俺のユニバーサルライフは要するにあまりいいものではなく青春的な展開などあり得ない

ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ

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第3章  時には夢を見たいと思うことがある

018  時には夢を見たいと思うことがあるⅩ

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「ま、今日は二人とも疲れただろうから話は後日と言うことでいいかな」
 藤原先生帰ってきた俺たちに飲み物を渡しながらそう言った。
 気づけば、陽は西の方へ沈もうとしており辺りは暗くなってきた。時刻は午後の五時半。これから少しずつ昼間は長くなっていくが今のこの時間帯は少し冷たい風が吹いて来る。急いで服を変えて持ってきたジャージを着た。
「今回は残念だったわね。見ていたけど、あのゲーム以外、本当に彼女はいい動きをしていたわ」
 着替えている時、冬月が近づいてきて声をかけてきた。
「まあな。本当は優勝する気でいたんだけどな。相手のペアがそれだけ息があっていたということだ」
「そうね。急増ペアがここまでやるとは思ってもいなかったし。それに彼女の表情を見て……。あんなにもすがすがしい表情をしているわ」
 振り返って、笑顔で先生と話している夏目を見る。
「そうだな。これで良かったんだろうな」
 そして、一時話をしながら現地解散となった。


 数日後、夏目なつめが久しぶりに研究室にやってきた。
 スポーツをするときの格好よりも私服を着ている彼女は女らしく可愛らしかった。
「……久しぶりね。元気にしてた?」
 冬月から出されたお茶を一気に飲み干す夏目を見つめたまま聞いた。
「う、うん。あの後、少しずつ練習でも試合でも調子が良くて、昨日、県の大きな大会があったんだけど……簡単にはうまくいかないね。結局のところ、ベスト8止まりだったよ」
「すごいじゃない。ちゃんと経験を生かしているわね」
 冬月と夏目は楽しそうに話を続ける。
「それで自分的には答えは見つかったのか?」
「ううん……。でも、天道てんどう君のおかげできっかけは掴めた気がする」
「さいで……」
 俺は少しうれしそうにそっぽ向いた。
「でも、これで俺の研究も少し進んだことだし今回はこれで良しとしよう。夏目、お前に提案があるんだが聞いてみる気はないか?」
 藤原先生はパソコンの電源を切り、俺の隣に座った。
「な、何ですか?」
「お前、うちのゼミに入る気はないか?人は多い方が俺の研究にも役立つ。無論、今後も関わった奴にはこうやって誘うつもりで入るがどうする?」
 先生はこの研究に関わっている人にはどうしても入ってもらいたいらしい。なんとなくだが先生の考えも分かるような気がした。
 と言うことは、毎回、あることにこの部屋には被験者《ひがいしゃ》が集めるということだ。一体どうなるんだろうな……。
「まあ、たまに遊びに来る程度ならいいですけど……」
「そうか。いやー、良かった。断られたらどうしようかと考えていたところだ。本当に良かった」
 絶対、断られたら無理やりにでもいるはずだったですよね。あんた……。
 先生は喜びながらウキウキとコーヒーを入れた。
 と、話をしていると扉の方から叩く音が聞こえてくる。ここは四階だ。あまり人は通らない区域になっている。
 扉が開くと、一人の少年が入って来た。
「ここに天道信司てんどうしんじ入るか」
 大声で耳を塞ぎたくなるような挨拶に誰もが引く。
 どこかで見たような声に右手には将棋の本を持ってずかずかと部屋に入ってくる。黒髪黒目に長いズボンに薄い長袖の上にパーカーを着ていた。
 その様子に冬月ふゆつきは嫌な表情をする。
「……誰?」
「おお、これは失礼した……。ひょっとして俺の事を知らないのか?まあ、仕方が無いよな。あっちの世界では有名だけどな……」
 冬月が訪ねると大きな声を持つ少年は平然と何も感じずにぺらぺらと口を滑らし、話し続ける。
「あっちの世界……?」
 夏目も?マークを浮かべながら首を傾げる。二人ともこの少年の事を全く知らない。
「それで何か用?」
「うむ、ここにいるはずの天道という男に用があったんだ」
「天道君ならそこにいるわよ」
 さらりと冬月はソファーの裏で身を隠している俺の居場所を指さして教えた。なんで、そこで教えるんだよ……。俺が隠れたのを少しは察しろよ。この女……。俺はそいつの顔を見るだけで血の気が引くように顔が青ざめる。
「あ、思い出した……。お前、将棋界の吉井善政よしいそしまさ五段だろ。今年になってほとんどのタイトル戦に出ていただろ」
 先生がその名を口にした瞬間、俺の脳裏のうりには拒否反応を起こすぐらいの思いがよみがえってきた。
 俺は仕方なく姿を現すとそいつは俺に近づいてきた。
「いやー久しぶりだな。お前がここにいるとは思わなかったぞ。結構探し回って、『天道って誰?』言われたんだぞ。それが恥ずかしくて面倒だった」
「いやいや、俺の事は探さなくてもいいだろ。別に……」
「そんなこと言うな。そういえば、あいつもこの大学らしいぞ」
「いや、俺は一人の方が好きだから会いたくないというか……。それにそんなに近づくな。気持ち悪い」
「お前、そんな年になってまでそんなこと言うのか?呆れた。少しは俺の話でも聞けよ」
「はいはい、それで何?ないなら帰れ」
「うむ。ではない。俺はお前に用があって来たんだ。俺と今度『VS』してくれ。頼む。今度のタイトル戦で勝てば挑戦者になれるんだよ」
「はぁ?タイトル戦だ?お前が……?嫌だね。何時間付き合わされるか知れたもんじゃない。大体なあ……」
 善政の勢いに俺は面倒に回避しながら適当に答えるが、その度に次から次へとその上を行く。誰か、どうにかしてくれと助け船を冬月達に合図するが、気づかないふりをする。
 ふざけるなよ‼
 こんなに俺が困っているのにああ、誰か本当にこの状況をどうにかしろよ。
「まあ、落ち着け。まずは深呼吸でもしろ。そして、座れ。以上だ」
 俺は無理やりソファーに座らせた。そして、「最悪だ」と小さく呟きながら先生の椅子に勝手に座った。
「この人は誰なの?」
 と、冬月に聞かれて俺は溜息をつきながら渋々と答えた。
「こいつは吉井義正。将棋のプロ棋士、段位は五段。この県の出身であり、俺の古いなじみのある奴だ。つまり、幼馴染おさななじみと言うわけだ」
 そう言うと、吉井は楽しそうに出されたお茶を丁寧に飲んでいた。
「あなたにそんな友達がいたのね」
「ねぇ、聞いてた?幼馴染みって言っただろ」
 俺は冬月に言い返す。
 話の話題の本人はゆったりと休んでいた。よく見れば、ポケットには扇子せんすを忍ばせており、風格ふうかくあるなあと思った。
「俺は吉井善政。将棋のプロだ。まあ、よろしく頼むな」
 と、大声で挨拶をして、また、面倒な奴と出会ってしまったなと、俺はつくづくそう思いながら目を閉じた。
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