みんなの心の傷になる死にキャラなのに、執着重めの皇太子が俺を死なせてくれない

兎束作哉

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番外編 我が子に愛を込めて

善意と悪意のプレゼント

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 部屋の中を埋め尽くすほどの大量のプレゼント。
 大中小さまざまなプレゼントボックスには、愛らしいリボンが巻かれていた。たまに、一際目立つプレゼントボックスもあったが俺やフィルマメントの趣味じゃないな、と苦笑してしまう。子どもに渡すプレゼントというよりかは、皇室への献上の品のように見えて仕方がない。
 部屋の明かりを一旦つけ、俺は崩れそうなプレゼントを積み直していた。そんな俺の背後からセシルの視線が絶えず刺さる。俺は、後ろを振り返ることなく、プレゼントの箱を精査していた。


「セシル、どうかした?」
「ある貴族からのプレゼントは別に避けておいてほしい」
「何で? もしかして、生もの?」
「いや、フィルにふさわしくないプレゼントを寄こした輩のものだからだ」


 セシルはそう言うと、その貴族の名前を口にする。三名ほどだったか、俺はその家門を聞いてプレゼントを探した。プレゼントの山の中からその三家のものが見つかる。それは、先ほどパッと見たときに目を惹いた派手なプレゼントボックスだった。残りの二家も、目立つつくりのもので、中に何が入っているかとても気になる。だが、これはフィルマメントへのプレゼントで、中身を確認する必要もないから捨てろというセシルの言葉にリボンにかけた手が止まる。
 セシルの声色が少し暗いもので、怒りを孕んでいるようにも思えた。


「何か言われた?」
「鋭いな。会場で魔法の準備と、フロリアン卿と会話し終えた後だったか、前だったか……まあ、前後どちらであるかは重要じゃないが。俺に、周りの目も気にせず話しかけてきた貴族がいた」
「ああ、それがこのプレゼントを贈った主ってわけね」


 話がだんだんと見えてきたな、と俺は三つのプレゼントボックスを隅のほうへと避ける。その間にもバランスを崩して上のほうから箱が転がってきた。俺はそれが床に打ち付けられる間にキャッチして、セシルの声に耳を澄ます。


「その貴族たちが、フィルの婚約者に自分の娘はどうだと言ってきたんだ。中には、息子を進めるやつもいた」
「それは……」


 何と言ったらいいか。
 セシルの怒りと呆れを含んだ声に、俺はどう返答すればいいか戸惑ってしまった。
 人がいるあの会場の中で、よくもまあそんな直談判ができるなと一周回って尊敬する。
 だが、まったくもって迷惑な話であり、まだ将来のことなど分からないフィルマメントの婚約者にと進めてくるその汚い感情が理解できない。今日という日を一体何だと思っているのか。彼らにとっては、家門を強くするまたとないチャンス。皇室に付けいるチャンスとしか思っていないのだろう。
 俺は、先ほどの三つのプレゼントボックスをさらに隅に追いやる。


「誰にもフィルはやらん」
「それは同感……セシル、ありがとね。一人で相手してくれたんでしょ?」
「帰ろうとしたら呼び止められただけだ。フィルの誕生日に不快な思いをさせるなと睨めばすぐに逃げていった。その程度の気持ちなのだろう。まあ、諦めの悪いやつもいるだろうからな。今後も注意が必要だ」
「婚約者にって自己推薦か……」


 セシルも長らく婚約者がいない状況を見かねて、前皇帝陛下が婚約者候補をと進めてきていたのを思い出した。
 セシルにとっては嫌な思い出が甦って、さらに腹立たしかっただろうと予想できる。
 彼が返ってくるのが遅かった理由も同時に分かって、申し訳ない気持ちと、彼自身がしっかりしているおかげで、フィルマメントに被害が及んでいないことにほっと胸をなでおろす。


(……まあ、今後もそういう輩が出てくるんだろうけど)


 次世代を担う皇帝に卵である、皇太子フィルマメント――彼の婚約者となり、席をいれることができれば、その家門は他の家門とは比べ物にならないほど力を手に入れるだろうし、何かと皇室からのサポートを受けられると思っているのだろう。貴族の政略結婚は俺も苦手だが、そうして家を守ってきた歴史もあるからすべてを否定できない。ただ、母のような近親相姦などは論外だ。
 セシルは「かまわない」と、自分が対応したことに対して気にする必要はないと言ってくれた。


「本当はもう少し早く理由を話すべきだったな。俺が帰って来なくて心配だったんだろ?」
「そうだよ……でも、そんな理由があったんならしかたがないよ。このプレゼントは従者たちに言って処分してもらうね」
「中身が何であれ気にする必要はない。顔と家門は覚えた。もう二度と近づけさせない」
「それがいいと思う……」
「何か気になることでもあるか?」
「気になることって程のことじゃないかな。ただ、ああいうのはやっぱり諦めが悪いと思うから。今回は、人の目があったから引いたけど、今度はそうとは限らないかなあって。俺のほうにも直談判にきそう」
「追い払えばいい。何も理不尽なことを言っているわけじゃない。フィルの親として正しい行動をしなければ」


 セシルは、そう言ってフィルマメントの頭を撫でた。
 すると、そこまでうとうとしていたフィルマメントがう? と、首を傾げ、セシルを見上げる。


「しぇしる、こわいかおちてる」
「ああ、すまない。お前の前でこんな話をするべきじゃなかったな」
「こんなはなち?」
「いいんだ。何でもない」


 もう一度、何でもないと伝え、フィルマメントの頭を再度撫でた。
 まだ幼いフィルマメントには分からない話だろう。だが、分からないからといって聞かせたくない話でもある。俺も、先ほどの三つのプレゼントを一瞥し、フィルマメントのほうへと駆け寄った。


「ふぃるのへや」
「プレゼントはもう大丈夫そうか?」
「多分ね。ただ、この量だと、また雪崩が起きそうだけど」
「これだけの贈り物が送られてきたことは正直意外だった。しっかりと祝福してくれているのだな」


 セシルは感心したように言葉を紡いだ。だが、どことなく信じられていないような目もうかがえる。


(みんなが、本当の意味で祝福してくれているか分からないっていう気持ちは分かるな……けど、中には本当に俺たちのことを祝福しているし、フィルのことを温かい目で見てくれている人もいるだろうから)


 全員を信じられなくなってしまえば、今後のすべての関係にひびが入った状態になる。セシルは、人間不信なところが若干あるが、公私混同はしない。しっかりと、品定めはするし、理不尽な切り捨てはしないだろう。
 セシルは、はあ……と小さなため息をついた後、ベッドへ向かって歩いた。


「このままじゃ眠れないだろう。服を着替えようか、フィル」
「うゅ」


 ベッドサイドまでつき、フィルマメントをベッドの上に下ろすと、彼の靴を片方ずつ丁寧に脱がした。フィルマメントは、大人しくセシルを見ている。
 ハイマート伯爵からもらった靴を脱がしてもらった彼は、脚をパタパタと動かしていた。たくさんの人に注目されたし、きっちりした服で疲れただろう。俺は、フィルマメントに近づき、彼の服を脱がし始めた。


「寝着はどこにある?」
「クローゼットじゃないかな……あれだったら、フィルの側付きを呼んでだらいいし」
「家族の時間に水を差されたくない。俺が見つける」


 どことなく向きになった言い方をしたセシルは、俺とすれ違うようにクローゼットに向かって歩き出した。


「しぇしるどこにいくの?」
「フィルのお洋服をとりにいったんだよ。すぐに帰ってくるよ」
「にぅもふくきがえう?」
「そうだね。さすがに、このじゃらじゃらしたままでは眠れないかな」


 装飾品は、この日のためにと作られた一品。ただ、俺はパーティー用の服は肌に合わず、すぐにも脱ぎたい気持ちに駆られてしまう。動きにくさを感じずにはいられないからだ。
 俺は、フィルマメントの胸元のリボンをしゅるりとほどく。フィルマメントは俺のことを見下ろしながら、時々足を揺らしていた。眠たいだろうに、しっかりと座って俺を見下ろしている。


「フィル、今日のパーティーはどうだった?」
「いっぱい、ひといたの」
「たくさんいたね。フィルの誕生日を祝いに来てくれた人ばかりだよ。ほら、フィルの部屋においてあるプレゼントも、ここに来なかった人たちからも送られてきていっぱいあるでしょ?」
「ふぃる、いっぱいぷれじぇんとふれちい」
「それならよかった」


 プレゼントをまた開けるのが楽しみだ、とフィルマメントは表情をほころばせた。
 フィルマメントの笑顔を見ていると、こっちも嬉しくなる。
 俺は、フィルマメントの服をゆっくりと脱がし、脱がしたものは丁寧にたたんでベッドの上に置いた。
 部屋の中でゴソゴソという音が聞こえるのは、セシルがクローゼットを漁っているからだろう。俺ですら、寝着がどこに置いてあるか分からないため、探すのに時間がかかるのは納得がいった。
 そして、俺は戻ってこないセシルのこと心配しつつ、先ほどの彼の言葉を思い出していた。


(まあ、さっきセシルが帰るのが遅くなったのはそういう人たちに止められたからだって言ってたけど。フロリアン卿との話もあったんだろうな)


 俺が会場を出るとき、すでに帰ったと思われたフロリアン卿がゼラフに話しかけに行っているのが見えた。何の用だと思ったが、俺はフィルマメントとセシルとの時間を優先したためその後何があったかは分からない。
 ヴィルベルヴィント公爵となったゼラフは、飛竜の育成を魔塔から任されていると言っていた。その話だろうかと思ったが、フロリアン卿がそんな話のためだけにわざわざ彼に話しかけに行くなんてことあるだろうかと思ったのだ。多忙な人だし、何よりも俺たちと入れ替わるようにゼラフに話しかけに言ったのには何かわけがありそうだった。


(あとで聞いてもいいけど……俺が、ゼラフに聞いたってこと、フロリアン卿の耳に伝わりそうだしな)


 あの人は何故か俺たちが隠しているような情報まで握っている。どこかにスパイを忍ばせているのか、それとも監視魔法のような特殊な魔法があるのか。
 フロリアン卿は、俺たちの知らないルートですべて把握している。本来ならば、魔塔の行動を逐一報告させ、監視するのは皇室の役目であるのに、それが逆転しているように思えた。
 フロリアン卿が、自称平和主義者であり、俺に期待し、竜と人間の共生を目指しているからこそ同じ方向性で動けている。だが、もし彼がズィーク・ドラッヘンのような強い思想を持ち、俺たちの敵に回るようなことがあれば、サテリート帝国は窮地に立たされるだろう。あれほどの力と知恵を持った人だ。俺たちは、常に監視されていると思ったほうがいい。


「ぷれじぇんとね、ぜりゃふのびっくりちたの」
「ゼラフの? そうだね。俺もびっくりしたよ。まさか、飛竜の卵をプレゼントするなんて」
「しゅっごいやつなんでしょ?」
「すごいと思うよ。さっき説明した通りだけど、ゼラフの相棒のブリーゼの子どもだからね。俺とセシルの間に生まれたフィルみたいなものかな」
「ふぃるとおないどちってこと?」
「まあ、そうなるのかな。竜の年は人間と数え方が違うから」
「はやく、あいたいね!」
「うん、そうだね。俺も早く顔がみたいな」


 飛竜のヒナなんて見たことがない。そもそも、飛竜と関わる機会も少ないためとても貴重な経験ができそうである。
 今でこそ、神話時代を生きた竜たちと巡り合う機会があるが、普通に生活していれば、竜と人間は交わることがない。現在は、新たな時代を切り拓くために竜と積極的に交流をとろうとしているが、まだまだ浸透していないし、貴族の中でも神話時代の伝承を知る人たちからすれば恐ろしいことらしい。前貴族の協力を得るのは難しそうである。
 竜が人に危害を加えたという歴史がある以上、竜との共生に全員が頷いてくれないことに関しては仕方がないことである。だが、この方針を変えることはないだろうし、何よりも過去にとらわれずに未来に進んでいくことが今後求められていくだろう。
 俺とセシルが結婚したこと、祝福の花からフィルマメントが生まれたこと。いろんなことが前代未聞で、そういった人間が新たな未来を作るための道しるべになるのではないかと。


「ようやく寝着が見つかった。フィル、これか?」


 クローゼットでガサゴソとしていたセシルが戻ってき、真っ白な寝着をフィルマメントの前で掲げた。フィルマメントは「しょれ!」と指をさし、セシルから服を受け取る。


「フィル、一人で着れるの?」
「にぅ、あなどりゅなかれ」
「ど、どこでそんな言葉覚えるのかな……」


 ちょっと大人びた顔をして、フィルマメントはいそいそと服を着始めた。しかし、まだまだ大きな頭に短い手足ではうまく着れないらしく、苦戦をしているようだ。もう少しだけ見守っててもいいかなと思ったものの、中途半端に服を着たフィルマメントがこちらを見た。夜空の瞳をウルウルと潤ませて俺を見ている。
 助けてくれと訴えているようだ。
 だが、言うのが恥ずかしいのか「にぅ」とどこか甘えたような声を出し、両手をパッと俺に向けてきた。


「フッ……フィル、恥かしいことじゃないからね。自分で着ようとして偉いね」
「ごめんなちゃい」
「ううん、いいよ。一人で着れるってかっこいいところ見せたかったんだもんね。俺もその気持ちわかるなあ」
「こんどね、いっしょにね、ねるときまでにね……ふぃる、じぶんできれるようになるからね」
「うん、楽しみにしてる」


 意外とフィルマメントの寝着は止めるボタンやどこにつながっているのか分からないリボンなどがあり、俺でも苦戦してしまった。これを一人で着るのはさぞ大変だろう。
 俺も四苦八苦しながら着せ終わり、最後にフィルマメントの頭を撫でた。フィルマメントは、少し恥ずかしそうに上目遣いをした後「ありがと」とお礼の言葉を口にする。


「にぅたちも、おきがえしゅるんでしょ?」
「あー……服、か。セシル」
「問題ない、取り寄せた」
「え、どこから?」


 変なところでスパダリ力が見えた。
 いや、そもそもどこから俺たちの寝着を取り寄せたというのだろうか。


「こういうこともあろうかと、一着フィルの部屋に忍ばせておいたんだ」
「よく、従者たちに回収されなかったね」
「ほんの一日ほど前だ。さすがに気づかないだろう」


 セシルはそう言いながら、俺たちの寝着をベッドの上に置いた。
 つまり、セシルはもともとフィルマメントが一緒に寝たいと言い出すことを予期していたのだろう。用意周到すぎるためそうとしか考えられなかった。


「さすがだね」
「何がだ?」


 ん? と、分かっていない様子でセシルは俺の顔を覗き込んだ。本気で言っているのかと、思ったがたまに抜けているところもあるのでわざとではないのだろう。
 俺は、何でもないと言って寝着に手を伸ばす。しかし、その手を、パッとセシルに掴まれてしまった。


「セシル?」
「俺が着せる」
「え、え、いいよ。恥ずかしいし……フィルの前だよ?」
「フィルに服を着せたのだから、今度は俺がニルに服を着せる番だろう」
「その理論でいったら、セシルの服をフィルが着せることになると思うんだけど」
「俺は一人で着れる」
「俺も一人で着れるんだけど……」


 俺の寝着をさっそうと取り上げて「俺にきせられてくれるよな?」という圧を向けてくる。こうなったら聞かないのだが、それでもフィルマメントの前で恥ずかしかった。
 セシルは俺に着せるだけかもしれないけれど、俺は恥ずかしいんだよと分かってもらうためにはどうすればいいのか。
 考えてみたが何も思いつかなかった。


「じゃあ、俺がセシルのを着せるのは?」
「…………………………っ、それは盲点だった」


 いや、普通はそうじゃないのか。


(だって、俺たち夫夫だし……いやいや、フィルの前だけど。こう、服を脱がせあい……着せあいっことか……ああ、これだと、ちょっと幼稚かもだけど。なんか、その、そうじゃん……)


 一瞬頭の中でいかがわしい妄想がよぎったため、全力で取り払う。
 しかし、そんな最中、セシルのほうを見たら頭によぎった煩悩がすべて吹き飛んでいく。
 たっぷりと間を開けた後に、セシルは世紀の大発見だなと言わんばかりに、名案だ、と頷いた。セシルの顔は正直整いすぎていて何も言うところがないが、段々とその夜空の瞳に期待が滲んで溢れていく。


「そうしよう」
「やっぱり、フィルの前ではダメかも」
「……クッ、だが」
「フィルに服を着せた俺からどういう着想を得てそうなったの。セシルは創造力が豊かだね」
「いいと思ったんだ」
「今はダメかな。俺だって一人で着れるんだから」


 セシルの手から力が抜けた瞬間を見計らい、俺は寝着を奪い取って距離をとる。
 その一部始終をフィルマメントはぼーっと眺めていた。親が目の前でイチャイチャしていたらいたたまれない気持ちになるだろう。それか、自分のほうをかまって欲しいと焼きもちを焼くかもしれない。
 そんなことを考えながら、俺はフィルマメントに「ちょっと待っててね」といって彼の視界から消え、服を脱ぐ。すると、すぐにも俺のほうへセシルが寄ってきた。


「近いんだけど」
「誰かにお前の身体がみられたら困る」
「フィルしかいないよ? 気にしすぎ」


 肘でセシルをつつくが、セシルは痛くもかゆくもないといった具合に「俺が誰かに見られているかもしれないと思ったら、見られているんだ。だから、守る」と訳の分からないことを言い返し、肘でつつき返してきた。


「いたっ……」
「す、すまない……」
「もぅ、セシルは……また、二人きりの時でいいじゃん。フィルの前では盛らないでよ」
「盛ってなどいない。ただ、羨ましかったんだ」
「フィルが?」
「……待て、今のはきかなかったことにしてくれ。男として、あまりにも器が小さすぎてだな」
「自覚あるんだ」


 じゃあ、いいか。
 俺の基準もかなりガバガバなので許してしまう。セシルはこの調子でたまに暴走するが、通常時は本当に頼りになるし、イクメンだと思う。
 俺は、服を脱ぎ、寝着の袖に腕を通した。風呂は朝一番にはいろうか。
 セシルに背を向けて着替えていたのだが、彼は着替え終わっただろうか。そう思い振り返れば、ちょうど彼の顔がそこにあった。ツンと鼻の先が当たる。


「セシ……」


 見慣れた顔なのに、月明かりがふわっと差し込み、彼のきれいな顔を照らす。顔の凹凸に影がスッと落ちてさらに彼の顔のパーツを浮き立たせた。
 俺が、見惚れていれば、セシルの手がスッと俺の頭に伸びる。何だろうか、と時が止まったように見つめることしかできずにいれば、彼が俺の髪に触れる。


「寝る前から寝癖がついているのか。かわいいな」
「な、ね、寝癖じゃないし。癖毛なんだよ……って、俺、そんな状態で会場に?」
「いや? 先ほどはなかったはずだ」
「ほんとかな……もう」


 早くフィルマメントの元に戻ろう、と彼の隣を通り抜けようとすれば、また腕を掴まれてしまう。今度は何かと思えば、セシルが吐息たっぷりの声で俺の耳元で囁いた。


「何だ、キスされると思ったか?」
「あ、ぇ……そんな……」
「冗談だ。フィルの前ではいちゃつかないんだろ? それくらい我慢できる」


 戻ろうか、とセシルは俺の手を引いてフィルマメントが待つベッドへと連れていく。


(……冗談って。酷いよ)


 期待した自分がいた。
 でも、それを認めてしまったらセシルに課したそれが無効になってしまう。俺は、火照る頬に顔を当て、フィルマメントの前では親の顔でいようと心を入れ替えるのだった。

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