みんなの心の傷になる死にキャラなのに、執着重めの皇太子が俺を死なせてくれない

兎束作哉

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第4部4章 真実と心中

04 ゼラフ・ヴィルベルヴィントという男について

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「どっから話したらいいか、分からねえな」
「どこからでも。君が話せること……ちゃんと聞くから」
「当たり前だろ。ちゃんと聞かねえなら話さねえよ」


 ぎろりと睨まれ、俺はまた体が震える。
 絶えず俺たちのいる部屋なのか空間は、怪しい紫色の炎がともっており、それしか明かりがないため薄暗い。それでも、彼の顔はしっかりと視認できたし、少しだけ顔色がよくなったのも確認した。
 人体の不思議というか、彼の身体の不思議というか。
 ズィーク卿は、魔力量が多いだけの愚図だとゼラフのことを言っていたが、まったくそんなことがないんじゃないかと思う。だが、きっと先ほどのゼラフの話を踏まえ考えたとき、彼はイマジネーション力がないため十分に魔法が使えないという欠点がある。それを、ズィーク卿は指していたのではないかと思った。最も、そうなったのはズィーク卿のせいであり、ゼラフ自身魔法が大嫌いというわけではない。ただ、その魔法で人を不幸にできるのだと知っているからこそブレーキがかかってしまう。


(その割には、魔塔の人間を殺していたような気もするけど……)


 メンシス卿につかまって魔塔に引き渡されそうになったあの夜のこと。ゼラフはうっきうきとまではいかないが、魔塔の人間を風魔法で吹き飛ばしそのまま殺していたような気もする。その様子は躊躇がないようにも思えたし、よっぽど魔塔に恨みがあるのか、それとも人を殺し慣れているかの二択だと思った。もしかすると両方かもしれない。
 それ以上は詮索しなかったが、彼は魔力量があるからこそ特大の魔法を放つことができる。しかし、それ以上の特殊なものは扱えないというわけだ。

 アイネのように誰にでも譲渡できる魔力や、レティツィアのように竜の血が混じって使える特殊な炎の魔法も、セシルのような唯一無二の青い炎もゼラフにはないものだ。
 彼は風魔法を得意としているが、使える魔法はただの風魔法の威力を高めたものに過ぎない。それでも魔力量が多いだけで案内力が出せるのだから、魔力量というのは偉大だ。

 俺は、ごくりとつばを飲み込んでゼラフを見ていた。何を話してくれるんだろうという期待と、恐怖。
 彼自身も話すとは言ってくれたものの言い渋っているような感じはした。そりゃ、言いたくない気持ちもわかる。でも、俺は向き合うと決めたのだから、どんな話が来たとしても、安い同情や涙を流したりはしない。


「――俺が、あいつに攫われたのは六歳の誕生日だ」
「誕生日に……?」
「俺の親父は、誕生日だからとヴィルベルヴィント公爵邸にあいつも呼んだ。それがよくなかったんだろうな。あいつは、俺の魔力量の多さに気づき、俺を魔塔へと攫った。そこからは怒涛の実験の日々だ。俺のことを、血のつながっているだけの実験動物としかあいつは見ていなかった」


 ゼラフはそういって過去に何が起こったか話してくれた。

 ゼラフは、誕生日にズィーク卿に攫われ、魔塔で換金生活および、実験の日々を強いられた。だが、魔力量だけが多いゼラフはさほど実験の対象としては面白くなく、魔力量による自己回復と、魔力をどこまで吸い上げられるかの実験をされたらしい。彼の身体に残っていた時はそのときに行われた魔法虐待の痕だったのだとか。
 魔力が自発的にその持ち主であるゼラフを守るために、身体を治癒していた。しかし、まだ幼ったゼラフの身体は、度重なる実験によってだんだんとその自己回復能力が低下していったと。そして、追いつかなかった分、傷が残り、その上にさらに傷をつけられ治らなくなったというわけらしい。
 そもそも、自分に対して治癒魔法をかけるのは難しく、ゼラフが特殊だったこともあり、幼いころ死なずに済んだだけの話だ。それだけでも、十分彼の力はすごい。ただ、そのせいもあって他人への治癒魔法をうまく施せないというデメリットがあるらしい。

 そんな生活を続け、身体の至る所を調べつくされたゼラフは魔塔から捨てられそうになったのだとか。死んでもいいと覚悟していた。だが、ゼラフのことを心配したヴィルベルヴィント公爵が必死の調査の末、魔塔に運よくたどり着き彼を救出したと。その後、ヴィルベルヴィント公爵はズィーク卿に今後一切ゼラフと関わらないことを約束させたとか。

 だが、それが口約束だったこともあり、ズィーク卿はその後もゼラフに接触を試みてきたらしい。
 少し成長したゼラフはズィーク卿を拒絶することはできたはずだった。しかし、身体に残っていたトラウマの数々はすぐにズィーク卿を突っぱねられるほど強くなく、魔塔側に属する人間であれと洗脳まがいのようなものをされたらしい。とはいえ、ゼラフもゼラフで、従っているふりをしていただけだとか。それがゼラフにできた唯一の自己防衛だった。
 従順なふりをしていれば、痛い目に合うことも苦しい目に合うこともない。ゼラフはただ平穏に過ごしたかっただけなのだ。
 だから、魔塔に情報を流していた。魔塔の人間とコンタクトをとっていたと。俺が学園で見たのはそれだった。

 しかし、彼の曖昧で自己防衛的な考えは、俺と出会ってから考えが変わることになったらしい――


「あの野郎が、お前を狙っていることにはすぐに気付いた。なんて言ったってお前はあの氷帝の血を引くものだったからな。お前の母親が使い物にならなくなったとあいつは絶望していた。だが、お前の存在を知って喜んでいたよ。そして、その血を絶やすわけにはいかないと躍起になった。んで、今に至るってわけだ」
「……ゼラフはなんで俺を遠ざけようとしたの?」
「俺と同じ思いをさせたくねえからな。それに……さすがの俺も、友だちを売るなんてことできなかった。俺は、物わかりの言い、諦めのいい人間であることを取り絵としてきたのにな。嫌なやつを敵にまわしちまったもんだ」


 ゼラフはそう言って、ハンッと鼻で笑った。

 確かに、偶然にも俺と出会って、ズィーク卿に情報を流すことだってできたはずだ。しかし、俺の情報はゼラフは一切流していなかったのだ。アイネの情報は少し流していたようだが、アイネを攫うという計画がことごとく失敗しているところを見ると、ゼラフがさらに裏で手を回していたのかもしれない。
 アイネが俺たちが留学している間何度か襲われたが、間一髪のところで助かったといっていた。
 多分ゼラフは、情報を流しつつも、学園側にもアイネが狙われているということを話し、どうにか彼を守ったのだろう。それは、ゼラフがアイネを好いているからではなく、彼の良心がそうしなければと思ったからだ。ゼラフの過去を聞けば、彼が口にしたように、同じような思いをする人間をこれ以上増やしたくないから。
 ゼラフという人間の輪郭がようやく分かってきた気がする。でも、一つだけ分からないことがある。


「友だちだって君は言ってくれるけど……その、そこまで大切に思われていたなんてちょっと意外で。ああ、いや、君だからってわけじゃなくて……ゼラフにとって俺ってどういう存在なのかなってふと思ったんだよ」


 守ってくれるのは嬉しい。

 でも、俺が彼にそんな行動をさせるまでのことをしただろうかと思ったのだ。俺は何もしてあげられていない。俺は、自分が生きることで精いっぱいで、自分のことしか見えていない人間だからだ。そして、みんなと一緒にいても、ずっとセシルのことを考えてしまうような人間だ。
 そんな俺のどこを彼は好いていてくれるのだろうか。少し気になってしまったのだ。
 ゼラフを見れば、気難しい顔をして、顎に手を当てていた。そして、俺の顔をじっと見つめて唸る。


「な、何?」
「いーや。魅力ってもんは自分では理解できねえものなのかって思って。それとも、俺が……」


 ぶつぶつと何かを言うゼラフを前に、俺は首を傾げた。
 そうして、しばらくするとゼラフはポンと俺の頭を撫でたのだ。


「出会ったころからお前はずっとキラキラしてるんだよ。なんつーか、目を惹く? 俺にしかそう見えなかったとしても、そうだな……いつか、俺だけに笑顔を向けてくれねえかなって。届かない星に手を伸ばしている感じか」
「え、えっと……」
「お前らの関係は微笑ましかったんだよ。それも、キラキラしてた。俺はずっと暗闇の中でいじけて人生も、他人への期待も、全部全部諦めてきた。でも、初めて欲しいって思った。手を伸ばしてみようと思ったんだよ」


 ゼラフはそう言って、また俺の頬を撫でた。くすぐったくて、身をよじってしまいそうだったが、彼もまた、俺の輪郭をなぞるように、何かを探すようにい俺を見ていた。
 ゼラフの言っていることは全部は分からなかった。でも、わかる部分も多少なりにあって、彼の人間らしい部分に触れられた気がする。


「俺とセシルの関係が微笑ましいの?」
「どーだろうな」
「そういったじゃん」
「微笑ましいっつうか、混ぜてほしいっつうか。でも、俺がこんなこと思うのっておかしいって思って……どうなんだろうな?」
「どうなんだろうって、それは君が答えを出すんじゃない? でも、そう思ってもらえたのは嬉しいよ。俺も、なんて言葉にすればいいか分からないけど。セシルと二人っきりもそりゃ幸せだけど、ゼラフやアルチュール、アイネやフィリップがいる日常がすごく楽しかった。ゼラフも、アルチュールに対してルームメイトとして何かあったんじゃない?」
「あの策士な王太子は意外と抜けてるんだぜ? お前がおもってるほど、王子様じゃない」
「なんかそんな気がする」


 俺たちは見つめあって笑っていた。先ほどまで、ゼラフの暗い過去を聞いていたはずなのに、身近な話をしている。それに、心なしかゼラフの表情も柔らかくなっていた。
 相変わらず状況は最悪だけど、彼がいてくれてすごく心強かった。
 一人じゃないって思えた。


「はあ~まあ、なんだ。お前に出会えたからかわれたのは事実だな。つっても、俺も口下手で、ちゃんと説明しなかったからニルが勝手に勘違いしてこんな状況になっているわけだが」
「うっ……それはかえす言葉がないかも」
「俺もいなくなったっつうことで親父も動くだろう。特殊な結界によって認知をゆがめられているこの魔塔にたどり着くのは、時間の問題だろうな。ただ、それまでにあいつが作戦を決行する可能性もありえる」
「そっか……そうだった。ゼラフが起きたってことは、また戻ってくる可能性があるってわけだよね」
「ああ……だが、お前の状態もよくねえだろ。この空間は実験場。多分、計画の実行は魔塔の最上階だ」


 と、ゼラフは天井を指さした。しかし、俺たちの頭上に広がっていたのは闇で、ここが何階かすらもわからない。

 魔塔は、入るたび構造が変わる特殊な古代の建物だ。過去の魔導士たちが腕によりをかけて作った最高傑作の建造物。魔塔内部の攻略はかなり時間がかかるだろう。
 ゼラフでさえ、魔塔の内部をすべて知っている感じはない。
 空間自体が生きているといっても過言ではないのだ。だが、魔塔の管理者であるズィーク卿は違うのかもしれない。


「俺とゼラフを使ってどうやって氷帝をよみがえらせようとしてるの? そもそも、生贄が必要だって……国単位の」
「俺が今回選ばれた理由は、単なる魔力量の多さだけじゃねえ。前に、お前に魔力供給してやっただろう? 俺が、お前に魔力を与えられる存在だってバレたからだ。つまりは、お前の力を最大限に使って氷帝の劣化版を作ろうとしてんだよ」
「ご、ごめん。まだ、ちょっと見えてないかも」
「……俺がお前に永遠と魔力供給したら?」
「…………魔力に問題がある俺でも、魔法を使い続けられるってこと?」


 あたりだ、とゼラフは言って俺の頬を引っ張った。びよんと頬が伸びて、痛みが走る。
 何をするんだと思ったが、一発で解凍できなかった俺へのペナルティのつもりだろう。ゼラフらしい手癖の悪さだ、と俺は思いながら、一通り話を自分なりにまとめてみることにした。

 俺とゼラフは互いに魔力供給できる波長が合う存在。
 氷帝復活のためには多くの生贄が必要であり、その生贄の数は国単位である。ということは、サテリート帝国の人間を全員殺して、氷帝を復活させるというのが狙いであると。
 しかし、一人一人殺すのでは時間がかかるし、それが生贄カウントになるのかは不明。
 ここで考えられるのは一つ。


「俺の魔法を使って、帝国の人間全員を殺そうとしている? でも、俺が魔法を使わなければ……!」
「んなことできてたら最初からしてるだろう。あいつは、本人の意識関係なく魔法を発動できる魔法を作ったんだよ。しかも、本来よりも強力な魔法を放てる代物だ。いわば、死なねえ程度にこれまで魔力量をセーブしていたリミッターを外す魔法だな。んで、そんなことをしたら魔力量が尽きて死ぬから、供給し続ける必要があると」
「だから、ゼラフ……」
「俺が、お前と魔力の波長が合わなきゃ、あの特待生にやらせるつもりだったんだろう。だが、あいつはそもそもそこまで魔力量があるわけじゃねえ。あいつをつかったら、途中で計画がとん挫する恐れもある。だからこそ、俺なんだ」


 ゼラフは、拳を握り震わせた。
 魔力供給の永久機関をであるゼラフと、氷帝と同じく人を凍らせて殺す魔法を使える俺。そして、その魔法を帝国を包み込めるほどの広範囲で出力できる魔法……
 これまでに洗脳の類の魔法はあったが、基本的に他人に魔法を使わせることができる魔法は存在しなかった。魔力は、本人の意思にそぐわない行動はしないように制御されているものだからだ。もちろん、洗脳にかかった人間が術者に心酔している場合は、魔力そのものを譲渡するみたいな感じで扱えなかったりしないでもないが……これは別パターンだ。
 とにかく、そんな恐ろしい魔法を作り出してしまうなんて、ズィーク卿はやはり天才なのだろう。


「それだけの生贄を捧げたら、氷帝が復活する……? でも、ズィーク卿も巻き込まれるんじゃない?」
「そんなこと、あいつにとっては些細なことだ。その目で竜を拝めればいい。あわよくば、その竜さえも支配下に置こうと考えているやつだ。俺たちには理解できない領域にいるんだよ」
「確かに……でもさ、ゼラフ。その作戦、どちらかが欠けたらできないんじゃない?」


 俺がそういうと、ゼラフはフッと顔を上げた。
 俺とゼラフがいて、そしてその魔法があって成り立つものであれば、どこかの歯車が欠ければ動かないということではないだろうか。
 実際に、ズィーク卿自身がゼラフに死んでもらっては困るといっていた。ということは、ゼラフはこの計画に必要な人間。


「俺に死ねってか?」
「いやいや、そんなこと言ってないし。てか、言うわけないじゃん。大切な友だちだし……生きていてほしいって、さっきだって目が覚めたことが嬉しかったのに」
「わりぃ、言いすぎた。だが、命を投げ出す類の作戦はなしだぞ」
「分かってる……ゼラフ、ここにかけられている魔法を破壊できれば、外に出られる?」
「ああ? ここにかけられてる魔法って……破壊できればな。転移魔法が使えるほどには魔力は回復してる。だが、この空間にかけられている魔法をぶっ壊すのは至難の業だぞ?」


 ゼラフは立ち上がって、コンコンと結界を叩いて見せる。確かに、簡単にいかないことは分かっている。
 けれど、ゼラフさえ脱出できれば、計画はとん挫するのではないかと思った。もちろん、この場で俺が死ねば、計画は阻止できるだろう。でも、そんなことはしない。ここまで生き延びてこれたわけだし、何よりも最期にセシルに会えないなんて嫌だ。彼を一人にしたくないし、俺も彼に会いたい。
 生きて、この計画を阻止する。


「――俺の全力をぶつければ壊せるんじゃない?」
「はあ!? んなことしたら、お前の魔力が……じゃねえのか、俺を使う気か?」
「うん。さっきのズィーク卿がやろうとしていること、これにも代用できないかなって思ったんだ。俺は魔力が尽きたら死ぬけど、魔力を供給し続けてくれる人がいたら大丈夫でしょ? 君の魔力が回復したっていうなら、もしかしたらって……」
「試してみる価値はあるな。でも、いいのか?」
「何が?」


 ゼラフは、ちらりと俺を見た。どこか、不安げな様子で俺を見ている。


「俺が裏切るって可能性は?」
「ゼラフが? なんで?」
「はあ~お前は本当に人を信用しすぎだぜ。俺は、あの野郎から逃げられるなら何だっていいって考えてんだ。だから、ここから逃げたらもう関わらなくていいって逃げ続けるかもしれねえ。そういうこと考えねえのかって」
「……ゼラフはそんなことしないよ。ちゃんと、セシルのもとまで言って、この計画のことも全部話してくれる……俺はそう思ってる」
「都合がいい頭だな」
「じゃなきゃ、俺だってこんな作戦決行しないよ。でも、可能性があるから賭ける。それと、君を信じてるから」


 俺はまっすぐとゼラフを見た。彼のローズクォーツの瞳が揺れていた。しかし、苛立ったように神をむしった後、ゼラフは「ほんと、お前にいいように使われてる!」と叫び、俺の手を握った。


「お前は、俺をどうしたいんだ」
「ど、どうって……とにかく、作戦が成功するために手を組みたい。いや、手を貸してほしい。ゼラフの力が必要なんだ」
「……っ、お前は本当に……俺が、お前のその顔に弱いって知ってんのか……?」
「ゼラフ?」
「いいぜ。この作戦が成功したら、逃げ延びてちゃんと戻ってきてやる。あの皇太子を連れてきてやるよ。けど、報酬は弾んでくれよ?」
「俺が与えられるものなら」
「言ったな?」
「……ああ、でも。恋人になるとかはダメ。俺にはセシルがいるから」


 俺が付け加えると、ゼラフはむっとした表情になったが「じゃあ、後から報酬については考える」と改めてくれた。報酬はもらう気なんだ、と俺は彼のがめつさに呆れつつも、ゼラフなら信用できると彼の手を握りなおした。
 俺は結界の近くまで近づき、手をかざす。やはり見えない壁がそこにはあり、びくともしない。でも、ズィーク卿は氷帝の力をすべて防げるほどの力は持っていない。なぜなら、氷帝の力は人の手に余るものだから。まだそこまで研究が進められていないのだろう。
 もしくは、氷帝や他の竜の存在は人間が干渉できない領域の魔法なのかもしれない。


「じゃあ、行くよ」
「ああ、いつでもいいぜ。魔力、切らすなよ」
「そっちこそ、ちゃんと俺に与え続けてよ?」


 俺たちは目配せをした。
 そして、俺は手に魔力をため障壁を内側から押す。ピキピキと壁が凍りはじめ、紫色の炎が激しく揺れる。あたりは白い冷気に包まれ、身体が凍っていくのを感じる。
 寒さに凍え死にそうだったが、俺は魔力を壁にぶつけ続けるのをやめなかった。ゼラフに握られている手が燃えるように熱い。彼はずっと俺に魔力を与え続けてくれているのだろう。そのため、心臓の痛みも軽減できている。


「……っ!!」


 そうしてしばらく力を入れ続けていると、ピシ――と障壁にひびが入る音が聞こえた。俺は、今だ! とさらに出力を高め内側から押し続けた。すると、パリン! と音をたて、目の前でガラスが砕けたような音が聞こえた。その後訪れた衝撃波で紫色の炎は消えて、真っ暗な闇に包まれる。


「ゼ、ゼラフ行って!」
「……ああ!」


 暗闇の中、彼の手が離れていくのが分かった。障壁は破壊されたものの、あたりには魔力が充満している。それは俺のものではなくあの障壁のものだ。
 一度破壊したものの再生しかかっている。いったいどんな仕組みなんだ、と思いながら俺は闇の中、ゼラフが遠ざかっていく気配を感じていた。
 ゼラフが離れたことにより、俺は急に凍て刺すような痛みに襲われその場で倒れた。指先が凍り付いたように動かない。
 是フラの魔力供給がなくなったことにより、先ほどの無茶が体にどっと押し寄せてきたのだろう。
 冷気はまだその場に漂っており、吐く息が白かった。俺は、闇に消えていったあの赤い一等星を思い浮かべながら目を閉じた。今はもう身体は動きそうにない。


(ゼラフ、お願い……セシルや、皆を……)


 巻き込みたくはないが、ズィーク卿を捕まえるにはここにたどり着く必要がある。助けなんて絶望的だったが、ゼラフがここを抜け出したことにより、少しの希望が見えた気がした。だが、依然として残る不安はぬぐえないままだ。
 最悪な計画を聞いたからには阻止したい。しかし、その計画の大きさと凶悪さに足がすくんでいるのも確かだった。
 ゼラフが戻ってきてくれることを願いながら、俺は闇に意識を投げたのだった。
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