みんなの心の傷になる死にキャラなのに、執着重めの皇太子が俺を死なせてくれない

兎束作哉

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番外編SS

俺に食わそうとしないでくれ

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「ニーくん、野菜ばっかりですけど肉ちゃんと食べていますか?」
「え? 食べてるよ。ありがとう、アルチュール。心配してくれて」
「いえいえ。この島にはいろんな山菜が生えていましたし、何より皇族が準備した野菜ってことで味も確かですからね。美味しくていくらでも食べられる気持ちはよくわかります」


 アルチュールはそういいながら、串に刺さっていた肉を平らげた。

 島の散策を終え、夜――みんなでバーベキューをすることになった。そのために散策をしていたのだが、途中でセシルといたしてしまい、俺たちは材料をとらずに帰ってきて、アルチュールとゼラフに怒られてしまった。まあ、ゼラフに関しては見たことを見て見ぬふりしてくれたこともあり、怒っていたというよりかは「遅かったな」的な感じで済ませてくれたのだが。そのことを、アルチュールはしらない様子だった。
 サマーホリデー期間のプチ旅行ということで、いつもはできないことをしようとなり、バーベキューをしているのだが、セシルやアルチュール、アイネやフィリップ……みんな和気あいあいとしていて、その光景を眺めているのが楽しかった。俺はそれだけでお腹いっぱいだし、そもそもあまり食べるほうじゃない。父上にも、母上にもよく食べて大きくなってくれといわれたが、体質的に無理なものは無理なのだ。
 とはいえ、美味しくないわけじゃないのでよく噛んで味わって食べている。

 そんな俺にアルチュールは話しかけてきた。近くを見渡すと、どうやらセシルはフィリップにつかまっているらしい。珍しいこともあるものだと、俺はその様子を観察していた。フィリップはお調子者だし、相手がセシルであろうと話しかける。まあ、おおよそ、ちゃっかりしている性格でもあるため、セシルとの交友関係を深めれば後々何かと役に立つのではないかという下心あって話しかけたんじゃないだろうか。
 フィリップの父親は国の宰相だ。規律を重んじ、古い考えに固執しているようにも見える頭の固い頑固な人だ。変わって、フィリップはゼラフとはまた違うタイプでへらへらしていて、お調子者。宰相とは全く真逆の性格をしている。俺たちは、フィリップの父親を知っているため、フィリップのことが……と少し関わりづらかったのに、彼はまったく俺たちの気なども知らずにズケズケと踏み込んできた。その度胸の良さというか、無鉄砲さにセシルは呆れながらも心をそれなりに赦したのではないだろうか……とか。
 ただ、セシルとしても相手にしづらいタイプではあると思う。何よりも、フィリップもゼラフと似た飄々としていて容量のいいタイプだからだ。のらりくらりと自分の思惑の中から抜け出していく男を、セシルは相手にするのを得意としていない。


(ふーん、珍しいこともあるものだなあ……)


 セシルは、どうも話し込んでいるのか、それともフィリップを突っぱねることができないのか、俺が視線を送っているのに気付いていないようだった。
 俺は、ちょっと寂しい気もしつつ、アルチュールのほうに視線をやった。すると、アルチュールと目があってしまう。


「やっとこっちを見てくれましたね。ニーくん」
「えっ、ずっと見てたの?」
「あれ? 気づいてくれませんでした? もしや、偶然僕のほうを見て、目があった感じでしょうか。運命ですね」
「アルチュールがずっと見ていたんなら運命じゃないと思うんだけど……」
「運命は自分で手繰り寄せるものですよ」
「そういうものなのかな……えっと、何かあった?」


 きれいな青色の瞳を見ているとスッと引き込まれそうになる。そうでなくとも整った顔を見るだけで、ため息が出そうになるのに、その顔をこちらに向け俺を見ていたなんて言われたら照れてしまう。
 とはいえ、またアルチュールはおかしなことを言っているので、ちょっとだけ俺は身を縮こめた。
 俺が何かあったかと尋ねれば、アルチュールは「特別用事はないですが」といったうえで、ゼラフを呼びつけた。


「げっ……」
「げっ……てなんだよ。俺がいちゃ悪いかよ」
「いーや、そうじゃなくて。また二人に挟まれたって思って」
「こうすれば、ニーくんの逃げ場をふさぐことができるのでね。それに、ゼラフも嫌がらずにこれならやってくれます」


 と、アルチュールは満面の笑みで言ってきた。

 やられた、策士だ……

 ゼラフに後方をふさがれ、前方にはアルチュールがいる状態。別に逃げようとは思わないのだが、挟み撃ちにされている感覚はあまり心地のいいものではなかった。
 まさか、フィリップがセシルと話しているのはアルチュールの指示だったりするのだろうか。なんとなくそんな気がしてきたし、フィリップも何か見返りがもらえる単発バイト程度に思って受け入れている可能性もある。
 理由はどうあれ、セシルは俺のところに来てくれなさそうだ。


「アルチュールがこの旅行に来るなんてびっくりしたよ。君も四年生に上がって忙しい時期だろ?」
「まあ、そうですね。ですが、サテリート帝国に来る予定がありましたし。それもこの旅行よりも長期の滞在になりそうだったので、だったら少し早めに来てニーくんたちに会おうかと思ったんです。それと、ゼラフに一緒にどうだって誘われたので」


 アルチュールは俺の後ろにいたゼラフに「ね?」と笑いかけた。ゼラフはそんなアルチュールを見て、先ほどの俺と同じように、けっと言って頭をかいていた。
 確かに、俺はセシルに言われ旅行に連れていくメンバーを募ったけど、アイネに言って、たまたま通りかかったフィリップに伝わり、フィリップがゼラフに情報を流して、ゼラフがアルチュールを誘ったという形ではあるけれど。
 でも、ゼラフがアルチュールを誘うなんてどういった風の吹き回しだろうか。


「ゼラフも珍しいね。アルチュールを誘うなんて。元ルームメイトだから会いたくなっちゃったとか?」
「お前と、皇太子が目の前でイチャイチャすんのを見るくらいなら、アルチュールと一緒に邪魔してやろうと思ったんだよ。ただそれだけだ。こいつに会いたかったからとかじゃねえ」
「本当に?」
「俺がそんなことで嘘つくとでも思うのかよ」
「……思わないね」


 と、俺が言えば、俺の隣でしゅんとアルチュールが悲しそうな顔をした。

 俺はハッとなって、アルチュールのフォローをする。


「ゼ、ゼラフがアルチュールを泣かした!」
「泣かしてねえよ。どう考えても嘘泣きだろうが!!」
「そんな……僕は、ゼラフの日ごろの鬱憤を晴らすために誘われたなんて……悲しいです」
「ほら、アルチュール、傷ついてんじゃん」
「どこがだよ……」


 アルチュールの背中を撫でつつ、俺はゼラフを見た。茶番だってはなんとなくわかるんだけど、アルチュールの演技もかなりよくて、本当に傷ついているように見えたため、ついついアルチュールの味方をしてしまった。
 まあ、二人ともいろいろと計算して意見が合致してここにいるという感じだろう。セシルにこれがバレたらただじゃすまないだろうけど。


(でも、久しぶりに二人に会えてうれしいかも)


 留学にいっていたこともあり、モントフォーゼンカレッジから離れていた期間があってゼラフやみんなに会えなかった。アルチュールは、留学が終わって自国へとかえっていったしもっと会える機会なんてなかったのだ。どういう理由があれ、二人に会えたのは嬉しかった。


「そうだ、ニーくん」
「ふ、復活が早いね。どうしたの、アルチュール」


 先ほどまで、傷ついていたのか泣きまねをしていたのかわからないアルチュールはパッと顔を上げ俺のほうを見た。
 そして、少し待っているように言うとバーベキューの網の上からあるものが刺さった串を持って帰ってきた。肉だろうか、と思っていると、俺はそのおぞましい形にひっ、と声が漏れてしまった。


「この島は山菜だけではなく、生き物も豊富で。こんなに大きな……」
「待ってアルチュール……それって」


 腹が膨れた生き物、それが串刺しになっている。
 見ただけで、何かわかってしまい、俺は口まで抑えてしまう。後ろにいたゼラフさえも大きなため息をついている。そういえば、ゼラフとアルチュールは一緒に行動していたよな、と俺はぜらふのほうをみた。なぜ止めなかったんだと、俺は彼を睨みつける。
 けど、まさか俺もあのアルチュールがそんなゲテモノ食いだったなんて思わなかったのだ。


「カエルです」
「カエルかあ……」


 だろうなと思ったときにはアルチュールは答えを言っていた。
 そして、カエルの刺さった串を俺に押し付けてくる。食べてくださいとでも言いたげなキラキラとした目で見てくるのだ。
 人の厚意はそのまま受け取る人間であるとは自負しているのだが、さすがにこれは無理だなと思った。さすがに、食べられない……
 前世、小さいころにカエルを田んぼで見つけて捕まえたことはあったけど、大きくなるについれてカエルを触るどころか見ることもダメになっていった。そういうものなのだと受け入れていたが、こういざ見てみるとやっぱりだめだ。調理されているところなんて見たらさらにダメになった。


「カエルって美味しいんですよ。それに、こんなに身がたっぷり」
「ア、アルチュール……それを食べさせようとしてる?」
「はい」
「はい……かあ……俺はいいかな。カエル食べたことないし」
「なら、是非食べてほしいです。美味しいですよ」


 アルチュールは満面の笑みで試食を勧めてくる。
 この状況を乗り越えられる方法があるなら誰かに教えてほしい。
 友人がカエルが美味しいと進めてくるんだが、傷つけずに断る方法――ここにスマホがあったとして、調べてもそんな方法出てくるのだろうか。いい対策なんて教えてくれるのだろうか。
 俺は、ぐいぐいと勧めてくるアルチュールを前に首を横に振った。
 アルチュールの味覚がおかしいわけではないのだろうが、ビジュアル的に俺は無理だ。文化が違うのか、アルチュールがゲテモノ食いなのかはわからない。でも、俺はノーだと強く言いたい。


「ゼ、ゼラフが食べたいって言った!!」
「は、はあ!? 俺を、盾にすんな。ニル!!」
「そうでしたか、気づかずににすみません。ゼラフ」
「だーかーらー! 食べてえって言ってねえだろうが! おい、押すな。ニル。俺を、盾に……おいおい、何でこういうときだけ、力が出るんだよ!」


 俺は、丸焼きカエルから逃げるため、ゼラフの背中にスッと回って彼の背中を押した。火事場のバカ力というべきか、俺はゼラフの背中をものすごい力で押している。
 アルチュールは、標的をゼラフに変えたようで、カエルの口をゼラフの唇に擦り付けている。ゼラフは、首をブンブンと横に振っていた。


(ごめん、ゼラフ! 俺の代わりにカエルを食べて!)


 アルチュールも、こうなったら止まりそうなタイプじゃないので、あとはゼラフに任せたと俺はゼラフを盾にする。
 友達を盾にするのは最低だ、と思いながらも、今回だけは盾にさせてもらう。
 そう思っていると「何をしているんだ」と聞きなれた声が上から降ってきた。


「あっ、セッシー。ちょうどいいところに来ました。今、カエルが焼けたところなんですが、一口どうですか?」
「……カエル……それは、食べ物なのか?」
「はい」


 フィリップとの会話が終わったのかこちらにやってきたセシルは、先ほどの調子で話しかけたアルチュールに困惑しているようだ。セシルが見たことのない顔をしている。
 アルチュールも、誰も食べないんだから察してやめてくれればいいのに、それもしてくれないのだからたちが悪すぎる。
 セシルはどうやって断ればいいかわからない顔をしていた。
 なんだか見ていてかわいそうになってくる。


(でも、セシルが食べる前に毒味しなきゃだよね。俺は、セシルの護衛だし……万が一のことがあれば)


 俺たちの近くには連れてきた騎士たちがいるから、助けが呼べないわけじゃない。それに、アルチュールが毒だと分かってカエルを勧める人間じゃないこともわかっている。だから、多分問題はないのだろうが、何というか、セシルがカエルを食べることをやっぱり阻止したいような気もするのだ。
 せめて、俺が食べて大丈夫だったらセシルにあげたい。
 まあ、俺が食べて無事でいられる保証はないけど。
 俺は、カエルに手を伸ばしたセシルの手を掴んだ。


「セ、セシル。俺が食べるから」
「だが、ニル……顔が真っ青だぞ?」
「うーん、でもアルチュールからの厚意だし……うーん」
「ヴィルベルヴィントが食べたそうじゃないか。こいつに食わせればいい」


 と、セシルはアルチュールの手を掴んでカエルを握っているほうの手をぐいっとゼラフのほうに向けた。ゼラフは油断をしていたのか口の中にカエルが押し込まれる。その瞬間、ゼラフは一気に顔を青くしてそのまま後ろに倒れ込んだ。多分、食べてはいないんだろうけど、彼も生理的に無理でひっくり返ってしまったのかもしれない。

 ゼラフはぴくぴくと動いていたが呼びかけても、応答がなかった。よっぽどショックだったらしい。


「毒でも入っていたか?」
「そんなはずないでしょ……と、ゼラフはご愁傷様」


 セシルもやることがぶっ飛んでいる。さすがにいきなり人の口にカエルを突っ込むなんて……
 俺はゼラフを見ながら、ひとまずは危機が去ったかなと胸をなでおろす。しかし、目の前にまたあのカエルの丸焼きが差し出され、今度はセシルの後ろに隠れてしまった。


「お二人とも、まだまだあるのでよかったらどうぞ。美味しいですよ」
「……アルチュール、この浜辺に死体が転がるのは避けたい」


 満面の笑みのアルチュール。そして、それをやんわりと……いや、オブラートに包むことなく言ったセシル。場はカオスを極めていた。
 俺は、ふりふりと首を横に振って断固として拒否した。しかし、面白い話を聞きつけやってきたフィリップが次の犠牲者となってしまった。アルチュールは本当においしそうに食べるし、覚悟を決めて食べたアイネは美味しそうに食べていた。なので、個人差というか、個人の問題だろうとは思う。でも、俺とセシルはカエルを見るたび震えあがり、その後は野菜しか食べられなかった。

 夜、夢にカエルが出てきて飛び起きてしまったのはここだけの話だ。


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