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第1章 悪役令息と狂犬
10 せめて、ポメでいてくれ
しおりを挟む「……ん~~んん、ん? んん!?」
ピチピチと小鳥のさえずりで目が覚める。開けっ放しにしていたカーテンから差し込む光は、寝ぼけ眼には痛いくらいで、なかなか目が開かなかった。しかし、頭の下のごつごつとした違和感に俺はそれが何か確認しざるを得ずに目を覚ます。寝心地が悪すぎるというか、枕にしては高いし、堅い。それが何なのか、横をすぐに見ればわかった。
「~~~~っ!?」
なるべく、声を出さないようにと抑えたらかえって酷い声になる。なんとなく、横で寝ているそいつは寝起きが悪そうだったから、起こしたらまずいと思ったのだ。
(な、んで、ゼロが俺の隣に!?)
思い返してみれば、簡単なことで、こいつは昨日俺の隣で寝ていた。だが、それはポメラニアンの姿でだった。俺が癒さなければ人間の姿に戻らないし、戻っても発情状態で戻るのでたちが悪い。そんな呪いだったはずなのに……
悪いとは思いつつも毛布をめくってゼロの股間をチェックする。朝なので、朝勃ちしているという可能性も考えられるが、ゼロの白いズボンの中心は膨らんでいなかった。
んん……と、もぞもぞと機嫌悪そうにゼロが動いたため、俺はバット毛布をかぶせて、顔だけゼロに向けてみた。
見れば見るほど、憎たらしいくらいかっこいい顔をしているのだ。灰色の髪はどことなくペションとしており、ちょっと寝癖があったりもした。いつもは俺を睨みつけてくるターコイズブルーの瞳も、長いまつ毛の下に隠されている。しかし、寝ていても機嫌が悪いらしいゼロは、眉間にしわがよっていて、口もムッと上に上がっているのだ。それでも、かっこいいことには変わりなくて、それがなんだか悔しかった。
(いつも、黙ってりゃイケメンなのにな……いや、黙ってるか)
俺が会話を試みようとして、無理やりしゃべらせていることもある。俺が前世を思い出すまでは、こいつはずっと無口だった。だから、いまさらそんなこと思うなんて、俺はひどいやつだなと思う。
にしても、なぜ彼は何もしていないのにポメから人間に戻って、発情していないのだろうか。俺が寝ると同時に寝ていただろうし、俺が寝ている間に俺の手を使ってシコってたともなんとなく考えられない。そんな、睡姦なんてされたらこいつは解雇だ。ただでさえ、起きているときでもこいつのチンコをしごくのは嫌だっていうのに……
だが、ゼロがそんなことするやつではないと俺は隣で寝ているやつを見て思った。
魔法の首輪のおかげで、ポメラニアンから戻っても服を着ている状態で人間に戻れるのだが、暑かったのか、上半身は裸だった。腕の筋肉も発達していて、大きな手には血管が浮き出ている。俺は、そんなゼロに腕枕されていたのだ。
(一生の恥すぎる……)
誰かがこの状況をみたら勘違いするのではないかと思った。朝、主人の部屋に従者が。しかも、半裸で、同じベッドで。BL世界だからあり得そうでたまらない。誰かがここに来ないのが不幸中の幸いか。ゼロだって、勘違いされたくないだろうし。
そんなふうに、じっとその顔を見ていたら、ゼロはぱちりと目を開けた。そのまま焦点が合わない目でこちらをゆっくりと見た後、ぐっと眉間にしわを寄せた。俺はそのしぐさに反射的に「起こしたか?」と尋ねると、彼は目を閉じたまま俺にすり寄って、べろりとその舌で鼻先を舐めた。
「……なぁあっ!?」
一瞬何されたか理解できずに、俺は声を出す。そのままベッドから降りて身を守ることだってできたかもしれないが、俺に腕枕していた手が、俺の背中に回されて、そのままグッと引き寄せるものだから、逃げるタイミングを見失った。
「やめろって! お前!」
ゼロは、半分眠っているようでん-とか、ん~とか言っている。しかし、ぐりぐりとすり寄るのをやめない。俺の体温が高いからか、暖を求めて寄ってきた猫のようにも思えた。ポメラニアンのときはあったかかったくせに、今はバカみたいに冷たいから死んでいるんじゃないかとすら思う。でも、これだけ動いているのだから、死んでいるという可能性はゼロ近しい。
(いやいや、離れろよ)
ゼロは俺を抱き枕とでも思っているのか、そのままぎゅっと俺を抱きしめる。その拍子に、彼の鍛えられた胸筋に顔をうずめてしまう。
「……お、雄っぱ…………」
「……主?」
と、低い声が上から降ってくる。
そこでようやく、解放され、俺はゼロから毛布をすべて奪って、それにくるまりベッドの端へと移動する。
いつもゼロがやるように、威嚇として歯をギチギチとさせて唸ってみた。
「おい、起きたか、変態」
「……主のほうが早く起きていたんだな。なんだか、すまない」
「すまないって、お前!」
謝るのはそこじゃない、と俺は思いながらも、先ほど起こった出来事を言うべきか言わないべきか迷った。いって、また関係がこじれるのは勘弁してほしい。それだけじゃなくて、覚えていないかもしれないことを言って、俺が嘘つき呼ばわりされるのも嫌だった。ここは穏便に、さっきのことはなかったことにしようと、俺は気持ちを落ち着かせる。
そう、さっきのあれは夢の延長線上だったと思えばいい。
(――って、なるかああっ!)
腕枕されてて? 鼻を舐められて? 抱きしめられて臭いかがれて、身体摺り寄せられて? それを、夢だって思ってるのなら、それはただの悪夢だ。うなされた料金を取りたいくらいだし、夢であっても、主人である俺を好き勝手した罰を受けるべきだろう。
ゼロのほうを見ると、申し訳なさそうに、灰色の頭をガシガシとかいていて、こっちまでどうしようという気持ちになる。
こじれるほうが面倒だ。だから、俺が大人に、ここは穏便に。
「ゼロ、体調は何ともないか?」
「体調? なぜだ」
「なぜって、ほら、お前ポメから戻ってるだろ? 俺は、昨日あのまま寝ちゃって、お前のことかまってやらなかったから。お前が人間に戻ってるのが不自然っつうか、なんか、何で? って感じで」
「確かに……だな」
と、ゼロはそこでようやく気付いたようにふむとうなずいた。本人も無自覚だったらしいのだ。
まあ、それはいい。
俺も言葉が詰まってしまって、どう説明すればいいかわからなかった。起きたら、お前が人間の姿になっていて、発情もしていなくて。ゼロも、なぜだろうと首をかしげていた。
ないとは思うが、俺から愛をうんたらかんたらで、呪いが解けた、なんてことはないだろうし。だったら、もう話は早くて助かるのだが、俺が彼にかけた呪いはまだ全然彼の体に残っている。
「たまたま、とかなのか……ゼロ」
「たまたまとかあるのか? 呪いに。規則性はないとはいえ、さすがに、そんな奇跡みたいなこと起きないだろう」
「じゃーお前が、癒されたって思った出来事があったんだ! てか、お前が皇宮のほうでポメになったのも、何がストレスだったんだよ!」
そう俺がいうと、ゼロは黙り込んでしまった。よっぽど言いたくないことだったのだろうか。地雷を踏んだ気がして、俺はゼロのほうをちらりと見る。ターコイズブルーの瞳に少し影ができて、それからこちらを見る。
「何もなかった。主と別れた後は、食事をとって、それから壁のほうで一人会場を眺めていた」
「へ、へえーご令嬢とかに話しかけなかったの?」
「俺が話しかけても怖がられるだけだろう。それに貴族っていうやつは、自分に見合った人間にしか興味がない。俺みたいな他国の私生児に、元傭兵に興味を持つわけがないだろう」
「身分を隠してとか?」
「不誠実すぎる」
ゼロは、俺が何か言ったら言ったですべて却下してフンと鼻を鳴らした。めんどくさいなあ、と思いながらじゃあ、何がストレスだったのだろうか、ますますよくわからなくなった。今の会話から分かることといえば、ゼロが気を使ってか、元から失望していたため貴族に話しかけなかったということくらいだ。
彼の目にはあきらめの色がにじんでいたし、それがストレスに直結するとは思えない。ゼロじゃないから、勝手にそう決めつけるのはいけないのかもしれないが。
「まあ、発情もしなくて人間に戻ったんだし。俺としては助かったけど、原因が分からないのは妙だな」
「……いいだろう、別に。主に迷惑をかけていないのだから」
「そりゃそうだけど。知らず知らずのうちにストレスためるのもよくないし、これから言語化とか、自己理解とかしていこうな。ゼロ」
「なぜ俺がそんなこと……」
不満げにゼロはしかめっ面で俺を見た後、ため息をついた。ゼロにとっては必要なことなんだけどなあ、なんて思いながら、俺はパサりと毛布を脱ぎ捨てる。
「……何見てんだよ。エッチ」
「いや、主の足は細いな。折れそうだ」
「自分の足がごつくて丈夫だからって、自慢か!? 嫌味なのか!?」
毛布とともに脱ぎ捨てたズボン、立ち上がった瞬間見えた俺の足にゼロはくぎ付けになっていた。男にしては、毛が生えにくい体質ですね毛もなければ足も、脇の毛もない。あるとしてもうっすらと産毛が生えているだけだ。それと、外に出ることがあまりないためか、俺の肌は白い。
そんな俺の足を見て、ゼロは自分はこうなのに、と比べるように見つめてそんな言葉を吐き捨てるのだ。
「俺が、そんな気色の悪い目で主を見るわけないだろう。主は、被害妄想が過ぎる」
「お前に言われたくないけどな? って、どこに行くんだよ」
「朝のジョギングにいく。日課だ」
「ああ、そう……廊下に誰もいないか確認してから行けよ。バレたら面倒だろ?」
ああ、とゼロは短く返事をし、ベッドから降りると扉へと歩いていった。しかし、もう少しでドアノブを掴めるといったところで立ち止まると、こちらを振り返る。振り返ったかと思うと、ずんずんとこちらに近づいてきて、スッとひざを折った。その姿はまるで主人に忠誠を誓う騎士のようだった。
なんだ、俺との関係を変えようって気になったのか? と一瞬期待したが、ゼロはん、と頭を突き出したかと思うと、ちらりと俺を見上げるようにして視線を上げる。
「主」
「何だよ」
「俺をよしよししてくれ」
「な、何で? お前、今ポメじゃないのに?」
「……よしよしはためておいたほうがよさそうだ。ジョギング中にまた犬になったらかなわない」
と、ゼロは真剣な顔でそういうともう一度「俺をよしよししろ」と命令口調で言ったのだ。
ポメじゃないこいつにいわれても、威圧感がすごいだけだった。せめて、ポメでいてくれれば撫でやすかったのに。そう思いながらも俺は、びくつく手を動かして、ゼロの頭をよしよしと撫でたのだった。
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