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第二部 絆ぐ伝説
第三話一四章 『もうひとつの輝き』たち
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「ハルキス。その名前は伝えられているわ。五〇〇年前、弾圧を逃れてこの地に隠れ住んだわたしたちの祖先の仲間ね。バラバラに逃げて生き別れになってしまったと聞いてきたけど……」
扉を開けて出迎えた女性――メリッサと名乗った――は、ロウワンたちを洞窟のなかへと案内した。
そこは、洞窟のなかとは思えない場所だった。洞窟全体がきれいな四角形に整形され、床も、壁も、天井も、すべてが石畳を敷いた道路のように舗装されている。床には絨毯も敷かれ、暖かさを演出している。閉じられた空間にもかかわらず空気の淀んだ様子はなく、外にいるのとかわりない。かすかな風まで吹いているようだ。
自然の洞窟を人の手で改造し、快適な住居にかえた。
この洞窟はそんな場所だった。
なにより、驚かされたのはその明るさ。日の届かない洞窟のなかでありながらまるで、炎天下のように明るい。ランプもない。松明もない。蝋燭すらもない。それなのに、そのどれよりも明るい光に満たされている。
その理由は天井から吊されたいくつものガラス玉。そのガラス玉が光を放ち、洞窟のなか全体を、明るく照らし出しているのだ。
洞窟――いや、地下住居と呼ぶべきだろう――のなかではメリッサの他、二〇人ほどの人が住んでいた。産まれたばかりの赤ん坊から年寄りまで様々な年代の人がいたが皆、女性である。
ロウワンたちが通されたのは洞窟内のホールと呼ぶべき場所だった。
広々とした空間で、絨毯の上に大きな円形のテーブルが置かれ、そのまわりにいくつかの椅子が置いてある。住人たちが何人かで集まってお茶やお菓子をつまんだり、談笑したりする、そのための場所なのだろう。
ホールに通されたロウワンたちにもてなしの茶が出され、ロウワン、トウナ、野伏の三人は席に着いた。すっかり弱っているビーブは椅子に座る気力もなく、絨毯の上に仰向けに寝そべっている。
「ハルキス先生はそのとき、船に乗って南の島に逃れたんです」
ロウワンはメリッサの言葉に対して、そう答えた。
「五〇〇年の間ずっと、生き別れになった仲間たちのことを気にかけていた。そう言っていました」
――ロウワンよ。これは師としてではなく、ひとりの人間としての頼みだ。どうか、私の仲間たちを探してくれ。あの弾圧を逃げ延び、どこかに居場所を得たならば必ずや研究をつづけていたはずだ。いまもその研究を受け継ぐものがどこかにいるかも知れん。そのものたちを探してくれ。頼む。
ハルキスが最後に語ったその言葉を、そこに込められた思いを、ロウワンは忘れたことはなかった。
――ハルキス先生。あなたの仲間は生きていた。立派に子孫を残していました。
その事実を自分は見つけ出した。
弟子として、師への義理を果たすことが出来た。
肩の荷がひとつ、ようやく降りた気分になるロウワンだった。
「わたしたちの祖先も同じことを言い残したわ」
メリッサが感慨深げに言った。
「あのとき、生き別れになった仲間たちを探してくれ。生き延びたならきっとどこかで研究をつづけていたはずだ。その研究を受け継ぐものたちがいるはずだ。そのものたちを探してくれ。
その言葉に従い、わたしたちも探してきたけれど……」
メリッサは溜め息をついた。
「まさか、南の島にいたなんてね。見つけられなかったわけだわ。それも、天命の理を使ってハルキス師、本人が五〇〇年の間、生きつづけていたなんてね」
――会ってみたかった。会って、話をしてみたかった。
メリッサの態度も、口調も、ごく静かなものだったが、端々にその思いが込められているのがはっきりとわかった。
メリッサはロウワンに向き直った。表情と口調を改めた。
「ありがとう、ロウワン。あなたがハルキス師のことを伝えてくれたおかげで、わたしたちも祖先の遺言を果たすことが出来た。心から感謝するわ」
「いえ。弟子としての務めですから」
生真面目に答えるロウワンを見て、メリッサは『クスッ』とおかしそうに微笑んだ。
「まさか、初対面でいきなり泣き崩れられるとは思わなかったけど」
茶目っ気たっぷりにそう言われて、ロウワンは耳まで真っ赤になった。
――ハルキス先生の願いを叶えることが出来た。
そのことで泣いたことを恥ずかしいとは思わない。ロウワンにとってハルキスの最後の願いはそれだけ重いものだった。しかし――。
初対面の女性の前で泣き崩れてしまった。
これは、さすがに恥ずかしい。
その理由のひとつはメリッサという女性の存在そのものにあった。メリッサは二十歳そこそこといった年頃だろう。ロウワンから見れば『おとなの女性』だが、世間一般的にはまだまだ『小娘』扱いされる年齢だ。細身だが、痩せすぎというわけではない。女性らしい丸みを帯びた美しい体型をしている。繊細な美貌は道行く人を振り向かせるのに充分なものだった。そして、なにより――。
――似ている。
メリッサを見つめるロウワンは心に思った。
メリッサのその風貌にはたしかに、あの天命の巫女の面影があった。
まるで、姉妹のよう。
そう言ってもいいぐらい、よく似た顔立ちをしていたのだ。
そのメリッサの風貌に――。
ロウワンは惹きつけられていた。
「あの……」
そこで、トウナが口を開いた。
五〇〇年の思いを受け継ぐもの同士の会話にはとうてい口をはさむことは出来ない。その会話が一段落したところで疑問を口にした。
「気になっていたんですけど、天井に吊されている光ガラス玉はなんなんです?」
それは確かにロウワンも、野伏も気になっていた。そして、おそらく、ビーブが元気でいつもの調子であったなら、興味を引かれて飛びつき、手にしていたにちがいないものだった。
「あれは電球よ」
と、メリッサは答えた。
「でんきゅう?」
「電気の力で光る器具。そう思ってもらえばいいわ」
「でんきって……」
まったく理解出来ない様子のロウワンたちを前に、メリッサはちょっと首をかしげた。
「……そうね。簡単に言うと雷と同じもの。ごく小さな雷を蒸気の力で生み出して、光にかえているの」
「蒸気?」
「見てもらった方が早いでしょうね。こっちに来て」
メリッサはそう言って、ビーブをのぞいた一同を動力室に案内した。その部屋のなかではロウワンたちが見たこともない巨大な機械がせわしなく動いていた。
「これは……」
「蒸気機関よ。蒸気の力で機械を動かし、地下水を汲みあげたり、空気を循環させたり、電球をつけたりと色々な仕事をさせているの。蒸気機関のおかげで洞窟のなかでも快適に暮らしていけるのよ」
「蒸気機関については聞いたことがあります。商人であった父が商用に使えないものかと注目していた。でも、たしか『効率が悪すぎて使いものにならん。商売になどならん!』って怒っていたと思うけど……」
「それは構造の問題よ。外の世界で使われている蒸気機関はシリンダー内の蒸気を直接、冷やすことでシリンダー内の気圧をさげ、ピストンを動かすんだけど、その際にシリンダーそのものも冷やしてしまう。そのせいでひどく効率が悪くなっているの。ここで使っている蒸気機関はシリンダーとは別に復水器を使って蒸気を冷やしているから、シリンダーの熱は維持される。その他、いくつかの工夫によって格段に効率を良くしているの」
そう言われてもロウワンにはまったくのチンプンカンプンである。思わず、野伏を見た。小声で尋ねた。
「……わかるか?」
「わからん」
野伏は腕組みしてむっつりと答えた。その態度が『喧嘩は強いが、勉強はからっきしなガキ大将』そのままでロウワンは思わず笑ってしまった。
「もうひとつ、聞きたいんですけど」
と、トウナ。こちらも蒸気機関の説明などまるでわかっていないのだが、わからないことはわからないこととして無視することに決めたらしい。
「どうして、女性ばかりなんです?」
「男たちは出稼ぎに出ているのよ」
「出稼ぎ?」
トウナは首をかしげた。
メリッサはうなずいた。
「そう。この地に最初に流れ着いた『もうひとつの輝き』の人員たちは、自分たちの知識と技術を受け継がせるために子をなした。でも、ずっとこの洞窟に閉じこもって暮らしていられるわけじゃない。研究をつづけるためには資金と情報が必要だし、そのどちらも外の世界に行かなければ得られない。
なにより、技術と知識を伝えつづけるためには子どもを作らなければならない。でも、きょうだいの間柄で子どもを作るわけには行かない。だから、男たちは外に出て素性を隠して働き、資金と情報を得る。自分の家族ももつ。女たちはここに残り、送られてくる資金と情報をもとに研究を進める。そして、ときおり、手近の町や村に出向いて男たちの子種をもらい、子どもをなす。
わたしたちはそうして『もうひとつの輝き』を伝えてきたのよ」
すべては弾圧から逃れて研究をつづけるために。
人の世を発展させる技術を生み出すために。
「そして、なにより……」
メリッサは断固とした決意を込めて言った。
「やがて来る、亡道の司との戦いに備えるために」
そう言ったときのメリッサには、崇高なまでの誇りがあった。
千年前、騎士マークスによって設立された『もうひとつの輝き』。その誇りが、使命感が、千年の時を経ていまなお、メリッサたちのなかに生きつづけているのだ。
その事実にロウワンは胸を打たれた。
「では、やはり、あなたたちも亡道の司との戦いに備えてきたのですね?」
「もちろんよ。それこそが『もうひとつの輝き』の一番の目的なのだから。でも……」
メリッサは溜め息をついた。
「肝心の亡道の司と亡道の世界に関する研究はまったく進まなかったわ。資料もなければ、観測機器もなかったから。祖先から伝えられた資料を守ることで精一杯。情けない話だわ」
「それなら……」
ロウワンが言いかけたそのときだ。
それまで黙って話を聞いていた野伏がはじめて、口を開いた。
「おれからもひとつ、聞きたい」
「なに?」
「ヌーナの建国伝説に出てくる王となった旅人。それは、お前たちの仲間か?」
扉を開けて出迎えた女性――メリッサと名乗った――は、ロウワンたちを洞窟のなかへと案内した。
そこは、洞窟のなかとは思えない場所だった。洞窟全体がきれいな四角形に整形され、床も、壁も、天井も、すべてが石畳を敷いた道路のように舗装されている。床には絨毯も敷かれ、暖かさを演出している。閉じられた空間にもかかわらず空気の淀んだ様子はなく、外にいるのとかわりない。かすかな風まで吹いているようだ。
自然の洞窟を人の手で改造し、快適な住居にかえた。
この洞窟はそんな場所だった。
なにより、驚かされたのはその明るさ。日の届かない洞窟のなかでありながらまるで、炎天下のように明るい。ランプもない。松明もない。蝋燭すらもない。それなのに、そのどれよりも明るい光に満たされている。
その理由は天井から吊されたいくつものガラス玉。そのガラス玉が光を放ち、洞窟のなか全体を、明るく照らし出しているのだ。
洞窟――いや、地下住居と呼ぶべきだろう――のなかではメリッサの他、二〇人ほどの人が住んでいた。産まれたばかりの赤ん坊から年寄りまで様々な年代の人がいたが皆、女性である。
ロウワンたちが通されたのは洞窟内のホールと呼ぶべき場所だった。
広々とした空間で、絨毯の上に大きな円形のテーブルが置かれ、そのまわりにいくつかの椅子が置いてある。住人たちが何人かで集まってお茶やお菓子をつまんだり、談笑したりする、そのための場所なのだろう。
ホールに通されたロウワンたちにもてなしの茶が出され、ロウワン、トウナ、野伏の三人は席に着いた。すっかり弱っているビーブは椅子に座る気力もなく、絨毯の上に仰向けに寝そべっている。
「ハルキス先生はそのとき、船に乗って南の島に逃れたんです」
ロウワンはメリッサの言葉に対して、そう答えた。
「五〇〇年の間ずっと、生き別れになった仲間たちのことを気にかけていた。そう言っていました」
――ロウワンよ。これは師としてではなく、ひとりの人間としての頼みだ。どうか、私の仲間たちを探してくれ。あの弾圧を逃げ延び、どこかに居場所を得たならば必ずや研究をつづけていたはずだ。いまもその研究を受け継ぐものがどこかにいるかも知れん。そのものたちを探してくれ。頼む。
ハルキスが最後に語ったその言葉を、そこに込められた思いを、ロウワンは忘れたことはなかった。
――ハルキス先生。あなたの仲間は生きていた。立派に子孫を残していました。
その事実を自分は見つけ出した。
弟子として、師への義理を果たすことが出来た。
肩の荷がひとつ、ようやく降りた気分になるロウワンだった。
「わたしたちの祖先も同じことを言い残したわ」
メリッサが感慨深げに言った。
「あのとき、生き別れになった仲間たちを探してくれ。生き延びたならきっとどこかで研究をつづけていたはずだ。その研究を受け継ぐものたちがいるはずだ。そのものたちを探してくれ。
その言葉に従い、わたしたちも探してきたけれど……」
メリッサは溜め息をついた。
「まさか、南の島にいたなんてね。見つけられなかったわけだわ。それも、天命の理を使ってハルキス師、本人が五〇〇年の間、生きつづけていたなんてね」
――会ってみたかった。会って、話をしてみたかった。
メリッサの態度も、口調も、ごく静かなものだったが、端々にその思いが込められているのがはっきりとわかった。
メリッサはロウワンに向き直った。表情と口調を改めた。
「ありがとう、ロウワン。あなたがハルキス師のことを伝えてくれたおかげで、わたしたちも祖先の遺言を果たすことが出来た。心から感謝するわ」
「いえ。弟子としての務めですから」
生真面目に答えるロウワンを見て、メリッサは『クスッ』とおかしそうに微笑んだ。
「まさか、初対面でいきなり泣き崩れられるとは思わなかったけど」
茶目っ気たっぷりにそう言われて、ロウワンは耳まで真っ赤になった。
――ハルキス先生の願いを叶えることが出来た。
そのことで泣いたことを恥ずかしいとは思わない。ロウワンにとってハルキスの最後の願いはそれだけ重いものだった。しかし――。
初対面の女性の前で泣き崩れてしまった。
これは、さすがに恥ずかしい。
その理由のひとつはメリッサという女性の存在そのものにあった。メリッサは二十歳そこそこといった年頃だろう。ロウワンから見れば『おとなの女性』だが、世間一般的にはまだまだ『小娘』扱いされる年齢だ。細身だが、痩せすぎというわけではない。女性らしい丸みを帯びた美しい体型をしている。繊細な美貌は道行く人を振り向かせるのに充分なものだった。そして、なにより――。
――似ている。
メリッサを見つめるロウワンは心に思った。
メリッサのその風貌にはたしかに、あの天命の巫女の面影があった。
まるで、姉妹のよう。
そう言ってもいいぐらい、よく似た顔立ちをしていたのだ。
そのメリッサの風貌に――。
ロウワンは惹きつけられていた。
「あの……」
そこで、トウナが口を開いた。
五〇〇年の思いを受け継ぐもの同士の会話にはとうてい口をはさむことは出来ない。その会話が一段落したところで疑問を口にした。
「気になっていたんですけど、天井に吊されている光ガラス玉はなんなんです?」
それは確かにロウワンも、野伏も気になっていた。そして、おそらく、ビーブが元気でいつもの調子であったなら、興味を引かれて飛びつき、手にしていたにちがいないものだった。
「あれは電球よ」
と、メリッサは答えた。
「でんきゅう?」
「電気の力で光る器具。そう思ってもらえばいいわ」
「でんきって……」
まったく理解出来ない様子のロウワンたちを前に、メリッサはちょっと首をかしげた。
「……そうね。簡単に言うと雷と同じもの。ごく小さな雷を蒸気の力で生み出して、光にかえているの」
「蒸気?」
「見てもらった方が早いでしょうね。こっちに来て」
メリッサはそう言って、ビーブをのぞいた一同を動力室に案内した。その部屋のなかではロウワンたちが見たこともない巨大な機械がせわしなく動いていた。
「これは……」
「蒸気機関よ。蒸気の力で機械を動かし、地下水を汲みあげたり、空気を循環させたり、電球をつけたりと色々な仕事をさせているの。蒸気機関のおかげで洞窟のなかでも快適に暮らしていけるのよ」
「蒸気機関については聞いたことがあります。商人であった父が商用に使えないものかと注目していた。でも、たしか『効率が悪すぎて使いものにならん。商売になどならん!』って怒っていたと思うけど……」
「それは構造の問題よ。外の世界で使われている蒸気機関はシリンダー内の蒸気を直接、冷やすことでシリンダー内の気圧をさげ、ピストンを動かすんだけど、その際にシリンダーそのものも冷やしてしまう。そのせいでひどく効率が悪くなっているの。ここで使っている蒸気機関はシリンダーとは別に復水器を使って蒸気を冷やしているから、シリンダーの熱は維持される。その他、いくつかの工夫によって格段に効率を良くしているの」
そう言われてもロウワンにはまったくのチンプンカンプンである。思わず、野伏を見た。小声で尋ねた。
「……わかるか?」
「わからん」
野伏は腕組みしてむっつりと答えた。その態度が『喧嘩は強いが、勉強はからっきしなガキ大将』そのままでロウワンは思わず笑ってしまった。
「もうひとつ、聞きたいんですけど」
と、トウナ。こちらも蒸気機関の説明などまるでわかっていないのだが、わからないことはわからないこととして無視することに決めたらしい。
「どうして、女性ばかりなんです?」
「男たちは出稼ぎに出ているのよ」
「出稼ぎ?」
トウナは首をかしげた。
メリッサはうなずいた。
「そう。この地に最初に流れ着いた『もうひとつの輝き』の人員たちは、自分たちの知識と技術を受け継がせるために子をなした。でも、ずっとこの洞窟に閉じこもって暮らしていられるわけじゃない。研究をつづけるためには資金と情報が必要だし、そのどちらも外の世界に行かなければ得られない。
なにより、技術と知識を伝えつづけるためには子どもを作らなければならない。でも、きょうだいの間柄で子どもを作るわけには行かない。だから、男たちは外に出て素性を隠して働き、資金と情報を得る。自分の家族ももつ。女たちはここに残り、送られてくる資金と情報をもとに研究を進める。そして、ときおり、手近の町や村に出向いて男たちの子種をもらい、子どもをなす。
わたしたちはそうして『もうひとつの輝き』を伝えてきたのよ」
すべては弾圧から逃れて研究をつづけるために。
人の世を発展させる技術を生み出すために。
「そして、なにより……」
メリッサは断固とした決意を込めて言った。
「やがて来る、亡道の司との戦いに備えるために」
そう言ったときのメリッサには、崇高なまでの誇りがあった。
千年前、騎士マークスによって設立された『もうひとつの輝き』。その誇りが、使命感が、千年の時を経ていまなお、メリッサたちのなかに生きつづけているのだ。
その事実にロウワンは胸を打たれた。
「では、やはり、あなたたちも亡道の司との戦いに備えてきたのですね?」
「もちろんよ。それこそが『もうひとつの輝き』の一番の目的なのだから。でも……」
メリッサは溜め息をついた。
「肝心の亡道の司と亡道の世界に関する研究はまったく進まなかったわ。資料もなければ、観測機器もなかったから。祖先から伝えられた資料を守ることで精一杯。情けない話だわ」
「それなら……」
ロウワンが言いかけたそのときだ。
それまで黙って話を聞いていた野伏がはじめて、口を開いた。
「おれからもひとつ、聞きたい」
「なに?」
「ヌーナの建国伝説に出てくる王となった旅人。それは、お前たちの仲間か?」
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