一席お付き合い

那偽沙

文字の大きさ
上 下
3 / 7
夏の落語会

寿限無 2

しおりを挟む
寿限無は親が子供の名前を考えるがなかなか思いつかない為、識者しきしゃの方に知恵を求めたらべらぼうな長さになるという話である、夫婦の問答の後大家さんおおやさんご隠居ごいんきょ和尚おしょうさん等を訪ねる事で話が進む。

「『あのご隠居は物知りだっていうけどなぁ、適当に煽てるおだてるって…かかあも無茶いうよ、ご隠居、ご隠居』

さて、家を出た熊さん、ぶつくさと文句をいいながらもご隠居さんの家にやって来て、コンコンっと戸を叩くと扉がガラッと開きましてご隠居さんが出てくる

『おやおや、誰かと思えば熊さんじゃないかい、まぁ上がんなさいな、今日はどうしたんだい?金なら貸さないよ』

『いや、貸して欲しいのは金じゃなくて知恵の方なんですがね、いやね俺んっとこにガキが産まれましてね今日で初七日しょなのか…じゃなくてお七夜おしちやなんですけどなかなか名前が決まんないんですよ』

『なるほどのぉ、それでワシに名前を考えて欲しいと、どんな名前がいいんだい?なに?長生きできる死なないような名前?まぁ死なないのはともかく長生きか』

そこからご隠居さん、鶴は千年生きるから鶴太郎はどうだと聞くと熊さんは千年ぽっちじゃ可哀想だ、亀は万年だから亀太郎と聞くと万年だけ可哀想だという

『まったく…ずいぶんと欲張りだねぇ、まぁ子供の事を思うんだそれくらいがちょうどいいんだろうねぇ、それならさ寿限無じゅげむなんてのはどうだい?』 

『じゅ…寿限無?なんですその…じゅげむってのは』

『寿に限り無しと書いて寿限無、寿…つまり寿命に限りが無い意味じゃな』

『へ~そいつぁいいですね、寿限無かぁ~もっとないですか?』

五劫ごこうのすりきれ、これはな天女様が下界に降りてきて持っている羽衣はごろもで岩をこする、これで擦った岩がなくなるのが一劫いっこうそれが五回だから途方もしれながい年月の事だ』

『へぇ~天女様ってだけで縁起がいいですね、もっとないですかね、』

『そうだねぇ、いちいちリアクション挟まれたら話が中々前に進まないからいっぺんに行くからね、まずは海砂利水魚かいじゃりすいぎょこれは海の水や砂利に魚は尽きることはないという意味さね、水行末雲来末風来末すいぎょうまつうんらいまつふうらいまつ、水や雲、風の行く末はわからないという意味だ、食う寝る所に住むところ、人間が生きていくのに必要な物だ、藪柑子やぶらこうじのぶらこうじ、とても縁起がよい植物の名前だ、パイポパイポパイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、昔唐土もろこしという国にあったとても栄えか国の名前と大変ながい長生きした王様と王妃様の名前だ、ポンポコピーのポンポコナ、これは先に話した王様と王妃様とご子息ごしそくご令嬢ごれいじょうの名前でなこのお二人も長生きなされたそうな、長く久しい命と書いて長久命ちょうきゅうめいそれを助けると書いて長助ちょうすけ、まぁこんなところだろうな、いいのあったかい?』

『そうですねぇ~、かかあと相談したいんでね紙にでも書いて貰えねぇですか?』 

『しかたないな、ほらここに書いたから、いい名前をつけるんだよ』

ってんで、熊さんご隠居の家からてめぇの家に帰ってった」
しおりを挟む

処理中です...