厨二病だった高校一年生に描いた「堕天の殺戮者:キリアン・フランヴェルジュ・ブラッドレイ」が、社会人になった私の召喚に応じてくれたので

松本雀

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私たちは守り守られ

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「あのさぁ。」

その声が聞こえたのは、警備員と私の間に緊張が張り詰める最中だった。

「最初からずっと聞いてたけど――そいつら、盗撮を注意されたら『キモい』だの『ババア』だの言ってましたよ。」

最初に声を上げたのは、若い男性だった。フード付きのパーカーを着た彼は、肩にリュックをかけたまま立ち止まり、女子たちをまっすぐ見据えている。目立つ風貌ではないけれど、その声には揺るぎないものがあった。

――キモい、ババア。

その言葉が耳に蘇る。その時の怒りと、傷つきながらも耐えた自分自身が頭に浮かんで、胸が締め付けられる。けれど、今度は私一人ではなかった。その事実が、かすかに私の中の不安を溶かしていく。

彼はキリアンを指さして言葉を続けた。

「それを聞いて、お兄さんが庇ったんでしょ。」

また別の声が上がる。今度はショートカットの女性だ。彼女は腕を組みながら女子たちを鋭い目で見つめている。その視線には明らかな軽蔑が込められていた。

「私も聞いてたけど――『拡散してやる』とか言ってたよね?あのロリータ服の子を撮ろうとしてたじゃん。」

今度は男性の声が。スーツ姿の彼は、さっきまで商品棚の陰で見ていたらしく、少し緊張した面持ちで口を開いた。

「スマホが壊れたのは……その、よくあるバッテリーの膨張が原因じゃないですかね。ニュースでも聞いたことあるし。」

――バッテリーの膨張……?

私はその言葉に驚きながらも、心の中で安堵が広がるのを感じた。そうだ、その説明なら、この場の状況をある程度納得させることができるかもしれない。

「ああ~…夕方のニュースでやってたな。」
「確かに、最近そういう事故多いよね。」

さざめきの中から、また別の声が飛んだ。

今度は中年の女性3人組で、彼女たちも少し緊張した様子でこちらを見ていた。

「あのさ、このお兄さんとかお姉さんを責めるのはちょっとおかしいんじゃない?」

「…そもそも、この子たち通路で広がって歩いていて本当に迷惑だったんだけど。」

「そういえば…『ブス川』とか言ってたのも聞こえたけど?あれ、完全に虐めでしょ。」

人々の声が、次々と場に響く。それはまるで、見えなかった真実が少しずつ明るみに出てくる瞬間のようだった。

――虐め。

その言葉が場に響いた時、女子たちの顔が一斉に強張るのが見えた。さっきまでの余裕は完全に消え去り、代わりに混乱と焦りが浮かんでいる。

「ちょ、ちょっと待ってよ。そんなの違うし!」
「嘘ばっかり!ありえない!!」

必死に反論しようとする彼女たちの声は震えていた。それは今まで聞いていたどの声よりも小さく、力を失っていた。

証言は続く。

「いや、あの子たちサイテーだよね。」
「何がしたかったわけ?ロリータ服の子、ただ歩いてただけじゃん。」
「注意されて逆ギレしてるの、めっちゃ見苦しいんだけど。」

周りの視線が女子たちに集中する。その視線には明らかな非難が込められていて、女子たちの立場がどんどん悪くなっていくのがわかる。

――守られている。

その思いが胸の中で広がる。私だけじゃない。ロリータ服の少女も、そしてキリアンも――周りの人たちが私たちを守ろうとしてくれている。その事実に気づいた瞬間、目頭が熱くなるのを感じた。

背後のキリアンは相変わらず静かに立っていて、その堂々とした姿が私を支えている。同時に、私もまたこの場で、誰か支え、何かを守るべき存在の一人であることを自覚した。

――これ以上、彼女たちの嘘に負けるわけにはいかない。

私はもう一歩、前に踏み出した。震える足をしっかりと地面に据え、次に何をすべきかを考える。声が震えても構わない。これから私が言うべきことを、ようやく自分の中で理解した気がした。
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