厨二病だった高校一年生に描いた「堕天の殺戮者:キリアン・フランヴェルジュ・ブラッドレイ」が、社会人になった私の召喚に応じてくれたので

松本雀

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問いかけ

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布団の中は狭くて暗い。けれど、この狭さと暗さが今の私にはちょうどいい。息が詰まりそうになるその空間で、私は自分の考えから逃げられずにいる。

頭の中を、過去の記憶が駆け巡る。高校一年生の頃。あの頃、私は現実から逃げるために創作をしていたんだろうか?……いや、違う。そうじゃない。

私は、ただ楽しかっただけだ。あの頃の私は、図書室で気になる本を手に取ってはページをめくり、格好いい漫画を読みながら「こんなキャラクターを作りたい」と胸を躍らせていた。

ただ、それだけだった。逃げるためじゃなく、楽しいから、やりたかったから。

自分の世界を創るのが、何よりも幸せだった。自分の中にあるものが、形になっていくのが嬉しかった。

あの頃の私は、間違いなく何かを信じていた。夢という言葉はどこか気恥ずかしいけれど、自分の中にある「好き」を信じて、それを描き出すことで自分がどこか特別な存在になれると信じていた。

「ブラッド・ヘイヴン」がそうだ。堕天の殺戮者キリアンも、姫乃宮妖狐も、全部が私の頭の中で輝いていた。休み時間中、ノートに走らせたシャープペンの先から生まれる世界が、本当に楽しかった。私にとって、あの世界は現実以上に大切なものだったのだ。

でも、それをいつの間にか忘れてしまった。いや、忘れたふりをしていただけかもしれない。気がつけば、ノートを開くことすらしなくなっていた。創作が楽しかったはずなのに、それがただの「黒歴史」として脳の片隅に押し込められるようになっていた。

「創作が好き」だということが、いつの間にか恥ずかしいことになってしまった。自分の描いたキャラクターや世界を語るなんて、もう耐えられないくらい、自意識が疼く行為に思えるようになっていった。

――じゃあ、その代わりに私は何をしてきたんだ?

布団の中で目を閉じると、頭に浮かぶのは現実だけだ。周りの人たちはみんな、当たり前のように人生のステップを踏んでいった。結婚して、家庭を持って、仕事でもそれなりに評価されて。みんな、いつの間にか「大人」になっていた。

――私は、何をしていた?

心の中で問いかけてみても、何も返ってこない。ただ、過去の自分が、あの頃の私が、冷たい目で私を見下ろしているのがわかる。「何もしてないんだね」――そう言われている気がした。

私はただ、何かを恐れていた。変わるのが怖かったし、変わらないのも怖かった。だからどこにも行けずに、ただ時間を浪費してきただけだった。

「何をしてたんだろう……私……。」

思わず漏れた声が、布団の中で反響する。それはまるで、私自身を追い詰めるかのような問いかけだった。結婚もせず、誰かと大切な関係を築くこともなく、仕事だって平凡なまま。あの頃夢中だった創作も、いつの間にか手放してしまった。結局、私は何も成し遂げていない。

考えるほどに胸が苦しくなり、喉の奥が締めつけられる。体を丸めて、頭まで布団を被る。声なんて出さない。出せるはずがない。でも、気づけばその静寂を破ったのは、私自身だった。

「う……くっ……。」

抑えたつもりの嗚咽が漏れ出す。息を呑み込もうとするたびに、それが逆に喉を震わせる。涙が流れるのがわかる。久しぶりに泣いた。いや、もしかしたらこんな風に泣くのは初めてかもしれない。

泣きながら、私は自分の好きだったものたちを思い出していた。かつて夢中になって描いたキャラクターたち。あの時の私の輝きは、今どこに行ってしまったのだろう?

胸の奥がぎゅっと締めつけられる。この痛みはなんだろう?後悔?それとも、羨望?いや、違う。もっと原始的な感情――「取り戻したい」という欲望。あの頃の私が持っていたものを、今の私にも取り戻したいという切実な願い。

ーーでも、どうすればいい?こんな自分に、何ができる?

その問いの答えは、きっとどこにもない。布団の中に閉じこもる私には、答えを探す力も残っていない。ただ涙を流して、自分の過去と、今の自分を思いながら、嗚咽を漏らすことしかできない。

泣いても何も変わらない。そう思いながらも、涙は止まらなかった。
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