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2.再開期
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しおりを挟む馬車でゆっくり動いている間、アウスは気が気でならなかった。
喋れないという面は一緒でもアウスからしたら自分の意思で動けるラウリーと顔を合わせるのは初めてなのだ。
前回帰ではラウリーは奴隷期間があまりに長かった。
自分の意見はおろか、ベッドで寝ることも自分のしたいことを表面に出すことも出来なかった。
アウスはそんなラウリーに多少の同情を覚えながらも、奴隷は自身の弱さから来るものだと見下してさえいた。
ラウリーに寄り添いたいと、考えてもどこかで彼女を見下して、なめていた。
アウスはこの公国に滞在する期間で、自分なりにラウリーに尽くしたい。前回帰の贖罪を…自己満足と知りながら。
「………こ、公国では聖女という存在が居ない代わりに、魔物が苦手な植物を植えることである程度の被害で抑えることができています。道中苦手な匂いがあるかも知れないので、そうなったら布を用意しますので……」
アウスは無言でいる時間を少しでも減らそうとこれからの道中であるかもしれない事を注意点を話すガイドのようにラウリーに伝えた。
ラウリーが少しでも話そうと、メモ用紙にペンで何かを書いている間は絶対に次の話に移動せず静かに待った。
ラウリーはアウスから出た言葉で気になったことはできる限りの聞いた。
王国から出たことが無かったから、目に入る世界が何もかも新鮮で楽しくて仕方がなかった。
『王国で生まれてからずっと聖女と称えられてきました。学院では偽物と言われてきましたが、私は私の事を知らない土地にいきたいと思ってきたんです』
ある程度進んだ頃、馬の休憩も兼ねてと草原の広がる水辺で座りながらラウリーが渡した紙にアウスはひどく悲しい気持ちになった。
ランゼルが言っていた言葉のように、もしもただの伯爵家の娘として扱えたのなら。
聖女と王国で決められた道しか歩めないという枠組みから抜けられたら。
彼女は苦しむことなく今も誰かと笑い合えていたかもしれない。
「……公国の主として、両親からこの地位を引き継ぎました。若いながら公主と言われて頼られることに飽き飽きはしていたと思います。他人の『不便』を解消する義務を押し付けられて、自分が自分であることを否定したくなる時もありました。
ただ、今は……貴女を守り助けになれるのならこの息苦しい地位も悪くないと思えています。現金な考えですけどね」
アウスはラウリーの境遇とは少しだけ違うとはいえ、他人にその地位が理由で縛られてきたという面だけは共感ができた。
募っていく責任に、理由がない悪意に心を蝕まれいつしか心を圧し殺して泣くことも忘れていくのだと。
けれど本当にアウスはラウリーを守れる盾になれるこの地位に居れたことを喜んだ。
前回帰では、その地位を活用することも出来なかった。名目だけのお飾りの名前で浮かれていた。
流れ行く景色に瞳を輝かせ、アウスの記憶の中のように怯えた表情は一つもないラウリーに嬉しさの反面、前にもこうして目を輝かせることの一つでもあれば良かったのにと悔やまれる。
公国に近づけば近づくほどに妖精たちが増えるのかラウリーはキョロキョロと辺りを見回しては何かに柔らかく微笑んだりした。
妖精の森であり、アウスたちが迷いの森と呼ぶその場所に近づいている。
ルドゥムーンには回帰の際に世話になっている。
「……エトワール嬢、もし宜しければ少し馬車を降りて歩いて迷いの森に行きませんか。逢えるなら逢わせたい人がいます」
アウスの言葉にラウリーとしては、わざわざ自分の足で迷いの森と呼ばれる場所に行くのは随分と自滅行為ではないのか、と感じたがアウスの真っ直ぐな言葉をなんとなく信じたくて頷いた。
霧がかかる迷いの森。
アウスは使用人たちをある程度離れた位置で休憩させ、ラウリーとシザーの三人で森の入り口の方まで歩いた。
「……久方振りに挨拶がしたい、出てきてもらえないだろうか」
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