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無口な獣人と出会った日
03.村と二人の請負人1
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「あれ、依頼の村か?」
「だろうな」
夕方が近づき日が翳る道で、俺とガルドさんは足を止めた。足の速いオレ達が一日歩いてきて、このままだと野営を考えなきゃならない、そんな時だった。
ヴァルノートを出て南に向かう街道から東にそれて、丘陵地帯を抜ける曲がりくねった道の行き止まり。手入れの行き届いていない畑の先に、木の柵に囲まれた集落が見えた。
「元気ない。夜の前、畑仕事終わる。家帰る、いる」
「確かに、畑で作業してる人間が見当たらない」
道の左右に広がる畑をさっと確認して、オレとガルドさんは顔を見合わせた。どうやら、依頼を出した時よりも状況は悪化しているようだ。
朝、斡旋所でガルドさんとオレは仮のパーティーを組むことにした。エンベルさんが細かい所を通訳してくれて助かったっていうか、まあ拒否権がなかったっていうか。
決めたことは2つ。パーティーを組む期間は特に定めないことと、二人で3つ依頼を受けること。1つ目の依頼で、まずはガルドさんの普段のやり方を見せてもらうことにした。訳だが。斡旋所の掲示板から選んだ依頼を見た時点で、オレはガルドさんの等級が上がらない理由がほぼ分かった気がした。
「事態、深刻。なぜ、請負人、依頼請け負う、しない」
「街から村まで遠くて普通なら移動に丸1日、害獣は数が多そうで駆除に何日かかるか分からない。なのに依頼料は少なくて、よっぽど効率良くやらなきゃ野営の飯代だけがかかっちまうんだ。まともな請負人は引き受けないよ」
そう、ガルドさんが請け負ったのは害獣駆除。「野鼠の大群に襲われている」という村からの依頼だった。どう考えても、その広い背中に背負った盾と大剣の出番はない。足の速いオレとガルドさんだからこそ半日で着いたが、銅級なら途中で1泊もありうる距離だ。内容に見合うランクの請負人が気軽に出張れる距離じゃない。
「この村、飢える。ヒト、死ぬ」
オレの言葉が気に入らなかったのか、ガルドさんの声が一段低くなる。
「いざとなったら、ご領主様が金を積んでくれるか、軍を出してくれる──かもな。オレを睨むなよ。オレ達請負人は、それじゃ食ってけないんだよ」
「それ、理解。違う」
「助けてやりたい気持ちはあっても、自分の命を削ってまでやる訳にはいかないよ」
毛皮に覆われて表情は伺い知れないが、肩を小さく揺らす仕草に苛立ちを感じとって言い返すと、相手は何も言わずに歩き出した。困ってるヤツを助けたい、そういうガルドさんの気持ちはよく分かるし、実際に助ける力もあるだろうけれど。そもそも銅級なんて、ケガをして数日仕事ができなかったらあっという間に食い詰めるような、そんな依頼しか請け負えない。
余裕がない相手に損をする仕事をしろというのは、無理な話なんだ。
無言のまま畑の間を進むガルドさんの後ろをついていきながら、改めて村の周りを見回した。
畑は動物が嫌がる匂いを出すヒュルザの低木で囲われているが、葉が落ちて立ち枯れている木があり、その近くの畑はほぼ葉が食い尽くされて見るも無残な有様だ。青々と茂っている畑もあるにはあるが、赤茶色に葉が変色している作物もある。
集落を囲う木柵は、斜めに傾いでる支柱もあれば、板が外れて村の中が覗ける場所もある。手入れをする人間がいないのか、直すだけの資材がないのか。
ともかく詳しい話を聞くところからだなと考えていたら、集落を覆う柵に設けられた入り口でガルドさんが口を開いた。
「失礼。ヴァルノートギルド、参る。村長、どこだ」
「ひっ…く、熊っ。熊があっ」
ああ、村人の爺さんが腰抜かしちまったよ。全部ガルドさんに任せようかと思ったが、このままじゃあ爺さんが女神の元に逝ってしまいそうだ。そもそも、共通語を知らなけりゃ脅されてると勘違いしても仕方がない。
「落ち着いて。オレはリオ。あっちはガルド。オレ達、害獣駆除に来たんだ」
ガルドさんと爺さんの間に身体を割り込ませると、オレは愛想のいい笑顔を浮かべ落ち着いた口調で話しかけた。垂れ気味の目と髭が生えない顔のせいで、笑って見せればオレは害意がなさそうに見える。らしい。
こんな田舎じゃ獣人なんて見たことないだろうし、服を着てようが二本足で歩いてようが、そんなことは目に入らないんだろう。爺さんは顔を真っ青にして、ガタガタ震えてる。
「この人、獣人でオレの相棒なんだよ。驚かせてごめん」
「熊、熊の獣…人?! 魔物でねなが?! 本当で大丈夫だが?!」
「そうそう、熊の獣人なんだ。見た目はあんなだけど、人間は襲わないから大丈夫だよ」
ガルドさんが無言なのは良いけど、オレの肩に刺すような視線を感じるのは、もっとちゃんと獣人について説明しろって事なのかオレの言い草に腹を立てているのか。どちらにしても今は目の前の爺さんを落ち着かせるのが先だ。しゃがみ込み、しばらく爺さんの肩をさすってやると、ようやく震えが止まった爺さんが大きくため息をついた。
「畑もダメになって、熊の魔物さ食われで死ぬがと思った…」
「村長さんがどこにいるか、教えてくれるか?」
手を引いて立たせてやると、尻についた土埃を払った後に爺さんは疲れた顔を見せた。
「儂だ。儂がこのビシュト村の村長だ。元村長だどもな」
「本当の村長は?」
「儂の息子だ。三日前から熱で寝込んじまってる。去年から収穫が減ったせいで、男手はみな出稼ぎで村を出ででな。こんな老いぼれしか客人の相手ができねぇだ。まんず、すまねぇ」
痩せた背中を丸めて頭を下げる爺さんの姿に、オレとガルドさんは顔を見合わせた。
「だろうな」
夕方が近づき日が翳る道で、俺とガルドさんは足を止めた。足の速いオレ達が一日歩いてきて、このままだと野営を考えなきゃならない、そんな時だった。
ヴァルノートを出て南に向かう街道から東にそれて、丘陵地帯を抜ける曲がりくねった道の行き止まり。手入れの行き届いていない畑の先に、木の柵に囲まれた集落が見えた。
「元気ない。夜の前、畑仕事終わる。家帰る、いる」
「確かに、畑で作業してる人間が見当たらない」
道の左右に広がる畑をさっと確認して、オレとガルドさんは顔を見合わせた。どうやら、依頼を出した時よりも状況は悪化しているようだ。
朝、斡旋所でガルドさんとオレは仮のパーティーを組むことにした。エンベルさんが細かい所を通訳してくれて助かったっていうか、まあ拒否権がなかったっていうか。
決めたことは2つ。パーティーを組む期間は特に定めないことと、二人で3つ依頼を受けること。1つ目の依頼で、まずはガルドさんの普段のやり方を見せてもらうことにした。訳だが。斡旋所の掲示板から選んだ依頼を見た時点で、オレはガルドさんの等級が上がらない理由がほぼ分かった気がした。
「事態、深刻。なぜ、請負人、依頼請け負う、しない」
「街から村まで遠くて普通なら移動に丸1日、害獣は数が多そうで駆除に何日かかるか分からない。なのに依頼料は少なくて、よっぽど効率良くやらなきゃ野営の飯代だけがかかっちまうんだ。まともな請負人は引き受けないよ」
そう、ガルドさんが請け負ったのは害獣駆除。「野鼠の大群に襲われている」という村からの依頼だった。どう考えても、その広い背中に背負った盾と大剣の出番はない。足の速いオレとガルドさんだからこそ半日で着いたが、銅級なら途中で1泊もありうる距離だ。内容に見合うランクの請負人が気軽に出張れる距離じゃない。
「この村、飢える。ヒト、死ぬ」
オレの言葉が気に入らなかったのか、ガルドさんの声が一段低くなる。
「いざとなったら、ご領主様が金を積んでくれるか、軍を出してくれる──かもな。オレを睨むなよ。オレ達請負人は、それじゃ食ってけないんだよ」
「それ、理解。違う」
「助けてやりたい気持ちはあっても、自分の命を削ってまでやる訳にはいかないよ」
毛皮に覆われて表情は伺い知れないが、肩を小さく揺らす仕草に苛立ちを感じとって言い返すと、相手は何も言わずに歩き出した。困ってるヤツを助けたい、そういうガルドさんの気持ちはよく分かるし、実際に助ける力もあるだろうけれど。そもそも銅級なんて、ケガをして数日仕事ができなかったらあっという間に食い詰めるような、そんな依頼しか請け負えない。
余裕がない相手に損をする仕事をしろというのは、無理な話なんだ。
無言のまま畑の間を進むガルドさんの後ろをついていきながら、改めて村の周りを見回した。
畑は動物が嫌がる匂いを出すヒュルザの低木で囲われているが、葉が落ちて立ち枯れている木があり、その近くの畑はほぼ葉が食い尽くされて見るも無残な有様だ。青々と茂っている畑もあるにはあるが、赤茶色に葉が変色している作物もある。
集落を囲う木柵は、斜めに傾いでる支柱もあれば、板が外れて村の中が覗ける場所もある。手入れをする人間がいないのか、直すだけの資材がないのか。
ともかく詳しい話を聞くところからだなと考えていたら、集落を覆う柵に設けられた入り口でガルドさんが口を開いた。
「失礼。ヴァルノートギルド、参る。村長、どこだ」
「ひっ…く、熊っ。熊があっ」
ああ、村人の爺さんが腰抜かしちまったよ。全部ガルドさんに任せようかと思ったが、このままじゃあ爺さんが女神の元に逝ってしまいそうだ。そもそも、共通語を知らなけりゃ脅されてると勘違いしても仕方がない。
「落ち着いて。オレはリオ。あっちはガルド。オレ達、害獣駆除に来たんだ」
ガルドさんと爺さんの間に身体を割り込ませると、オレは愛想のいい笑顔を浮かべ落ち着いた口調で話しかけた。垂れ気味の目と髭が生えない顔のせいで、笑って見せればオレは害意がなさそうに見える。らしい。
こんな田舎じゃ獣人なんて見たことないだろうし、服を着てようが二本足で歩いてようが、そんなことは目に入らないんだろう。爺さんは顔を真っ青にして、ガタガタ震えてる。
「この人、獣人でオレの相棒なんだよ。驚かせてごめん」
「熊、熊の獣…人?! 魔物でねなが?! 本当で大丈夫だが?!」
「そうそう、熊の獣人なんだ。見た目はあんなだけど、人間は襲わないから大丈夫だよ」
ガルドさんが無言なのは良いけど、オレの肩に刺すような視線を感じるのは、もっとちゃんと獣人について説明しろって事なのかオレの言い草に腹を立てているのか。どちらにしても今は目の前の爺さんを落ち着かせるのが先だ。しゃがみ込み、しばらく爺さんの肩をさすってやると、ようやく震えが止まった爺さんが大きくため息をついた。
「畑もダメになって、熊の魔物さ食われで死ぬがと思った…」
「村長さんがどこにいるか、教えてくれるか?」
手を引いて立たせてやると、尻についた土埃を払った後に爺さんは疲れた顔を見せた。
「儂だ。儂がこのビシュト村の村長だ。元村長だどもな」
「本当の村長は?」
「儂の息子だ。三日前から熱で寝込んじまってる。去年から収穫が減ったせいで、男手はみな出稼ぎで村を出ででな。こんな老いぼれしか客人の相手ができねぇだ。まんず、すまねぇ」
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