幼なじみの番犬くんは、俺にご執心~お試しで付き合うことになったあいつの距離が近すぎてムリムリムリムリ!!~

兎束作哉

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第3章 幼なじみじゃない恋人といく夏祭り

04 夏祭りでは勇気出そうと思います

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 気づいたくせに気持ちを告白しない俺は臆病だろうか。


「なーんで、僕一人だけ浴衣ー!!」


 わーんと、俺の家の前で泣いている日傘を行きかう人が奇妙な目で見る。
 ウソ泣きなのか、本当なのか微妙なラインの泣き方のため、恋人である昊もどう慰めればいいか困っている様子だった。


「なんで、こいつらがいる?」
「二人も、今日夏祭り行くんだって」
「……示し合わせたみたいだな」


 雫川家の玄関から出てきた凪は、家の前で泣いている涼を見てひきつった表情をした後すすすっと俺のほうへ寄ってきた。

 今日は夏祭り一日目。
 俺たちの地元の夏祭りは三日かけて行われる。最終日は花火も打ちあがるため混雑が予想されるため、初日に行こうという話になった。だが、どうやら三日目は九十パーセント雨の予報が出ているため、前倒しで今日花火が打ちあがるらしい。いろいろと対策してこの日にしたのに結局意味がなくなってしまった。
 そして、二人も同じことを考えていたのか家を出たら夏祭りに行く準備をしていた涼と昊に出くわした。また、どうやら、涼は昊も浴衣でくると思っていたらしく、一人浴衣でいじけているらしい。そこは、恋人同士示し合わせなかったのかと、二人のほうれんそうができていなかっただけなんじゃないかとも思った。


「凪は、いつも通りだね」
「動きやすいほうがい」
「俺も同感。あ、でも、そのかばん新しいね。似合ってる」


 凪が下げている鞄は今まで見たことがないものだった。
 凪は、俺が指摘すると表情をほころばせ、ポリポリと指で頬をかいていた。


「夏芽も似合ってる」
「いやいや、俺はいつも通りの服だし。靴だってスニーカー」
「夏芽は何着ててもいい」


 凪は冗談抜きにそういって、俺を見つめていた。そんな目で見つめられてしまうと、俺はいたたまれなくなってふいっと顔を逸らしてしまう。
 どうした? と凪の声が聞こえたが、彼の顔を見ることができなかった。


(もー俺、バカ、意気地なし!)


 凪が補習終わりに俺の家に泊まってから、もう何週間も経った。その間に夏休みに入り、あっという間に夏休みの終わりまでやってきてしまった。まだ少し宿題は残っているが、夏祭りが楽しみで勉強が手につかなかった。あとから自分の首が締まることはかくじつだったものの、俺は凪と二人で夏祭りにいけるのが楽しみだったのだ。


(けど、二人ともいるしなあ……)


 もうこの際、四人でいっても変わらないんじゃと思ったが、前に凪が二人がいいと言ったのを思い出し踏みとどまった。以前の俺ならここで、四人で行こう、と誘っていただろう。

 でも、今は――


「やっと、こっち見た。夏芽」
「……っ、ちょ、ちょっとくしゃみでそうだったから顔逸らしてたんだよー凪のこと嫌ってるとか、避けてるとかじゃないから」
「そうだったら泣く」
「泣くなよ。涼みたいになるぞ」


 俺が涼のほうを見れば、凪の視線もそちらへ移される。
 まだ、涼はびしゃびしゃと泣いており、昊は困り果てていた。あれでも二人は恋人同士なんだよなーと、恋人の定義や形は人それぞれなんだと思い知らされる。
 なら、俺と凪だって、一般的な恋人っぽくなかったとしても、俺たち基準の恋人になればいいんじゃないか。
 そう思ったものの、俺は「恋人期間を伸ばしてください」の一言も、もっとちゃんと告白して正式にお付き合いしようとすることも、行動に移せずにいた。
 凪は俺のことを好きなんだろう、と仮説を立て、自分も凪のことが好きだと気づいた。なのに、行動に移せずにいるのは俺が意気地なしだからだ。
 もし、凪が俺のことを好きじゃなかったら……なんて、逃げる理由を探してばかりいる。


「まあ、あいつらは放っておいていこう。示し合わせたみたいに一緒の日に行くけど、今日は、お、俺たち二人で行くって決めてたし」
「そうだな。昊、涼、じゃあ」


 凪は二人に声をかけ俺の手をつないだ。流れるようにこいびとつなぎにした凪は、あとからハッと気づいて「よかったか?」と俺に聞いてくる。もう身に染みてしまった行動じゃないか、と俺は嬉しくもあり、やっぱり恥ずかしくもあった。だから、こくりこくりと首を縦に振ることしかできない。
 それを見てか、凪は「じゃあ、このままで」ときゅっと俺の手をきつく握った。
 それから、歩いて数十分、夏祭りが行われている神社にたどり着く。すでに橙色の提灯には明かりがともっており、浴衣姿の人たちが下駄をカランコロンと鳴らして歩いていた。


「涼はああやって言って泣いてたが、ここにこれば浴衣着てるやついっぱいいるだろ」
「うーんそうじゃなくて、多分昊と合わせたかったんじゃない?」


 凪は、そう言いながらあたりを見渡し「どこから回る?」と俺に聞いてきた。ルートとしては三本ほどあったが、やはりメイン通りの屋台が気になった。
 俺は、首から下げていたがま口ポーチをパカパカ開く。おはやしの音が絶えず聞こえていて、お祭り気分はグッと上がる。毎年来ているとはいえ、この音や人の多さを見るとちょっと遅れの夏が来たと感じるのだ。
 俺は、一人はしゃいでいるのではないかと、凪のほうを見る。すると、また凪と目が合ってしまいぽぽぽと頬が熱くなるのを感じた。


「凪、何で俺のことそんなに見んの?」
「夏芽を見てたいから」
「答えになってないし……屋台から回りたいけど、凪は?」
「夏芽が行きたいとこについてく」
「…………凪も言ってよ。どこ行きたいとか、あれしたいとか、これしたいとか。俺……凪と二人で来てるんだから、凪のしたいこともしたい」


 ようやく言えた言葉はそれだけだった。
 恋人ってたぶん片方が尽くすだけじゃダメだ。


(だって、この夏が終わったら、この関係終わるかもしれないじゃん。勇気出していろいろ言わなきゃ、俺後悔する……)



 分かっていても、さらに踏み込むことはできなかった。
 俺は、がま口ポーチの口を閉じて、凪の服を引っ張る。


「じゃあ、金魚すくいしたい」
「凪……っ、いいな。金魚すくい。すくった金魚に名前つけたい」
「夏芽、毎年ポイに穴開けまくってんのに?」


 凪は、くすくすと笑いながら俺を見下ろした。
 やっぱりその顔はとても楽しそうで、一緒に来てよかったなという気持ちになってくる。


(その顔、好きだな……)


 なんか、今なんでもかんでも凪を褒めてしまいそうになる。何をしても、ああ、凪好きだなとなりそうで怖かった。
 あの日、思いを自覚して、自分のぶわーっとする感情に答えが出た。
 きっと俺に告白してくれた子もこんな気持ちだったんだろうなと、ようやく好きを理解できた。できたが、言えずにいるもどかしさや苦しさがあるなんて知らなかった。あの子はああやって言ってくれたのに、俺はそれすらも言えずにいる。


「夏芽、どうした?」
「あっ、いや、何でもない。じゃあじゃあ、金魚すくいにレッツゴー」


 悩んでいる顔を見せたくなくて、無理やり笑顔を作って凪の手を引いて歩く。
 神社の近くや、境内は舗装されていないため歩きにくい。気を抜いたらつまずいてコケてしまいそうだ。小さいころもよくこけたし、直近去年の夏もこけた。案の定凪が「コケるからスピードおとせ」と言って来る。俺はそんな凪に対して「大丈夫、大丈夫」と返した。
 人の波をかき分けながら、屋台を見て回る。りんごあめ、チョコバナナ、ヨーヨーつり、筆で勢いよく書かれたような文字が目に飛び込んできた。
 おはやしの音も先ほどより大きく聞こえる。でも、俺の耳には自分の壊れそうなほどうるさい心臓の音しか入ってこなかった。


(ヤバ、手汗……凪、嫌じゃないかな?)


 手のひらに滲んだ汗の量は尋常じゃなかった。ぬるぬるして握っているのがやっとだ。
 そんなことを考えていると、金魚すくいと書かれた屋台を発見し、俺はパッと手を放した。


「な、凪」
「夏芽、ゆっくりでいい。焦らなくても金魚は逃げない」
「え……? ああ、うん。ごめん……じゃなくて、手、嫌じゃなかった? 俺、今日汗ヤバいかも」
「嫌じゃない。むしろ、夏芽に強く握られてるってかんじられてよかった」
「……っ、お前、なんか恥ずかしいことばっかり言うよな」
「どうせ夏芽にしか言わないから気にしない」


 凪はそう言うと、屋台のおじさんに五百円を渡してポイを二つ貰っていた。その一つを俺に渡して、長い足を負って屈み水槽に目を落とす。俺も真似して屈み、ちょっと生臭い水槽を悠々と泳いでいる金魚を見た。赤、黒、白いのもいてバリエーションが豊富だ。
 俺はどれを捕まえようかと吟味し、ひらひらとした尾びれを目で追っていた。その隣で凪は、すでに三匹捕まえており、どれも大きな黒い出目金だった。


「うわっ、凪スゴ……何? 家で練習した?」
「してない。家で練習ってどうやってするんだ」
「確かに……俺も負けてられないなー……って、破れた」
「水につけただけだろ?」


 動画かなにかで先に水につけておくといいみたいなことを聞いていたため、つけていたら水の抵抗であっという間に破けてしまった。屋台のおじさんはニヤニヤと「じゃあ、二匹なあ~」と言って、小さな赤い金魚をすくって俺に渡した。凪はまだ挑戦している。
 小さな袋の中で弱々しい二匹の金魚が身を寄せ合いながらひれを動かしている。
 しばらくすると、凪のポイも破れすくった金魚と交換してもらった。凪の袋の中には六匹の金魚がいて、そのうち四匹は出目金だった。


「今年は大量だな」
「俺、ダメだったんだけど」
「後でまた挑戦するか?」
「考えとく……こう、動画見てもう一回コツを掴まなきゃ」


 俺が言うと、凪はまたおかしそうに噴き出した。
 いつもだったら、ここに涼と昊がいるが、今はいない。盛り上がりに欠けるが、凪と二人きりと言うのは新鮮さがあってよかった。十八年間で一度だけ、凪と二人で夏祭りにいったが、あの時とはまた少し違っていた。
 二人でいるときのほうが、凪の顔をいつもよりしっかりと見える気がする。
 金魚すくいは堪能したため、今度は何か食べたいなと俺は通路のほうに目を移した。りんごあめは食べたいし、ベビーカステラは家に持って帰って食べたい。そんなことを思いながら次の屋台を探していると、俺は人込みの中で見つけてしまった。


「あ……」


 目線の先には先ほど家の前で言い争っていた涼と昊がいた。
 少し離れたところ、屋台と屋台の間で身を寄せ合っている。声をかけるべきかと考えたが、二人はあたりを見渡したのちグッと距離を縮める。何をしているんだろうかと目を凝らしてみていると、二人は俺が見ているなんて気づくこともなくお互いの唇を合わせたのだった。

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