みんなの心の傷になる死にキャラなのに、執着重めの皇太子が俺を死なせてくれない

兎束作哉

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第2部3章 テストと新たな刺客

02 中間テストがやってくる

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 母からのささやかなプレゼントをもらってから、二日ほどが経った。

 授業後の教室は人がまばらで、授業の復習をしている人や、だべっている人など様々だ。ちょうど、午後の授業がすべて終わったところで、ホームルームまで少し時間がある。
 俺は、その時間を授業の復習にあてていた。
 古くなったので新調した万年筆はとても書きやすく、すらすらと文字がかける。ノートに板書しながら、俺はふと隣の席のセシルの視線が気になった。


「似合っているな。その手袋」
「ん? ああ、母上からの贈り物で。ありがと。俺もこれ気に入ってるから」
「だろうな。肌に離さずつけている。それに、魔力が込められているからな。あったかいんだろ?」
「そんなこともお見通しかあ。恐れ入るなあ、セシルは」


 少しからかうように言えばセシルは「当然だ」と、俺の言い方に気づいていないようで胸を張った。セシルらしいと言えばセシルらしい。
 似合っていると言われたことも嬉しかったが、母親からのプレゼントに気づいてくれたことも嬉しかった。本当によく見ているし、俺しか見ていないセシルにいつも俺の心は温かくなる。
 母がくれた手袋は、日常遣いもできる優れもので、分厚いかな? と思っていたが、実際万年筆を持っていても違和感がないし、ものが滑ることもない万能なものだった。そのため、肌に離さず身に着けている。
 俺は、万年筆を置いてセシルの顔を覗き込む。セシルはなんだ? と、つられるように俺の顔を覗き込んだ。


「待って、なしなし!」
「何がなしなんだ」
「…………俺はセシルの顔を見る権利があるけど、セシルは俺の顔見る権利ないの」
「それはひどいんじゃないか? 権利も何もないだろう。それに……なんだ。俺の顔に見惚れていたのか」
「ああ~もう、セシルのバカ!!」


 勉強が一区切りついたからセシルの顔でも眺めるかと、息をするように見てしまったが、まさか見つめ返されるとは思っていなかった。ミラーリングというか、同じ行動をされて、その夜の瞳に見つめられると、胸がぎゅんとなってしまう。顔がいいのをセシルは自覚していない。証拠に、こてんと首を傾げている。
 何が嫌なんだ、というようにセシルは俺の背中を叩くので、俺はビクッとしつつも、やめてよと彼の手を払う。


「悪かった、ニル。俺の顔ならいくらでも見ていいから」
「そういう問題じゃないんだって……あと、ほいほいそんなこと言わないの。セシルは、自分の顔、鏡で見たことある?」
「顔を洗う際に見るな」
「……顔がいいこと自覚して」
「それは、ニルもだろ?」


 いや、俺は違うだろ、と言い返そうと思ったが、なんとなくやめた。
 多分セシルは「ニルはかわいいからな」と言うに違いないからだ。みんなよく俺の顔を褒めるが普通だと思っているんだが。フツメン……でも、みんな瞳がきれい、とか顔がかわいいとかいう。俺は百七十を超えてるし、平均よりは高いと思ってるんだけど。そんな男をかわいいなんて、BLゲームの世界だから違うのだろうか。かわいいとかっこいいの二択しかないのだろうか。
 そんなしょうもないことを考えながら、俺はふと顔を上げ、俺の手を触っているセシルを睨みつけた。


「また勝手に触って」
「俺には触る権利がある」
「それ、俺がさっき言った言葉の流用? やめてよ、パクんないで」
「身体は大丈夫か?」
「いきなりだね。大丈夫だよ。いつも通り。定期的に医師にも見てもらってるし、魔法も使ってない。だから、問題ない」


 研修のときはどうなるかと思ったけど、今はだいぶ落ち着いている。
 本当に過保護で、心配性だな、なんて思いながら最近は父にも母にも心配され、あげくゼラフとアルチュールにも心配されているので、そろそろ体調が万全になってくれないものかと思う。
 もちろん、ハンデがなくなるわけじゃない。一度心臓に大きな穴が空いてしまって、それがふさがったという奇跡を体験したから。もう二度目はないと、今だって生きている心地がしない。
 本来であれば、今年の春休みに死ぬはずだった死にキャラだった。それが、俺が転生したから何なのか知らないが、生きている。
 そのせいで、ゲームにはなかったことが起きている。アイネが狙われているのはゲーム内でもあったが、基本的にこのゲームは恋愛がメインだったはずだ。陰謀とかはいろいろあったが、よく思い出せない。
 それだけじゃない。


(俺が狙われている理由はなんだ?)


 春休みからおかしいと思っていた。俺は、メンシス副団長か誰かが、父を嵌めて殺すために俺を殺そうとしたのではないかと思っていた。だが、俺を誘拐しようとしていたところを見ると、なんだか違う気がするのだ。利用目的は他にあると。だが、俺を攫ったところで、公爵家を脅すことしかできないし、最悪見捨てれば何の使い道もないそこら辺の石ころと変わらない。
 俺自身、誰にも言わないが、誰かが欲するような価値はそこまでないと思っている。父を許すことができるからか、それとも公爵家をか。考えても、黒幕の存在は輪郭すらもはっきりとしない。
 俺が生きていることによって起きているイレギュラー。今後もきっと俺は巻き込まれ続けるだろう。俺の知らない人たちによって。


「眉間にしわがよっているが、何を考えている? ニル」
「えっ、ああ、いろいろ、かな。別に隠すようなことでもないよ。ねえ、セシル。変なこと言うけどさ。俺の価値ってなんだと思う?」
「ニルの価値?」
「……俺がもし、命を狙われているとして。俺を誘拐するメリットというか、価値。誰かにとって、俺は利用するに値する人間かってこと」


 こんな質問、いきなり投げかけられても困るだろう。だが、セシルは真剣に悩んでくれているようで、顎に手を当てて、視線を下げる。


「騎士団長殿をゆするか、俺をゆするのに使うか……まあ、ニルも大方このくらいのことを考えているだろうが」
「うん……俺が誘拐されたら、セシルが黙ってなさそう。でも、セシルが危険に身を投じる必要はないからね。最悪見捨ててもいい」
「何を馬鹿なことを言うんだ、ニル!」


 ドンッ、と机をたたいて立ち上がったため、教室にいた人たちの視線が一斉にこちらに集まる。
 俺は、セシルをなだめ座らせて「もう」と怒る。だが、怒っているのはセシルも一緒だった。


「俺が、ニルを見捨てると思うか?」
「思わないよ。セシルのことは分かっているつもり。もちろん、俺は俺の命を大切に思っているよ。父上と、母上からもらったもの。そして、セシルが俺を大事にしてくれるから、俺は自分を好きになれたし、大切にしようって思ってる。前に、セシルがいってくれたように、天秤にかけていい命なんてないって。でも、俺もセシルと同じくらい、セシルのことが大切で、セシルのことが一番なんだよ。だから、君に危害が及んだら、それこそ俺は……」


 考えたくもない。

 俺は口を閉じて、セシルの腕を掴む。
 この話は嫌いだ。自分から仕掛けたくせに、日和ってそれ以上話せなくなる。
 天秤にかけていい命なんてない。けれど、どう考えても帝国の未来を背負っているセシルが、俺なんかのために、とは思ってしまうのだ。そうでなくとも、セシルが危険に巻き込まれるのだけは嫌だ。だったら、潔く見捨ててくれ。君の中で生き続けるなら、俺はそれでいいと思うのだ。
 セシルは、欲張りだからどっちも成し遂げようとしているみたいだけど。俺は淡白で、薄情だから、どっちもなんてとんでもないと自分を切り捨てる。

 セシルは、大きなため息をついて、髪をかきあげた。銀色の髪がさらさらと彼の指の隙間を通り抜けていく。その様子を俺は見つめながら、彼の次の言葉を待った。閉じられていた夜色の瞳が次に見開かれたとき、セシルは何かに気づいたような顔で俺を見た。


「俺たちをこれまで襲撃してきたやつらは、ニルを誘拐しようとしているんだろう。きっとこれからも。ニル自体に利用目的があるんだろうな。メンシス副団長はともかく」
「えっと、何でメンシス副団長?」


 前半の言葉には深く賛成する。でも、その利用目的というのが分からない。
 それと、メンシス副団長の名前が出てくるのが意外だった。もちろん、候補として挙がっているが、あの人が黒幕ということはないだろう。その裏に誰かいるはずなのだ。
 俺がそういうと、セシルはまた、呆れたように俺の額を指ではじいた。


「いたっ、何すんの」
「お前は、いろんなやつを引っかけすぎだ。同級生や、ヴィルベルヴィントはともかく……あいつらの執着なんてかわいいものだ。お前が他の大人に向けられている感情は、もっと黒いぞ、きっと」
「それと、メンシス副団長がどうつながるのさ。俺と、あの人は、俺の父が騎士団長で、メンシス副団長が副団長って立場で。それくらいの関係じゃん」
「……どうだろうな。俺も詳しく知らないが」


 と、セシルは言葉を区切って、その後は、はぐらかすように「まあ、気をつけるんだな」と勝手に話を終わらせてしまった。

 何か知っているような感じはしたが、詳しくは知らない。だから、中途半端な情報を渡すのはやめようという気遣いだろうか。


(話してくれればいいのに、バカセシル……)


 はあ、と俺はため息をついて、教室に入ってきた担任を見た。
 散らばっていたクラスメイトも、席に着席し、帰りのホームルームが始まる。


「ええ、知っていると思うが。一週間後にテストがある。よって、この一週間の部活動は禁止。それと、私の授業で悪いが、テスト範囲が終わっていないし、終わるめどが立っていない。だが、テストは作ってしまったため、範囲は変えるつもりはない」


(いや、待って酷いこと言ってる……)


 担任は淡々と告げるが、かなり酷いことを言っている。批判殺到を予期し、俺は周りを見てみるが、やはりみな不満そうにざわざわ、こそこそと話している。
 それを見て担任は、静かに、と言うが、ほぼ担任のせいじゃん、と俺は苦笑する。
 確かに今回のテスト範囲は広いと思ったが、終わっていないのも確かで、終わるめどが立っていないのもなんとなくわかっていた。なので、予習はしていたが、それがテストに出るなんてかなりハードルが高いというか。しかも、この担任のテストはかなりレベルが高い。予習だけで追いつける気が、みんなしないのだろう。
 ちなみに歴史の授業だ。


「そういうことだから、皆、テスト期間だから早く帰れるとはしゃぐのではなく、勉学に励むように。連絡は以上」


 と、担任は言うと出て行ってしまう。

 ホームルームが短いのは取り柄だが、言われたことの衝撃が大きいのか、皆担任が出て行った後も固まって動けないようだった。
 俺は、手帳にテスト範囲変更なし、と記入したうえで、寮に戻るためカバンに教材を詰め込んだ。
 「ニル」と、名前を呼ばれセシルのほうを見れば、なんだか楽しそうに俺を見つめていた。


「何? セシル。楽しそうだけど」
「今回も勝負するか、テスト」
「ん~? いいけど、さてはさっきので燃えてきた感じ?」
「ああ。かなりひどい話だったが、そのほうが自ら勉強に励むだろうからな。ある意味、いいのかもしれない」
「そう思ってるのはセシルだけだよ。でも、セシル歴史苦手じゃなかった?」
「だからこそだ。そもそも、今回はニルの苦手な教科も含まれていただろ? だからお互い様だ」


 楽しそうなセシルの顔を見ていると、こっちまで楽しくなってくる。
 俺たちは、手合わせ以外にテストでもよく勝負するが、こちらも五分五分。しかも、二点差や、一点差とわずかな差。それでも、価値は勝ちだし、負けは負け。今回もテストを競おうとセシルから持ち掛けてきた。
 セシルも俺も今回は苦手科目がある。だから、フェアだと言いたいのだ。
 それも一理あるが、歴史科目に関しては、少しセシルが不利なんじゃないかと俺は思うけど。セシルがそれでいいならいい、俺はそう考えて乗った! と、彼の手をガシッと握る。


「それでだが、今回は勝ったほうが一つ相手の願いを聞くという形にしないか?」
「初めから、それが目的だったでしょ。いいけど、俺、負ける気ないよ?」
「ああ。初めから負けるなんて口にされたらこちらもたまったものじゃない。勝負にならないだろ?」


 悪い顔してる。いや、かっこいいけどさ。

 勝ったほうが一つ相手の願いを聞く、なんて何を要求されるかわかったものじゃない。エッチなお願いかもしれないし……と思うと、俺は腹の奥がきゅんと疼いてしまう。そうと決まったわけじゃないけど、セシルのことだし、と彼を厭らしい目で見てしまう。
 だって、このタイミングでそんな勝負を挑んできたってことはそういうことじゃないだろうか。
 また、手錠拘束プレイとか要求してくるかもだけど。
 だったら負けられない。俺も勝って、セシルに何か要求する。まだ、何を要求するか決めてないけど。


「俺が勝つよ。セシルとの勝負だからね、真剣に」
「ああ、正々堂々と」


 二ッと笑いあえば、親友だった頃を思い出す。今も大切で、特別には変わりないけど、恋愛を交えなかったあの頃も懐かしい。いや、あの頃から好きだったのかもしれないけれど。
 そんな純粋でまっすぐな少年の目を見た気がして、俺は心が躍った。それと同時に絶対に勝つ! と心に決め、二人で寮に戻るのだった。


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