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一一章 姉妹とお肌の手入れ
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「ふう」
と、育美は風呂上がりの体を薄めのジャージに包んで四葉家の廊下を歩いていた。
一日の仕事を終えて入る風呂はやはり、気持ちが良い。と言っても現状、『金になる仕事』はなにひとつ出来ていないのだが。
なにしろ、仕事の依頼が一件もないのだから仕方がない。先代である父親の残した部品をチェックしたり、以前の取り引き相手と連絡をとったり、志信とふたり、お互いの技術に関して交流したり……そんな、まるで研修のようなことで一日が終わってしまう。
――でもまあ、おかげで志信さんの技術が確かなのはわかった。あの腕なら確かに、たいていの仕事はこなせる。そろそろ、営業を仕掛けるべきだな。
――私はともかく、成長期の心愛ちゃんや多幸ちゃんが豆腐ばっかりって言うのは気の毒だし。早く、好きなものを好きなだけ食べられるようにしてあげないと。
そう思い、肩においたバスタオルで長い髪を拭く育美であった。
身内でもない四姉妹と一緒に暮らす以上、女になりきらなくてはならない。そう思っているので風呂上がりにも長いカツラとパッドはつけている。
と言っても、男は男なので『男の入ったあとの風呂に入りたがる若い女性はいないよな』と言うことで、風呂の順番は最後にするつもりだった。ところが、志信が異議を唱えた。
「オレはいつも風呂に入るの遅いから、お前、先に入っていいぞ」
「えっ? でも、男の入ったあとの風呂なんて入りたくないだろう?」
「お前を女にしたのはオレだぞ。そんなこと、気にしない。いいから、お前が先に入れ」
志信はあくまでもそう言い張った。
「そう言うならそうしてもいいけど……でも、そんなに風呂に入るのが遅いなんて、なにをしてるんだ?」
「な、なんでもいいだろ! とにかく、風呂にはお前が先に入れ。いいな!」
と、志信は怒ったように顔中を真っ赤に染めて言い放ったものである。
とにかく、風呂に入る順番でいつまでも言い争っていても仕方がないし、相手のほうからそう言っているのなら、住み込みの従業員として拒む理由もない。と言うわけで、他の三姉妹よりはあと、志信よりは先に入ることになっている。いわゆる『ラッキースケベ』など起こす気のない育美は、自分が風呂に入る時間をきちんと決めて、四姉妹にもそれぞれに伝えてある。
廊下を歩いて自分にあてがわれた部屋に戻ろうとするとその途中で、希見にバッタリ出会った。
「あ、育美さん。お風呂あがりですか」
「ええ」
と、育美はバスタオルで汗を拭きながら答えた。
希見はそんな育美をじっと見つめた。眉間に皺をよせ、なにやら深刻そうな表情。
「な、なにか……?」
その表情に育美はなにやら不吉なものを感じて後ずさった。
そんな育美に希見はズイッと近づいた。希見の両手が伸び、ジャージの裾をつかんだかと思うと上は胸元まで引っ張りあげ、下は膝のあたりまでずり降ろした。みぞおちから膝にかけての『男の体』がむき出しになる。
二三歳のうら若き女性の前で。
……ちなみに、下着は男物のボクサーパンツである。念のため。
「わあっ!」
育美は叫んだ。跳びすさった。性別が逆なら確実に犯罪案件な出来事に慌てふためく。
「な、なにをするんだ、いきなり⁉」
叫ぶ育美を、希見は腕を組んで『むん!』と、睨みつけた。
叱りつけるようなその表情。さすがに長女だけあって叱りなれていると感じさせる。
希見は腕組みしたまま説教口調で言った。
「やっぱり。育美さん、無駄毛処理していませんね」
「えっ? あ、ああ、それはまあ……」
女装はしていても中身は一般男子のまま。いままで無駄毛処理なんてしたことはないし、そんな発想そのものがなかった。
「ダメです! 女性にとって無駄毛は天敵! きちんと処理しなくちゃいけません」
「い、いや、でもほら、私は中身は男だし……」
「この家に住むために『女になる』って決めたんでしょう?」
「それはそうだけど……」
「わたしは育美さんのその決意に感動したんです! 自分の目的のためには男も捨てる! それこそ、真の男の意地! だから、私は決めたんです。育美さんのその覚悟に報いるため、育美さんが本物の女になるのを手伝おうって」
「あ、いや、世間体のために女装しているだけで男を捨てたつもりはないし、本物の女性になる気もないんだけど……」
育美は、希見の勢いに気圧されながらようやくそれだけを言った。しかし、当然というかべきか、もちろんと言うべきか、希見は育美の言葉など聞いていない。育美の腕をむんずとつかみ、自分の部屋に連れ込もうとする。
「ちょ、ちょっと、なに……⁉」
「いいから、わたしの部屋に来てください。無駄毛処理の仕方を教えてあげます」
――いや、まずいって! 女性の部屋でふたりきりは!
育美はさすがに内心でそう叫んだ。
それでも、脚が勝手に動き、引きずられていってしまう。抵抗できないのは命令しなれた『長女の貫禄』というものか、はたまた、自分の手首をしっかりつかむ柔らかも暖かい感触のためか、それとも――。
単に、外見からは想像もできないゴリラ並の怪力のためだったろうか。
ともかく、育美は希見の部屋に連れ込まれそうになっていた。他ならぬ希見自身の手によって。すると、
「姉ちゃん、なにやってんだ!」
志信の声がした。
――助かった!
と、育美は思った。志信はこれでかなりの常識人。きっと、とめてくれるだろう……。
そう思ったのだが、それはまだまだ四葉姉妹を知らないが故の誤解というものだった。
妹の激昂に対し、希見は当たり前のように答えた。
「育美さんに無駄毛処理を教えてあげるのよ。女になるからには必須でしょう」
――いや、だから、女になる気はないから。
「だったら、オレも付き合う!」
「なんで、そうなる⁉ ここはとめるところだろう!」
「それは無理」
突然、背中から声がした。いきなりのことに跳びあがる育美。声の主はまるで幽霊かなにかのように気配も感じさせずに近づいた中学生の三女、心愛だった。
「希見お姉ちゃんはとめられない。こうと言ったら引かないし、力では誰も敵わないから」
「うっ……」
そう言われると、背骨の痛みと共に納得するしかない。
「だから、希見お姉ちゃんと育美男姉さんをふたりきりにさせないためには、自分も参加するしかない。と言うわけで……」
心愛は静かに片手をあげた。
「わたしも参加する」
かくして――。
四葉家の希見の部屋にはタンクトップに短パンというあられも格好の美女と美少女が三人、ズラリと並ぶことに相成った。
長女の希見は天然おっとり型正統派美女。
次女の志信は長身スリムボディの男前美女。
三女の心愛はクール系無表情美少女。
三人ともタイプはちがえど、いずれもいますぐ芸能界デビューしてもおかしくないレベルの美女と美少女。そんな美女と美少女三人が腕と、腹と、脚を丸出しにして目の前に並んでいるのだ。技術畑一筋で、彼女ひとりいた試しのない身には目の毒すぎる。男性雑誌のグラビアページ並のその刺激的な格好を、堂々と眺めるほどの度胸もなく、うつむいて脂汗を流しながら、
――なんで、こうなる?
と、世の理不尽に思いを巡らすしかなかった。
希見はそんな育美の気など知らずにさっさと話を進めた。
「無駄毛処理にはシェーバーを使います」
「は、はあ……」
「シェーバーは直接、刃が肌に当たらないので肌トラブルを起こしにくいからです。いまどきのシェーバーは性能も良いですし、部位ごとに使いわけることができて丁寧なお手入れができると言う点でもポイント高いです」
と、希見をはじめとする三姉妹は聖剣を掲げる騎士のごとく、それぞれ自分愛用のシェーバーを掲げてみせる。
「反面、深剃りができないのでこまめな処理が必要というデメリットはありますが、お肌のためならそれぐらいは我慢です」
「ははあ……」
「目安としては週に一回程度ですね。それ以上になるとさすがにお肌の負担が大きくなりますから。手順としてはまず、お肌を温めることからです。暖めることでお肌が柔らかくなり、毛穴も開くので、剃りやすくなります。ですから、本当はお風呂に入ったときにすませるのが理想なんですけど、今回はお湯に浸したタオルを使います」
と言うわけで、四人分の洗面器を用意してそこにお湯を注ぎ、タオルを浸す。
「まずは、脚の無駄毛処理からはじめましょう。女性にとって脚は、普段から露出する機会の多い重要な部分ですから」
「はははあ……」
「まずは、タオルを当ててしっかり暖めます。毛穴が開いたらシェービングローションをしっかり塗ります。ローションもクリームもなしだとさすがにお肌を傷めますから。それから、シェーバーをお肌に垂直に当てて、なでるように動かします。まちがっても、強く押し当ててはいけませんよ。お肌を傷めてしまいますからね」
希見はそう言うと自ら実践して見せた。
その場に座り、むき出しの生足を前に伸ばす。剃る方の脚の膝を立ててシェーバーを押し当て、優しくなでるように動かしはじめる。志信と心愛も同じように毛を剃りはじめた。自分ひとり、なにもしないわけにはいかないので、育美も見よう見まねでシェーバーを脚に当てて動かしはじめる。
誰も、なにも言わない。シェーバーの機械音だけが部屋のなかに響いている。
――女性は毎週、こんなことをしなきゃいけないのか。大変だな。しかし……。
育美は毛を剃りながら思った。
――この状況はどうなんだ?
半裸と言ってもいい格好の女性、それも、テレビのなかでしかお目にかかれないような美女と美少女三人と同じ部屋のなか。部屋のなかには若い女性のフェロモンがいっぱいに漂い、ちょっと目をあげれば生足が飛び込んでくる。
まさに、男の夢と言ってもいいシチュエーション。しかし、それが現実となると……。
まして、彼女いない歴=年齢の二六歳男にとっては刺激が強すぎる。濃密すぎるフェロモンに頭はクラクラし、目に飛び込んでくる生足に男の本能が爆発しそうになる。
――いやいや、なにを言ってる⁉ 私は女、私は女、こんなこと、なんでもない、なんでもない……。
育美は必死に自分にそう言い聞かせ、無駄毛処理に没頭しようとする。しかし、それも無駄な抵抗。絶え間ないフェロモン臭に脳は痺れ、肉体は反応し、男の本能が耐えきれずに爆発……しそうになったその寸前、部屋の襖が開き小学生の声がした。
「育美ちゃん! 宿題、教えて」
と、育美は風呂上がりの体を薄めのジャージに包んで四葉家の廊下を歩いていた。
一日の仕事を終えて入る風呂はやはり、気持ちが良い。と言っても現状、『金になる仕事』はなにひとつ出来ていないのだが。
なにしろ、仕事の依頼が一件もないのだから仕方がない。先代である父親の残した部品をチェックしたり、以前の取り引き相手と連絡をとったり、志信とふたり、お互いの技術に関して交流したり……そんな、まるで研修のようなことで一日が終わってしまう。
――でもまあ、おかげで志信さんの技術が確かなのはわかった。あの腕なら確かに、たいていの仕事はこなせる。そろそろ、営業を仕掛けるべきだな。
――私はともかく、成長期の心愛ちゃんや多幸ちゃんが豆腐ばっかりって言うのは気の毒だし。早く、好きなものを好きなだけ食べられるようにしてあげないと。
そう思い、肩においたバスタオルで長い髪を拭く育美であった。
身内でもない四姉妹と一緒に暮らす以上、女になりきらなくてはならない。そう思っているので風呂上がりにも長いカツラとパッドはつけている。
と言っても、男は男なので『男の入ったあとの風呂に入りたがる若い女性はいないよな』と言うことで、風呂の順番は最後にするつもりだった。ところが、志信が異議を唱えた。
「オレはいつも風呂に入るの遅いから、お前、先に入っていいぞ」
「えっ? でも、男の入ったあとの風呂なんて入りたくないだろう?」
「お前を女にしたのはオレだぞ。そんなこと、気にしない。いいから、お前が先に入れ」
志信はあくまでもそう言い張った。
「そう言うならそうしてもいいけど……でも、そんなに風呂に入るのが遅いなんて、なにをしてるんだ?」
「な、なんでもいいだろ! とにかく、風呂にはお前が先に入れ。いいな!」
と、志信は怒ったように顔中を真っ赤に染めて言い放ったものである。
とにかく、風呂に入る順番でいつまでも言い争っていても仕方がないし、相手のほうからそう言っているのなら、住み込みの従業員として拒む理由もない。と言うわけで、他の三姉妹よりはあと、志信よりは先に入ることになっている。いわゆる『ラッキースケベ』など起こす気のない育美は、自分が風呂に入る時間をきちんと決めて、四姉妹にもそれぞれに伝えてある。
廊下を歩いて自分にあてがわれた部屋に戻ろうとするとその途中で、希見にバッタリ出会った。
「あ、育美さん。お風呂あがりですか」
「ええ」
と、育美はバスタオルで汗を拭きながら答えた。
希見はそんな育美をじっと見つめた。眉間に皺をよせ、なにやら深刻そうな表情。
「な、なにか……?」
その表情に育美はなにやら不吉なものを感じて後ずさった。
そんな育美に希見はズイッと近づいた。希見の両手が伸び、ジャージの裾をつかんだかと思うと上は胸元まで引っ張りあげ、下は膝のあたりまでずり降ろした。みぞおちから膝にかけての『男の体』がむき出しになる。
二三歳のうら若き女性の前で。
……ちなみに、下着は男物のボクサーパンツである。念のため。
「わあっ!」
育美は叫んだ。跳びすさった。性別が逆なら確実に犯罪案件な出来事に慌てふためく。
「な、なにをするんだ、いきなり⁉」
叫ぶ育美を、希見は腕を組んで『むん!』と、睨みつけた。
叱りつけるようなその表情。さすがに長女だけあって叱りなれていると感じさせる。
希見は腕組みしたまま説教口調で言った。
「やっぱり。育美さん、無駄毛処理していませんね」
「えっ? あ、ああ、それはまあ……」
女装はしていても中身は一般男子のまま。いままで無駄毛処理なんてしたことはないし、そんな発想そのものがなかった。
「ダメです! 女性にとって無駄毛は天敵! きちんと処理しなくちゃいけません」
「い、いや、でもほら、私は中身は男だし……」
「この家に住むために『女になる』って決めたんでしょう?」
「それはそうだけど……」
「わたしは育美さんのその決意に感動したんです! 自分の目的のためには男も捨てる! それこそ、真の男の意地! だから、私は決めたんです。育美さんのその覚悟に報いるため、育美さんが本物の女になるのを手伝おうって」
「あ、いや、世間体のために女装しているだけで男を捨てたつもりはないし、本物の女性になる気もないんだけど……」
育美は、希見の勢いに気圧されながらようやくそれだけを言った。しかし、当然というかべきか、もちろんと言うべきか、希見は育美の言葉など聞いていない。育美の腕をむんずとつかみ、自分の部屋に連れ込もうとする。
「ちょ、ちょっと、なに……⁉」
「いいから、わたしの部屋に来てください。無駄毛処理の仕方を教えてあげます」
――いや、まずいって! 女性の部屋でふたりきりは!
育美はさすがに内心でそう叫んだ。
それでも、脚が勝手に動き、引きずられていってしまう。抵抗できないのは命令しなれた『長女の貫禄』というものか、はたまた、自分の手首をしっかりつかむ柔らかも暖かい感触のためか、それとも――。
単に、外見からは想像もできないゴリラ並の怪力のためだったろうか。
ともかく、育美は希見の部屋に連れ込まれそうになっていた。他ならぬ希見自身の手によって。すると、
「姉ちゃん、なにやってんだ!」
志信の声がした。
――助かった!
と、育美は思った。志信はこれでかなりの常識人。きっと、とめてくれるだろう……。
そう思ったのだが、それはまだまだ四葉姉妹を知らないが故の誤解というものだった。
妹の激昂に対し、希見は当たり前のように答えた。
「育美さんに無駄毛処理を教えてあげるのよ。女になるからには必須でしょう」
――いや、だから、女になる気はないから。
「だったら、オレも付き合う!」
「なんで、そうなる⁉ ここはとめるところだろう!」
「それは無理」
突然、背中から声がした。いきなりのことに跳びあがる育美。声の主はまるで幽霊かなにかのように気配も感じさせずに近づいた中学生の三女、心愛だった。
「希見お姉ちゃんはとめられない。こうと言ったら引かないし、力では誰も敵わないから」
「うっ……」
そう言われると、背骨の痛みと共に納得するしかない。
「だから、希見お姉ちゃんと育美男姉さんをふたりきりにさせないためには、自分も参加するしかない。と言うわけで……」
心愛は静かに片手をあげた。
「わたしも参加する」
かくして――。
四葉家の希見の部屋にはタンクトップに短パンというあられも格好の美女と美少女が三人、ズラリと並ぶことに相成った。
長女の希見は天然おっとり型正統派美女。
次女の志信は長身スリムボディの男前美女。
三女の心愛はクール系無表情美少女。
三人ともタイプはちがえど、いずれもいますぐ芸能界デビューしてもおかしくないレベルの美女と美少女。そんな美女と美少女三人が腕と、腹と、脚を丸出しにして目の前に並んでいるのだ。技術畑一筋で、彼女ひとりいた試しのない身には目の毒すぎる。男性雑誌のグラビアページ並のその刺激的な格好を、堂々と眺めるほどの度胸もなく、うつむいて脂汗を流しながら、
――なんで、こうなる?
と、世の理不尽に思いを巡らすしかなかった。
希見はそんな育美の気など知らずにさっさと話を進めた。
「無駄毛処理にはシェーバーを使います」
「は、はあ……」
「シェーバーは直接、刃が肌に当たらないので肌トラブルを起こしにくいからです。いまどきのシェーバーは性能も良いですし、部位ごとに使いわけることができて丁寧なお手入れができると言う点でもポイント高いです」
と、希見をはじめとする三姉妹は聖剣を掲げる騎士のごとく、それぞれ自分愛用のシェーバーを掲げてみせる。
「反面、深剃りができないのでこまめな処理が必要というデメリットはありますが、お肌のためならそれぐらいは我慢です」
「ははあ……」
「目安としては週に一回程度ですね。それ以上になるとさすがにお肌の負担が大きくなりますから。手順としてはまず、お肌を温めることからです。暖めることでお肌が柔らかくなり、毛穴も開くので、剃りやすくなります。ですから、本当はお風呂に入ったときにすませるのが理想なんですけど、今回はお湯に浸したタオルを使います」
と言うわけで、四人分の洗面器を用意してそこにお湯を注ぎ、タオルを浸す。
「まずは、脚の無駄毛処理からはじめましょう。女性にとって脚は、普段から露出する機会の多い重要な部分ですから」
「はははあ……」
「まずは、タオルを当ててしっかり暖めます。毛穴が開いたらシェービングローションをしっかり塗ります。ローションもクリームもなしだとさすがにお肌を傷めますから。それから、シェーバーをお肌に垂直に当てて、なでるように動かします。まちがっても、強く押し当ててはいけませんよ。お肌を傷めてしまいますからね」
希見はそう言うと自ら実践して見せた。
その場に座り、むき出しの生足を前に伸ばす。剃る方の脚の膝を立ててシェーバーを押し当て、優しくなでるように動かしはじめる。志信と心愛も同じように毛を剃りはじめた。自分ひとり、なにもしないわけにはいかないので、育美も見よう見まねでシェーバーを脚に当てて動かしはじめる。
誰も、なにも言わない。シェーバーの機械音だけが部屋のなかに響いている。
――女性は毎週、こんなことをしなきゃいけないのか。大変だな。しかし……。
育美は毛を剃りながら思った。
――この状況はどうなんだ?
半裸と言ってもいい格好の女性、それも、テレビのなかでしかお目にかかれないような美女と美少女三人と同じ部屋のなか。部屋のなかには若い女性のフェロモンがいっぱいに漂い、ちょっと目をあげれば生足が飛び込んでくる。
まさに、男の夢と言ってもいいシチュエーション。しかし、それが現実となると……。
まして、彼女いない歴=年齢の二六歳男にとっては刺激が強すぎる。濃密すぎるフェロモンに頭はクラクラし、目に飛び込んでくる生足に男の本能が爆発しそうになる。
――いやいや、なにを言ってる⁉ 私は女、私は女、こんなこと、なんでもない、なんでもない……。
育美は必死に自分にそう言い聞かせ、無駄毛処理に没頭しようとする。しかし、それも無駄な抵抗。絶え間ないフェロモン臭に脳は痺れ、肉体は反応し、男の本能が耐えきれずに爆発……しそうになったその寸前、部屋の襖が開き小学生の声がした。
「育美ちゃん! 宿題、教えて」
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