一年後に死ぬ予定の悪役令嬢は、呪われた皇太子と番になる

兎束作哉

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第3部1章

06 あの男とのつながりは

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「ふーん、まあ、きれいじゃない」
「こんな上物着せてもらって、良いんですか。ご主人様」
「いいわよ。それ、安いものだけど」
「……」
「冗談よ。まあ、公爵家で働いてもらうんだから、みすぼらしいかっこはさせないわ。こっちの評価にもつながるし。メルクール公爵家で働く以上は、それなりの姿で、態度で、言動にも気をつけなくちゃいけないのよ」
「御意……ご主人様」


 与えた麻の訓練着はよく似合っており、今までのぼろぼろの服とは見違えて、しっかりとした騎士のように見える。体格の良さも、一目でわかり、奴隷としての期間が長かったとはいえ、筋肉が衰えているわけではないような気がする。
 髪は綺麗でサラサラとした色素の薄い灰色で襟足が長く、瞳はビー玉のように透き通った透明。その容姿に思わず見とれてしまったが、すぐに我に返り、私は咳払いをしてごまかした。そして今、シュタールには訓練着を着てもらい、私の前に立たせていた。公爵家で働く以上、それなりの格好をさせる必要があったし、剣もそこら辺のものを見繕させてもらった。お父様は好きにすればいいと言ったが、それでも、実績や、それなりの強さがなければ公爵家に置くことは不可能だった。
 そして、きれいになったことにより、よりいっそあの男の影が彼から漂ってくる。色は違うのに、それでも――


「ねえ」
「はい、何でしょうか。ご主人様」
「シュタール、貴方魔法は使える?」


 脈絡のない質問。シュタールは、一瞬驚いたように目を見開いたが、スッとその瞳を閉じ、開いた瞳は視線を下に、暗い顔で「いいえ」と答えた。私も、この回答には驚いて、思わず「えっ」とこぼしてしまい、シュタールの視線に気づくのに遅れてしまった。
 彼は、自分が魔法を使えると思って助けられたのではないかと不安そうにこちらを見ているのだ。


(嘘をつている? 私には分からない、でも……)


 直感的にそう思ったから、と何とも曖昧過ぎる理由が通じるはずもなく、私の思い過ごしという可能性もあるわけで……
 いったん落ち着くことにし、私は息を吐いた。その一つ一つの動作に対しても、シュタールは敏感に反応していた。


「ご主人様……」
「何? 言いたいことがあるなら、言ってちょうだい。それで貴方を罰したりはしないわ」
「……ご主人様は、俺が魔法を使えると思って買ったのですか」


と、彼は私の心を読んだような発言をしてきた。

 図星をつかれ、さすがに取り繕うことが出来ず口を閉じれば、そうなんですね、とシュタールはうつむいた。


「何故そう思われたかは知りませんが、俺には魔法の才はありません」


 すみません、という一言も合わせて言われたので良心が傷つく。
 別に期待していたわけではない。私は、彼の傷ついた心をどうにかしようと、言葉を紡ごうとするが、何て声をかければいいか分からなかった。ただ、彼にとって魔法という物はあまり好ましいものではなく、もしかすると、何か魔法に対するトラウマがあるのではないかとも思ってしまった。


「ごめんなさい。貴方を傷つけるつもりはなかったの。それに、魔法が使えると思って貴方をここに置いているんじゃないの」
「では何故?」
「優秀な、護衛が必要だからよ」
「ご主人様のような、公女様には、それはもうすごい護衛騎士がついているのでは? それに、あの竜人の男は……」
「竜人の男? 貴方、分かったの?」
「え、ああ……はい。普通の人間とは明らかに違ったので」
「そう……」


 初見で見破れるものなのだろうか。殿下は知っていたみたいだけれど、他の人間がそれに気づいたようなそぶりはなかった。また、ゲベート聖王国に行った時も、竜人族? とぴんと来ていない様子だったし。やはり、シュタールとゲベート聖王国は何かつながっているのではないかとかんくぐってしまう。


「シュタール、出身はどこ?」
「え?」
「出身はどこなの?」
「……それは、答えなければなりませんか?」
「ええ、命令だから。それとも、隠したい理由があるの?」
「…………いえ。ゲベート聖王国です」
「やっぱり……」
「ですが、俺は魔法が使えませんでした。魔法至上主義のあの世界で生きるのは辛かった。滅んだのは、数十年前ですが、魔法至上主義の考え方はずっと変わらず……魔法が使えないものは落ちこぼれとして、奴隷と同じように冷遇されてきました」
「……だから、さっきの質問にあれほど機敏になっていたのね」
「はい……ですから、ご主人様が、それに気づき、俺に魔法を求めていたとしたら……その期待を裏切る結果となってしまう。そう思って言い出せませんでした」


と、シュタールはそういうと深く頭を下げた。

 魔法が使えないとなると、あの男との関係性は薄くなるのだろうか。ゲベート聖王国の出身だからと言って、全員がヴァイスとつながっているわけではないだろうし、魔法が使えなくて、冷遇されていたとしたら、王族の可能性も薄い……
 ただ、ここまで生き残っていることを考えると、何かしらの才能はあるのだろう。それか、根性か。そうでなければ、野垂れ死んでしまっていただろう。


「ありがとう。話してくれて」
「すみません。俺には何の才能もないので」
「そんなことないわ。貴方には、期待しているの……だって、さっき貴方は、魔法より剣ならって目を輝かせていたじゃない。それって、自信があるからよね?」


 私がそういえば、シュタールはピクリと肩を揺らした。自信がなくて、あんな発言はできないだろう。それを私は見逃さなかった。
 シュタールはゆっくりと顔を上げると、腰に下げていた剣の柄を優しくなでた。彼が生き残れたのは、体力と、根性……そして、剣術があったからだろう。しかし、奴隷としての日々、剣を握る機械などなかったはずだ。魔法が使えないからと、剣術を磨いた過去がある、けれど、今派遣を握っていないと。
 剣のことが好きだったのだろう。だから、私の問いかけに対し、気前良く返事できた。


「あります。俺には、もうそれしかないですから」
「それしかって、良い才能じゃない。でも、まだ剣術を習い始めて数か月の彼に勝てなきゃ、その自信も見直すことになるでしょうけれどね」
「……やらせてください」
「いい返事ね。返事だけにならないことを期待しているわ」


 私は、シュタールに微笑みかけ、彼を訓練場に連れて行った。今日は、騎士たちに休暇をとってもらい、訓練場は開けてもらっていた。
 白い線や、練習用の木剣や、人間に見立てた居合義理のための人形などが置かれたそこに、彼はいた。


「――ゼイ」
「あ、おっ嬢!」


 ふっていた剣をその場に投げ捨てる勢いでおろし、水色の髪をぶんぶんと振り回しながら、走ってきた。かなり鍛錬に励んでいたらしく、汗で髪が張り付いており、そのあどけない表情の中にも凛々しさが感じられた。


「お疲れ様」
「あったりまえよお! お嬢にいわれて、ずっと練習してたかんな」
「はいはい。ああ、それと、この間の件ありがとう。殿下にいって、裁いてもらえることになったから」
「ふーん、人間の法はよくわからねえけど。役に立ったんなら、よかったぜ」


 シュタールを、奴隷として扱っていたあの貴族は、やはりほかにも奴隷を買っており、扱き使っていた。その悪質さと、奴隷の売買を禁止している帝国の法にのっとって、これから裁かれるらしい。いいことをした、という気にはなれなかったが、これ以上犠牲者が増えないのならよかったとは思った。
 ゼイは、ふふん、と鼻を鳴らしながら、私の後ろからついてきたシュタールに気づくと、見定めるようにぐいっと顔を近づけた。シュタールはその間も微動だにせず、まるでお人形のようにそこに突っ立っていた。


「こいつ、感情ねえのか?」
「あるわよ。人間だから……ただ、少し希薄なだけでしょう」


 過去にいろいろあったのだから、そうなっても仕方ない。自分で考えることすら放棄しているような態度に少し思うところがあっても、私がどうにかできる問題ではなかった。


「まあ、主役もそろったところだし、さっさと始めるわよ」
「ご主人様?」
「さっき言っていたでしょう? 貴方の腕を見せてもらうって。貴方を、ここにおいておけるかどうかのテストを始めるわ。いい?」


 私がそういって手を差し伸べれば、彼は、意図を理解した様でその場で膝をつき、再び頭を垂れ、御意、と静かにつぶやいた。

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