みんなの心の傷になる死にキャラなのに、執着重めの皇太子が俺を死なせてくれない

兎束作哉

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番外編 新たな時代を切り拓く一歩

卒業した二人の上級生騎士

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 少数部隊が結成され、再び二階へと戻ってきた。

 連れてきた騎士たちの中から有志の参加。多くのものが手を挙げるが、その顔は不安そうに見えた。このトラップだらけの屋敷の中で先陣を切って行動するのはかなり至難の業だ。皆しり込みして当然だった。心してきたものの、まさかここまで酷いとは誰も想像しなかっただろう。
 セシルもそのことに関しては悩んでいるようだし、一週間の準備で整えられた精一杯がこれである。それ以上時間をかけると人質の解放が困難になると判断したからだ。
 やむを得ない出撃だった。父上が戻ってくることにかけていたが、それも結局は賭けに負けてしまったのだ。
 かといって準備をしてこなかったわけじゃない。ただ本当に想像以上だったというわけだ。

 少数部隊――セシル、俺、ゼラフ、そして二人の騎士についてきてもらっている。古株というわけではない、まだ若手の騎士だ。体力やメンタルに自信があると言ったのでセシルが手を挙げた中から選んだらしい。
 二階へ着くと、夜と夕方の廊下が俺たちを出迎えた。どちらから先に探索するか迷いどころだ。
 どうやら外の景色は固定されているようで、俺たちが作戦を考えている間に時間が過ぎたような感覚はなかった。
 とにかく慎重に進まなければ。


「ケルビー卿、キーランド卿、ここから先は何が起こるか分からない。各自注意を払って進んでくれ。自身の身は自分で守ること、危険だと判断した場合撤退をしてもかまわない」
「皇帝陛下」
「何だ。ケルビー卿」
「危険だと判断した場合撤退を……とおっしゃっていましたが、我々は騎士です。貴方がたの命を優先にしますし、退路を開いてから撤退するつもりです。もちろん、そんなことがなければいいとは思っていますが」


 スッと手を挙げたのは、ケルビー・リステアード侯爵だ。ミルクティー色の髪は長く、緩く一つにくくっている。その前髪から覗く双眸は鋭く、騎士としての誇りを大切にしている人だと、覚悟が見えた。
 同じく、その隣にいた彼――キーランド・ウルリック子爵も頷く。ストロベリーブロンドの髪は派手だが、その派手さとは裏腹に落ち着いた雰囲気で、彼も同じく騎士として成熟した大人だ。
 自分たちは騎士であり、君主をおいて逃げることなどできないと言っているようだ。
 セシルは先ほど「自分たちを置いてでもいいから危険だと判断した場合はすぐ撤退を命じる」だった。普通ならば、危険があった場合でも君主であるセシルを置いて逃げろなんておかしな話だ。だが、セシルは自分のみは自分で守り、自分の意志で撤退を選択しろといった。誰かを守っていられるような隙が今後ないと判断したからだろう。そして、少しでも多くの命を助けるためには、撤退という選択肢を取る、戦線離脱を選択するのがいいと彼らに伝えたいのだ。
 だが、彼らは騎士であるため君主を置いて逃げられない。双方の意見はぶつかっていた。
 それでもセシルの意見は変わらないようでまっすぐと彼らを見つめていた。
 セシルの圧に押されたのか、二人は軽く頭を下げ「考えが及ばず申し訳ございませんでした」と謝った。
 騎士としては君主を守ることこそが大正解なので、何もおかしいことではなかった。ただ、セシルは守られなければならない弱い君主はいらないという考えなのだろうし、何よりもこれまでの状況を鑑みるに、今後死者が出てきそうだと判断している。


「かまわない。こんな命令受けたことないだろうからな」
「それでも、我々は皇帝陛下を守ります。貴方はこの国の希望であり、太陽のような存在なのですから。貴方がいなくては、敵対しているステュルカ聖王国の脅威に打ち勝つことはできないでしょう」
「俺の代で終わると思うか?」
「この戦いがですか?」
「……戦い、なのだろうか。未だに敵の正体は分からない。地道な調査を続け、ほんのわずかな情報から相手の姿や輪郭を作っていくしかない。まるで、亡霊と戦っているような感覚だ」


 セシルはそうケルビー卿とキーランド卿に言った。
 彼らは難しい表情をしていたが、セシルのことはとても慕っているように見えた。

 彼らもモントフォーゼンカレッジの卒業生だ。俺たちよりも三つほど上だったので一年しかダブっていない。また、一年生と四年生ではかかわりが極端に少ないため、彼らの存在はあまり認知していなかった。
 モントフォーゼンカレッジの騎士科を卒業し、家業を継ぎながらも騎士団に在籍。そして、今回の作戦に同行してくれた。これは何かのめぐりあわせなのではないかと思う。
 彼らがセシルのことを慕っている、その強さをしっかりと理解しているのはモントフォーゼンカレッジでセシルのことを見ていたからだろう。あの頃は皇太子が入学してくると一躍騒ぎになっていた。本人はそんなこと一切気にしていなかったが、同期の学生は皇太子と一緒に学べることに喜びを感じていたり、あるいは恐怖でおののいていたりしていたそうだ。
 俺たちは二人と関わることなく卒業したが、こうして騎士になった彼らと同じ任務にあたれるのは嬉しい限りである。あちらはどう思っているかは知らないが。


「亡霊すらも皇帝陛下なら断ち切れると信じております。私は、貴方の力を信じておりますゆえ」
「そうか。ケルビー卿」
「私も信じています。陛下。学園にいたころから貴方の実力はかねがね」
「話したことはなかったがな」


 嬉しそうに話すキーランド卿の言葉をセシルはバッサリと切り捨てた。
 キーランド卿の笑顔はかたまり、ケルビー卿はじとぉっとした目でその様子を眺めていた。場の空気が一気に凍りつく。


「ちょ、ちょっとセシル」
「話したことがないのは事実だ。すまないが」
「す、すまないって……もっと、その言い方ってものが」
「ニルは上級生に好かれていたようだが、俺はそうじゃなかったからな」
「……別に俺だって好かれていたわけじゃないよ」


 セシルと違って喜怒哀楽がまだしっかりしているほうだし、自分でも自身のことをお人よしだって思う。だから、そういう優しさに付け入る人とか、惹かれてくれる人とかがいて、周りに人はいたけど……でも、セシルの牽制シャットアウトのせいで人が寄り付かなくなってしまっていた。
 そんなことはいいとして、確かに二人とはかかわりがなかったように思う。
 しかし、入学式の後にあった伝統……とは名ばかりの上級生に新入生が切りかかる騎士科恒例のあれに俺たちは参加していた。その時に俺たちの存在を知ったのではなかろうかと思う。あれは今思っても最悪だったな……と、いやな意味で印象に残っている。その後はセシルが新入生歓迎会の幹事的な立ち位置になったし、無敗の記録を誇った。まあ、上級生が新入生にやられているようじゃ目も当てられないので、そこは意地でも勝たなければならない。
 俺はこそりとセシルに言い方を気をつけなよ、といったが当の本人はきょとんとした顔をしていた。
 そんなやり取りをしていると、キーランド卿がフハッと笑った。


「す、すみません。陛下……学園で見たときと全く同じで。あなた方の仲の良さを再度目の当たりにできて。はい、なんだか感動しています」
「キーランド卿、もう少し言葉を整理してから言うんだ。陛下が混乱している」
「すみません。でも、ケルビー卿も思ったでしょう?」
「皇帝陛下と皇后陛下の仲の良さか? ああ、学園時代も、今も……きっと昔から仲がいいんだろう」
「感動がないですね。ケルビー卿は」


 二人は仲がいいのか、キーランド卿の脇をケルビー卿がドンとつついていた。少し鈍い音がしたが大丈夫だろうか? キーランド卿は、わき腹を押さえつつ「いてて……」と生理的な涙をにじませていた。
 彼らは同期で同じクラスだったのだろうか。


「仲がいいんだな。二人は」
「寮で同室でしたから。昔話をすみません、陛下」
「いや、いいんだ。そういう話はもっと聞きたい。俺たちよりも先輩だった貴様たちのことを、俺はよく知らないからな」
「作戦が終わった後にでも」
「そうだな。作戦が終わった後にでも……な」


 セシルは少し寂しそうにしていた。
 彼がそんな表情をするなんて珍しい。今すぐにでも話してしまいたいという欲が見て取れたが、作戦中だ。我慢しなければならないと彼も気付いたのだろう。
 寮の同室……これまたとても懐かしい響きだった。
 基本的にモントフォーゼンカレッジの寮の部屋は四年間変わらない。それらしい理由があれば変更も可能だが、基本的には相部屋だ。同学科の同学年で組まれるので、寮生活でも切磋琢磨しあうんだという学園の方針が伺える。
 俺はセシルの護衛騎士だったのでもちろん相部屋。もしかすると、セシルがわざわざ申請したのかもしれないが、彼と四年間あの部屋で過ごした。
 ケルビー卿もキーランド卿も四年間の思い出があるのだろう。爵位を考えると彼らの地位はかけ離れているようにも見えるが、生まれや出自などは関係なく、切磋琢磨しあい、仲良くやってきたんだなというのが伺える。
 俺も彼らの話を聞いてみたいと思った。


「陛下、どちらから進みますか?」
「どうやら、どちらの空間もその時間帯で止まっているようだ。だから、夜は夜のまま、夕方は夕方のまま日が沈むなんてことはないだろう。まずは夕方の廊下から進むことにしよう」
「御意に」


 ケルビー卿は美しい会釈をし、遅れてキーランド卿が敬礼をした。
 ゼラフは相変わらず気の抜けるような欠伸をしており、俺がペシンと背中を叩けば変なところに詰まったのかむせていた。


「んだよ……」
「眠たいの?」
「まーちょっとはな」
「しっかりしてよ。君が俺のこと守ってくれるんでしょ?」
「途中まではな」
「途中まで?」


 何やら含みのある言い方をして、ゼラフはもう一度欠伸をした。
 緊張感がない。
 でも、その瞳は鋭く光っており、セシルの後ろ……窓に反射した自分の姿を見つめていた。
 俺は魔力探知ができないに等しいので、彼が何を見て、感じているのか分からない。教えてもらおうと思っても、聞いていいのかすらためらってしまう。
 ケルビー卿とキーランド卿を先頭に俺とセシルを挟む形で廊下を進んでいく。
 二手に分かれた廊下。片方は夜を映し出しており、俺たちが歩いている廊下には夕日が沈みかけた暗いオレンジ色がぼぉぅっと揺らめいていた。しかし、景色は変わらず変な感覚だ。
 廊下にはいくつもの部屋があり、ゆっくりとドアノブを握り引く――が、開かない部屋も多々あった。とはいえ、その部屋に何かありそうな感じもなく、ゼラフ曰く魔法がかけられているのではなく、鍵がしてあるのだろうとのことだった。
 魔法で鍵がかけられているのなら、そこに確実に何かあるか、あるいはそれ自体がトラップなのか。疑心暗鬼になりながら進むしかなかった。


「開けたいなら蹴破ってでも開けてやるぜ? これくらいのドアなら一発だ」
「ゼラフ、屋敷の中は荒らさないように言われてるんだから物騒なこと言わないで」
「魔法の類は仕掛けられてねえが、何かヒントになるものはあるかもな」
「ヴィルベルヴィント、貴様透視の魔法は持っていないのか」
「俺を何だと思ってんだよ」
「できたとしても、家具の配置くらいしか分からないぜ? それに、温度があるもののほうが透視できる確率は跳ね上がる……それがない無機物じゃちょっとなあ」
「……単に鍵が占められているだけか。だが、閉められていない部屋との違いはなんだ?」
「さあ?」
「一緒に考えろ。思考を放棄するな」


 こちらも相変わらず辛らつな言葉が飛ぶ。
 時々、キーランド卿はセシルとゼラフの会話が気になるのかこちらを見る。ケルビー卿はそんなキーランド卿のわき腹を肘でつついていた。
 確かに気になる会話ではあるが……いや、聞かないのが正解だ。聞くまでもない痴話げんかである。
 しかし、さすがのケルビー卿も気になったのか、扉を確認しながらこちらに言葉を投げかける。


「ゼラフ卿は変わりましたね」
「ああ?」
「ゼラフ、その言い方はないと思うよ。君、仮にもヴィルベルヴィント公爵家の当主なんだから」
「……ケルビー・リステアード侯爵、何か言いたいならどうぞ?」
「では、お言葉に甘えて。私が三年生の時に貴方は入学してきましたね。魔法科の伝統行事……あるじゃないですか、入学式の後の歓迎パーティー」
「クソつまんねえやつな」
「魔法科にとんでもないやつが入ってきたと、当初話題になっていましたね」
「周りのレベルが低いだけだ。それに、上級生がキレて襲い掛かってきたんだ。返り討ち……ああ、いや? 正当防衛ってやつだな」
「入学初日から校舎を破壊する新入生なんて見たことないと、話題はもちきりでした。その後、貴方の話題は耳にしなくなりましたが」


 俺はバッとゼラフのほうを見た。
 彼は特に表情筋を動かすことなくケルビー卿の話を聞いていた。
 なんてことをやっているんだ、と大声で叫びたくなることをしている。入学初日に校舎を破壊……いや、俺も上級生に剣を向けたけどそれ以上だ。正当防衛と言い訳しているところもゼラフらしいのだが、一体何があったのだか。
 セシルは「こいつおかしいな」と言っていたが、セシルもセシルで上級生からしてみればヤバい存在だったに違いない。
 ゼラフは俺たちが三年に上がる前に留年しているし、順当にいけば四年で卒業していただろう。
 そんなことはさておいても、騎士科の耳にも入るような生徒だったのかとゼラフを今一度見てみる。ゼラフ本人はどうでもいい、武勇伝にもならない話だとつまらなさそうにしていた。


「それで? 変わったって話がつながんのかよ」
「ええ、つながります。貴方は変わりましたよ。もちろん、貴方のすべてを知っているわけではありません。学科も違いましたし、貴方は社交の場にも出てくるタイプではなかったので」
「ケルビー卿は、俺とは真逆の優等生だったもんな?」
「存在を認知していただけ光栄です」
「思ってもないくせに」


 ふんと、鼻を鳴らし、肩にかかった髪を払いのける。
 ケルビー卿は淡々と伝えていたが、まるで兄のように優しい目を彼に向けていた。


「そうだ、陛下。陛下の子ども……皇太子殿下と、私の家の次男、同い年になりますよね」


 今度は打って変わって、キーランド卿がセシルに話しかける。
 ケルビー卿は次の扉が開くかどうか確認しに行った。それをゼラフが目で追いかけている。
 セシルは明るい声が飛んできたため、ビクッと肩を揺らしていた。まさか、自分に話が飛んでくるとも思わなかったのだろう。
 そういえば、ウルリック子爵家の次男はフィルマメントと同い年か。それを言うなら、リステアード侯爵家の長男も同い年なような気もする。侯爵家に関しては、先日長女と次男が生まれたという噂を耳にしたのだが……


「皇太子殿下はとても好奇心旺盛で、陛下に似てすさまじいポテンシャルを秘めていると噂に聞きまして。もしかすると、モントフォーゼンカレッジに入学したとき同級生になるのではないかと」
「キーランド卿の息子もなんだ、学校に興味があるのか?」
「私の子どもはまだあまりしゃべったりしませんが。ですが、騎士たちの稽古場によく連れて行ってほしいと乳母や侍女にお願いしているようで……私を超える騎士になるのではないかと思います」
「言い切るんだな」
「親の私が、子どもの可能性を信じてあげなければ!」


 キーランド卿は嬉しそうにそう笑った。
 この人も子どものことが大好きなんだなと伝わってくる。
 それを聞いていたケルビー卿も「親ばかだな。私もだが」と付け加える。
 セシルは二人の話を聞き、ほんの少しだけ頬を緩めた。いつも、俺以外の人と話すときはカチコチに固まっている表情筋が動いたので、俺もホッとする。セシルが普通に他の人と話せているんだって安心する。そして、慕われていることにさらに安堵が広がっていく。


「セシル、よかったね」
「な、何がだ?」
「ん~いろいろ? 俺が言えることじゃないかもだけど。セシル、見る目あると思う」
「本当に、何がだ?」


 二人を選んだのは偶然だったか、セシルなりに何か見極めてのことだったか。
 緊張状態が続いていたこの場に優しい風が吹き込んだような気がした。とはいえ、まだまだ気が抜けない状態が続いている。
 ケルビー卿は次の扉も開かないと首を横に振った。


「ここも開かないか……開いた部屋はあったが、特に何もない客室のような場所だった。陛下、次の部屋で最後です」


 もう突き当りまで来たのか。
 夕方の廊下には何もなかった。収穫はゼロだ。
 次の夜の廊下に何かあるとも思えないし、この後は三階を探索することになるだろう。一階から二階に上がる時、シャンデリアが落ちたのはなんだったのか。そういうフラグや暗示の類だと思っていたが、考えすぎだったか。
 一階で待機している騎士たちのことも気になるため、調査が終わって一度下がったほうがいいだろうか。


「セシル、二階に何もなかったらこのまま三階に行くつもり?」
「少し考えよう。まあ、考えてばかりもいられないが」
「それもそうなんだけど……相手が何を考えているか分からないし」
「悪意だらけのトラップだな。人を不愉快にさせることに長けた仕掛けだ。本当にあの女が仕掛けたものなのか?」


 唸るようにそう言って最後の部屋を空けようとするケルビー卿に視線を向ける。
 セシルの言う通り、エルバっぽくない作戦というか魔法の使い方だ。ただ、エルバのすべてを知っているわけではないので現状彼女っぽくないというだけで、彼女が作戦を変えてきている可能性もある。
 しかし、この妙な違和感……
 ケルビー卿は、ごくりとつばを飲み込みドアノブに触れる。だが、次の瞬間ゼラフが彼に向かって走り出した。ケルビー卿は驚きそのまま扉を開けてしまう。
 チッ……と大きな舌打ちが聞こえたかと思えば、何かがケルビー卿目掛けて襲い掛かる。それを間一髪ゼラフが防ぎ、彼を押し倒した。その何かというのは後ろの窓を突き破り闇へと消えてしまった。すさまじい破裂音。廊下には何かが突き破ったため、ガラスが散乱していたが、すぐにもそれは元の形に戻ってしまった。どうやら二階から外へは出られない、空間そのものが捻じ曲げられているようだった。


「ゼラフ卿……!!」
「俺の下で騒ぐな、鬱陶しぃ……止まってりゃいいものの、開けんなよ」
「それは、申し訳ない……」
「最後の最後でトラップだな。あのまま開けてりゃ串刺しになってただろうよ」
「……ゼラフ卿、血が」
「ああ? かすり傷だろ、こんなの」


 かすかに鉄の匂いがする。
 ゼラフはケルビー卿の上から退くと、パンパンと服を払った。その右頬には何かに割かれたような切り傷がついている。つぅと赤い血が彼の頬を伝っていた。
 トラップ……ここに来て命を奪うようなものが。
 緊張がまた走る。


「とにかく迂回だ迂回。ここには何もねえよ」


 ゼラフは早くいこうぜ、と何事もなかったように歩き出す。何か焦っているのか、それとも何かを探そうとしているのか。その背中は少し寂しく、独りよがりにも見えた。

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