厨二病だった高校一年生に描いた「堕天の殺戮者:キリアン・フランヴェルジュ・ブラッドレイ」が、社会人になった私の召喚に応じてくれたので

松本雀

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賞賛

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「何あれ、うっざ。」
「意味わかんないんだけど。」

女子たちが捨て台詞を吐きながら立ち去る。背中越しに私たちを振り返りもしない。最後に一度だけ「バカじゃないの?」と吐き捨てた後、彼女たちは店の外へと消えていった。

――去った。それだけでも十分だ。

心の中で安堵が広がると同時に、急に体が軽くなるのを感じた。それまで私を押しつぶしていた重圧が消えたことに気づいたのだ。

「よく言ったよ!」

その声が聞こえたのは、彼女たちの姿が完全に見えなくなった後だった。

振り返ると、年配の男性が私に向かって片手を挙げていた。仕事帰りと思しきスーツ姿の彼は、どこか温かい笑顔を浮かべている。それはまるで、心からの賞賛を送るような、そんな笑顔だった。

その瞬間、ぱちぱちと控えめな拍手が周囲から起こり始めた。

――私に向けられた拍手だ。

その事実が信じられなくて、私はしばらくただ立ち尽くしていた。恥ずかしくて目を伏せたくなる気持ちと、見てほしいという相反する感情が胸の中でせめぎ合っている。

「すごいじゃん、あのお姉さん。」

「勇気あるよ。俺、ああ言う風に言えない。」

「思ってても、中々注意できないよね。」

――すごい?私が?

その言葉に戸惑いを覚える。すごいなんて言われるような人間ではなかったから。ずっと何もできない人間だった。過去の自分が頭の中でひょっこり顔を出す。教室の隅で誰にも話しかけられず、うつむいていた私が、声を上げることすらできなかった私が。

――でも、今は少しだけ違う。

変わりたいと思ったわけではない。ただ、あのロリータ服の子を守らなければいけないと思った。それが私の中のどこかを動かしたのだ。周りの目や証言に支えられたのかもしれない。でも、それ以上に、私自身が動かないと何も変わらないと思ったのだ。

「さあ、こちらへ。」

拍手が続く中で響いたのは、落ち着いた男性の声だった。

「状況を確認させていただきたいので、奥の部屋にご案内します。」

責任者らしき男性の声に、私ははっとして顔を上げた。スーツ姿の彼は丁寧に会釈をしながら、私たちを奥へ案内しようとしていた。その横には警備員が控えている。彼らの態度には冷たさや疑念は感じられない。むしろ、その表情は真剣そのもので、事態をしっかりと把握しようという意思が感じられた。

私は一瞬躊躇したが、彼らの表情が真剣だったので、無言で頷いた。買い物袋を持ち直しながら、ふと背後のキリアンを見上げる。彼はいつものように冷静な表情を崩さず、拍手を送る人々の中を悠然と歩いていた。

――そういえば、周りの人たちは彼をどう思っているんだろう?

その疑問は、すぐに耳に入った言葉で解消された。

「コスプレのお兄さん、すごい迫力だったよね。」
「そうそう!全然怯まなくって尊敬するわ。」
「イベントか何かの宣伝じゃない?普通にモデルさんかな?」

人々はキリアンをコスプレイヤーとして見ているらしい。それも、目立つけれど、好意的な視線を向けられているのが少し面白かった。私が描いたキャラクターが、現実の人々にこうして見られている。奇妙な感覚だった。

「妖狐、行こう。」

キリアンの声にはいつものように確かな安心感があった。それが背中を押してくれるような気がして、私は短く頷いた。

案内されたのは店内の奥、普段は従業員が出入りしているであろう扉の向こう側だった。冷たい蛍光灯の光が私たちを照らし、まるで異世界への入り口のように見えたその扉を、私は心の中で小さく息を吸いながら潜り抜けた。
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