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第6部2章 ハネムーンとわちゃわちゃする僕ら
09 海洋竜オセアーン
しおりを挟むドラーイコルク島には、二時間も経たないうちに到着した。
聞いていた通り、サテリート帝国とアルカンシエル王国のちょうど中央あたりの海域にある島で、大きくはないと聞いていたが十分人が暮らせるほどの領土はあったし、島の最北には火山も見えた。
島には、サテリート帝国でもアルカンシエル王国でも、もちろんファルファラ王国にもない特殊な植物が生えており、島に足を踏み入れた瞬間、なんだか今まで感じたことのない神聖な空気に包まれた気がする。
(というか、懐かしい……ような)
一度も足を踏み入れたことがない場所。
白い砂浜に、照り付ける白い太陽。きたことなど一度もないこの島に降り立った際、痛みの弱い頭痛に襲われた。空気が変わったために起こったものだろうかと考えていると、どうやらレティツィアも同じような現象にあったらしい。二人して頭を押さえていたため、ばっちりと目が合ってしまった。
何か理由があるのだろうかと考えていたが、思い当たる節はそのときは出ず、偶然というふうに片づけた。
だが今思えば、竜の何かが関係しているのかもしれない。魔塔がドラーイコルク島に接触したということは、つまりはそういうことなのだろうお。
船を止め、物資を下ろす騎士たちの横を通り抜け、ドラーイコルク島に住む先住民族の長に俺たちは挨拶することとなった。
「ようこそお越しくださいました。セシル・プログレス皇太子殿下、アルチュール・ユニヴェール殿下。わたくし、ドラーイコルク島に住む全部族の長を務めております。ゼー・ワータラヴァルと申します。以後お見知りおきを」
「ゼー卿、今回は両国の調査に協力してくれて感謝する」
「ゼー卿。こちらも、アルカンシエル王国を代表してご協力いただき感謝を申し上げます」
(外いきの顔……外交ようの顔だなあ……)
さすがは、サテリート帝国の皇太子とアルカンシエル王国の王太子だ。二人から醸し出されるオーラというのは周りの人間とはわけが違う。
二人の周りだけ違うエフェクトが飛んでいるようでならない。
ゼー・ワータラヴァル卿は、青漆色の長い髪を銀色のリングで止めた中年の男性で、サテリート帝国では流通していない羽織を羽織った人物だった。このドラーイコルク島に住む部族をすべて束ねている長とのことで、ゼー卿は実質この島のトップということになる。サテリート帝国に吸収される前までは、ゼー卿の家が支配していたと言ってもいいのだろう。他にも部族がいるとのことで、俺たちの国の仕組みとは大きく変わりそうなものだが。
ゼー卿は挨拶を終えると、そばに控えていた曇天のような髪をオールバックにした男を呼びつけた。
「彼が、私の補佐を務めてくれているヴォーゲ・ギースバッハです。もし、何かあれば彼に聞いてください。私も、答えられる範囲は答えますが、何分仕事が忙しくて」
「初めまして、皇太子殿下、王太子殿下。ご紹介いただいたように、ワータラヴァル様の補佐を務めさせていただいています。ヴォーゲ・ギースバッハと申します」
ヴォーゲと名乗った男は深々と頭を下げた。
ゼー卿のよると、彼が外部との交流に関することを指揮しているらしく、今回の調査は主にゼー卿とヴォーゲ卿を中心に協力してくれるのだとか。
ヴォーゲ卿は大陸に出向き、サテリート帝国にも何度も足を運んだことがあるらしく、サテリート帝国のことをよく知っているらしい。
(ああ、だから服がゼー卿と違うのか)
ゼー卿の羽織っている羽織は、三か国どこにも見られない特徴的な羽織であったが、ヴォーゲ卿の羽織はどちらかというとサテリート帝国でよくみられる生地を使っており、そこに刺繍や形を島独自のものにアレンジしているようにも思えた。
セシルとアルチュールは二人の紹介を聞き、笑顔で対応をしていた。今後の詳しいスケジュールについても彼らは話を始めたようだ。
話し込んでいる様子を見ながら、俺は後ろにいたゼラフに声をかける。
「ゼラフ、ちょっといい?」
「ああ、さっきの話か? んで、なんだよ」
「ちょっと嫌そうなのが気になるなあ……いや、大したことじゃないんだけどさ……ううん、大したことか。思い出したくないだろうから聞くのを迷ったんだけど」
「魔塔か?」
「……あ、ごめん、はっきり言うべきだったね」
言いたいことはすぐに当てられてしまい、なんだか申し訳なさが勝った。
ゼラフを傷つけたくないと考えていたら、聞きたいのに、聞けないみたいな、一歩を踏み出せなかったからだ。
ゼラフは、そんな俺を見たが呆れることなく「それで? 何が聞きたいんだ?」と快く俺の質問を受け入れる姿勢を見せた。
「……魔塔のこと。魔塔の残党……ディーデリヒ先生たちが追っているらしいけど、二重スパイがいたんだってね。その二重スパイに心当たりあるかなって思って。特徴とか……ズィーク卿に心酔していたって聞いたけど」
「そんな奴ごまんといるだろうな。それに、二重スパイをして逃亡生活送りながら、何かしでかそうとしてるんならそいつはすでに顔や身分を偽ってるだろうし。俺も全員把握していたわけじゃねえからな……で? これで答えになってるか?」
「あ、ありがとう……そんなに詳しく聞けるって思ってなかったから助かるよ」
「何も答えになってねえかもだな。欲しい情報を与えてやれなくてすまねえ」
と、ゼラフは軽く頭を下げてそういった。
魔塔という組織自体が、そもそもどれほどの規模のものだったか分からない。ゼラフが全員把握していないのも無理もない。
そのうえで、ディーデリヒ先生たちの組織に追われるほどの二重スパイともなれば、すでに顔は割れているだろうし、顔や身分を偽って逃亡というのも考えられるわけで……
(すでにこの島の中に潜伏していたらどうしようか……)
様々な考察はできうる。
すでに、魔塔の残党がドラーイコルク島に上陸している可能性も考えることができる。しかし、船での移動となれば、誰かが気付いていてもおかしくないし、ゼー卿たちが気付いているだろう。
調査中に何も起こらなければいいが、もし正面衝突にでもなったら。
「ニル、移動するらしいからついてきてくれ」
「あっ……わかった、セシル」
ゼラフと話し込んでいると、あちらで話を終えたセシルが俺に声をかけた。
どうやら、ドラーイコルク島の中心部にある神殿に移動するらしい。
俺は、ゼラフと顔を見合わせゼー卿を先頭についていくこととなった。
「セシル、ドラーイコルク島の神殿って……?」
「ああ、ドラーイコルク島に封印されている竜を祀っている神殿らしい。それが、今回魔塔の残党に狙われたんだろうな」
「……竜が封印?」
道中、セシルにその神殿がどのような意味を持つ場所であるか尋ねると、彼はあっさりとそう答えた。かなり、重要な情報であるにもかかわらず、セシルの顔は動いていない。
ドラーイコルク島につく前にいろいろと話を聞いてきたが、すぐに神殿に移動することとなるなんて思いもしなかった。
また、セシルの言うように、その神殿が今回狙われるきっかけとなったのだろう。正しくは、神殿にまつられている竜が関係していると。
(三大竜じゃないとすれば、そこから生まれた別の竜……ディーデリヒ先生の言っていた)
今の飛竜は、竜としての機能を著しく失った状態らしい。進化の過程で弱体化していったと言っても過言ではない。以前の竜は、体内にとてつもない量の魔力を持ち、空を飛べるだけではなく機構へ地形に影響を与えるほどの力を持っていたのだとか。
となれば、今回まつられているという竜……封印されている竜は祖竜からほど近い位置に存在している竜ということになるのだろうか。
うっそうと生い茂る青々とした森を抜け、火山が少し近くに見えるようになったころ、開けた場所に出た。森の中に白い石でできた神殿が現れたのだ。
白い石の柱にはツタが絡まっているものの、劣化を感じさせないその神殿の姿は息を飲むほど美しかった。
その周りには多くの動物がおり、青い鳥や、白い鹿など見慣れない動物が穏やかに眠っていた。
(空気が変わった……)
神殿と呼ばれるだけの場所であるためか、神聖な空気がその場には漂っていた。船を降り立った時に感じた気よりもはるかに濃度の高い、かといって胸やけをするでも頭痛をするでもない、神聖な空気。
今回それを感じ取ったのは、俺やレティツィアだけじゃなかった。
「大きい……」
「圧巻だな……建てられたのは神話時代だろうに、経年劣化を感じさせない。人が手を加え守ってきたという感じでもないようだな。神殿の石柱からほのかに魔力を感じる」
「魔石で作られているってこと?」
「かもしれないな。あるいは……」
「どうしたの?」
そこまで言ったセシルは言葉を区切り、あたりを見渡した。彼の夜色の瞳は細められ、何やらあたりを警戒しているようだ。
俺もそんなセシルの視線を辿りながらあたりを見渡してみたが、誰かの気配を感じたりしなかった。
「誰かいた? 他の部族のひとかな」
「違う……だが、誰かに見られている感じはした。今もなおな……敵意がある感じではない……のか? いや、分からないが」
セシルは言葉を詰まらせ、深く考えるように言うと顎に手を当てた。
俺は何も感じなかったが、セシルは何か感じたのだろか。アルチュールやゼラフの様子を見てみるが、彼らは何も感じていないらしい。
そうしているうちに、ゼー卿の案内で神殿の内部に入ることとなった。
(寒い……な)
神殿の内部は薄暗いこともあって冷えており、俺は両腕をさすった。すると、セシルが俺には織物をかけてくれる。
「ありがとう、セシル」
「風邪をひかれては困るからな。ニルの体調が心配だ」
「もう、皆がいるのに……」
すりっと俺の頬に自らの頬を寄せ、愛おしそうに俺の名前を呼ぶ。
ゼー卿もいるし、これはあくまで調査なのに。こんな甘ったるい空気でいいのだろうか。
だが、誰かが口をはさむでもなく俺たちは神殿の中を歩き続けた。
内部は一本の白い石畳の道が続いており、その両脇には水路のようなものが流れていた。入った当初は暗く感じたが、明かりがいらないほど、神殿の内部は青白く輝いている。
どうやら、両脇を流れる水が原因らしい。
「神殿内部には魔力を含んだ水が流れています。その水は、この神殿でまつっている海洋竜オセアーンが生み出した水とされており、祭事の際はこの貴重な水を遣わせてもらっています」
「海洋竜オセアーン……」
ゼー卿は、先頭を歩きながら説明を始めた。
水路の底に光る水草が生えているものと思っていたが、底は見えるほど水は透き通っていた。説明にあったように水自体が光を放っているようで、透明なのにどう光を放っているのかととても不思議でたまらなかった。原理は分からないが、そういうものとして受け入れ、俺は揺らめく水の光を辿り天井を見上げた。
天井には反射した光――水面の揺れが映し出されており、天井もまた白い石で作られているようだ。
「ヴォーゲ説明を」
「はい、かしこまりました。海洋竜オセアーンは、三大竜といわれている氷帝フリーレンと炎帝フィアンマが衝突した際に生まれた竜とされています。二体の竜の異なる力がぶつかった際、フリーレンの絶対零度を誇る氷がフィアンマの地獄のような炎によって溶かされ水となり、その自ら海洋竜オセアーンが生まれたとされています。海洋竜は水を司る竜であり、大陸沈没の危機……三大竜が衝突したのと同時に、このドラーイコルク島に訪れ眠りについたとされているのです」
ゼー卿から説明をするよう命ぜられたヴォーゲ卿は丁寧に海洋竜オセアーンについての説明をしてくれた。
やはり、予想していた通りオセアーンは三大竜の子孫となるような存在。出生が本当に神話のような生まれ方であり、想像はつきにくかったが、祖竜にほど近い竜であることは確かだった。
名の通り、水を司る竜とのことでその力は計り知れないものであるだろう。
そんな竜がこの神殿……島に眠っているというのが驚きだ。
(眠りから起こす方法を、魔塔の残党たちは探っているというわけだろうか……)
三大竜からほど近い存在であるということで、かなりの大きさだと想像がつく。そのため、ドラーイコルク島に眠っているとして、火山ほどの大きさは優にあるのではないかと思ってしまう。
竜の大きさはまちまちなためどうとは決めつけられないが、そんな竜がこの島にいると思うと恐ろしい。
だが、先住民族であるゼー卿をはじめとする人たちは恐れよりも、崇めるべき存在だと認識しているのだろうし。
神殿の奥までたどり着くとそこには大きな祭壇が出迎えた。白い石の壁には海洋竜オセアーンと思われる竜が描かれており、その両脇から湧き水のように水の柱が挙がっていた。どうやら、水路の出発点がここらしい。
祭壇はよりいっそ青白く発光しており、水の揺らぎに、水の音、水の匂いが充満していた。
入った当初よりも、不思議な空気がよりいっそ強くなっており、俺は激しい動機を感じた。しかし、倒れるような胸の痛みではなく、何かに反応して血が騒いでいるような感覚だった。
「ゼー卿。調査にご協力いただく際、説明したように、その海洋竜オセアーンを狙い、魔塔の残党がドラーイコルク島を襲撃する可能性がある。すでに、上陸している可能性も考えられるが、海洋竜の居場所は分かっているのか?」
「いいえ。この島に眠っているとされていますが居場所までは……」
「そうか」
「ただ、協力を仰いだのは、海洋竜を探し出しこの目で見るためです」
「……え」
セシルの問いに対し、ゼー卿は首を横に振ったが、今回協力要請に応じた理由が彼の口から語られ俺は衝撃を受けた。
確かに、竜を神聖視しているとは思っていたが、竜の居場所を両国に突き止めさせようとしているとは。
セシルもアルチュールもこれには驚いたようで顔を見合わせ、神妙な顔つきでゼー卿を見た。ゼー卿の顔は変わらず、だが、どこか狂信者じみたものを感じる。
「我々は、この島で暮らしはじめて長い歴史を刻んできました。ドラーイコルク島は、周りを海で囲まれ、渦潮が発生しやすい場所に位置しています。津波の心配もあり、火山もありますから自然災害が起こりやすい場所だったのです。しかし、海洋竜様が我々の島を守ってくださったのです」
「つまりは、渦潮が起こりやすい地域であったにもかかわらず船での移動の際一度も巻き込まれず……」
「火山の噴火にも、津波やその他自然災害の影響を一度も受けなかったと……そう言いたいのですか?」
セシルとアルチュールは順にゼー卿に尋ねた。
ゼー卿はその言葉に対し「いかにも」と大きく頷く。
(確かに、ここに来る際渦潮にい注意して……って船長がいっていたような気がするな)
ドラーイコルク島の近く、ちょうどサテリート帝国の海域側とアルカンシエル王国の海域側に二つ……ドラーイコルク島を挟むように渦潮が発生している。間違えれば、船は吸い込まれるだろうしただでは済まない。だが、ドラーイコルク島はサテリート帝国の一部となってから、帝国との交易を少なからずしている。その際、船は必須。
しかし、一度も海難事故に会っていないというのは本当に不思議なことだ。
それ以外にも、気候変動が起こりやすい列島なのにも関わらず、台風の災害や火山の噴火に一度も会っていないというのは奇跡というしか言いようがない。
ゼー卿たちが、竜の加護を信じていてもおかしくない。
(……ズィーク卿とは違うけど、それに近いものを感じるな)
もともとは島国。閉鎖的な環境だったし、多くの部族が点在する島。
だが、どの部族も等しく崇める存在が海洋竜オセアーンであり、その竜がいたからこそ、島の住民は一丸となってこれまでやってきたのではないだろうか。
しかし、自分たちを幾度となくすくって守ってきてくれた竜に一度も会えていないとなると、その姿を一度でも拝みたいと思うのは必然的か……
セシルとアルチュールはもう一度顔を見合わせた。
「つまり、今回こちらの要請に応じたのは俺たちに海洋竜を見つけさせるため……見つけたとしてどうするつもりだ?」
「それはもちろんこれまでの感謝を伝えるつもりです」
「本当にそれだけなのですか?」
かぶせるようにアルチュールは前のめりになって聞いた。
竜を信仰している気持ちが少なからずあるなら、魔塔と手を組んでもおかしくない状況だ。だが、彼らは魔塔ではなく両国の申し出に承諾した。その理由を二人は知りたいのだろう。
ゼー卿はニコニコと笑顔を向けたままでそれ以上何も語らなかった。変わって、ヴォーゲ卿がゼー卿の言葉を補足する。
「今回両国に協力する理由はずばり、海洋竜を傷つけないだろうと判断したからです。サテリート帝国の魔塔が解体される以前、元管理者のズィーク・ドラッヘンが直々に我々に話を持ち掛けてきたのです。海洋竜を探すために島に上陸させてほしいと」
「魔塔が……」
「はい。そのときは、何故か理由は分かりませんでしたが、利害は一致していたのです。我々も魔塔も竜を神聖視視していましたから。しかし、悪いうわさを聞いたもので」
「……竜を利用して、支配下に置こうとしようとしていた……ですよね?」
「はい、王太子殿下の言う通りです。ですので、その話は保留のままにしほとぼりが冷めるのを待っていました。その間に、サテリート帝国の魔塔は解体されたようですが。ですが、我々としても一度でいいから海洋竜の姿を見たいと思いましてね。今回の話に乗ったというわけです」
ヴォーゲ卿はそういうと軽く会釈した。
魔塔が以前に接触を図ったというのは初耳だった。また、そのときに魔塔の手を取っていたらどうなっていたか考えると末恐ろしい。
魔塔の理念というか、しようとしていたことに関しては、ドラーイコルク島の人たちは反対だったのだろう。もし、ドラーイコルク島の人たちが竜との交流を増やし、あわよくばその力を自分たちの意のままに仕えるようになったら……と一度でも考えてしまっていたら話は変わっていたかもしれない。
そういう意味では、この島の人たちは信用できる。
「分かった……理解した。今回の調査で、海洋竜を見つけられるかどうかは分からないが、調査に協力してもらっている以上、こちらも最善を尽くそう」
「……アルカンシエル王国も協力します。それに、神話時代に生きていた竜を見たいという好奇心はありますし、魔塔よりも先に見つけて保護……竜と交渉できるなら交渉しなければなりませんしね」
セシルとアルチュールは納得したように頷いた。
それを受けて、ゼー卿はますます喜びに満ちた表情を浮かべる。
とりあえずは、これで問題ないのか。
(ゼー卿が神殿の中に連れてきたのは、この話をするためと、自分たちが進行している竜の偉大さを知らしめたかったからだろうな。あわよくば、理解者に……といったところか)
それにしても、壁画に描かれている海洋竜は飛竜とは違い細く翼が雫のようにしたたっているようにも見える。いったいどんな竜なのか。本当に壁画通りの竜が存在するのかにわかには信じられないが興味はあった。
セシルは、神殿の内部については調べたのかと詳しく聞き、ゼー卿はそれについて調べつくしたと答えていた。また、他にもめぼしい場所は島を上げて探したが見つからないらしい。
三大竜もそうだが、どこに封印されているか、眠っているかは不明なまま。それこそ神話時代の出来事であるため証拠がない。
この調査も一見無謀ではあるが、魔塔よりも先に足取りを掴まなければ大問題だ。そういう意味では、調査は慎重に、そして迅速に進められるだろう。
「説明は以上です。後日で構いませんのでまた神殿内部の調査をお願いしたいのですが」
「ああ、分かった。話を通しておこう」
ゼー卿は神殿内部についての説明を終え、後日の予定を取り付け、再び来た道を歩き始めた。俺たちもその後をついていく。
ここの調査は後日とのことらしいが、気になる点というかこの不思議な空気の正体を知りたいので、俺はセシルにここの調査を任せてほしいと言おうか迷った。
「セシル、少しいい――っ!?」
セシルの肩をちょんとつついたとき、かすかな揺れを感じた。足元が揺れ、次第に立っているのがままならなくなる。
(地震――!?)
火山の近くだからだろうか。ゼー卿は落ち着いているようだし、ヴォーゲ卿も落ち着いていた。しかし、たっていられなくなり、神殿の天井からパラパラと小石が降ってくると、二人も顔色を変え外に出るように叫んだ。
立っていられないというのにどう逃げろと言うのか。
だが、もし神殿内が崩れたら生き埋めだ。
俺たちは何とか地面を這いながら出口に向かって走った。足場は悪く、揺れる地面を踏んで走るのは至難の業だった。
早く、と前からゼー卿の声が聴こえる。
俺の後ろをゼラフが、横をレティツィアが走っていた。セシルとアルチュールは俺の前を走っている。
セシルは時々俺のことを確認するように後ろを見ていた。
俺は、息を切らしながら揺れが収まらない中走っていた。しかし、足元にメキっと嫌な音が響き、つい足を止めてしまった。でもほんの一瞬だ。
だが、次の瞬間、俺とレティツィアの足元が崩れ二人分の穴が開いた。俺たちは何かにつかまるでもなく、重力にひかれていく。
「ニル――っ!!」
「セシル――っ!!」
伸ばされた手に、俺は手を伸ばした。しかし、指先がかすっただけで彼の手を掴むまでに至らず、暗い穴の底へとレティツィアと共に落ちていったのだ。
落ちる際、上を見上げると銀色の星がほのかに瞬いていた。彼の手がまだかすかに見える。そして、セシルの俺の名前を呼ぶ声が痛々しく響いていた。
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