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第二部 絆ぐ伝説
第九話三章 それぞれの行く先
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「メリッサ。あなたは、おれと一緒に来てくれ」
ロウワンはまっすぐにメリッサを見ながらそう告げた。その言葉に――。
仲間たちの視線が一斉にメリッサに集中した。
メリッサはその視線に身を浸しながら黙って両目を閉じた。コクリ、と、うなずいた。
「わかったわ」
ホッ、と、その場にいる全員が静かに安堵の息をついた。
「でも、いますぐに……というわけにはいかないわ。アルテミシアから預けられたパンゲア教皇の秘儀。それを『もうひとつの輝き』の皆に伝えて、わたしのいない間、研究を進めてもらわないといけないから」
「それは確かに。おれもトウナや〝ブレスト〟と相談して決めておかなくちゃいけないことはある。出発するのはそれが済んでからだな」
本音で言えば、ロウワンとしてはいますぐに出発したい。出発するのが一日、遅れればそれだけ、パンゲアの封印が失われ、亡道の司の傷が癒える日が近づいてしまう。そうなれば……。
――だからと言って、国のことをおろそかにしていいわけじゃない。忘れるな。おれの目的はあくまでも『人と人が争う必要のない世界を作る』ことだ。亡道の司との戦いは、そのための時間を得る手段に過ぎないんだからな。
ロウワンは、必死に自分にそう言い聞かせてはやる気持ちを抑え込んだ。
新聞記者のハーミドが片手をあげて発言した。
「それなら、おれからひとつ提案がある。パンゲア領へのツアーを行うべきだ」
「ツアー?」
場違いに享楽的な言葉が出てきたことに、ロウワンは目をパチクリさせた。あまりの意外さに『不謹慎な!』と怒るのも忘れてしまった。そういう表情だ。
もちろん、ハーミドは単なる楽しみや悪ふざけでそんなことを言ったわけではない。人々に事実を伝える新聞記者としての見識から為すべきことを提案したのだ。
「そうだ。パンゲアで起きていることを人々に知ってもらう。そのためにな。おれは新聞記者だ。この目で見てきたことを記事にして人々に伝える。だが、今回の件はあまりにも常軌を逸している。いきなり、亡道の世界がどうの、亡道の司との戦いがどうのと言われてもピンとこないだろう。記事にかこつけた架空の読み物。そう思って信用しない読者も多いだろう」
多くの新聞社が読者を獲得するために、記事か読み物かわからない文を載せているのは事実だからな。
ハーミドがそう付け加えたのは、読者を獲得するためなら嘘の記事でも平気で載せる他社への怒りか、それとも、自分たちも同じことをやっているという後ろめたさからだったろうか。
「だから、自分たちの目で見てもらう。パンゲア領がいま、実際にどうなっているか。それを自分の目で見てもらえれば納得する。放っておけば世界全体が同じことに、いや、もっとひどいことになる。そのことを知ってもらう。
そして、そのことを本人の口からまわりに伝えてもらう。なんと言っても人間が一番、信用するのは見知った人間からの言葉だからな。そうやって、多くの人間が亡道の脅威を認識すれば覚悟も決まる。人類の総力を結集できるようになる。
そのために、ひとりでも多くの人間にパンゲア領に入ってもらうべきだ。そのためにツアーを企画し、人を集めるべきだ」
「それは、良い案だ」
そう言って賛同したのは行者である。軽くうなずいて、結いあげた髪に挿したかんざしの飾りをかすかに鳴らしながらそう言った。
「亡道の司との戦いは、人間同士の戦いとはわけがちがう。姿をかえた自然現象との戦いだ。交渉も駆け引きも存在する余地はない。殺るか殺られるか。それがすべてだ。そのことを知ってもらうためには現実を見てもらうことが必要だ。そのためには、パンゲアの現状を実際に見てもらうのは一番、有効な方法だよ」
「だけど……」
と、ロウワンはとまどいを見せながら答えた。
「それは、危険だろう。時が凍っているとはいえいつ、亡道の怪物に襲われるかわからないんだ。そんなところに、戦闘力をもたない一般人を送り込むなんて……」
「安全に関してはおれが責任をもつ」
きっぱりと、そう言いきったのはプリンスである。まるで、化石となって、漆黒の宝石となった古木のようにまっすぐに立ちながらそう宣言した。
「どのみち、来たるべき決戦のときに備えて、亡道の怪物との実戦経験は積んでおく必要がある。拠点となる砦の建設も必要だ。そのためには、実際にパンゲア領に入り込んで兵を広く展開する必要がある。ツアーの範囲をその内側に限定すれば、安全は確保できる。その範囲内を見ただけでも充分に説得力はあるはずだしな」
プリンスはそう言ってから〝ブレスト〟・ザイナブに視線を向けた。自由の国の軍権を一手に握る提督であり、ロウワンの留守の間、主催代理を務める仲間へと。
「そこで、〝ブレスト〟。同盟国として、平等の国リンカーンから自由の国に援軍を依頼する。そちらからも兵を送ってほしい」
「承知したわ」
〝ブレスト〟・ザイナブは短く答えた。『男殺しの〝ブレスト〟』にしては素直な了承だった。それを讃えてか、肩の上の鸚鵡が羽をバタつかせて甲高く鳴いた。
「たしかに、亡道の怪物との実戦経験は必要。複数の部隊を組み、交代で送ることにする」
「感謝する」
プリンスが軽く頭をさげた。
つづいて、そのプリンスの妻であり、医療都市イムホテピアの市長であるトウナが発言した。
「イムホテピアは『都市』であって『国』ではない。防衛と、治安の維持は自由の国に任せていて自前の軍事力はもっていない。軍事面で協力することはできない。でも、そのかわり、イムホテピアには南海の豊かな資源と、コーヒーハウスから得られる潤沢な資金がある。物資と資金に関しては最大限、協力するわ」
さらに、弱冠一二歳の国王セシリアもつづいた。
「残念ながら、現状では安心の国ラインには協力できるだけの軍事力も、物資も、資金もありません。ですが、平等の国が亡道の怪物との戦いに専念できるよう旧ローラシアの勢力をまとめあげます。そして、一刻も早く、協力できるだけの態勢を整えます」
きっぱりとそう宣言するセシリアは、とても『一二歳の小娘』には見えない。自ら、王たる重荷を背負うことを決めた勇者の姿だった。もちろん、セシリアの発言にはプリンスが進めている貴族狩りから貴族たちを保護する、という目的もある。
「自分からも提案、いえ、お願いがあるっス」
今度は、レディ・アホウタが発言した。
「自分を兵士として最前線に送ってほしいっス」
「最前線に?」
ロウワンが尋ねると、レディ・アホウタはコクンと頷いた。
「そうっス。自分はパンゲア人っス。パンゲアのしでかしたことを正し、パンゲアの過ちから世界を守る義務と責任があるっス。そのために、最前線に立って戦わなければいけないっス」
「パンゲアの過ちを……あなたひとりで背負うつもりなのか?」
「ひとりではないっス」
「えっ?」
「ルキフェル将軍がいるっス」
きっぱりと、そう言いきるレディ・アホウタの姿にはいささかの迷いも疑いも存在しなかった。ただ、純粋なまでの敬意と誇りだけがあった。
「自分がこうして意識を保っているんス。まして、ルキフェル将軍が亡道の司なんかに負けるわけがないっス。いまもパンゲアのどこかで、祖国を取り返すために戦いつづけているにちがいないっス。自分はルキフェル将軍を探して、一緒にパンゲアを取りもどすっス。そのためにも、最前線に立って戦う必要があるっス」
「そういうことなら……」
そう言ったのは、野伏である。
「おれと来い」
「えっ?」
どういう意味っスか?
視線でそう尋ねるレディ・アホウタはいったん無視しておいて、野伏はロウワンに向かって言った。
「ロウワン。おれの単独行動を許してもらいたい。パンゲア領にこもるために」
「パンゲア領にこもる?」
「ああ。亡道の騎士に亡道の司。やつらと実際に戦って思いしった。やつらは力押しではどうにもならん。やつらのもつ無限の力。その力を斬り裂くことのできる技が必要だ。その技を身につけるには新たな修行をしなくてはならないし、そのためには実際に亡道の怪物どもを相手にする必要がある」
きっぱりとそう言いきる野伏の姿に、ロウワンは野伏がいかに武芸者としての誇りを傷つけられていたかを知った。
亡道の騎士との戦いでは押されたまま中断し、亡道の司には手も足も出なかった。自らを剛のものと誇る剣客にとってその事実は、許しがたい屈辱だった。その屈辱を晴らし、剣客としての誇りを取り戻す。そのために、野伏は新しい強さを求めている。
その思いをとめられるはずもない。ロウワンは静かにうなずいた。
「わかった。任せる」
「感謝する」
野伏は短く言って、軽く頭をさげた。
「では、自分も同行させてもらうっス。いまの自分には亡道の司から押しつけられた亡道の力があるっス。この力を磨き抜いて、亡道の司に叩き返してやるっス」
自分に亡道の力を与えたことを後悔させてやるっス。
レディ・アホウタの、腐り果てた肉のなかに輝くふたつの目がその思いに燃えていた。
「僕も一緒に行きたいところだけど……」
空狩りの行者が小首をひねりながら言った。
「そうもいかないよね。もし、亡道の怪物が大挙して押しよせてきたら僕の力が必要になる。僕は平等の国に残って襲撃に備えることにするよ」
「キキキ、キイ、キイキイ」
――おれもちょっと旅に出させてもらうぜ。
「おや、ビーブ? 奥さんと子どもを連れて家族旅行と洒落込むのかい?」
行者にからかうように言われて、ビーブはニッと笑って見せた。
――そいつが主目的だけどな。クベラ山地から大アトラス山嶺を巡って、野性の仲間たちに協力を求めてくる。すべての鳥たちの嘴、すべての獣たちの牙で亡道の怪物どもを引き裂いてもらうためにな。
ビーブの言葉に野伏がうなずいた。
「なるほど。たしかに、クベラ山地や大アトラス山嶺にも亡道の怪物たちは表れるだろう。しかし、広大な山岳地帯を人間の手で警護することは不可能だ。怪物たちを好きに行動させないためには動物たちの協力が不可欠。その協力を求めることができるのはビーブしかいない」
「たしかに」
と、ロウワンも野伏の言葉にうなずいた。
ロウワンは改めて仲間たちを見まわした。この場にいる誰もが自ら、それぞれの役割を背負い、全うしようとしている。そのことにロウワンは胸が熱くなった。
――そうだ。おれたちは仲間だ。この世界を守るために、それぞれに死力を尽くそうとしている仲間なんだ。この仲間がいる限り、絶対に勝てる。
ふたつの拳を握りしめ――。
ロウワンはそう確信した。
ロウワンはまっすぐにメリッサを見ながらそう告げた。その言葉に――。
仲間たちの視線が一斉にメリッサに集中した。
メリッサはその視線に身を浸しながら黙って両目を閉じた。コクリ、と、うなずいた。
「わかったわ」
ホッ、と、その場にいる全員が静かに安堵の息をついた。
「でも、いますぐに……というわけにはいかないわ。アルテミシアから預けられたパンゲア教皇の秘儀。それを『もうひとつの輝き』の皆に伝えて、わたしのいない間、研究を進めてもらわないといけないから」
「それは確かに。おれもトウナや〝ブレスト〟と相談して決めておかなくちゃいけないことはある。出発するのはそれが済んでからだな」
本音で言えば、ロウワンとしてはいますぐに出発したい。出発するのが一日、遅れればそれだけ、パンゲアの封印が失われ、亡道の司の傷が癒える日が近づいてしまう。そうなれば……。
――だからと言って、国のことをおろそかにしていいわけじゃない。忘れるな。おれの目的はあくまでも『人と人が争う必要のない世界を作る』ことだ。亡道の司との戦いは、そのための時間を得る手段に過ぎないんだからな。
ロウワンは、必死に自分にそう言い聞かせてはやる気持ちを抑え込んだ。
新聞記者のハーミドが片手をあげて発言した。
「それなら、おれからひとつ提案がある。パンゲア領へのツアーを行うべきだ」
「ツアー?」
場違いに享楽的な言葉が出てきたことに、ロウワンは目をパチクリさせた。あまりの意外さに『不謹慎な!』と怒るのも忘れてしまった。そういう表情だ。
もちろん、ハーミドは単なる楽しみや悪ふざけでそんなことを言ったわけではない。人々に事実を伝える新聞記者としての見識から為すべきことを提案したのだ。
「そうだ。パンゲアで起きていることを人々に知ってもらう。そのためにな。おれは新聞記者だ。この目で見てきたことを記事にして人々に伝える。だが、今回の件はあまりにも常軌を逸している。いきなり、亡道の世界がどうの、亡道の司との戦いがどうのと言われてもピンとこないだろう。記事にかこつけた架空の読み物。そう思って信用しない読者も多いだろう」
多くの新聞社が読者を獲得するために、記事か読み物かわからない文を載せているのは事実だからな。
ハーミドがそう付け加えたのは、読者を獲得するためなら嘘の記事でも平気で載せる他社への怒りか、それとも、自分たちも同じことをやっているという後ろめたさからだったろうか。
「だから、自分たちの目で見てもらう。パンゲア領がいま、実際にどうなっているか。それを自分の目で見てもらえれば納得する。放っておけば世界全体が同じことに、いや、もっとひどいことになる。そのことを知ってもらう。
そして、そのことを本人の口からまわりに伝えてもらう。なんと言っても人間が一番、信用するのは見知った人間からの言葉だからな。そうやって、多くの人間が亡道の脅威を認識すれば覚悟も決まる。人類の総力を結集できるようになる。
そのために、ひとりでも多くの人間にパンゲア領に入ってもらうべきだ。そのためにツアーを企画し、人を集めるべきだ」
「それは、良い案だ」
そう言って賛同したのは行者である。軽くうなずいて、結いあげた髪に挿したかんざしの飾りをかすかに鳴らしながらそう言った。
「亡道の司との戦いは、人間同士の戦いとはわけがちがう。姿をかえた自然現象との戦いだ。交渉も駆け引きも存在する余地はない。殺るか殺られるか。それがすべてだ。そのことを知ってもらうためには現実を見てもらうことが必要だ。そのためには、パンゲアの現状を実際に見てもらうのは一番、有効な方法だよ」
「だけど……」
と、ロウワンはとまどいを見せながら答えた。
「それは、危険だろう。時が凍っているとはいえいつ、亡道の怪物に襲われるかわからないんだ。そんなところに、戦闘力をもたない一般人を送り込むなんて……」
「安全に関してはおれが責任をもつ」
きっぱりと、そう言いきったのはプリンスである。まるで、化石となって、漆黒の宝石となった古木のようにまっすぐに立ちながらそう宣言した。
「どのみち、来たるべき決戦のときに備えて、亡道の怪物との実戦経験は積んでおく必要がある。拠点となる砦の建設も必要だ。そのためには、実際にパンゲア領に入り込んで兵を広く展開する必要がある。ツアーの範囲をその内側に限定すれば、安全は確保できる。その範囲内を見ただけでも充分に説得力はあるはずだしな」
プリンスはそう言ってから〝ブレスト〟・ザイナブに視線を向けた。自由の国の軍権を一手に握る提督であり、ロウワンの留守の間、主催代理を務める仲間へと。
「そこで、〝ブレスト〟。同盟国として、平等の国リンカーンから自由の国に援軍を依頼する。そちらからも兵を送ってほしい」
「承知したわ」
〝ブレスト〟・ザイナブは短く答えた。『男殺しの〝ブレスト〟』にしては素直な了承だった。それを讃えてか、肩の上の鸚鵡が羽をバタつかせて甲高く鳴いた。
「たしかに、亡道の怪物との実戦経験は必要。複数の部隊を組み、交代で送ることにする」
「感謝する」
プリンスが軽く頭をさげた。
つづいて、そのプリンスの妻であり、医療都市イムホテピアの市長であるトウナが発言した。
「イムホテピアは『都市』であって『国』ではない。防衛と、治安の維持は自由の国に任せていて自前の軍事力はもっていない。軍事面で協力することはできない。でも、そのかわり、イムホテピアには南海の豊かな資源と、コーヒーハウスから得られる潤沢な資金がある。物資と資金に関しては最大限、協力するわ」
さらに、弱冠一二歳の国王セシリアもつづいた。
「残念ながら、現状では安心の国ラインには協力できるだけの軍事力も、物資も、資金もありません。ですが、平等の国が亡道の怪物との戦いに専念できるよう旧ローラシアの勢力をまとめあげます。そして、一刻も早く、協力できるだけの態勢を整えます」
きっぱりとそう宣言するセシリアは、とても『一二歳の小娘』には見えない。自ら、王たる重荷を背負うことを決めた勇者の姿だった。もちろん、セシリアの発言にはプリンスが進めている貴族狩りから貴族たちを保護する、という目的もある。
「自分からも提案、いえ、お願いがあるっス」
今度は、レディ・アホウタが発言した。
「自分を兵士として最前線に送ってほしいっス」
「最前線に?」
ロウワンが尋ねると、レディ・アホウタはコクンと頷いた。
「そうっス。自分はパンゲア人っス。パンゲアのしでかしたことを正し、パンゲアの過ちから世界を守る義務と責任があるっス。そのために、最前線に立って戦わなければいけないっス」
「パンゲアの過ちを……あなたひとりで背負うつもりなのか?」
「ひとりではないっス」
「えっ?」
「ルキフェル将軍がいるっス」
きっぱりと、そう言いきるレディ・アホウタの姿にはいささかの迷いも疑いも存在しなかった。ただ、純粋なまでの敬意と誇りだけがあった。
「自分がこうして意識を保っているんス。まして、ルキフェル将軍が亡道の司なんかに負けるわけがないっス。いまもパンゲアのどこかで、祖国を取り返すために戦いつづけているにちがいないっス。自分はルキフェル将軍を探して、一緒にパンゲアを取りもどすっス。そのためにも、最前線に立って戦う必要があるっス」
「そういうことなら……」
そう言ったのは、野伏である。
「おれと来い」
「えっ?」
どういう意味っスか?
視線でそう尋ねるレディ・アホウタはいったん無視しておいて、野伏はロウワンに向かって言った。
「ロウワン。おれの単独行動を許してもらいたい。パンゲア領にこもるために」
「パンゲア領にこもる?」
「ああ。亡道の騎士に亡道の司。やつらと実際に戦って思いしった。やつらは力押しではどうにもならん。やつらのもつ無限の力。その力を斬り裂くことのできる技が必要だ。その技を身につけるには新たな修行をしなくてはならないし、そのためには実際に亡道の怪物どもを相手にする必要がある」
きっぱりとそう言いきる野伏の姿に、ロウワンは野伏がいかに武芸者としての誇りを傷つけられていたかを知った。
亡道の騎士との戦いでは押されたまま中断し、亡道の司には手も足も出なかった。自らを剛のものと誇る剣客にとってその事実は、許しがたい屈辱だった。その屈辱を晴らし、剣客としての誇りを取り戻す。そのために、野伏は新しい強さを求めている。
その思いをとめられるはずもない。ロウワンは静かにうなずいた。
「わかった。任せる」
「感謝する」
野伏は短く言って、軽く頭をさげた。
「では、自分も同行させてもらうっス。いまの自分には亡道の司から押しつけられた亡道の力があるっス。この力を磨き抜いて、亡道の司に叩き返してやるっス」
自分に亡道の力を与えたことを後悔させてやるっス。
レディ・アホウタの、腐り果てた肉のなかに輝くふたつの目がその思いに燃えていた。
「僕も一緒に行きたいところだけど……」
空狩りの行者が小首をひねりながら言った。
「そうもいかないよね。もし、亡道の怪物が大挙して押しよせてきたら僕の力が必要になる。僕は平等の国に残って襲撃に備えることにするよ」
「キキキ、キイ、キイキイ」
――おれもちょっと旅に出させてもらうぜ。
「おや、ビーブ? 奥さんと子どもを連れて家族旅行と洒落込むのかい?」
行者にからかうように言われて、ビーブはニッと笑って見せた。
――そいつが主目的だけどな。クベラ山地から大アトラス山嶺を巡って、野性の仲間たちに協力を求めてくる。すべての鳥たちの嘴、すべての獣たちの牙で亡道の怪物どもを引き裂いてもらうためにな。
ビーブの言葉に野伏がうなずいた。
「なるほど。たしかに、クベラ山地や大アトラス山嶺にも亡道の怪物たちは表れるだろう。しかし、広大な山岳地帯を人間の手で警護することは不可能だ。怪物たちを好きに行動させないためには動物たちの協力が不可欠。その協力を求めることができるのはビーブしかいない」
「たしかに」
と、ロウワンも野伏の言葉にうなずいた。
ロウワンは改めて仲間たちを見まわした。この場にいる誰もが自ら、それぞれの役割を背負い、全うしようとしている。そのことにロウワンは胸が熱くなった。
――そうだ。おれたちは仲間だ。この世界を守るために、それぞれに死力を尽くそうとしている仲間なんだ。この仲間がいる限り、絶対に勝てる。
ふたつの拳を握りしめ――。
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