ヤンデレだらけの乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、美形執着騎士に迫られています

兎束作哉

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番外編SS

好きな食べ物は?

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「ファルクス、好きな食べ物あるかしら」
「好きな、食べ物ですか。いきなりどうして?」


 紅茶を飲みながらふと、ファルクスの好物について気になったので話をふってみた。案の定、というか、私がいきなり話をふったもので、彼は戸惑ったように(といっても顔に出るわけではないので)夜色の目をぱちくりとさせていた。
 思えば、ファルクスのことを何も知らないから、こういうふとした機会に知れたらいいな、という安直な考えからついぽろりと零してしまった。
 結婚式の準備は着実と進んでいるのだが、結婚したからといって、とかそういう言い訳をしたくなかった。ファルクスのことはいつだって知りたいし、私が一番知っていたかった。そんな理由。あっちも同じ気持ちならいいのだけど――


「そういう、スティーリア様は何が好きなんですか」
「私? 私は、お茶に合うお菓子が好きかしら。フロランタンとかは好きね」
「フロランタン……甘いものがお好きなんですね」
「まあ、特別甘いものは苦手だけれど、ほどよい甘さと苦さがあるものは好きね。それで、ファルクスは?」
「俺は……とくには。肉は食べますけど、食に関してあまり考えた事がありません」
「そう……もしかして、嫌なこと思い出せちゃった?」


 私は少し不安になってファルクスの方を見た。彼は、いつものように感情の読めない顔でこちらを見ている。その夜色の瞳は、やはり私では何を考えているのか理解できない。けれど、その瞳に少しの熱と、欲が混ざり合っているのは何となく伝わってくる。私だけを見ていると。
 思い出させた、というのは彼が奴隷時代のこと。彼は、元は王族だったけど、その国が滅ぼされてしまい、奴隷になった。王族だったけれど、そこまで優遇されていなかったっていうのも聞くし、彼の言葉は嘘じゃないのだろう。食に関して興味がないようにも思える。食べられれば、腹を満たせればそれでいいと、そんなふうに伝わってくるのだ。
 しいていうなら、肉だといった彼は、思い出したくもないけれど、殿下がファルクスの国は魔物も食べる、といっていたな、とその影響なのかも知れないと思った。魔物の肉って、毒素を含んでいるから危険と聞くけれど、ファルクスからしたら、それも貴重な食料で、体内で毒素を分解できるのかも知れない。この世界の人は、前世の世界にはない食べ物を食べているわけだし、そういうこともあり得るだろう。以上に毒耐性が強いとか。
 それは置いておいて、本当に食に興味がなさそうで、いつもゴムでも食べているのか、と不安になり、味覚はあるのよね? と聞くと、あります、とだけ答えるファルクス。さすがに、嘘はつかないと思うが、信憑性がない……味は感じても、美味しいと感じていないのかも知れないと。
 でも、一緒に食べるなら、少しでも好きなものを食べて笑顔になって欲しい。そんな思いがあって聞いたのだが、これじゃあ、話が進まないな、と思った。


「いえ。ご心配なさらず」
「ごめんなさいね」
「だ、ですから……スティーリア様が食べたいものを一緒に食べられたら、それが幸せです」


と、ファルクスはその場をどうにか納めようと言葉を紡ぐ。ああ、こういうところだ、と思うと同時に、可哀相になって、私はカップをソーサーに置き、立ち上がった。

 ファルクスは一瞬肩を上下に動かしたが、スッと私に顔を向けた。


「今度、何処かのお店でディナーでもとりましょうか」
「公爵家の料理も美味しいので、とくには」
「で、デートに誘っているのよ。ダメ?」
「……っ、すみません。そこまでスティーリア様の意図が読み取れなくて」


 全く、あなたはどれだけ私の好意を汲み取ってくれないのよ。そう口に出して叫びたくなったが、そこは堪える。
 私が好意をしっかり伝えてこなかったのが原因なのだろう。
 シュンとした、ファルクスを前に、私は何ていえば良いか分からなかった。いきすぎた慰めは、返って彼をダメにさせそうだし。婚約者だからもっとふらっとでもいいのかも知れないけれど。
 私はそう考えた末、お茶と一緒に置かれていたマカロンに目をつけた。紫色のマカロン、中にはガナッシュがたっぷりと入っている。これはこの間公爵家の専用パティシエに作って貰って美味しかったので、リピーターしたものだ。いいことをひらめき、私はそれを手に取り、ファルクスに差し出す。


「はい、あーん」
「え……」


 困惑の表情を張り付けたファルクスはマカロンと私を交互に見た。


「何よ、食べないの?」
「いえ……スティーリア様が、珍しいなと思いまして」
「……ファルクスの好みは私が作ってあげるわ」
「面白いですね。それ」


と、ファルクスは全く面白くなさそうにいうので、少しイラッときた。でも、いつもの事だし、と流し、私はファルクスにもう一度「あーん」と差し出す。すると、彼はパクリと小さい口で食べた。一口が小さいな、と思っていると、パクリ、パク、サク……と、私の持っているマカロンを徐々に食べ進めていき、私の指の間からマカロンを全て食べると、今度はその指を彼は舐り始めた。


「ふぁ、ファル!」
「美味しいです。スティーリア……ああ、まだ、甘い」


 そう言いながらまだ舐めるファルクスに、私は指先の熱が熱くなっていくのが分かった。


「な、何するのよ!」
「指を舐めただけです」
「当たり前みたいにいわないで! もうマカロンはないんだから、離しなさい!」


 手を引っ込めようとするが、上手くいかずそのまま舐められる。片手をテーブルの上に固定されてしまい、もう片方の腕は腰が後ろに回されてしまい身動きが取れない。その間にも私の抵抗虚しく指を舐め続けるファルクス。とろりとした表情で、指を口に含む彼を見るのが恥ずかしくて顔を背けると、目をそらさないで、と低い声で言われ、私は強制的に彼の夜色の瞳と目を合わせることになってしまう。
 熱っぽい視線を浴びて私の鼓動も早鐘を打っているようで落ち着かない。夜色の瞳に映る私の顔がどんどんと紅潮していくのが分かる。その頬に手を添えられ更に頭の中が真っ白になったところで、彼は私の指から口を離した。その指は、涎は拭き取られているものの湿っていて、いつ噛まれたのか分からないが、うっすらと歯形が残っていた。


「ファル、貴方……狙ったでしょ」
「何をですか」
「最初からそのつもりで」
「マカロン、美味しかったですね。甘くて……スティーリアの指も」
「私の指は食べ物じゃないわよ!」
「俺にとっては最高のごちそうです」


 不敵に笑ってそう告げる彼に、私は羞恥心を隠せなかった。恥ずかしくて死んでしまいたいほど、体が火照っているのが分かる。
 何でもそつなくこなすから天才肌のような印象を持っていたが、違うのかも知れない。天然の策士だ……私には上手く使えないけれど、計算高いところがあるのも事実だし。でも、それを知ってもなお好きになってしまうんだから始末に負えない。こんな彼を知ってしまうと嫌いになれやしないのだから。
 でも、だからこそ……彼は駄犬だ。躾ても、躾けても彼は私の手に収まってくれない。寧ろ、彼にリードを握られているふしもある。
 それほど、私は彼に溺れているということなのだろう。駄犬に……この策士に。


「スティーリア、今夜もベッドの上で、貴方を味合わせてくれますか」
「……っ、ファル……いい加減に」
「ダメ?」
「~~~~っ」


 耳元で囁かれたかと思いきや、カプリと甘噛みされる。はむはむとまるで食べられているみたい。その刺激に体をビクつかせると、今度はクスクスと笑う声が彼の口からこぼれる。


「可愛いです」


 そう言って彼は私の目を手で隠してしまうので、何も見えなくなった私はそのまま彼に唇を重ねられた。舌が侵入し、口内を犯していく。私はどうすれば良いのか分からないでされるがままだ。


「スティーリア、返事は?」
「わ、分かったわよ……でも、私がダメっていったら、やめるのよ?」
「ふ、ハハッ……御意」


 悪い笑み。絶対いうこと聞いてくれない顔してる。そう思いつつも、私はそれを許してしまって流されてしまうのだから、チョロい女なのだろう。全く、自分で自分が制御出来ない。
 それから、ファルクスは図々しく、もう一回あーんしてください、なんていいだしたから、今度は口を開けた瞬間マカロンを突っ込んでやった。それでも、彼は幸せそうにしていたので、これでいいか、と私は自然と笑みがこぼれた。


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