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第4章 元悪役令息と元駄犬
08 これが、モブ姦!!
しおりを挟む(――なんつう、えぐい性癖してんだよ、こいつ!)
ハフハフと興奮して鼻息も荒くなっているクライスを見て、俺は血の気が引くのを感じていた。
さすがは妹の書いたBL小説の世界の住民。性癖がねじ曲がっているどころの騒ぎじゃなかった。こんな性癖持っているやつが、魔法の才能もあって顔もそれなりによくてとか何かのバグじゃないかと思った。モブみたいな存在感のくせに、こんなえぐい性癖をもって、しかも恥ずかしげもなくひけらかすなんて。
妹が悪魔なら、こいつは魔王だとすら思った。
だが、そんな文句を言っている暇もないくらいに俺は追い詰められていた。余裕なんてものはどこにもない。この動かない自由の利かない体を今すぐにでも無理やり動かして、ここから逃げることを考えなければならない。
俺の眼下には、うつろな目をした汚いおっさんたちが五人ほどいた。加齢臭か、汗のにおいがか混じって鼻がひん曲がりそうだった。ハゲもデブもいる。ズボンの上には肉がのっているし、そもそも、服の大きさがあっていないんじゃないかとも思う。そんなおっさんがあーとか、うーとか虚ろな目で何かぼやいているのだ。それはまるでゾンビのようで、気味が悪かった。
そして、ここで俺の悪役としてのバッドエンドが回収されるのではないかと汗が流れる。
(こんなところで、モブ姦エンドなんて回収しなくていいんだよ! クソが!)
そうとは決まったわけじゃない。だが、本来のバッドエンドの更にはるか上を行く、バッドバッドベリーバッドエンドが目の前にあるのだ。回避できたと思っていたバッドエンドは周りに回って、今目の前に差し出されている。こんなことあっていいのだろうか。
「もしかして、引きましたか?」
「引くに決まってんだろ!? なんつう、性癖してんだよ。お前! いいから、離せ!」
「そういわないでください。やっと、君を捕まえることができたのに」
クライスは俺の耳元でそういうと、かぷっと俺の耳を噛んだ。ぞわぞわっとした嫌な感覚が背筋を通り抜けていく。
やっぱり、ゼロとは違う。ゼロにされても、過剰に反応するくらいだったのに。こいつに触れられて、ちっとも気持ちいい感じがしないのだ。
「前々から自分のものにしたいと思っていたんですよね。君を王宮で見たときから。君が、魔法を発動したあの日、最年少で魔法を発動させた君は、王太子殿下にその座を奪われた。そして、顔を真っ赤にして泣きじゃくっている君を見て、初めて興奮を覚えた。あれが、僕の性の目覚めです」
「誰も聞いてねえんだよ、そんなこと!」
何ぺらぺらと話し始めてんだ、と俺はつばをまき散らす。だが、そんなことお構いなしに、クライスは続ける。コツリコツリと靴を鳴らして歩き、おっさんたちの間を縫って、ベッドへ俺を連れていく。
「君を手に入れたい、ぐちゃぐちゃに泣かせてやりたい。ドロドロに……君はプライドが高くて、癇癪持ちだから、そんな君を屈服させるのがかねてからの夢でした。組み敷いて、ぐちゃぐちゃになるまで。気持ちいいと痛いの境界線なんてなくしちゃうくらい、恥じらいもプライドも全部なくなるくらい、君を蹂躙したい」
「……っ、ほんと、気持ちわりぃな。俺にそんな執着しても面白いことないだろ」
「まあ、最近のラーシェはおとなしいですけどね。少し興ざめです。君はプライドがバカみたいに高くて、それゆえに孤独で、自分をよく見せるために虚勢を張って。それこそが、アンバランスで悪徳な公爵令息ラーシェ・クライゼル……ああ、ですが、今の君はいい。何をされるかわかっていて、必死に逃げようとしている。その滑稽さが僕を煽るんですよ」
べろりと俺の耳を舐めてクライスはくくくと喉を鳴らす。
抵抗できないがために、身体を好き勝手されている。それがひどく屈辱的で、何よりも耐え難いことだった。
あっちの部屋に置いてきたゼロが気になって仕方がない。あいつに助けを求めている自分がいる。でも、それ以上にゼロの安否が心配だった。この変態に付き合っている暇などないのに、身体が動かない。
本当にこのまま、俺はこいつの性癖に付き合わされることになるのだろうか。
「お前の望む俺じゃないなら、解放してほしいんだけど。ほら、友だちだろ?」
「友だちなんて。君は口先ばっかりで、僕のことを本気でそう思っていないくせに。あの犬も、自分の都合のいいようにしつけただけなんじゃないですか?」
「ゼロのことをそんなふうに言うなよ!」
「じゃあ、何で呪いをかけたんです?」
と、クライスはすべてを見透かしたような冷たい目で聞いてきた。
言葉に詰まって俺は答えられなかった。全ては過去のこと、過去の自分がやったこと。今は呪いをかけたことを後悔しているし、今だ解けないこの呪いを解けるのは自分だけだともわかっている。でも、俺はまだあいつをただの犬扱いして、愛してやれていない。そもそも、愛っていうのが分からなかった。
(言い訳ぐるしいな……)
俺が早くに彼奴の気持ちに気づいて、答えていればさっきみたいにクライスにポメにされずに、制圧できていたかもしれない。先のばしにしてしまた弊害と、俺の意気地なし。やっぱり、最終的にすべての結果をダメなものにするのは俺だと思った。
クライスは呪いについても把握しているみたいで、本当にすべてを握られている気がしてならない。
「……あれはちょっとした。いや、俺が悪かったんだよ。だから、今呪いを解こうと必死になってんだよ。お前を捕まえて、全部解決して、それから――」
あいつのこと、好きだって言ってやるんだ。めいっぱい甘やかして、あいつがずっと苦しんできた分幸せにしてやるって決めてる。
今それを彼奴に口にしていってやってないけど、ちゃんという。
ごめんねは聞きたくねえだろうから、好きだと、これからもいっぱい甘えていいぞって。おっぱい吸ってもいいからなって言ってやる。
あいつは犬じゃない、犬みたいなやつだけど。
クライスはそれを聞いてまた、おかしそうに腹を抱えて笑った。
「ああ、いいですね。愛情……でも、妬ましい。僕に向けられることのない愛。あんな犬が、ここ数年間で!」
「キレんなよ。俺はお前のことちっとも知らなかったし? ゼロのほうが百倍ましだぞ?」
挑発気味に言えば、さらに逆上するクライスだったが、ぷつんと糸が切れたように、脱力するとふうと息を吐いた。
「まあ、いいです。もうそんなことどうでもよくなるくらい、ぐちゃぐちゃにしてあげるので。ねえ、ラーシェ」
「……っ」
ねっとりとした言葉に、ニタりと歪な笑みを浮かべクライスは俺を見下ろす。それから、ぱちんと指を鳴らしたかと思えば、先ほどまでそこに転がっていたおっさんたちがむくりと立ち上がり、あーうーとぼやきながら俺を取り囲むようにしてベッドの脇に立った。
「彼らは洗脳済みです。君を蹂躙しろって、プライドをへし折って快楽の奴隷にするようにと、そんな洗脳をかけています。なので、心置きなく楽しんでください」
「誰が楽しめるかよ。今すぐに解除しろ。クライスッ!」
「僕の友だちっていうのであれば、僕の夢をかなえてくださいよ。ラーシェ。きっとお似合いです」
ふふふ、と笑ってクライスは一旦俺から離れると近くにあった椅子に腰かけ、高みの見物とでもいうように頬杖をついて俺を眺めた。クライスが離れると、モブのおっさんどもは俺が寝転ぶベッドに上がってくる。そして、俺を欲情した汚い双眼で見下ろすとおもむろに指毛の伸びきった、関節のわからない丸く太い指を伸ばし、俺の衣服を剥ぎ取った。びりびりと布がさける音が聞こえ、あっという間に俺は服を脱がされてしまう。ようやく抵抗できるようになったものの、巨漢を前に手も足も出ずに、俺は身体を手で覆い隠すが、両側から手を掴まれ裸をさらけ出すような姿勢にされてしまう。
「へえ、ラーシェの胸はかわいいですね。でも、もう開発済みみたいにぷっくりしてる。妬いちゃいます」
「頼む、クライス! マジで、やめさせてくれ! 頼む、お願い、お願いします!」
「早いですよ。もっと、抵抗してください。ラーシェ。そしたらやめてくれるかもしれませんよ?」
と、クライスは楽しそうに笑っている。絶対そんな気がないくせに。鬼畜で、無慈悲な笑みを向けられ、俺は絶望からまた血の気が引いていく。
過去の自分を殴りたかった。こいつが危険なのはわかっていたが、こんなふうに危険だったとはさすがに考えられなかった。
歪すぎる凶悪な性癖。
モブ姦されるのを見て興奮し、そして寝取り返してわからせ上書きセックスしたいなんてどんな思考をしていたらそんなふうに育つのだろうか。俺は気持ち悪くて吐きそうだった。
だが、それよりも俺の肌にかかるモブたちの息が生暖かくて、俺は身体をよじる。
ほらほら抵抗してくださいよ、とクライスの声が遠くに聞こえ、俺はモブたちに体をべたべたと触られていた。気持ち悪すぎて、勃つものも、勃つわけない。それが分かったのか、クライスは少し不機嫌そうに「思ってたのと違いますね」と言って、再度指を鳴らす。するとモブたちはぴたりと動きを止めた。
「は、はは、やめてくれる気になったっかよ」
「もっと、いやいやってしてくれないと興奮できませんよ。演技はいりません、絶望の表情を見せてください」
「……もう、絶望してんだよ。こんな……」
まだ足りない、とクライスは俺のチンコを思い切り握った。突然のことで俺は身体がはねて、緩く勃起する。
「こんなに敏感なくせに。ねえ、ラーシェ」
ちゅこちゅこと俺のを上下にしごいて、クライスは陥落しろというように見下ろす。俺は屈するものかと睨みつけ、下唇を噛む。だが、クライスに触られていると気持ち悪いのに、身体が熱を持ち始めていた。
「効いてきました? 僕の洗脳魔法」
「……っ、お前の魔法は、対象者に触れることで発動するんだったな。んな、洗脳にかかると思ってんのか」
「体は素直じゃないですか。頬だって赤い。早く、雄が欲しくてたまらないって顔してるじゃないですか」
クライスは俺の頬をさらりと撫でて、うっとりした顔をした。そんなわけあるか、と悪態をつきたかったが、俺は今それどころではなかった。
下唇を噛んでも、声が漏れそうになってしまう。こんな野郎なんかに触られて気持ちいいなんてありえないのに、身体が反応してしまう。
(やべえな……これ)
この魔法はまずい。バカみたいに間違った方向で魔法を使っている……エロBL小説の世界ならありなのかもしれないが。
気持ち悪いはずなのに、気持ちよくて仕方がない。でも、屈するわけにはいかない。
興奮する俺を見て、比例するように興奮するモブども。俺を囲んで息を荒くして、今にも俺にしゃぶりつきたいとぎらつかせていた。暫くクライスは俺のチンコを擦ったあと、ぱっと手を離して、モブどもに同じようにやれと命令する。すると、モブどものちぎりパンのような手が俺に伸びてくる。
「やめろ、やめろ…………た、す……ゼロ――ッ!!」
頼れる相手、それはただ一人しかいなかった。
助けを求めるなんてみっともないと、今までは誰かにすがったことはなかった。それでも、心の底から助けてほしいと俺は叫ぶ。クライスは助けに来るわけがないのに、と笑ったが、俺が再度あいつの名前を呼ぶと、扉付近に気配を感じた。
「――ラーシェッ!!」
「……っ!」
そう俺の名前を応えるように叫び、灰色のポメラニアンが、ターコイズブルーの瞳に怒りを浮かべてこちらの部屋に駆け出してきたのがはっきりと見えた。
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