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第4章  灼熱の魔法師

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 ボーデンは話を逸らそうとする。

「言う気がないのか?」

 エレキは微笑みながら、両手をボキボキと鳴らし、ボーデンを脅しにかかる。

「言う気がないな? お前は昔から口が軽いからな、少佐よりもそこだけは信用できねぇ!」

 二人は睨み合いながら、口元は笑っているようで笑っていない。

「ふっ……」

「ははは……」

 二人の間に強い魔力を感じる。

 風がざわめき、駅のホームの壁や屋根がガタガタと音を立てる。

「ねぇ、私を止めた貴方が喧嘩を始めてどうするのよ……」

 ラミアは二人を見て、さっきまでの自分が馬鹿馬鹿しくなった。

 二人の睨み合いに周りの人々がちらほら注目する。

(不味いわね……)

 ラミアは、騒ぎが大きくなる前に二人の手を繋ぐ。

「ほら、二人とも行くわよ。ボーデン、貴方、さっき私に言ったことを忘れてないわよね?」

 ラミアは、男二人を引っ張りながら改札口を一直線に目指す。

「おい、そんなに引っ張るなよ!」

「うるさいわね。いい加減にしないと、私が二人と戦闘不能にするわよ」

 ラミアは、恐ろしい目つきでボーデンとエレキを睨みつける。

 赤い瞳を出してはいないものの、威嚇だけで二人の勢いを一瞬にして止めるのは、やはり最古の吸血鬼である。

 改札口にたどり着くと、三人分の乗車券を駅員に渡し、駅の外へと出る。

「い、いつの間に……」

 持っていたはずの入場券を盗られていた事に気づかなかったエレキは、ラミアの手口に驚く。

「お、お前……そんな手癖《てくせ》、いつの間に覚えたんだ?」

「前から覚えているわよ。ちなみに少佐の手帳も勝手に盗み見たわ」

「それって、窃盗じゃねぇーのか?」

「いいのよ。単なる手品みたいなものよ。魔法なんて使っていないわ」

「て、手品ねぇ……」

 ボーデンは、それを聞いて苦笑いをする。

「ちなみにこの前、少佐の様子がおかしかったからあの手紙の内容を復元してみたけど、私が思っていたよりも立ちが悪かったわ。知りたい?」

 ラミアは、ボーデンに確認を取る。
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