ならおっぱいを出す! 伝説の魔獣神獣たちのおっぱいを使ってチーズを作ったら、どんなに素晴らしいチーズができるでしょう。ああ、ワクワクがとまりません!」
ちなみに、かの人が『おっぱい』と言う場合、純粋に『赤ちゃんにおっぱいをあげる』という意味での『おっぱい』として使っている。性的な意味はまったくない。というか、思い浮かばない。なにしろ、チーズ一筋の人生でキスすらしたことがないまま死んでしまったので。
そして、かの人にはもうひとつ、格好のチートスキルまであった。
携帯農場。
その名の通り、自由に持ち運びできる農場。
しかも、そこには立派な加工施設のある農家までついていた。
「これはもう、やるしかありません! 伝説の魔獣神獣たちのおっぱいから作られるチーズなら、特別な効能があるはずです。あたしはそのチーズを使って世界を幸せにします!」
そう思い定めたそのときから、アルテイシアは毎日まいにち日記をしたため、将来のための計画を立ててきた。
浮気者の婚約者も、陰謀家の妹も、すべてはどうでもよかった。なにしろ、かの人の頭のなかにはチーズのことしかなかったので。
そして、今日。
ついに!
婚約者である王子から婚約破棄を突きつけられ、追放されたことで、窮屈な貴族生活から解放され、思う存分チーズ作りに励める日々を手に入れたのだ!
「ありがとう、イメルダ。感謝します。どうかこのまま、あたしのことは忘れて幸せになってください。あたしはチーズで世界を幸せにします。
そうとなったらもう『アルテイシア・フォン・リリエンタール』なんて長ったらしい、嫌味な名前とはおさらばです。今日からあたしはカッテージ・カマンベール。チーズ職人のカティ! さあ、行きますよ。世界一のチーズ職人目指して世界の果てまで行進です!」
これが――。
よくある話からはじまる、若きチーズ令嬢カティの旅立ちだった。
第二王子アマルの声が朗々と響き渡る。
その日、王家に次ぐ国内第二の格式を誇る大貴族、リリエンタール家の令嬢アルテイシアは、婚約者であった第二王子から婚約破棄を突きつけられた。
王子の隣でかの人にしなだれかかり、勝者の笑みを浮かべてアルテイシアを見下しているのはイメルダ・フォン・リリエンタール。
陰謀家の義妹。
アルテイシアはこの陰謀家の義妹によって婚約者を寝取られ、家を乗っ取られ、そして、王都を追放された。
よくある話のはじまり。しかし――。
この物語の先にざまぁはない。
成りあがりもない。
なぜなら、アルテイシアにはそんなことはどうでもいいと思えるほどに巨大な野望があったから。その野望とは――。
「この世界の神獣たちのおっぱいを使って、チーズを作る!」
アルテイシアは現代日本からの転生者。
「おっぱいは体内の血液から作られる! つまり、母は自分の命を分け与えて子供を育てる。そのおっぱいを使って作られるチーズはまさに! 母の愛そのもの!」
そのことを知って、感動して以来、チーズ一筋の人生。
「あたしはチーズで世界を幸せにする!」
そう誓い、チーズ職人となった。ところが――。
不慮の事故に遭い、若くして死んでしまった。
しかし、チーズへの限りない愛が奇跡を起こしたのか、かの人の魂は異世界の貴族の娘として転生した。そのことに気がついたとき、かの人が思ったことはひとつ。
「この世界ならいままでに見たことも、聞いたこともないチーズが作れる!」
そう。
この世界には、かつての世界では伝説のなかにしかいなかった神獣たちが実在している。
ペガサス。
ユニコーン。
グリフォン。
「魔獣と呼び、神獣と呼ぶ。獣と言うからには哺乳類。哺乳類ならおっぱいを出す! 伝説の魔獣神獣たちのおっぱいを使ってチーズを作ったら、どんなに素晴らしいチーズができるでしょう。ああ、ワクワクがとまりません!」
ちなみに、かの人が『おっぱい』と言う場合、純粋に『赤ちゃんにおっぱいをあげる』という意味での『おっぱい』として使っている。性的な意味はまったくない。というか、思い浮かばない。なにしろ、チーズ一筋の人生でキスすらしたことがないまま死んでしまったので。
そして、かの人にはもうひとつ、格好のチートスキルまであった。
携帯農場。
その名の通り、自由に持ち運びできる農場。
しかも、そこには立派な加工施設のある農家までついていた。
「これはもう、やるしかありません! 伝説の魔獣神獣たちのおっぱいから作られるチーズなら、特別な効能があるはずです。あたしはそのチーズを使って世界を幸せにします!」
そう思い定めたそのときから、アルテイシアは毎日まいにち日記をしたため、将来のための計画を立ててきた。
浮気者の婚約者も、陰謀家の妹も、すべてはどうでもよかった。なにしろ、かの人の頭のなかにはチーズのことしかなかったので。
そして、今日。
ついに!
婚約者である王子から婚約破棄を突きつけられ、追放されたことで、窮屈な貴族生活から解放され、思う存分チーズ作りに励める日々を手に入れたのだ!
「ありがとう、イメルダ。感謝します。どうかこのまま、あたしのことは忘れて幸せになってください。あたしはチーズで世界を幸せにします。
そうとなったらもう『アルテイシア・フォン・リリエンタール』なんて長ったらしい、嫌味な名前とはおさらばです。今日からあたしはカッテージ・カマンベール。チーズ職人のカティ! さあ、行きますよ。世界一のチーズ職人目指して世界の果てまで行進です!」
これが――。
よくある話からはじまる、若きチーズ令嬢カティの旅立ちだった。
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