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第3章  闇の奥底

ⅩⅣ

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「そうだよな。せっかく、エルザさんが用意してくれた宿もパーになる……。だが、こんな所で他の人に正体がバレるのもな……」

 他に何か、いい手がないか考え込む。

 考えている時間が長いほど、時間が刻々と過ぎていく。乗客は、車内の中で狼狽えている。運転車両さえ、無事だったら各駅に連絡出来たのだが、その手段さえもと出されている状況。

「考えている暇があったら歩くしかないようね。少々、気に食わないけど……」

「だよな……。俺たちがいなくても何とかなるだろ」

「それに私たちが、一緒にいる方が彼らにとって危険よ」

 二人は、ここから次の駅まで歩くことを決意した。

 屋根から飛び降り、車内にある荷物を手に取ると、窓から外へと出た。

「あんたら、何をしているんだね⁉︎」

 丁度、その様子を見ていた乗客の男が話しかけてきた。

「ここから歩いて、次の駅に向かうんだよ!」

 ボーデンが答える。

「はぁ?  ここから何キロあると思ってるんだね⁉︎  ここでじっとしといた方がいい‼︎  車内で待機しておきなさい!」

 男は、必死に二人を引き留めようとする。だが––––

「大丈夫、大丈夫。こういう事には慣れってるから!  おっさんも気をつけて飛びを続けてくれよ」

 ボーデンは、そう言い残すと、ラミアと一緒に次の駅へ向けて歩いていく。

「おーい、やめた方がいいぞ‼︎  絶対に!」

 男は声を掛けるが、ボーデンはそれに答えるかの様に手を振った。

 そのまま歩いていく二人は、次第に小さくなっていった。

「おいおい、本当に行っちまったよ……。ここから何時間以上かかると思っているんだ?」

 男は、呆れ返って二人を呼び止めようとした自分がバカらしくなった。

「はぁ……仕方ねーな」

 男は、服のポケットから小さな紙切れを取り出し、口笛を吹くと一羽の鳥が大空を飛んでくる。窓に止まり、男はその鳥の足首に髪を結んで話しかける。

「これをあいつに頼むわ」

 男は自分の飼い慣らしている鳥に言った後、大空へと再び羽ばたいた。

 その様子を最後までじっくりと確認し終えると、男は車内で迎えが来るのを待った。

「さて、困った事になったねぇ。早く着いてくれよ」

 そのまま目をつぶった。

 風が再び無風になる。暑さが再び戻ってくる。
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