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番外編 新たな時代を切り拓く一歩
日食の王
しおりを挟む行よりも馬車の中が狭くなっている気がする。
ガタン、ガタンと揺れるたびにいたたまれなさと共に恥ずかしさ、落ち着かなさが増していく。
「セシル、ちょーっと恥ずかしいかな?」
「これくらい慣れろ」
「これに、慣れるも何もないでしょ。お、おろしてよ」
ダメだ、と間髪入れずに返ってきた言葉に、俺は肩を落とす。
何で馬車の中にいるのに、セシルの膝の上に座っていないといけないのだろうか。
「セシルも足痺れるでしょ。俺、そんなに軽くないし」
「羽のように軽い。もっと食べたほうがいいぞ、ニル」
「……うぅ、俺にはその感覚はよくわからないな」
また始まってしまったセシルの過保護。なぜこうなったかと言えば、彼らが会議に出ている最中に怒った襲撃が耳に入ったからだ。
レティツィアを狙ったファルファラ王国の魔塔の犯行。そういえば、フロリアン卿もこの国に一緒に来ていたのだから一人くらい生きて捕らえ、彼に渡すのが一番よかったのかもしれない。だが、あの時そのことがすっぽりと頭から抜けていたため、結局あの場で刺客は全員片してしまった。
もちろんあの場には、騒ぎを聞きつけたフロリアン卿も遅れてやってきて、瞬時に魔塔の犯行であることを見抜いていたようで、俺に話をと求めてきた。上手くしゃべれなかったが、レティツィアの助言もありつつ何とか伝えることができた。フロリアン卿はその後意味深げに考えるそぶりを見せた後「後ほどこの話を持ち帰って話し合う予定です」と何故か俺に報告してきた。それが何を意味しているのかさっぱりだったが、レティツィアはよろしくお願いします、と元気よく答えていた。他国の問題であるためいくら魔塔の管理者であるフロリアン卿とはいえ表立って動けないのではないかと思う。他国の問題……しかも、ファルファラ王国と魔塔が対立しているのは王家が炎帝フィアンマの腕を所有しているからであり、王家がその腕を手放さない限りは魔塔の襲撃は止まらないだろう。
(もし、王家と魔塔が手を組んだら……?)
いや、それはありえないか。
フィアンマが復活すれば、ファルファラ王国全土は火の海に包まれるだろうし、王家がフィアンマの血を利用しているのは子孫繁栄、国の絶対的な支配者であるために必要だからだ。魔塔は竜を利用しようとしているのではなく神聖視しており、その理念に反するものに対しては強い嫌悪を抱く。
ファルファラ王国の王家と魔塔が手を組むことは一生ないだろう。
(まあ、もしそうなら俺たちの理想の実現の足かせにもなるわけだけど……)
竜と人間の共生のためには、竜を利用するという考えは捨てなければならない。人間は竜を恐れているが、竜の利用価値について考えている輩も存在し、竜という存在を知液出来れば絶対的な力が敵はいる。手玉にしようとたくらむやつは後を絶たない。
魔塔ですら神聖視しつつも、ただの飛竜であれば容赦なく実験に使うほどだ。
「何か考え事か? 俺の膝の上で」
「だから、膝の上から下ろしてほしいんだってば」
「下ろしてもらうための口実でも考えていたのか。すまないが、俺はそんな簡単に譲らないぞ」
「変なところでかたいんだからもー……」
落ち着かないことこの上ない。
とにかく、襲撃を何とか退け血の海になった庭園にセシルたちがきて状況説明をして、まあいろいろあって一日泊って現在サテリート帝国に向けて馬車を進めているというのが現状。
襲撃のことに関しては、ファルファラ王国の王家、ならびに王家に仕えている人間は「またか……」といった様子だったし、やはりこれは頻繁に起きていることなのだろう。
ただ、この会議中に嫁入り前のレティツィア王女を狙ったのはかなりまずく、ファルファラ王国が危険な国であることを他国に知らしめることとなってしまった。
レティツィアはアルチュール……アルカンシエル王国の国王との結婚を控えているわけだから、あちら側が渋るという可能性も考えられなくはない。レティツィアが今後も狙われるともなれば、その近くにいるアルチュールも狙われることとなるだろうし。アルチュールはこの間の件でひとまず第一王子派閥をどうにかすることはできたみたいだが、まだまだ王家に不満を持つ連中はいるようで気が抜けない状況下にあるそうだ。
この大陸の平和についての議論の場、議論の日に襲撃があったことは大きな歪を生むきっかけとなってしまったのではないか。そう周りは危惧しているらしい。
魔塔の存在について今しがた議論およびに対策が必要だとのことで再会議が行われたほどだ。
(王家がフィアンマの腕を手放せば終わる問題なのかもしれないけど、きっとそれだけじゃないんだろうな)
そもそもフィアンマの腕を手渡してしまえば魔塔が、フィアンマ復活に一歩近づいてしまうわけだし、大陸を脅かす要素が増えてしまう。
何としても死守せねばならぬことだし、最もフィアンマの腕を処分できればいいのだが、あの神聖な竜の一部をどう処分するかが問題である。
セシルに先ほど聞いたところによると、その話が議題に上がったときファルファラ王国の現国王クラウディオ・アルコバレーノは話をきれいに逸らしたのだそうだ。レティツィアの兄だからこの忌まわしい血、王家の負の連鎖を断ち切るために動くだろうと思っていたがどうやら違うらしい。今後もこの悪しき風習が続くと思うとゾッとしてしまう。
「……セシル、お疲れ様」
「いきなり話が変わったな。ああ、その言葉は嬉しい。頑張った甲斐があった」
「君はああいう場が苦手だろうからもっと疲れていると思ったけど、心配いらなかったね」
「なっ、つ、疲れている。癒してくれ」
「嘘なら癒さないよ」
「本当に疲れているんだ」
あたふたとしはじめ、俺の腰回りに回していた腕を引っ込めた。俺はその隙を突いて彼の隣に腰を下ろす。膝から逃げ出した俺のことをセシルは悲しそうに見つめていたが、再び俺を膝の上に戻すことはなかった。
しょもん、とした顔が何ともかわいらしくついつい笑ってしまう。
「笑うな……はあ、せっかくニルが俺の膝の上にいたのに」
「絶対周りからみたらシュールだったと思うよ」
「誰も見ていないからいいだろう」
「俺が君の上に座ったら、君の顔は俺の背なかにくっついちゃうじゃん。セシルの死因が俺の背なかで窒息死とか嫌だよ」
「本望だ」
「やめて」
本気で言っているように聞こえるのが恐ろしい。
俺の背なかがちょっと湿っぽいのはセシルが顔をつけていたからだろうか。まあ、もう何でもいいんだけど。
俺は、深く腰を掛けセシルのほうを見る。やはりまだ落ち込んでいるようで、膝の上に手を乗せていた。それが俺の温もりを辿るような行為に見えてちょっと気持ち悪かったが、セシルだし……と深く考えないことにした。たまにこういうことをするから、愛が重いなーと思う。
(愛が重いなーで済ませる俺も俺か……)
似た者同士だし、相手のどんな面に対しても受け入れられるから長続きしているのだろう。そうでなければ今頃ビジネスパートナーとしてしか彼の隣にいない。
ただ会議に出るときでさえ心配して、離れている彼のことを心配し頑張ってとエールを送れるのも、俺がセシルを好きで支えたいからだ。
悲しそうな横顔を見て、俺は彼の手にそっと自分の手を重ねた。すると、光りの速さで俺のほうへ顔を向ける。その速さにまた驚いて苦笑するしかなかった。
「本当に君は俺のことになるとすごいね」
「ニルのことだ。当たり前だ」
「君の愛が変わってなくて俺は安心するよ」
「ずっと安心していていい。俺はニルへの愛は変わらないからな。この先もずっと生まれ変わってもだ」
「それは楽しみだね」
「本気にしていないだろ……まあ、俺の執着を舐めていると痛い目見るのはニルだからな」
「な、何をする気?」
「さあ、なんだろうな?」
ニヤリと笑ったセシルは意地悪だ。
口角がくいっと上がり、一番イケメンに見える角度に首を傾けている。自分の顔面の使い方をよくわかっているな、と俺はその眩しさに目が潰れてしまいそうになる。
思わず目を逸らしたくなったが、どうせ「こっちを向け」と引き戻されるが落ちなのでしない。これ以上彼の光に焦がされたら骨も残らないだろう。
「セシルはずるいよね」
「何がだ?」
「俺の弱点を集中的についてくるから」
「夜の話か?」
「なっ!? なんで、その……まあ、いや、その、それもそうだけど。そうじゃなくて……」
「ニルの弱点なら熟知している。弱点が増えたなら、俺のニルノートを更新しなくてはな」
「何ゲームみたいなこと言ってんの」
俺がそう言うと、ん? といった具合にさらに首を傾げた。
ああ、これはさすがに分からないか。俺は咳払いをして話を逸らす。
「……とにかく今回の会議お疲れ様。また来年同じことがあると思うけど頑張ってね」
「もう未来の話か。今回の会議のことについてはきかないのか?」
「何かあったの?」
「いや、何もないが」
「ないの……」
期待して話に食いつけば、セシルはあっけらかんとした態度で「ない」と答える。なら、そんな意味深げに言わないでほしいのだが……
俺は、酷いなあといった具合にセシルを見る。だが、彼は思い出したかのように「レティツィアの兄に逢うのは今回が初めてだったか」と口にした。
「初めて? 国際的な場にはよく出てると思ってたんだけど」
「まあ、王太子だったわけだしな。今や、ファルファラ王国のトップ……国王だ。だからこそ、今回の場に出てきたのだが。国王となったクラウディオ・アルコバレーノ陛下は威厳はあったが彼もまた一癖ある人物だったぞ」
セシルはそう言って、俺の手に自分の手を重ねた。俺はセシルの手にサンドイッチされてしまい、内側も外側も彼の熱にあぶられる。
セシルがそういうくらいなのだから、クラウディオ・アルコバレーノ国王陛下はきっと癖のある人物なんだろう。レティツィアやレッテリオ王子を見ているから同じように明るい人だと思うのだが、彼の口ぶりからするに違うようにも思う。
俺は話を聞ける姿勢を作りセシルの顔を見た。夜空の瞳はきらりと光り、それからうっとりとした表情で俺を見る。そうして見つめられ、全然話す気配もないので「セシル」と名前を呼ぶと、弾かれたように彼は「すまないな」と謝った。
「時が止まったのかと思った」
「ニルがあまりにもかわいすぎて見惚れていた」
「もう、毎日のように見ているでしょ」
「昨日のニルは昨日にしかいないし、今日のニルは今日しかいないだろう。一秒前のニルは戻ってこない」
「また屁理屈言って」
「屁理屈ではない。俺は一生ニルを見ていたいんだ。俺の知らないニルはいてほしくない。ニルの表情を本当は誰にも見せたくない……だが、お前が笑わなくなるのは嫌だからな。ただ、会議の途中お前たちが楽しそうにしていたという話を小耳にはさんでからはかなりはらわたが煮えくり返っていた」
「い、今は……?」
「ニルと二人きりだから問題ない」
「そ、そっかぁ……」
難しい性格だ。
そもそも、彼らが会議をしている最中俺はレティツィアに案内されることが元から決まっていたし、セシルもそれを了解したはずだ。まさか、庭園内に足湯があるとは思っていなかったし、襲撃に逢うなんて思いもしなかっただろうけど。
レティツィアにゼラフ、と顔なじみのメンバーで和気あいあいとしていれば取り残された気分にならないでもない……のかもしれない。けど、セシルだって会議中とはいえアルチュールと一緒だったわけだし。
(アルチュールじゃ嫌なんだろうな……というか、俺たちが楽しそうに話していることに嫉妬したのかも)
なにも俺が他の人と話していたことだけに嫉妬していたのではないだろう。
さすがに、ゼラフと話したいとは思っていないだろうが、和気あいあいとした知り合いの輪に入っていたかったのかもしれない。
まあ、俺がごめんなんて言う必要性はどこにもないけど。
「それで、クラウディオ・アルコバレーノ国王がどうしたの?」
「お前も俺の口ぶりでうすうす気づいていると思うが、レティツィア王女とはまた異なる性格の男だった」
「まあ、兄妹とはいえ何から何まで似ていないと思うけど……」
「そうだな。だが、アルチュールに似たものを感じた」
「腹黒さ?」
「底の見えなさだ」
否定の方法があっさりしていて、ぐうの音も出なかったが、セシルの顔を見ているとなんとなく察せた。セシルからしてみればやりにくい存在だったのだろう。
アルチュールも同級生だったとはいえ、国際的な場では一国の国王として自分の国に利益が出るようにと国のことを考えて行動するだろう。だからセシルに安易に助け舟や同調は示さないはず。かといって、ファルファラ王国に肩入れするでもない。
「炎帝の話になったときに顔つきが変わったな。すぐに話を逸らされたが、フロリアン卿が少し突っ込んだ話をしていた」
「……やっぱり、手放さないって? でも彼も、被害者……」
「それはどうだろうな。レティツィア自身も自身のことを被害者とはいっていないだろう?」
「それはそうだけど……フィアンマの血を地に適合したことによって人生が狂ったのは言うまでもないんじゃないかなって思って……」
レティツィアはその力を国のために使うと言ったが、彼女の身体は人ならざる者へ進化していっているような気もした。
俺は今はその魔力を十分に使えないが、穴の開いた心臓を修復するほどの魔力を秘めていたわけだし、氷帝の血、力というのは本来人が持っていてはいけないものではないかと思っている。俺の母親は少なくとも氷帝の血を忌み嫌っていた。人間が持っていてはいけないものであると。
レティツィア自身もそれをよくわかっている。
ならば、クラウディオ・アルコバレーノはどうなのか。
(妹のほうが適合率がいいから嫉妬している、とか……いや、そんな器の小さな人間には見えないけど)
パッと見では分からない。挨拶のとき顔と顔を突き合せたが、彼から感じたもののなかに黒いものは感じなかった。それを完全に押し込めている、表に出さない技術を持った人なのかもしれないが、彼はから嫌な気は感じなかった。
ただ、実際に会議に出ていたセシルは感じるものが何かしらあったのだろう。
「あの数時間の会議ではつかめないところが多すぎた。まあ、サテリート帝国や大陸を揺るがす存在ではないだろうとフロリアン卿と答えが一致している」
「フ、フロリアン卿は……信じてもいい存在なの?」
「ニル?」
思わずポロリと出てしまった言葉。俺は慌てて口を塞いだが、セシルの表情が一瞬だけ変わったのを見てしまった。
ゼラフと話していて、フロリアン卿は目的のためなら手段を択ばない男であり、結果こそがすべてであると考えている男だと聞いた。俺自身もそれは関わっていくうちにうすうす感じていたし、ゼラフが切羽詰まったようにそう言ったので俺もその言葉を信じている。
セシルは違うのだろうか。
「ご、ごめん……国のためにあれこれと根回ししてくれている人なのに、疑うっていうか、そんな目で見るのは」
「いや、いいんだ。人それぞれだからな。それに、俺自身も彼の結論を急いでいるような言動は好きではない。自らの望む結果に誘導しようとするその姿は見ていて気分のいいものではないからな」
「セシルも、そう思うんだ……」
「ニルと嫌いな人も似ているのは嬉しいな」
「き、嫌いって……そこは違ってもいいでしょ」
「フロリアン卿は、長い目で見たときの平和については俺とだいたい意見が合致する。それまでの過程については少々意見が分かれるところだが、彼の真の目的が大陸の恒久的な平和であることには変わりないだろうから心配ない。ズィーク・ドラッヘンのような独裁者、危険な思想を持った人間ではないからな。ただ、やややり方が荒いところはあるがな」
「そうだよね……」
ゼラフも言っていた、と言いかけてこれまた言葉をしまい込む。
この二人きりの状況で他の人の名前を出すのはタブーだろう。
「そ、それでクラウディオ・アルコバレーノ国王陛下については」
「一言でいうなら日食のような男、か」
「ごめん、ちょっとわかんないや」
「レティツィアのような眩しい照り付ける太陽でも、レッテリオ王子の陽だまりのような優しい光でもない。太陽であることには変わりないが、影があると言ったらいいか。そのムラがありそうだ。こんな数時間で推し量れるものでもないから、あくまで印象の話だ。国の平和を願っていることには変わりないだろう」
「まあ、そうなるよね。そんな数時間で人のこと分かるわけもないし……」
でも、セシルが抱いた印象は大切だろう。
レティツィアのように明るいだけではなくて影がある。ただ、その陰の部分というのは打算の部分というか。まっすぐだけではない、政党法だけでどうにかしようとしているのではない、といった感じなのではないだろうか。
俺もあの一瞬しか挨拶をしていないし、レティツィアから聞いた話も彼女より適合率が低く、頭がいいという情報だけだし。それらを組み合わせて導けるものなんて本当の答えじゃないだろうし。
「話はこの辺でいいか?」
「え? ああ、うん。ありがとう。セシルもつかれていたのに、ごめんね」
「気にするな。俺も、お前が会議中に何していたか知りたいし、今度はニルの番だな」
「いやいや、俺はそんな何にもなかったって。クラウディオ・アルコバレーノ国王陛下について聞いたのも、レティツィアに話を聞いたからだし。俺が聞いた話と、セシルがウケた印象を照らし合わせてどんな人物だか知りたかっただけだから」
「何故だ?」
「セシルが今後関わっていく人間だからだよ。君は皇帝としてこれから大陸の数多の国と交流していくでしょ。だから、その国のトップについて知っておいたほうがいいかなって。その際に、俺が君のサポートができたらって考えてた、から……出しゃばりすぎかな。迷惑」
「そんなわけないだろう。すまない、もっとお前の意図を読み取れたらよかったな」
「いいよ。勝手にいろいろ思ってただけだから」
セシルは謝ってきたが、その謝罪は受け入れるつもりはなかった。
俺がきいたことだし、それに対してセシルは答えてくれただけだから。
俺は、頭を下げそうになったセシルの頭部にポンと手を当ててなでなでと横に手をスライドさせた。セシルは、なさけなくわっ、と言ったがその後は俺にされるがままだった。何だか大型犬を手懐けているようで笑ってしまう。
「前にも言ったでしょ。離れていても君の役に立ちたいし、君のことを思ってるって。まあ、俺も順序がぐちゃぐちゃだったから混乱させちゃったかもだけど」
「……別にこちらも構わない。ニルがそう思っていてくれるだけで俺は嬉しい……庭園の話は、その……やっぱりずるいと思うが」
「ごめん、ごめん……って、これも俺謝ることじゃないよね!?」
「ヴィルベルヴィントは、ニルの護衛という立場を手に入れたせいで四六時中お前と一緒にいる気がする。何だか寝取られた気分だ」
「ねとっ……!? そんなことないし。セシル言い過ぎ。俺のことも尻軽みたいに言って」
「それは言っていない。ただ、あいつに少しでも下心があるのは確かなのだから……心配だ」
「俺の貞操は大丈夫だから」
「心配だ」
「ねえ、聞いてる?」
セシルだってゼラフのことよくわかっているだろうに。彼がそんなすぐに手を出すようなやつじゃないことくらい、ここ数年付き合ってきて分かるはずなのに。
時々、解釈が不一致になって勝手な妄想をするのはやめてほしい。
「……ニル、疲れていないか?」
「また話がゴロッと変わったね。疲れてないよ。セシルも疲れてない……んだよね?」
「ああ。ニル、ここから宮殿までどれくらいかかると思う?」
「あと、二時間もない……じゃなかったかな?」
「ああ」
「……えーっと、セシル、さん?」
「さんなんて他人行儀だな」
嫌な予感がしたが、そのときには時すでに遅く、俺は押し倒されていた。こんな狭い馬車の中で逃げ場なんてない。
セシルは俺を見下ろし、ニヤリと笑っている。逆光になった彼の顔は暗いが、その不敵な笑みはしっかりと見えてしまった。夜空の瞳に欲情が滲んでいる。
「ニル、頑張った俺にご褒美くれないか」
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