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第四話 空の星 海の星(中)
ステージ9 (森也にとっては)試練のひととき
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そして、その日、森也たちは南沢なつみの家へとやってきた。
森也をはじめ、さくら、赤岩あきら、黒瀬ヒロ、四柴守。総勢五人の顔ぶれである。さくらは制服、森也たちはスーツを着ているがただひとり、赤岩あきらだけはいつもの羽織袴にちょんまげという『バカ殿』ファッションである。
「わたしは富士幕府の将軍だ。将軍であるからにはこれが正装。我が富士幕府の一員を迎えに行くというからには、誰がなんと言ってもこの服装はゆずらんぞ」
小さな胸を大きく張って、誰もなにも言っていないのにそう主張したあきらであった。
もちろん、森也は、あきらがそう主張して譲らないことはわかっていたのでなにも言わなかったのである。常識人からは珍獣と見られることは承知の上だが、そのために呼んだ大手出版社勤務の常識人、黒瀬ヒロである。
なつみの家は閑静な住宅街にあった。
豪邸と言うほどではないが、『こじんまり』といった感じでもない。生活水準としては上の下と言ったところか。家を見ただけでなかなかの経済的水準にあることがわかる。もちろん、その程度の経済力がなければ世界を狙えるダンサーに育てることが出来るほど、娘に金をかけられるわけもない。
広々とした庭には手入れの行き届いたコニファー――観賞用の針葉樹――が植えられ、庭造りにもかなりの金をかけていることが知れる。
森也はコニファーに視線を送ったまましきりに胸元のネクタイをいじっている。なんとも落ち着かない様子だし、顔色も少々、悪いようだ。
――慣れないネクタイで苦しいのかな?
さくらは最初、そう思ったが、ふと思い当たった。
以前にもこんな様子の森也を見たことがある。ふたりで一緒にLEOの見学に行ったときだ、そのときの森也がちょうどこんな感じだった。
落ち着きがなかったし、顔色も悪かった。まあ、いまはあのときほどではないが。
「……兄さん。もしかして、緊張してる?」
人前で無意味に見栄を張ったりするような森也ではない。妹の問いに素直にうなずいた。
「知らない人間に会うのは苦手だからな」
「いまもそうなんだ」
「前にも言ったろ。『やれば出来る』ようになったとは言え、本質的にはかわってないんだ。出来れば、知らない人間とは会わずにすませたい」
その言葉に――。
――兄さん。あの頃とかわっていないところもあるんだ。
さくらはそう思い、不謹慎ながらちょっと安心してしまった。
「なんだ、なんだ、水臭いぞ、藍条。そのときのための赤岩あきらさまだろうが。お前の苦手な分野はこのわたしが見事、担当してやる。鉄鋼船に乗って戦に出向く気でいるがいい」
と、あきらは森也の背中をバンバン叩いた。見た目ばかりは小柄で華奢、お人形のように可愛らしいというのに態度の方はとにかくデカい。
「……ああ。頼む」
――うわっ、兄さん、本当に弱気になってる。
森也の返事にさくらはそう思った。
いままで、あきらに対してこんな風に頼るような姿を見せたことはなかった森也である。
――兄さん、本当にいまも人付き合いは苦手なままなんだ。ここは、あたしが兄さんと世間の架け橋としてしっかりしないと。
そう思い、気合いを入れるさくらであった。
森也は妹の気を知ってか知らずか、大きく息を吸い込んだ。深く、ゆっくり吐き出してから言った。
「では、行くぞ」
その言い方がほとんど戦場に赴く徴用兵のよう。とても、一般人の家に挨拶に向かうだけとは思えない。よく見れば脚全体が小刻みに震えているのがわかっただろう。
それでも、とにかく、森也は家のチャイムを押した。すぐそばでまっていたのだろう。すぐにドアが開き、なつみが姿を現わした。
「いらっしゃい。まってたわ」
森也に対してはすでに脳内友だち登録しているので、敬語はもう使わない。服装もTシャツにジーンズというシンプルな私服姿。しかし、その表情は微笑ひとつ浮かべていない真剣なもので、これから来たるときへの決意が込められていた。
「またせたな。では、頼む」
「ええ」
森也たちは居間に通され、なつみの両親と面会した。どちらも四〇を過ぎたばかりの若い親だ。ふたりとも、家の外見から感じられるとおりの『やり手』といった印象がある。
大手企業のエリートビジネスマン。
一目見てそう感じさせるふたりだった。
なつみが両親に森也たちを紹介した。
「父さん、母さん。この間、話したクラスメートの緑山さくらさんと、そのお兄さんの藍条森也さん。それと……」
「お初にお目にかかる。富士幕府将軍、赤岩あきらである!」
なつみの両親は目を丸くした。
見た目ばかりはお人形のように可愛らしい女性が羽織袴にちょんまげという出で立ちで、どこぞの塾長ばりの挨拶をしてのけたのだ。目を丸くするのが当然だった。
「頭、だいじょうぶか?」と、反射的に言わなかっただけ礼儀と節度をわきまえている。
「黒瀬ヒロです」
「四柴守」
と、残るふたりも自己紹介した。
なつみの両親も頭をさげて丁寧に挨拶した。
一応の挨拶が終わり、さっそく本題。
『保護者の説得は君自身に行ってもらわなくてはならない』
森也がそう言ったとおり、最初に口を開いたのはなつみだった。
「父さん。母さん。この間、話したとおり、あたしはもう一度、舞台に立って思いきり踊りたい。藍条さんたちはそのために協力してくれる。あたしにもう一度、舞台に立つチャンスをくれる。お願い。そのことを承知して!」
「しかし……」
娘の懇願に――。
まだ若い両親は困惑の表情を浮かべた。不安を隠しきれない表情で森也たち一行を見回す。
娘の願いは叶えてやりたい。
しかし、見ず知らずの、それもこんな怪しげな連中に大切な娘を任せていいものか。
そう疑っている目だ。
あまりにももっともな疑いであり、警戒だったので、誰も不快に思ったりはしなかった。誤解されがちだが、あきらにしても自分が世間からは『変わりもの』に見られることは承知している。承知した上で自分を貫いている。
「お疑いはごもっともです」
森也が言った。
「ですが、この赤岩あきらは、見た目はともかく名の通ったマンガ家。詐欺の類いを働くのは社会的な損失が大きすぎます。そのことは、こちらの黒瀬ヒロが証明してくれます」
「わたしに関しては……」
ヒロが改めて名刺を差し出しながら言った。
「こちらの勤め先に連絡していただければ確認できます。いつでも、ご確認ください」
「あ、いや、別に疑っているわけでは……」
立てつづけに言われて気まずくなったのだろう。なつみの父親は口ごもった。
「遠慮は無用です。大切なお嬢さんに近づく見ず知らずの輩。警戒しない方がおかしいのですから。とくに、この四柴守に関しては年頃の娘をもつ親なら誰もが『近づかせたくない』と思うのが当然。ですが、医師としての技術だけは超一流。その点はなつみさんの主治医も認めております」
と、森也は一枚の封筒を取り出した。
「こちらが主治医からの紹介状となります。ご確認ください」
父親は言われるままに封を開き、なかの文書を読んだ。一瞬、安心したようになった表情が次の瞬間、より一層、深い不安を抱えたものになった。
「たしかに腕は保証するとありますが、その……」
森也はなにが書いてあるのか察してうなずいた。
「ええ。その通り。この四柴守、人体修理の腕にかけては右に出るものはいませんが、同時に女癖は徹底的に悪い。その点を隠しはしません。ですが、私としてもなつみさんをこの男の毒牙にかける気は毛頭ありません。監視は行いますし、ふたりきりにさせるようなことは決してしません。診療のときには必ずこのさくらが付き添います」
森也はそう言って妹を指し示した。
さくらも力強くうなずいた。
「任せてください。大事な友だちをひどい目に遭わせはしません」
それを聞いて――。
ふん、と、鼻を鳴らす四柴であった。
「父さん。母さん」
なつみが再び言った。
「あたしのことを心配してくれるのは嬉しい。でも、あたしはどうしてももう一度、踊りたいの。たとえ、どんなことをしても。だから、認めて。お願い」
「……うむ」
娘の必死の願いに――。
若い両親はなおさら渋い表情になった。
「御尊父。御母堂」
あきらが見た目にふさわしく時代がかった表現でなつみの両親に語りかけた。
「わたしのこの姿を見て不審に思うのは理解出来る。まことに、もっとも。しかし、わたしとて趣味や悪い冗談でこんな格好をしているのではない。富士幕府の将軍としてふさわしくあるために、この正装をまとっている」
凜とした表情でそう語るあきらにはたしかに『将軍』と言っていいだけの貫禄があった。
「そして、富士幕府はこの世界を新しくするために、地球上のあらゆる問題を解決し『月でピザを食える』世界を手に入れるために活動している。どうか、その旨を説明させていただきたい」
そう前置きしてから、あきらは滔々と富士幕府について語った。
その理念を、目的を、あますところなく語ったのだ。
その膨大な、しかも、時代がかった口調での言葉をなつみの両親がどこまで理解出来たかは疑わしい。しかし、情熱だけは伝わった。話を聞くうち『相手の真意を疑う』という意味での不審感はふたりの表情からは消えていった。
「ご両親」
あきらの言葉を引き継ぎ、森也が口にした。
「富士幕府の理念と目的に関してはいま、将軍から話されたとおりです。そしていま、富士幕府は水舞を広げようとしています。生まれた場所に関係なく誰もが自分の未来に希望をもって生きることができるよう、そんな世界を作るために。そのために、水舞の踊り手を必要としています。なつみさんにはその役割をこなせるだけの熱意がある。どうか、認めていただきたい」
森也はそう言って頭をさげた。
さくらたちもそろって頭をさげた。
やがて、父親が言った。
「……お任せしましょう」
「やったあっ!」
なつみが叫んだ。
喜びのあまり、飛びあがった。
「なつみ! 膝、膝!」
さくらが思わず心配して止めに入るほどのはしゃぎ振り。
父親はその騒ぎをよそに森也をじっと見つめた。森也もその視線を真っ向から受けとめた。父親は森也に言った。
「お任せする。そうは言ったが、信用したわけではない。まして、娘になにをしても良いなどと思っているわけではない。もし、娘や私たちを裏切るようなことがあれば、そのときは……」
「ご心配なく」
森也は父親に最後まで言わせなかった。
「あなたがなにかをするまでもない。そのときはおれの手で始末を付ける」
森也をはじめ、さくら、赤岩あきら、黒瀬ヒロ、四柴守。総勢五人の顔ぶれである。さくらは制服、森也たちはスーツを着ているがただひとり、赤岩あきらだけはいつもの羽織袴にちょんまげという『バカ殿』ファッションである。
「わたしは富士幕府の将軍だ。将軍であるからにはこれが正装。我が富士幕府の一員を迎えに行くというからには、誰がなんと言ってもこの服装はゆずらんぞ」
小さな胸を大きく張って、誰もなにも言っていないのにそう主張したあきらであった。
もちろん、森也は、あきらがそう主張して譲らないことはわかっていたのでなにも言わなかったのである。常識人からは珍獣と見られることは承知の上だが、そのために呼んだ大手出版社勤務の常識人、黒瀬ヒロである。
なつみの家は閑静な住宅街にあった。
豪邸と言うほどではないが、『こじんまり』といった感じでもない。生活水準としては上の下と言ったところか。家を見ただけでなかなかの経済的水準にあることがわかる。もちろん、その程度の経済力がなければ世界を狙えるダンサーに育てることが出来るほど、娘に金をかけられるわけもない。
広々とした庭には手入れの行き届いたコニファー――観賞用の針葉樹――が植えられ、庭造りにもかなりの金をかけていることが知れる。
森也はコニファーに視線を送ったまましきりに胸元のネクタイをいじっている。なんとも落ち着かない様子だし、顔色も少々、悪いようだ。
――慣れないネクタイで苦しいのかな?
さくらは最初、そう思ったが、ふと思い当たった。
以前にもこんな様子の森也を見たことがある。ふたりで一緒にLEOの見学に行ったときだ、そのときの森也がちょうどこんな感じだった。
落ち着きがなかったし、顔色も悪かった。まあ、いまはあのときほどではないが。
「……兄さん。もしかして、緊張してる?」
人前で無意味に見栄を張ったりするような森也ではない。妹の問いに素直にうなずいた。
「知らない人間に会うのは苦手だからな」
「いまもそうなんだ」
「前にも言ったろ。『やれば出来る』ようになったとは言え、本質的にはかわってないんだ。出来れば、知らない人間とは会わずにすませたい」
その言葉に――。
――兄さん。あの頃とかわっていないところもあるんだ。
さくらはそう思い、不謹慎ながらちょっと安心してしまった。
「なんだ、なんだ、水臭いぞ、藍条。そのときのための赤岩あきらさまだろうが。お前の苦手な分野はこのわたしが見事、担当してやる。鉄鋼船に乗って戦に出向く気でいるがいい」
と、あきらは森也の背中をバンバン叩いた。見た目ばかりは小柄で華奢、お人形のように可愛らしいというのに態度の方はとにかくデカい。
「……ああ。頼む」
――うわっ、兄さん、本当に弱気になってる。
森也の返事にさくらはそう思った。
いままで、あきらに対してこんな風に頼るような姿を見せたことはなかった森也である。
――兄さん、本当にいまも人付き合いは苦手なままなんだ。ここは、あたしが兄さんと世間の架け橋としてしっかりしないと。
そう思い、気合いを入れるさくらであった。
森也は妹の気を知ってか知らずか、大きく息を吸い込んだ。深く、ゆっくり吐き出してから言った。
「では、行くぞ」
その言い方がほとんど戦場に赴く徴用兵のよう。とても、一般人の家に挨拶に向かうだけとは思えない。よく見れば脚全体が小刻みに震えているのがわかっただろう。
それでも、とにかく、森也は家のチャイムを押した。すぐそばでまっていたのだろう。すぐにドアが開き、なつみが姿を現わした。
「いらっしゃい。まってたわ」
森也に対してはすでに脳内友だち登録しているので、敬語はもう使わない。服装もTシャツにジーンズというシンプルな私服姿。しかし、その表情は微笑ひとつ浮かべていない真剣なもので、これから来たるときへの決意が込められていた。
「またせたな。では、頼む」
「ええ」
森也たちは居間に通され、なつみの両親と面会した。どちらも四〇を過ぎたばかりの若い親だ。ふたりとも、家の外見から感じられるとおりの『やり手』といった印象がある。
大手企業のエリートビジネスマン。
一目見てそう感じさせるふたりだった。
なつみが両親に森也たちを紹介した。
「父さん、母さん。この間、話したクラスメートの緑山さくらさんと、そのお兄さんの藍条森也さん。それと……」
「お初にお目にかかる。富士幕府将軍、赤岩あきらである!」
なつみの両親は目を丸くした。
見た目ばかりはお人形のように可愛らしい女性が羽織袴にちょんまげという出で立ちで、どこぞの塾長ばりの挨拶をしてのけたのだ。目を丸くするのが当然だった。
「頭、だいじょうぶか?」と、反射的に言わなかっただけ礼儀と節度をわきまえている。
「黒瀬ヒロです」
「四柴守」
と、残るふたりも自己紹介した。
なつみの両親も頭をさげて丁寧に挨拶した。
一応の挨拶が終わり、さっそく本題。
『保護者の説得は君自身に行ってもらわなくてはならない』
森也がそう言ったとおり、最初に口を開いたのはなつみだった。
「父さん。母さん。この間、話したとおり、あたしはもう一度、舞台に立って思いきり踊りたい。藍条さんたちはそのために協力してくれる。あたしにもう一度、舞台に立つチャンスをくれる。お願い。そのことを承知して!」
「しかし……」
娘の懇願に――。
まだ若い両親は困惑の表情を浮かべた。不安を隠しきれない表情で森也たち一行を見回す。
娘の願いは叶えてやりたい。
しかし、見ず知らずの、それもこんな怪しげな連中に大切な娘を任せていいものか。
そう疑っている目だ。
あまりにももっともな疑いであり、警戒だったので、誰も不快に思ったりはしなかった。誤解されがちだが、あきらにしても自分が世間からは『変わりもの』に見られることは承知している。承知した上で自分を貫いている。
「お疑いはごもっともです」
森也が言った。
「ですが、この赤岩あきらは、見た目はともかく名の通ったマンガ家。詐欺の類いを働くのは社会的な損失が大きすぎます。そのことは、こちらの黒瀬ヒロが証明してくれます」
「わたしに関しては……」
ヒロが改めて名刺を差し出しながら言った。
「こちらの勤め先に連絡していただければ確認できます。いつでも、ご確認ください」
「あ、いや、別に疑っているわけでは……」
立てつづけに言われて気まずくなったのだろう。なつみの父親は口ごもった。
「遠慮は無用です。大切なお嬢さんに近づく見ず知らずの輩。警戒しない方がおかしいのですから。とくに、この四柴守に関しては年頃の娘をもつ親なら誰もが『近づかせたくない』と思うのが当然。ですが、医師としての技術だけは超一流。その点はなつみさんの主治医も認めております」
と、森也は一枚の封筒を取り出した。
「こちらが主治医からの紹介状となります。ご確認ください」
父親は言われるままに封を開き、なかの文書を読んだ。一瞬、安心したようになった表情が次の瞬間、より一層、深い不安を抱えたものになった。
「たしかに腕は保証するとありますが、その……」
森也はなにが書いてあるのか察してうなずいた。
「ええ。その通り。この四柴守、人体修理の腕にかけては右に出るものはいませんが、同時に女癖は徹底的に悪い。その点を隠しはしません。ですが、私としてもなつみさんをこの男の毒牙にかける気は毛頭ありません。監視は行いますし、ふたりきりにさせるようなことは決してしません。診療のときには必ずこのさくらが付き添います」
森也はそう言って妹を指し示した。
さくらも力強くうなずいた。
「任せてください。大事な友だちをひどい目に遭わせはしません」
それを聞いて――。
ふん、と、鼻を鳴らす四柴であった。
「父さん。母さん」
なつみが再び言った。
「あたしのことを心配してくれるのは嬉しい。でも、あたしはどうしてももう一度、踊りたいの。たとえ、どんなことをしても。だから、認めて。お願い」
「……うむ」
娘の必死の願いに――。
若い両親はなおさら渋い表情になった。
「御尊父。御母堂」
あきらが見た目にふさわしく時代がかった表現でなつみの両親に語りかけた。
「わたしのこの姿を見て不審に思うのは理解出来る。まことに、もっとも。しかし、わたしとて趣味や悪い冗談でこんな格好をしているのではない。富士幕府の将軍としてふさわしくあるために、この正装をまとっている」
凜とした表情でそう語るあきらにはたしかに『将軍』と言っていいだけの貫禄があった。
「そして、富士幕府はこの世界を新しくするために、地球上のあらゆる問題を解決し『月でピザを食える』世界を手に入れるために活動している。どうか、その旨を説明させていただきたい」
そう前置きしてから、あきらは滔々と富士幕府について語った。
その理念を、目的を、あますところなく語ったのだ。
その膨大な、しかも、時代がかった口調での言葉をなつみの両親がどこまで理解出来たかは疑わしい。しかし、情熱だけは伝わった。話を聞くうち『相手の真意を疑う』という意味での不審感はふたりの表情からは消えていった。
「ご両親」
あきらの言葉を引き継ぎ、森也が口にした。
「富士幕府の理念と目的に関してはいま、将軍から話されたとおりです。そしていま、富士幕府は水舞を広げようとしています。生まれた場所に関係なく誰もが自分の未来に希望をもって生きることができるよう、そんな世界を作るために。そのために、水舞の踊り手を必要としています。なつみさんにはその役割をこなせるだけの熱意がある。どうか、認めていただきたい」
森也はそう言って頭をさげた。
さくらたちもそろって頭をさげた。
やがて、父親が言った。
「……お任せしましょう」
「やったあっ!」
なつみが叫んだ。
喜びのあまり、飛びあがった。
「なつみ! 膝、膝!」
さくらが思わず心配して止めに入るほどのはしゃぎ振り。
父親はその騒ぎをよそに森也をじっと見つめた。森也もその視線を真っ向から受けとめた。父親は森也に言った。
「お任せする。そうは言ったが、信用したわけではない。まして、娘になにをしても良いなどと思っているわけではない。もし、娘や私たちを裏切るようなことがあれば、そのときは……」
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